軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

治療薬

息を切らせて現れたクォーツに、ジェイドとフィンは驚きをあらわにする。

それはもちろん瑠璃も同じで、目を丸くしてクォーツを見た。

「クォーツ様? どうして……。竜王国に帰ったんじゃないんですか?」

「ああ、帰ったよ。けれどただ帰るためじゃない。彼女をここに連れてきたかったからだ」

「彼女?」

クォーツの後ろには、不機嫌さを隠しもせず立つ女性がいた。

瑠璃は誰だ? と、首をかしげたのだが、ジェイドは息をのむほどに驚きをあらわにしている。

「どうしてこの者が! クォーツ様、どういうことです!?」

どうやらジェイドの知り合いらしいということは分かったが、誰なのか未だに瑠璃だけが分かっていない。

女性は瑠璃より少し上ぐらいの年齢だろうか。

元々は綺麗に結い上げられていただろう髪は酷くバサバサになって、まるで鳥の巣のように酷いことになっているではないか。

それを女性はふて腐れたような顔をしながら櫛で直していっている。

髪が長い故にかなり大変そうだったので、瑠璃も空間から櫛を出して「手伝いましょうか?」と聞いてみると、静かにこくんと頷いた。

「じゃあ、失礼しますね」

一声かけてから彼女の髪に櫛を通すと、サラサラとした黒髪が艶を取り戻していく。

ちょっと感動するほどにサラサラヘアーであった。

一体なにがあったら鳥の巣のような頭になるのか。

「そこのトカゲのせいで私の髪がぐちゃぐちゃじゃ。付いてくるのではなかった。重いからと、せっかく連れてきた女官を途中で降ろしてしまうなど、呆れて言葉も出ぬ」

「じゅうぶん言葉に出ているじゃないか。竜体となった私に乗って高速で飛んだのだから髪が乱れるのは当然だろう? 分かっていたことなのに、無駄に綺麗に結うんだから」

「ふん! トカゲごときに女心を分かろうはずがないことは理解した。セラフィもこんな男を選ぶとは男の趣味が悪いものよ」

どうやらセラフィとも知り合いらしいこの女性はいったい誰なのだろうか。

疑問符を浮かべながら髪を梳いていく瑠璃は、ようやくその疑問を口にした。

「あの、ジェイド様にクォーツ様。こちらの方は?」

すると、ジェイドは苦虫をかみつぶしたような顔をし、クォーツは困ったように笑った。

「うん、この子はね、ヤダカインの女王なんだよ」

「えっ!?」

驚きのあまり手を止めた瑠璃はまじまじと女性を見てしまう。

「ヤダカインの女王って、あのヤダカインですよね? 愛し子でもあるんでしたっけ?」

「ルリは初対面だったね。彼女はパール。さっきも言った通りヤダカインの現女王だ」

続いて、クォーツはパールに瑠璃を紹介する。

「パール。今君の髪を直してくれているのが竜王国の愛し子だよ。ジェイドの番いなんだけど、ジェイドのことは話さなくても知っているね?」

パールはジェイドの顔をチラリと見てから、ふんと鼻を鳴らして顔を背けた。

代わりに注意は瑠璃へと向かう。

「お前が愛し子か。ルリと言ったか?」

「はい、ルリです」

「もしトカゲの旦那が嫌になったら私の所へ来るといい。セラフィ共々歓迎する」

「えっと……ありがとうございます」

「悪いけど、セラフィが私を嫌になることはないから、そちらに行くことはないよ」

「ふん、そんなことは分からぬ。トカゲに愛想を尽かすやもしれんじゃろ」

先程からクォーツにトカゲトカゲと言っているが、瑠璃が言われたトカゲの旦那とはジェイドのことか。

竜族に対してトカゲというのは禁句だというのに、臆面もなく言ってしまえるのはすごい度胸である。

しかし、ジェイドはトカゲと言われたことよりもヤダカインの女王がここにいることの方が気になるようだ。

それに、パールに対してあまりいい感情を感じられない。

まあ、それは無理もないのだが。

ヤダカインとは少し前に色々とやり合ったところなのだから。

快く迎え入れろという方が難しいかもしれない。

だが、瑠璃が見たところ、パールにあまり悪い印象は感じなかった。

もっとわがままで癇癪持ちのきつい女性を想像していたのだが、どこにでもいそうな普通の女性だ。

こんな女性があれほどの大問題を起こしたなど、知ってはいてもにわかに信じがたい。

だが、何故彼女がここにいるのかというのが、今一番気になることだった。

瑠璃が質問するより、ジェイドが口を開く方が早かった。

「クォーツ様、どういうことなんです!」

ジェイドは苛立ちを隠さずにクォーツに詰め寄る。

「まあまあ、落ち着いてよ、ジェイド」

「これが落ち着いていられますか! 彼女が我が国にしたことを忘れたわけではないでしょう!?」

「それは私にも責任がある。闇の精霊にもね」

「その闇の精霊はどうしたのですか? 一緒に連れてきていないのですか? 闇の精霊には女王を監視する役目があるでしょうに」

そのジェイドの言葉にムッとした表情を浮かべるパール。

「彼は私の監視ではないし、そんな役目なども存在せぬ。ここへ来るのにお前の許可を取る必要もない。わきまえよ」

「自分がそれだけのことをしたとまだ理解できていないのか?」

ジェイドとパールの間に火花が散る。

それをクォーツはやれやれという様子で対応に困っている。

「はいはい、頼むから喧嘩は止めてくれ。今はそんなことをしてる場合じゃないだろう? パールもだよ。何のために君を連れてきたと思っているんだい」

パールを睨むのをやめたジェイドは、矛先をクォーツへと変える。

「それはどういう意味ですか、クォーツ様!」

「ジェイドも落ち着きなさい。今から説明するから」

「はいはい。ジェイド様、深呼吸です。いつものジェイド様らしくありませんよ。とりあえず喧嘩はクォーツ様の話を聞いてからにしましょう」

ジェイドは自分がいつも以上に興奮していることを理解したのか、幾度か自身を落ち着けるように深呼吸する。

次の瞬間には冷静さを取り戻していたのは、さすがである。

理性的な種族と言ったリンの言葉は間違っていなかった。

ヤダカインには竜族を連れ去られた過去があるために、仲間想いの強いジェイドはことさらヤダカインの女王に強く反応してしまったのだろう。

同族を思えばこそだ。

「彼女にはね、皇帝の病を治してもらうために来てもらったんだよ」

一同目を見張った。

「治せるのですか!? しかし、セラフィ殿は、その……」

亡くなったと、ジェイドはあまりクォーツに対してその言葉を使いたくなかったのだろう。言葉にすることを躊躇っていた。

しかし、ちゃんとクォーツには伝わったようだ。

「ああ、セラフィは亡くなった。それにより、私はセラフィを探す旅に出たわけだけど、その過程でヤダカインを訪れ女王と出会った。彼女も愛する人を亡くした!言わば同志だったけど、それだけでなく、最愛の人を亡くした病も同じだったんだ」

「光毒虫……」

それを口にしたのは瑠璃だ。

「そう。ヤダカインは世界でも数少ない光毒虫の生息地なんだ。けれど、光毒虫というのは本当に狭い範囲でしか行動しないから、その場所に立ち入りさえしなければ危険はない。ヤダカインの者はそれを知っているから立ち入ったりしないのだけど、子供が間違ってその生息域に入ってしまってね。それを助けに行ったパールの婚約者が刺されてしまい、亡くなってしまったんだ」

「じゃあ、セラフィさんは?」

セラフィが病に倒れた時には、セラフィはクォーツの番いとして竜王国にいたはずだ。

それも、人前に出すことを嫌ったクォーツにより、ほとんど部屋に引きこもっていた。

「セラフィに関してはどういう経緯で光毒虫の毒が体内に入ったかは分からないんだ」

いつの間にか指輪から姿を見せていたセラフィが困ったように眉を下げていることから、セラフィにも覚えがないのだろう。

「まあ、今はそれは置いておくとしよう。重要なのは、セラフィもパールの婚約者も光毒虫により亡くなったということ。そして、その毒は竜の血をもってしても治せなかったということ。けれど、パールは今後も同じように光毒虫によって誰かが死ぬのを放っておけなかった。そこで、死者を生き返らせる方法を探すと同時に、光毒虫の毒を無毒化できる薬の開発にも手を出していたんだよ」

ここまで言われれば、クォーツがパールをここに連れてきた理由は誰にも分かった。

「では、光毒虫の薬はあるのですか?」

ジェイドは期待に満ちた目をする。

クォーツはこくりと頷き、部屋に明るい空気が流れるが、クォーツの顔は優れなかった。

「あるにはあるけれど、残念ながら皇帝には間に合わなかったようだね……」

一気に雰囲気が暗くなる。

「本当はもっと早くに来たかったんだけど、パールがごねてね。何故自分が行かねばならない。ここに連れてこいと」

「んな無茶な」

そんな言葉が思わず瑠璃の口から出てしまう。なにせアデュラリアはすでにベッドから起き上がれない状態だったのだ。

何日もかけてヤダカインに旅をする体力など残ってはいなかったはず。

「仕方がないであろう。薬を作るには、色々と準備が必要なのじゃ。準備をしている間に病人を連れてくる方が早いと思ったのじゃよ。その薬は私にしか作れぬから人に任せるわけにもいかぬし」

「そこをなんとか来てもらったというわけだ。セラフィが必死に説得してくれてね」

「セラフィが頼むから来てやったまで。トカゲの頼みを聞いたわけではない」

腕を組んでふんと鼻を鳴らすパールはあまりクォーツのことも良く思ってはいないように見える。

同じ最愛の人を亡くした同志と言っていたはずなのだが、その辺りは本人達にしか分からない複雑な感情があるのだろう。

「それにしても、来たのは無駄足だったではないか。皇帝は死んでしまったのだろう? せっかくこんなに急いでやって来たというのに」

「そうだねぇ……」

クォーツも困ったようにしているが、こちらとしてはとんでもなくナイスなタイミングだった。

「いえ、それが第一皇子もアデュラリアと同じ病に倒れたそうなのです」

「えっ、本当かい?」

クォーツはまさかと驚いているが、ジェイドの顔を見て、すぐに冗談ではないと察したのだろう。考えるように顎に手を置く。

「光毒虫は帝国にはいないって光の精霊から聞いていたんだけど……。もしかして皇帝の血やなにかを口にしたりしなかったかい?」

「それは私には分かりませんが、薬があるなら治せますか?」

「どう? いけるかい?」

クオーツは、パールに確認する。

すると、パールは不機嫌そうにしながらジェイドに問う。

「発症してどれ位経つ?」

「まだ数日だ」

「それならばいけるだろう。だが、実際に進行具合を見てみぬことには作れぬ。配合量が変わってくるのでな」

「ジェイド、その第一皇子に会えるかい? 治せるかもしれないと聞けばすぐに面会させてくれるだろう」

ジェイドは頷いた後、フィンへと視線を向ければ、心得たとばかりに部屋を飛び出していった。

その間瑠璃がせっせとパールの髪を整え終えた頃にフィンが戻ってきて、面会の許可を取ってきた。

「これから会えるそうです。すぐに来てくれと」

「分かった」