軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

別れ

ジェイドの執務室でフィンからの報告を猫の姿でジェイドの膝の上で聞いた瑠璃は、あさひの無事に安堵の息を吐いた。

『コタロウ、ありがとね』

『うむ、ルリの役に立てたならそれでいい』

殊勝に頷くコタロウを見て、リンは瑠璃に聞こえないよう小さく呟く。

『あなたあの場から助け出せたのに、わざとその場に残して怖がるように仕向けたでしょ』

『我はまだこの体に慣れていないから、上手く力が使えずあれが手一杯だった』

嘘を吐けと、リンは心の中で付け加えた。

コタロウが体を得てから大分経っている、とっくに体と馴染んでいるはずだ。

しかも、他の風の精霊にあさひ捜しに協力しないよう命じたのもコタロウだった。

しれっとした様子のコタロウだが、やはり瑠璃に迷惑を掛けるあさひに思うところがあり、コタロウなりの意趣返しなのだろう。

リンもよくやったと思わないでもないので、瑠璃には黙っていることにした。

『それでフィンさん、あさひはどうしてますか?』

「部屋で大人しくしている。

怪我はないが、男達に囲まれた事がショックだったようで、人が来ると怯えを見せるが至って健康だ」

『そうですか。ご迷惑お掛けしました』

「ルリのせいではないだろ。謝る必要は無い」

『確かにそうですね』

これまであさひの後始末をし続けたせいか、思わず謝罪の言葉が出て、瑠璃は内心苦笑する。

『これであさひも少しは理解すると良いんですけど……』

「無理だろう」

そう切って捨てるジェイドは、余程あさひがお気に召さない人物となっているようだ。

あさひの話をさっさと終わらせ、ジェイドは次へと進める。

「女を逃がした下働きの娘はどうした」

室内にいたヨシュアがフィンと代わり、ジェイドの前に出て報告を始める。

「下働きの娘は逃亡の手助けをした事で牢に入れております。

奴隷を引き取りに行った場にいた人間の娘で、竜王国の国民ではありませんでしたが、竜王国内で取引があった為他の奴隷と共に引き取り、帰る場所もないという事で城の下働きの仕事を与えておりました。

どうやら竜王国へ移動の際、私の同僚の話を中途半端に聞いて、己が竜妃であると勘違いを起こしたようです。

陛下があさひの元へ来られるという話を警備の兵が話していたのを耳にし、あさひに成り代われば陛下に会えると協力。あさひ自身とは初対面だったと話しております」

「あれほど不用意な発言はするなと言っておいたのに」

横からクラウスにちくりと刺され、ヨシュアはうっと言葉に詰まる。

いくらヨシュアが言った言葉ではないにしろ、あの場での責任者はヨシュアだった。

ヨシュアもそれを理解しているので、ただただジェイドに頭を下げる。

心の中で、余計な話をしていた同僚をとっちめる事を考えながら。

「………大変申し訳ございません」

「処分は追って与える。

それにしても、いくら話を中途半端に聞いたとしてもおかしいと思わないのか。私とは会ったことが無いというのに。

竜王国の者ならまだしも、その娘は一度王都に来ただけ。それも素通りで、どうしたらそんな勘違いが出来るんだ。

………勘違いして欲しい者は全く気付かないというのに」

溜息混じりの最後の言葉に瑠璃以外が苦笑する。

そして何を思ったのか、ジェイドは己の膝の上にいる瑠璃の腕にはまった腕輪を取り外した。

人間に戻った瑠璃は、当然ジェイドの膝の上に座る形となり、突然近くなったジェイドとの視線にあたふたする。

「わっ、何するんですか!?」

ジェイドはクスクスと笑い。

「ルリ、今回の件で急ぎアイドクレーズに送られる事になった。

他の四人は魅了も切れたそうだから最後に会っておくか?」

「はい」

そうして、人間の姿に戻った瑠璃は元同級生達が集められた部屋へと向かった。

内心どんな反応が返ってくるのかとどきどきとしながら部屋へと入ると、瑠璃を見た四人は瑠璃の前に駆け寄り揃ってその場に土下座をした。

「へ?」

「申し訳なかった」

一人が謝罪の言葉を口にすると、後を追うように他の三人も謝罪を口にしていく。

これまで瑠璃の知るものとは違う反応に、瑠璃はポカンと口を開ける。

ジェイドが瑠璃の肩に手を乗せ、説明する。

「魅了の効果が切れて、己の行動を正しく認識出来るようになったんだろう」

「こんなに変わるものなんですか?」

罵声しか出てこなかった彼らから謝罪が出たことに瑠璃には困惑しかない。

「本人に聞いてみると良い」

取りあえず土下座されたままではゆっくり話も出来ないので、お互い椅子に座ることにした。

「何故あんな事をしたのか自分でも理解できない。

だが、俺達がしたことは事実だ。今は謝罪の気持ちしかない。許してくれ」

許すとも許さないとも、瑠璃は言えなかった。

彼らの行動が彼らの望むところではなかった事が分かったが、これまで彼らにされた行いが消えるわけではない。

悪口や無視等の苛めも、今でこそスルーする事を身に付けたが、傷付き泣いた過去の記憶が瑠璃の中には存在する。

ましてや森に捨てるという明らかに死ぬ可能性の高い方法を取られたのだ。

今は何も言えず、話を切るように別の話をする。

「魅了に掛かっていた間はどんな気持ちだったの?」

彼らは少し残念な顔をしながらも、直ぐに許されるとは思っていないのか、瑠璃の意をくんで話に合わせる。

「あさひさんの事を考えると、ぼおっとしたような陶酔感に包まれるんだ。

それと同時に君が俺達と違うという事を認識していた。

違うからこそ攻撃し、異物である君にあさひさんが気を掛けるのが気に食わなかった」

「今はどうなの?」

「とてもすっきりしている。だが、同時に罪悪感に襲われている。

あの時は何も自分達の行動に疑問など感じていなかった。だが今はきちんと理解している。俺たちが君にした事はとても酷い事だった」

そして再び四人は瑠璃に頭を下げた。

「もういい………」

瑠璃の呟きにはっとしたように四人は顔を上げる。

「勘違いしないで、許した訳じゃない。

………でも、もう終わってしまった事をいつまでも言ったって仕方が無いもの。

あなた達も私も、これから生きていく為に考えなきゃいけない事が沢山ある。だからもういい」

それだけを言い、瑠璃は部屋から出た。

最後に「さよなら」と、もう会うこともないだろうと互いに感じながら握手をして。

帰る道すがら、足を止め真剣な眼差しでジェイドは瑠璃に話し掛ける。

「ルリは今後どうしたい?」

「どうとは?」

「先程あの者達に言っていただろう。

これから生きていく為に考えなければならないと。

ルリは現在この国にいるが、ルリの意志で竜王国以外の国に行くというのであれば、私からその国の者に話を付けておく。

ルリはどうしたい?」

考えるまでもなく、瑠璃は即答した。

「ジェイド様や皆がいて良いと言ってくれるなら私は竜王国に、この城に居たいです」

最初は少し王都で学んだら、チェルシーの家へ帰るつもりでいたのだが、以前にチェルシーの所から城へ戻ってきた時、帰ってきたと思ったのだ。

いつの間にかこの城が瑠璃の家になっている事にその時気付いた。

出来ることならこの場所に居続けたい。

瑠璃のその返答にジェイドは明らかにほっとした表情を見せ、瑠璃はクスクスと笑う。

「ジェイド様が言い出したのに」

「仕方が無いだろ。最初にルリの行動を制限しないと言った手前、行くなとは言えない。

そもそも愛し子の行動を制限など出来ないからな。

そのおかげで、獣王がどれだけ苦労しているか……」

「獣王国にも愛し子がいるんですよね、どんな人です?」

極々平凡な問い掛けだったが、中々ジェイドからの返答が返ってこず瑠璃はジェイドの顔を覗き込む。

なんとも言い難い表情をするジェイドは、少し言葉を溜めてから漸く声を発した。

「………竜王国にいればいずれ会うこともあるだろう」

「はあ……」

「その話は置いておいて、もし断られたらどう引き止めるかと色々考えたんだが、必要なくなって安心した」

「どんな方法を考えたんですか?」

「そうだな、ルリの好きなお菓子や女性が好きそうな服や宝石を用意するかと考えたが、それは別に竜王国でなくとも用意出来るからな。

最終的にチェルシーにまかせるのが一番だろうと結論が出た」

「チェルシーさんは私の親代わりらしいですからね。

私もチェルシーさんに頼まれたら出て行くなんて言えないと思います。

たまにチェルシーさんの所に行って良いですか?」

「ああ、構わない。但し、今度はちゃんと私に話をしてからにしてくれ。

そしてちゃんと城に帰ってくる事を約束してくれ」

瑠璃が家出した事を思い出し眉を下げるジェイドに、くすりと笑いながら瑠璃ははいと答えた。

「あっ、でも結婚したらお城を出ないと駄目ですよね。

そうしたら王都の何処かに家を探さないと」

「そんな心配は必要ない」

何故?と思ったが、どうせ今すぐにというわけでもないので、いずれ相手が見つかってから考えれば良いかと、問い返しはしなかった。

そして数日後、あさひと元同級生達はアイドクレーズへと旅立っていった。

そして、あさひの逃走の手伝いをした女性はしかるべき罰が与えられた。