軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ

「うふふ、瑠璃はメモに気付いたかしら」

そう言って楽しそうに顔を綻ばせるのは、白金色の髪をした美しい女性。

彼女の隣には、オールバックに眼鏡を掛けた、日本人らしい黒目黒髪の男性と、女性よりも黄色味がかった金髪に青い瞳に、服が張り裂けんばかりの筋骨隆々とした老齢の男性が、木目模様の丸いテーブルを囲んでいる。

テーブルの上には、ちょこんと座った幾人もの精霊がいる。

三人の娘であり孫である瑠璃が姿を消したのは数年前のこと。

朝の登校出勤時間という事で、突然の光の後、数人の若い男女が消えたというのは多くの人の目撃する所となり、すぐに警察にいくつもの通報が寄せられ周辺の捜索が行われたが見つけられず、大騒ぎとなった。

まだ誰が行方不明になったかも分からない状況だったが、瑠璃の母と祖父だけは警察が動くより前に瑠璃が異世界に召喚されてしまったことをいち早く知っていた。

それというのも、瑠璃の祖父の家系は昔から魔力を持ち精霊から好かれていた。

魔力のない人間の中で異端とも言える魔力と精霊に好かれる波長を持った一族。

瑠璃も例に漏れず、寧ろ祖父や母以上に精霊に好かれていた。

瑠璃自身はまだ精霊が見えるまでに至っていなかったが、瑠璃の周囲には常に多くの精霊達が寄り添っていたので、側で見ていた精霊により詳細な報告が伝えられていたので、瑠璃達の両親は至って冷静だった。

瑠璃の父親琥珀は、普通の人間だったがリシアと結婚してからその影響を受け、精霊の声は聞こえないまでも朧気に姿を見る事が出来るようになっていたので、娘が異世界に行ったという突拍子もない話を妻から聞かされても、それを受け入れた。

瑠璃が異世界に行った時に、瑠璃に付いていた精霊が数人瑠璃について行ったと聞いていたリシアはあまり心配はしていなかった。

瑠璃は祖父のベリルにサバイバル術を叩き込まれているし、性格も図太い。

しかも、異世界はこちらの世界よりも精霊の力が強いと聞いた。

ならば瑠璃に万が一が起こる事はあり得ない。精霊達が全力で瑠璃を守るだろうから。

だが、一度あちらの世界に行けばもうこちらの世界には戻っては来られないらしい。

それを聞いたリシアの決断は早かった。

その日の内に夫に記入済みの離婚届を渡す。

「あなた、離婚してもらうわね?」

「何故そんな話になるんだい!?」

「だって、可愛い娘を一人で行かせられないじゃない」

「瑠璃が心配ってだけのようには思えないが……」

にこにこと笑うリシアは、娘の心配だけではなく子供のように好奇心に目を輝かせていた。

それを聞いたベリルも「この年になって新天地へ赴くのも悪くないな」などと、リシアに付いていく気満々だ。

異世界という未知の世界に行くことを止める者は誰も居ない。

琥珀は深いため息を吐きながらこめかみを押さえ、頭の中で今後の計画を立てながら彼も決断する。

「………僕も行くよ」

「あら、いいの?もう帰っては来られないのよ?これまで築いてきたキャリアも人脈も全てぱあになるわ。

それにあなたは魔力がないからあちらの世界では生きづらいかも」

「尚更そんな世界に君や瑠璃だけを行かせられないじゃないか。僕が仕事を惜しんで家族を捨てる薄情者だとでも思っていたのかい?」

「いいえ。あなたなら一緒に来てくれると思ってたわ」

リシアは嬉しそうに琥珀の頬にキスをした。

リシアの中では琥珀も一緒に行くことは決定事項となっていたようだ。

ならばわざわざ記入済みの離婚届を用意する必要はないだろうと、琥珀は疲れたようにため息を吐いた。

「けど、仕事の引き継ぎもあるから直ぐには無理だよ?」

「そうよね。私も仕事があるから直ぐには無理ね」

琥珀は外交官で、簡単に辞められるような役職ではない。

リシアはモデルで、年単位の契約をしている仕事もある。出来ることなら全て清算した上で行きたい。

気になるのはその間の瑠璃の安否。

「瑠璃は一人で大丈夫か?」

「瑠璃なら上手くやっていけるわよ。精霊達もいるし」

そして実際に一度戻って来た精霊達の定期報告で、森に捨てられた後、良い人に拾われた事を聞いた。

「お父さんのサバイバル術が役に立ったわね」

「そうだろう、そうだろう。やっとブーツの仕込みナイフが日の目を見たな」

満足顔のベリルの横で、女の子である瑠璃にサバイバルを仕込むことを反対していた琥珀が苦虫をかみつぶしたような顔をしている。

「それにしてもあの子、あさひちゃんが側に居なくてこっちでの生活より寧ろ生き生きしているんじゃないかしら」

「うーん……」

親としては何とも返答しづらい。

散々離れたいと言っていたあさひと離れられ喜んでいる姿が目に浮かぶ。

あさひが召喚された後、それはもうあさひの信者が大騒ぎとなり信者達により大捜索が行われた。

特にあさひの親は、瑠璃も一緒にいないことから瑠璃がどこかに連れて行ったのではないかと勘繰り、何度も家に突撃してきた。

三度目に来たところで鬱陶しくなり、国外の別宅に国外逃亡を果たしてからは平和そのものだ。

その後の事は精霊伝いに聞いた話だが、数年の間にあさひの魅了の影響も薄れ、大捜索を行っていた信者もその数を減らし、今では全員魅了から解放され、あさひの大捜索も無くなったという。

だが、あさひの親の方は未だにあさひを探しているという。

それが魅了の力が抜け切れていないのか、子を思う親の愛情故かは、明らかに魅了の効果が無くなっているまで時が経たなければ精霊達にも分からないという。

そしてもうリシア達がどちらだったのかを知ることはないだろう。

「用意は良いわね!?」

「おう!」

元気よくリシアに応えるベリルに対し、琥珀は悲愴感に満ちている。

「はあ……。やっと娘に会えると思ったら結婚だなんて………」

「あら、私達だって学生結婚だったじゃない。別に早いこともないわよ。

相手は竜族の王様ですってよ!本当にいるのね竜が。楽しみだわ」

「君は楽観的で羨ましいよ。僕はちゃんと向こうの世界で生活していけるか心配で吐きそうだ」

「何とかなるわよ。それじゃあ、皆お願いね!」

リシアは精霊達を振り返りお願いする。

精霊達は揃って『はーい!』と元気よく返事をすると、その場が光に満ち三人の姿がその世界から消え去った。