軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

調査開始

翌日、寝室から出ると、コタロウが尻尾を振って待ち構えていた。

「おはよう。コタロウ、見つかった?」

『おはよう、ルリ。例の探しものだが、どうやら少し前に帝都にいたそうだ』

「ほんと!?」

『その本人はすでに死んでいるようだが、確かに皇帝と同じ病だった男がいたらしい。その男は皇帝が病に倒れる前に死んだようだが、どうやらその男を調べていた医者がいる。何か色々やっているようだから直接話を聞きに行くか?』

「ジェイド様」

瑠璃はジェイドの顔を窺う。

これは瑠璃一人の判断で行動はできない。

「コランダムに相談してこよう」

そう言って部屋を出ていったジェイドは、しばらくして戻ってきた。

「どうでしたか?」

「コタロウ殿が調べた件はこちらで確認を取ることになった。帝国の兵士が動くと、犯人と関わりがあった場合、警戒される恐れがあるからな。それにアデュラリアが亡くなった上に第一皇子は病に伏したことになっているせいで継承争いが激化していて、動かせる兵士が極端に少なくなっているようだ。コランダムはできれば他国のものである私達を巻き込みたくないようだが、今は信用できる者が少なく、私達を頼るほかないようだな」

「コランダム様が心配ですね」

「アデュラリアが抜けた穴はそう簡単には埋められないということだ。コランダムはあくまで皇配だから」

アデュラリアがいてこそ意味のある皇配という地位。

今は次の皇帝が決まるまでコランダムが国政の指揮を執っているが、皇位継承権もない皇配であるコランダムに使える権限などそう多くないのだ。

そして父親を支えるべき皇子の内、第一皇子は病に伏したことになっており、第二皇子は国外、第三皇子は兄が動けない隙に後継者になろうと貴族へのご機嫌窺いに躍起になり、第四皇子は……何をしているか分からない。という状態だ。

もっとしっかりしろと、アデュラリアがいたら叱責しているのだろうが、頼れる彼女の代わりをできる者は今の帝国にはいない。

「正直言うと、あの皇子達なら誰が皇帝になったとしても、アデュラリアの時のようにうまく国は回せないかもしれないな」

ジェイドは心配と不安が入り交じった様子で髪を掻き上げる。

「コランダムが補佐をすれば表面上はやっていけるが、権力を持った皇子が言うことを聞くとは思えない。優秀なのかもしれないが、優秀故に人の話を聞かずに暴走する恐れがある。これまではアデュラリアがうまく手のひらの上で転がしていたんだろうが、これからどうなるか……」

瑠璃は皇子達と会わないようにしているのでなんとも言えないが、何度か話をしているジェイドは皇子達にそう思ったようだ。

「その辺りのことは帝国でなんとかしてもらうしかないですよ。ジェイド様が次の皇帝を決めるわけにはいかないんですから」

「そうだな。だが、同盟国として付き合っていかねばならないことを考えると頭が痛い」

アデュラリアは話の分かる人間だったが、次もそうとは限らないのだ。

しかし、今は次の皇帝が誰かを気にしている時ではない。

「それよりも、早くその医者の所に行きましょう?」

「そうだな。そちらの解決が先か」

「コタロウ、その医者が今いる場所は分かる?」

『うむ。ちゃんと見張りを付けている』

「ならジェイド様……」

「ああ」

そうして帝都の町に出かけることとなったが、瑠璃とジェイドだけというわけにはいかないので、フィンも一緒だ。

そして、いつものごとく、体が大きく目立つコタロウは留守番で、代わりに風の精霊を一人連れてきた。

もちろんポケットに隠れられるリンは一緒である。

『我も小さな体にすれば良かった……』

と、コタロウが嘆いていたが、コタロウのモフモフの体は瑠璃のお気に入りなので、できればそのままでいてほしい。

体を変えるなんて言い出したら、きっと瑠璃は止めるだろう。

帝都は竜王国の王都と変わらないぐらい活気に満ちていた。

まだアデュラリアが亡くなって日は浅いが、人々は日常を取り戻しているようだ。

風の精霊に案内されて訪れたのは、帝都の中心部から少し外れた小さな医院。

けれど、医院の前には患者と思われる人々がかなりの列を作っていた。

「これ全部患者ですかね?」

「だろうな。彼らを押しのけて先に話を聞くわけにもいかないし、並ぶしかないか」

身分を明かせば無理矢理割り込むことができるかもしれないが、ここにいる人達皆が何かしらの病気で訪れていることを考えると、身分でごり押しすることははばかれた。

仕方なく列の最後尾に並んで順番を待つ。

よほど腕の良い医者なのだろうと、列を待っていた子供連れの主婦に話を聞く。

「ここはいつもこんなに並んでるんですか?」

「おや、お嬢さんはここで診てもらうのは初めてかい?」

「ええ」

「ここの先生はね、本当に腕が良いんだよ。私も聞いた話だけどね、先生は昔宮殿の医師をしていたそうだよ」

「えっ! それ本当ですか?」

「らしいね。そんなお偉いお医者様だってのに、その地位を捨てて安い治療費で私ら庶民を診てくれるんだ。本当にありがたいよ」

どうやらとても人望のある人のようだ。

そんな人がアデュラリアや第一皇子の件に関わっているとはあまり思いたくない。

「先生は治療薬のない奇病とされた病気の研究もしていてね。これまでいくつもの不治の病を治す薬を作って、国から勲章をいただいたこともあるんだよ」

女性は我が子のことのように自慢げに、そして誇らしげに話して聞かせてくれる。

「そういえば、この間も原因不明で亡くなった人がいたらしいね。あれは確か皇帝陛下が亡くなる少し前だったかな?」

瑠璃はジェイドと顔を見合わせる。

真剣な顔へと変わった瑠璃の様子に気付くことなく、女性は続ける。

「先生は優しい人だから、救えなかったことを酷く悲しんでいらしてね。けれど、先生はそういう患者の家族に了解を取って、血液や臓器なんかを研究のために保管しているんだって。先生ならきっと新しい治療薬を作ってくださるだろうよ。そんな素晴らしい方に診てもらえるんだから皆だって何時間待たされても文句は言わないのさ。あんたもなんかの病気で来たんだろう? 治ると良いね」

「はい。ありがとうございます」

女性にお礼を言って、ジェイドとフィンと声を潜める。

「今の話何か関係あるんですかね?」

「研究と言って患者の血液を採取しているのか。ならば、その血液を使えば……」

「しかも元宮殿の医師です。宮殿内に知り合いも多いことでしょう」

嫌な予想が瑠璃達の頭の中に浮かんでくる。

そしてかなり待った後、ようやく瑠璃達の順番になった。

「次の方どうぞ~」

「やっとか……」

すでにこの時点で疲労の色が見えるが、ここからが本番なのだ。気を引き締める。

通された小さな診察室には、瑠璃の祖父と同じぐらいの年頃に見える男性が座って待っていた。

「はいどうぞ。お三方さん皆ご一緒かな? 今日はどんな症状で?」

「私達は患者ではない」

一歩前へ出たジェイドがそう言うと、医者は不思議そうにする。

「患者ではない? では何用でここに?」

「あなたに話があってきた。皇帝が亡くなる少し前に原因不明の患者を診たそうだな。その患者の血液も採取しているのか。それはここにあるのか?」

「なんなんだね、君達は」

「竜王国から来た者とだけ言っておく。どうしてもあなたの話を聞きたいのだ。この国のためにもどうか協力してほしい」

ジェイドの真摯な気持ちが相手に通じたのか、医者は少し考え込んだ後に、たたずまいを直した。

「今は外で待っている患者を優先させたい。診療時間が終わってからでもいいかな?」

「分かった。ではその頃また伺わせてもらう」

そう言い残すと、瑠璃の肩を抱いて診察室を後にした。

外に出た瑠璃はジェイドに問う。

「あそこで引いて良かったんですか? あのお医者さんが犯人という可能性もあるのに」

「そうだな。だが、患者を優先させたいと言われて我を通していては相手は心を開いて話してはくれないだろう? それに、おかしな行動をしないか、フィンを監視に付けている」

「えっ?」

辺りを見回すと、さっきまでいたフィンの姿が見えない。

「いつの間に……」

『私は気付いてたわよ』

と、リンはポケットから顔だけ出した。

「うーん。じゃあ、診療時間が終わるまでどうします?」

「一度、その患者の家に行ってみよう」

「そうですね。えっと、場所分かる?」

瑠璃が風の精霊に聞いてみれば、『こっちー』とまた案内を始めてくれた。