軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

珊瑚の両親への伝言

上位精霊の力を上手に使いながら洗濯をしている珊瑚に瑠璃は問う。

「珊瑚はもうここでの生活には慣れた?」

瑠璃と違い、珊瑚がこの世界に来て何年も経っていない。

城での暮らしはもっと短く、慣れないことも多いだろう。

瑠璃は経験したからこそ、珊瑚が心配になった。

「まあ、正直まだ慣れてないことの方が多いかな。だって突然見知らぬ世界に来たんだもん。戸惑わない方がおかしいでしょう? 瑠璃様も同じだったって聞いたわ。しかも私以上にヤバイ国に現れちゃったって」

いったい誰から聞いたのか。

恐らくユークレースあたりだろうと目星をつける。

「確かにヤバイ国なのは間違いなかったわ。魔獣もいる森にたった一人捨てられたんだもん」

死ねと言っているようなものだ。

けれど、瑠璃は運がよかった。愛し子だったから。

「チェルシーさんって人に助けられてね、それからは森で暮らしてたんだけど、勝手も違うし、常識は通用しないしで、チェルシーさんがいなかったら野垂れ死には間違いなしだったかも」

苦笑する瑠璃。

今でこそ笑って話せる瑠璃だが、当時は辛いやら苦しいやら憎々しいやらで感情のコントロールがきかなかった。

すると、珊瑚もポツリポツリと話す。

「私も、村に現れたのは運がいいって言われたわ。そうじゃなきゃ、奴隷にされたり、獣に食われたりしててもおかしくなかったって……」

珊瑚は沈んだ表情をする。

苦労をしている珊瑚に、瑠璃は同情してしまう。

「なんで私だけこんな目に遭うのって悲しかったけど、瑠璃様も私と同じで大変だったのね」

「私と珊瑚は同じじゃない。私の場合は両親もおじいちゃんもこっちの世界に来てくれた。一生会えないと思ってたのにね。それだけでもう私は恵まれてると思うの。不満なんて口に出したらバチが当たるほどに」

もう戻れないあの世界。

けれど、瑠璃には家族がいる。

その違いはとても大きい。

「心配してるかな……」

表情を曇らせる珊瑚がポツリと呟く。

小さな小さな声だったが、瑠璃にははっきりと聞こえ、珊瑚が誰を思って言葉にしたのか考えるだけで胸が痛んだ。

「もう、戻れないんだよね?」

「うん」

瑠璃自身も何度も問うたその願いは、永遠に叶わない。

「お姉様からも、チビからも聞いてみたの。なにか方法があるんじゃないのかって。だけど、無理だって……」

珊瑚は両手で目を押さえ上を向く。

「ははっ。改めて言われると悲しいな……。お父さんにもお母さんにも、もう二度と会えないなんて……」

その笑い声に力はなく、発する言葉は今にも泣きそうに感じた。

チビと名付けた精霊が心配そうに珊瑚を見上げている。

ルチルですらかける言葉をなくし、沈痛な面持ちで珊瑚を見ている。

珊瑚になにかできないのか。

そう考えていた瑠璃が、「あっ」と声を上げて突然閃いた。

「どうしたのですか、ルリ?」

ルチルが不思議そうにしている。

「あっちの世界からこっちの世界には来れるの。でも、こっちからあっちの世界には肉体を持ったままでは通れないらしくてね、だから戻れないわけなんだけど、そもそも肉体のない精霊達の行き来は問題ないのよ」

「ええ、そうらしいですね」

「うん。それをコタロウやリンに聞いた時、私は無事だって伝えるために、コタロウとリンに向こうの世界にいるお母さん達に伝言を頼んだの。その結果家族は皆こっちに来たわけなんだけど……」

珊瑚もルチルも瑠璃の言いたいことがいまいち分かっていないようだ。

「だから、珊瑚も家族に自分は無事だってことを精霊達に伝えてもらったらどう? 戻れないのはどうしようもないんだけど、少しは気が晴れない?」

「あ…………」

みるみるうちに珊瑚の目が見開かれる。

「できるならしたい! せめて私は大丈夫だって伝えたい」

珊瑚は身を乗り出して食いつく。

「じゃあ、精霊達に手伝ってもらおう」

と、話を進めていこうとしたその時、リンが横から会話に割り込む。

『ちょっと待った』

「なに? どうしたの、リン?」

『大事なことを忘れているわよ。ルリの場合は、ベリルもリシアも精霊との意思の疎通ができたから、ルリからの伝言を伝えられたの。けど、ルリのいた世界では、精霊が見える人間なんて私の知るかぎりじゃ、ルリの家族以外いなかったわよ。どうやってサンゴの家族に伝えるの? そもそも精霊を見たこともない人間が信じる?』

「あっ……」

今思い出したというように、瑠璃の動きが止まる。

「それじゃあ、無理じゃないのぉぉ!」

先ほどまで喜んでいた珊瑚が頭を抱えて一気に落ち込む。

「いや、待って。なにか方法はあるはず……」

あたふたしながらも、瑠璃は一生懸命頭をフル回転させる。

「えーと、えーと……」

妙案が浮かばない瑠璃は焦る。

すると、ルチルが顎に手を当てながら発言した。

「以前ルリが見せてくれた、ケイタイデンワ、だったでしょうか。それは向こうの世界では誰でも持っているものなのですか?」

「はい。かなり普及してるので持ってる人の方が多いと思いますけど……」

瑠璃は確認するように珊瑚に視線を向ける。

「持ってます。両親共」

「でしたら、向こうに行った精霊に、なにかしらの肉体に入ってもらい、メールという機能で文章を打ち込んでもらったらいかがでしょうか?」

はっとする瑠璃。

「ナイスアイデアかもです、ルチルさん!」

瑠璃の世界の物に興味津々だったルチルに、携帯電話の機能を片っ端から教えていたからこそ出たアイデアである。

「で、でも、肉体ってなにに? 下手すると逆に怖がらせるだけかも……」

と、珊瑚は恐る恐る問う。確かにものによってはホラーだ。

「リンもコタロウも生き物の死体を使っているんだけど、そんなの都合よく見つかるとは思えないし……」

『あら、別に生き物じゃなくても、無機物でも大丈夫よ。たとえばぬいぐるみとか』

「そうなの?」

瑠璃には初耳であった。

『上位以上の、力の強い精霊ならね』

「上位以上……」

瑠璃と珊瑚とルチルの視線がチビへ向けられた。

「ぬいぐるみならギリオッケー?」

「私の部屋にテディベアのぬいぐるみがあるわ。かわいいぬいぐるみだから、まだマシかも。それでも怖がるかもだけど……」

どれだけかわいかろうが、突然動きだしたら怖いに違いないが、他に方法がない。

「一度試してみる?」

瑠璃が聞くと、珊瑚は迷いつつ頷いた。

そして、チビを手のひらに乗せる。

「チビ、お願いできる?」

チビはこくこくと激しく首を縦に振る。

「ありがとう、チビ~」

「話はまとまったみたいだから、まずは文章の打ち方を教えてから決行にしよう」

「よし、やるぞー」

そして、後日、戻ってきたチビが両親からの伝言を聞いて帰ってきた。

珊瑚の両親はどうにか信じてくれたようで、珊瑚の無事を喜び、両親からの伝言を聞いた珊瑚は大泣きする。

これで珊瑚の憂いが少しでも晴れればいいと、瑠璃は温かく見守っていた。