軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転移者たち

ファガールとの交渉には竜王国側からもユークレースが送り込まれ、アルマンと共に威嚇したおかげか、予想以上にあっさりと締結された。

今度ファガールはどんな理由があろうとも、転移者に対する権利を有さないと契約が結ばれた。

それからしばらくして、ファガールから転移者がやって来た。

やはりどの人も黒目黒髪といった、瑠璃に馴染みのある色合いだ。

まあ、中には色を染めていたのか、プリンのようになっている人もいる。

年齢は様々で、まだ学生ぐらいではと思う子供から、中年の人まで、性別も特に決まりがあるようには思えない。

しかも、よく確認したら中学生どころか小学生の子供までいるではないか。

ランドセルを背負っているところを見るに、登下校の途中だったのかもしれない。

皆が皆、不安そうな顔をしている。

それは当然で、瑠璃も初めてこの世界に来た時は理解が追い付かず混乱した。

そこから森に捨てられ、興奮したコタロウに追いかけられ、チェルシーと出会い、城で暮らすようになって、今や竜王の妃だ。

まったく人生なにがあるか分からない。

幸運なことに瑠璃はなんだかんだありつつも、今は幸せだと断言できるほど、この世界で生きることを受け入れられるようになったが、来たばかりの転移者たちがそう思えるようになるには時間がかかるだろう。

中には時間が経っても受け入れられない者だって出てくるはずだ。

ジェイドはそんな人達に、できる限りの配慮は行っていくそうで、そのためには先に個別に話を聞く必要があった。

そこで転移者の対応をする責任者として抜擢されたのが、瑠璃の父親である琥珀と、たった一人でこの世界に来てしまった珊瑚である。

同じ国で暮らしていた者同士、転移者達の戸惑いや不安を分かってあげられるだろうと配慮されての任命だ。

小さな子供がいることから、歳若い珊瑚の存在は重宝された。

そこに名乗りを挙げたのは瑠璃である。

どんな経緯だったか聞きたかったのもあり、ジェイドにお願いすると、予想外にあっさりと許可が出た。

いつもなら駄目の一点張りを覚悟して、どうやってお願いを通そうか策を巡らせていた瑠璃は拍子抜け。

しかし、代わりとばかりに多すぎるほどの護衛で周囲を固められてしまい、瑠璃は少し後悔する。

主に琥珀が主導で個別に質問をして、転移した時の状況、ファガールでの生活、これからの生活の希望などを聞いていく。

最初こそ不安げだった人達だが、琥珀も同じ国出身の上、外交官として働いていたと聞くと、不安半分、安心半分というところまで肩の力が抜けた様子。

外交官として培ったコミュニケーション力がここに来て大いに役立っているようだ。

安堵感を覚えた人達は自然と口も軽くなり、いろいろな情報を教えてくれた。

それによって分かったのは、転移時、全員が同じバスに乗っていたということだ。

『乗っていた全員巻き込んで道が開いちゃったのね』

これだけ大勢がこちらにやってくるのはかなり珍しいらしい。

そもそも、向こうの世界からこちらの世界に来る人間自体が少ないのだ。

そこからさらに複数人となるともはや精霊達ですら記憶に引っかからないほどレアケースだという。

そのバスに乗っていた人達には、運が悪かったとあきらめてもらうほかない。

なにせ、こちらからあちらの世界に帰る方法はないのだから。

それを聞いた人達はショックを隠し切れず、泣く人も少なくない。

誰よりも気持ちが分かる珊瑚が慰める役に徹していた。

こちらの世界で家族全員なに不自由なく暮らしている瑠璃が慰めの言葉を発しても、嫌みでしかないのだからできるはずがない。

しかし、いつまでも落ち込んでいてもらっては困る。

今後の彼らの生活を守るためにも、どうしていくか一緒に考えてもらわなければならないのだから。

転移者達は特に魔力があるわけでもない、ただの人間。

愛し子だと言われた男女以外は精霊の姿すら見えていなかった。

向こうの電気を使った楽な生活に慣れた人達には、魔法が使えないとかなり日常生活に苦労するかもしれない。

そう心配したが、ファガールの城での生活はあまりいい扱いとは言えないものだったようで、小学生の子でも日常生活をなんとか送れる程度には家事などができるようになっていた。

だが、それ以外においては、誰もこの世界の常識も知識もまったくない状態だったのである。

恐らくファガールは転移者達をなにかしら利用できないか考え、余計な知識をあえてつけさせず、飼い殺しにしようとしていたのではないかというのが、琥珀を始め、ジェイドや側近達の見解だ。

瑠璃としては覚えがありすぎるやり方だったので、ただただファガールへのマイナスイメージが積み重なっていくだけだった。

とまあ、転移者達はそのような状況なので、一人立ちできるまで援助していくつもりであるが、このままでは暮らしもままならないと、しばらくは城に部屋を割り当て、常識を教えつつ、それぞれに合った職を案内することになった。

まだ小さな小学生の子や未成年者には養子としてどこかの家に引き取ってもらうよう薦めていくみたいだ。

残る問題は愛し子の二人。

どうやら二人共高校生のようで、珊瑚とは同い年。

さすがに愛し子の男女の聞き取りには、ジェイドや側近達も参加した。

瑠璃の側には、おかしな行動を起こしたら叩きのめすぞと言わんばかりのコタロウとリンがひっついている。

最高位精霊が守る絶対的な防御態勢の中、話をしようとするのだが、愛し子の男女はぎゃあぎゃあとうるさい。

この城での扱いに不満があるようだ。

「ちょっと、この私が大部屋で寝泊まりするなんてありえないんだけど! 個室を用意しなさいよ! 私は愛し子なのよ!」

「そうだ! 食事も貧相だし、隣に寝るおっさんのいびきはうるさいし。俺はデリケートなんだよ。すぐに改善しろ!」

開始早々、息もつかせぬ怒涛の叫び。

「私達は選ばれた存在なのよ!」

「こんな扱いをしてただで済むと思うなよ! それが嫌ならすぐに最高級のもてなしをしろ」

自分を特別だと信じて疑わない二人の勝手な主張。

瑠璃達が呆れる一方で、一人ダメージを受けている人間がいた。

珊瑚である。

「もしかして、最初の頃の私ってこんな感じに見えてたの?」

珊瑚も最初は自分は愛し子だとか、特別な人間だと言って自分に酔っていた。

「黒歴史だわ。最悪なんだけど……」

どうやら年齢も同じことから、客観的に自分を見つめる機会になったようだ。

「珊瑚は今はちゃんと頑張ってるんだから気にしなくていいわよ」

瑠璃は苦笑する。

「そうだけど。お姉様が矯正してくれなかったらと思うと怖すぎるわ。やっぱりお姉様は私の神ね」

改めてルチルへの信仰心を確認したようだ。

珊瑚はルチルによって変われたが、この二人はどうなるだろうか。

正直、珊瑚と同じく自分を特別に思っていても、珊瑚とはまったく違っていた。

珊瑚の場合は現実から目を背けるための逃避のような感じだった。

元々の性格は悪くなく、むしろ素直だからこそルチルの話を聞いて、自分のありようを変えた。

けれど、目の前の二人にそんな素直さは微塵も感じられない。

この二人に関しては、瑠璃を危険な目に合わせそうだという理由でコタロウとリンに警戒されてしまい、すべての精霊にこの二人は愛し子にあらずと、以前のセルランダの愛し子のような状態になっている。

なので、正確には愛し子であって愛し子でなくなっているのだ。

そう、最高位精霊が決めた。

それなら最初からそうしておけば獣王国にいたままでも良かったのでは? という疑問を誰もが抱いた。

それに対して返ってきたリンの返答は、精霊を道具のように扱う奴に報復したいという、実に個人的な恨みだった。

これには損な役回りを受け入れざるを得なかった、ジェイドにユークレース、他の側近もそろって頭を抱えることに。

文句を言いたいが、相手は最高位精霊。

ぐっと呑み込むしかないのが、見ていて不憫であった。

愛し子であった二人は、最初こそ精霊が見えていなかったが、こちらの世界で生活していくうちにだんだんと見えるようになったらしい。

そこは瑠璃と似たところがある。

瑠璃も最初は精霊が見えていなかったから。

そんな二人の愛し子は、ファガールではそれはもう至れり尽くせりな扱いをしてもらっていたらしい。

それは他の転移者からの証言でも聞き及んでいる。

仕事も割り振られていた他の転移者と違いお客様対応。

仕事をすることもなく毎日遊んで暮らしていた。

衣食住においても天と地ほどの差があったようだ。

あからさまな待遇の違いをされていたので、二人は優越感に浸り、特別だという勘違いを加速させてしまったのだろう。

いや、愛し子が特別な存在であるのは間違いないので、その点では一概にファガールを責められなかったりする。

愛し子は下手をすると一国を滅ぼしかねない危険物なのだから。

それゆえ、日増しに傲慢さが増していき、同じ転移者達をも見下してばかりいたので嫌われているようだ。

それももう過去の話。

最高位精霊の命令により、精霊の力を借りれなくなった以上、魔法も使えず立場は他の転移者と同じだ。

特別扱いをする必要などもうない。

さすがの優しいジェイドも、アルマンとセレスティンを傷つけた者に慈悲をかけるつもりはないようで、他の転移者と同じ扱いをするつもりだ。

いや、同じではあるが、一度甘い蜜を知ってしまった後では、その気持ちの落差は大きいだろう。

ジェイドは言いたい放題大騒ぎする二人に、下水の掃除をさせることにした。

普段は魔力のある者が魔法でちょちょいと済む作業なのだが、たんに嫌がらせである。

側近の誰からも反対意見は出なかった。

***

「というか、どうしてこんなに愛し子が来るわけ?」

瑠璃はあまりにも多すぎる転移者と、その中に愛し子が二人もいたことに違和感を覚えていた。

「確かにそうだな」

ジェイドも同じ疑問を抱いていたようで同意する。

それに答えをもたらしたのは、世界を知っている最高位精霊である。

『多分、ナダーシャの強制召喚が尾を引いている可能性が高いわね』

今になってナダーシャの名が出て来るとは思わず、瑠璃は目を丸くする。

『無理やり道を開いたから緩んでしまったのね。道が出来やすくなっちゃったのよ。それに愛し子の件についても無関係じゃないわ。愛し子は精霊との相性がいい魔力を持っているから、どうしても最高位精霊が生きるこっちの世界に魂が引っ張られやすいのよ。そんな愛し子が二人同じ場所にいた。緩んだ道が開きやすくなっていることと重なってその場にいた者達をまとめて連れて来ちゃったのね』

「うーわー」

「完全なとばっちりじゃないのよ」

顔を歪める瑠璃と、転移者達を憐れむユークレース。

いったいどれだけの人間の人生を変えたら済むのか。

「転移者達はナダーシャの元王と神官長を殴っていいと思います」

「まったくだわ」

瑠璃の言葉にユークレースが深く頷いた。

「ねえ、リン。じゃあ、また大勢の転移者が現れるかもしれないの? この先ずっと?」

『ずっとではないわよ。少しずつ修復されていくわ。時間はかかるかもしれないけどね』

「そっか」

できるならば、向こうの世界で愛し子が出会わないことを祈るほかない。