軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦勝祝い

瑠璃とヨシュアでナダーシャの、フィン達から戦争時の状況を説明しながら、互いの情報を交換していく。そして最後に。

「ルリの方はどうだったの?ちゃんと王達に引っかき傷付けてきたんでしょうね」

にやりと笑いながら問うユークレースに、瑠璃もにんまりと笑みを浮かべ答えた。

「もっちろんです。きっちり泣かしてきました。私が生きてるって思わなかったみたいで、間抜け顔で驚いていましたよ。

あっ、そうだ。かつらありがとうございました」

そう言って、瑠璃は頭に付けていたユークレースから借りていたかつらを外す。

それと同時にさらりとこぼれ落ちる白金色の髪に、アゲット、クラウス、フィンの視線が釘付けとなる。

「いいわよ。元々ルリの変装用に作った物だからあげるわ」

「そうですか?じゃあ、遠慮無く。ありがとうございます」

瑠璃は空間を開け、その中にかつらと付けていた眼鏡をぽいっと放り込んだ。

そこへ瑠璃に、恐る恐るといった声のクラウスから声が掛かる。

「ルリ、随分と珍しい髪色ですが、それは地毛ですか?」

「ええ地毛ですよ」

クラウスに見せるように「ほら」っと言いながら瑠璃は少し強めに髪の毛を引っ張ってみせる。

白金色の髪に、そしてよくよく見れば瞳は瑠璃色。

クラウス、アゲット、フィンの三人が勢い良くジェイドへと視線を向けると、苦笑を浮かべ小さく頷いた。

「灯台下暗し。ヨシュアに頼む必要はなかったようだ」

そして次にユークレースとヨシュアへと向ける。

それは知っていたのかという問いが含まれていた。二人はそれに頷き。

「悪かったわね。口止めされていたから。

でも、一番の被害者はヨシュアよ」

「親父のせいだぞ。

あー、これでやっと無駄な仕事から解放される」

「う……すまん」

瑠璃だけが話に入っていけず、首を傾げる。

「なんです?」

「ルリは気にするな。こちらの話だ。

それより、ルリはこっちに来い」

ちょいちょいと手招きをするジェイドに呼ばれ、瑠璃は腕輪をして猫の姿になると、椅子に座るジェイドの膝の上へと飛び乗った。

その一連の瑠璃の行動に、ジェイドは不機嫌さを顕わに眉根を寄せた。

「………何故猫になるんだ」

『なんとなく?』

確かにジェイドの言う通りだ。

人間の姿も披露した今、わざわざ猫の姿になる必要もないのだが、習慣とは恐ろしい。

特に何も考えず腕輪をしていた。

『まあ、良いじゃないですか、猫の方が身軽だし。

それより、あさひや王達はこの後どうなるんですか?』

ジェイドは納得いかない顔をしながらも、ため息を一つ吐き気持ちを入れ替えた。

「王と神官は精霊殺しの魔法の事を全て聞き出した後、ナダーシャの新しい政権に引き渡され、彼らによって裁かれる事に成る。

あさひという者には魅了を使わせない為に魔封じという魔力を封じる方法を使っている。

一緒にいた四人は魅了の効果がなくなり次第再び話を聞く予定だ」

『魔封じ……。そんなのがあるんですね。

魅了が切れて話を聞きに行く時、私もついて行ってもいいですか?』

「構わないが、会いたくなかったんじゃないのか?」

『あさひはそうですけど、魅了に掛かっていた人の話を聞いてみたいなと思いまして』

どんな気分だったのか、どういう気持ちで自分に敵意を抱いていたのかとか。

魅了の効果が切れてあさひへの好意がどう変化したのか、これまで被害を受けてきた瑠璃は非常に気になった。

『あさひ達もナダーシャに送られるんですか?』

「暫くは竜王国で監視の下での生活だ。

その後はアイドクレーズに送られ、そこで暮らしていってもらう」

『アイドクレーズ?』

「王都から見て、ナダーシャとは逆の方向にある竜王国内の領地で、フィンの両親が領主として治めている領地だ。

広大な農地が広がる土地で、人手はいくらあっても足りないらしい。これから生活していくにも仕事は必要だろう。

ユアンがルリに行った無礼を聞き、少しでも償いになるならと名乗りを上げてきた」

フィンの両親という事は、両親を亡くしたユアンを引き取った、ユアンの伯父と伯母にあたる人だ。

『そんなの気にしなくてもいいのに』

全く気にした様子のない瑠璃の呟きに、ジェイドは苦笑を浮かべる。

「ルリはもう少し気にした方が良い。

愛し子どうこうを別にしても、あれだけ面と向かって悪し様に言われれば気分を悪くするものだろ。

その相手が愛し子、領主夫婦の悲鳴が聞こえるようだったぞ」

『領主夫婦は胃薬を渡してあげて下さいとしか言いようがないですけど、あれ位で苦情言ったりしませんよ。まあ、ちょっと気分は悪いですけど。

でも子供の癇癪みたいなものですし、話の通じないあさひに比べればちゃんと話が通じるみたいですから、それだけで十分好感がもてます』

「あれと比べれば、大概の者は好感度が高いと思うが?」

『ごもっとも』

それに、竜族の年齢を考えればユアンは瑠璃より年上なのだろうが、童顔なユアンは瑠璃より年下に見え、母性本能をくすぐるような容姿をしている。

それもあり、兄弟のいない瑠璃から見ると、ムカツクというよりこんなお兄ちゃん大好きな弟なんだなあ。と微笑ましく感じていたりする。

謹慎を受けたユアンは今頃どうしているのだろうかと、瑠璃が考えているとユークレースが近付いてきた。

「まあ、ユアンの事は今は良いじゃない。

それより今日はお祝いよ!……陛下ちょっと失礼します」

ユークレースはそう言うと、ジェイドの膝の上にいた瑠璃の首根っこを掴み持ち上げると、そのまま瑠璃を連れ部屋を後にする。

『ユークレースさん突然何するんですか?』

「お祝いって言ったでしょ。夜に戦勝祝いを行うついでに、あなたの人間の姿をお披露目しておくのよ。

じゃないと、人の姿で城を歩き回った時に城で働く人達が不審者と勘違いしたら困るでしょう。

城で働いているのはルリの側にいる精霊が見える者達ばかりじゃないから」

連れて行かれた部屋には、瑠璃の為に用意されたドレス一式が揃えられていた。

早速お着替えをと人に戻り、手伝いに訪れていた数人の侍女達を前に服を脱ごうとした瑠璃は、この場にまだユークレースがいるのが目に入った。

「ぎゃあー!ユークレースさん男じゃないですか、出てって下さい!!」

「お黙り!心は純真無垢な乙女よ。ぐだぐだ言わず脱ぎなさい」

純真無垢な乙女は、男の裸体を見に訓練場に覗きに行ったりしないと、瑠璃は心の中で突っ込んだ。

ユークレースを外に出そうとするものの、心は乙女でも力は男のユークレースに勝てる筈がなかった。

着替え終わり、髪を弄られ化粧も施された瑠璃の前に、満足顔のユークレースがいた。

「おほほほ、流石私ね」

目の前で自画自賛してご満悦のユークレースに一言文句を言ってやりたかったが、ユークレースが用意した、淡いピンク色の生地で、Aラインのスカートには小花のレースが掛かり、後ろには紺色の大きなリボンが目立つドレスも、ピンクパールのような石で作られた髪飾りも、瑠璃の白金色の髪によく似合っていた。

自分の準備もあるからと部屋を追い出された瑠璃は、ジェイドの執務室へ向かう。

ジェイドは瑠璃の姿を目にすると、虚を突かれたような顔で瑠璃を見たまま動きを止めた。

反応のないジェイドに瑠璃は少し不安になる。

「私どこかおかしいですか?ユークレースさんからも合格をもらったし、我ながら似合ってるって思ったんですけど……」

「……あ、ああ、いやそうじゃない。

あまりにルリが綺麗だからみとれていた」

我に返ったジェイドは、そう言って微笑みかける。

その率直な言葉に瑠璃は顔を赤らめ、瑠璃の反応を見たジェイドはくくくっと、低い笑い声を上げながら、瑠璃の頬へと手を伸ばす。

「猫の瑠璃も可愛いが、やはりこちらの姿の方が良いな。

ルリの表情が良く分かる」

瑠璃は対応に困り、益々顔が赤くなる。

心臓がばくばくと激しく鼓動を打ち、心の中で悲鳴を上げていると、そこへ丁度良くお祝いの準備が整ったとお呼びが掛かった。

小さく舌打ちをするジェイド。

瑠璃はそれに気付かず、ほっと安堵していた。

綺麗だとかを言われ慣れていないわけではないのに、ジェイドに言われると心臓に悪く、どう反応を返して良いか分からなくなる。

人間の姿でも、猫の時と変わらない扱いのジェイドに、嬉しいやら悲しいやら。

急に態度を変えられなくて良かったと思うのだが、猫の時と変わらないという事は、そういうふうにしか見られていないという事でもあり、地味に落ち込んでいたりする。

早く次の恋を見つけるべきだなと瑠璃は思った。

ジェイドにエスコートされながら移動し、広間で始まった戦勝祝い。

城で行われるお祝いなので、華やかで気品の高い人達が談笑する、厳かなパーティーを想像していたのだが………。

実際は飲めや歌えの大騒ぎ。

慎ましくグラスを傾けている者は殆ど居ない。

自分と同じ程の大きさの酒樽を持ち上げ、直飲みしている強者や、飲み比べに負け床に転がる死屍累々。

広間は酒の匂いと気品の欠片も無い笑い声に包まれ、厳かとはほど遠い、下町の酒場のような光景が広がっていた。

おかげで緊張していた瑠璃の肩の力が一気に抜ける。

「凄いですね………」

別の意味で圧倒され、頬を引きつらせる瑠璃に、ジェイドは苦笑を浮かべ、ジェイドにとっては見慣れた光景に視線を走らせる。

「竜族は血の気も多いし騒ぐのが好きだからな。他の亜人もそれに釣られてどうしてもこうなる。

だが、今日はましな方だ。まだ戦争の後始末で出払っている者がいて人数が少ない分、諍いが少ない。

いつもなら、城が破壊されているからな」

「これでまし………」

そして翌日には、二日酔いでふらふらとなった者達が修繕作業をしている姿が見られるのが習慣となっているのだ。

そんな大騒ぎの中でも、瑠璃が通ると酒を飲む手を止め、竜王に手を引かれる女性に驚きの表情を浮かべていく。

霊王国の聖獣を引き連れ、肩に小さな魔獣を乗せた女性。

珍しい白金色の髪と紫を帯びた青い瞳は、それだけで人目を引き、男ながら魔性の美貌を持つ竜王の側に居ても遜色のない女性に、酔っぱらい達もみとれる。

その反面、いつもは白い猫の愛し子の側にいる筈の精霊達までもが、見たこともない女性の近くを浮遊していることに、多くの者が困惑を浮かべるが、瑠璃の人の姿を見たことのある者から教えられ、瑠璃であることが広まるのにそう時間は掛からなかった。

立食式のパーティーだったが、瑠璃とジェイドには椅子が用意されておりそちらに座る。

近くにテーブルも用意されていたが、そこには自身の倍ほどもある大きさのグラスに、なみなみと注がれた赤ワインに頭を寄せるリンの姿があった。

クリオネ擬きの魔獣の体を使っているリンだが、食事の方法はクリオネと同じで頭が割れ、そこから短い触手がメデューサの髪の毛のようにうにょうにょと動き、その触手をワインに付けストローのように啜っていた。

最初に見たときの衝撃は今でも忘れない。

次第にリンの体がほんのり赤く色付いてきているのは、酒に酔ったからであって、けして赤ワインが透けているからではないと思いたい。

そっとリンから視線を外すと、唇に何かが押し付けられた。

焦点を合わせると、それは一口大の小さなタルト。押し付けているのは、ジェイドだった。

「ジェイド様っ、大丈夫です自分で食べられます!」

「なんだ、これは好きじゃないのか」

それならと別のお菓子を取り瑠璃の口元へと持ってくる。

そういう問題ではない!と抗議したかったが、ジェイドは瑠璃に手ずから食事を与えるのが好きなようで、一度言いだしたら瑠璃が何を言っても聞かないとこれまでの経験で分かっていたので仕方なく口を開けた。

やはりジェイドは自分を猫としか思っていないのだろうと、瑠璃は心の中で突っ込みを入れた。

そんな不満を溜める瑠璃とは違い、見ていた周囲の反応は別のものだった。

「おお!陛下自ら食事を与えているぞ」

「とうとう陛下にも春がやって来たか」

「これで相談役の憂いも晴れるな。しかもその相手が愛し子様だなんてな。いやぁ、めでたい!!」

竜族の男が手ずから食事を与えるのは、給餌行動と呼ばれ、竜族の男が番と我が子のみに行う愛情表現だ。

この時よりジェイドの気持ちは城の誰もが知る事となったのだが、羞恥に悶える瑠璃がジェイドの行動の意味を知るのは少し先のことになる。