軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異世界人の妬み

あらかじめ聞いていたパーティーの日。

城内はにわかに浮き足立っており、皆がパーティーを心待ちにしているのを肌で感じる。

瑠璃は早い内からジェイドから送られたドレスを着て準備を始めていた。

どうやらこのドレス、ジェイドが選んだもので間違いはないのだが、母であるリシアの店でリシアと相談しながらデザインして作ったものらしい。

どうりでドレスが入っていた箱に印字されていたロゴに見覚えがあると思ったのだ。

それはリシアの店のロゴである。

リシアと共に作ったのなら、それは瑠璃の好みど真ん中のドレスができあがるのは当然というもの。

リシアに相談したジェイドの選択は間違いではない。

そして、綺麗な髪飾りやアクセサリーを付けてジェイドのところへ行けば、ジェイドもいつもとは雰囲気の違う正装をしていた。

どうやら瑠璃のドレスとおそろいになっているようで、同じレースも使われているようだ。

これらは絶対にジェイドの、というよりリシアのチョイスだなとすぐに分かったが、さすがあちらの世界では自分のブランドも持っていた元モデル。

ただでさえ美形のジェイドを引き立たせる最高な服を理解している。

心の中でグッジョブと母を褒め称えた瑠璃は、すかさず空間からスマホを取り出して写真を残すべく連写してしまう。

それだけ今日のジェイドは破壊力抜群であった。

「これは今日の女性陣の目が釘付けになってしまいますね。なんとなくジェラシー」

妻としては鼻が高いが、ちょっと見て欲しくない気持ちも芽生える。

「くくっ、やきもちか?」

「ジェイド様がかっこよすぎるんです」

「ルリも綺麗だ。私以外の誰にも見せず、どこかに閉じ込めておきたいぐらいに」

そう言って頬にキスをするジェイドに、瑠璃は撃沈。

どうしてこうも恥ずかしげもなくそんなことを言えてしまうのか。

時折クォーツがセラフィに似たようなことを言っていることから、竜族の男性皆そうなのかもしれない。

いや、あの生真面目なフィンもそうなのだろうか。

今度こっそりルチルに聞いてみようと瑠璃は思った。

そして、ジェイドにエスコートされながら会場となる大広間に行けば、もうすでにどんちゃん騒ぎが始まっていた。

普通は王様が来るのを待つだろうに。

それを注意したところで、酒を前にした竜族達の耳には右から左に抜けていくのだろう。

酒樽を片手にバトルをしている者や、すでに酔いが回って酒樽に愛を囁く者までいる始末。

他国なら懲罰ものだなと、呆れたようにしながらも、瑠璃はそんな雰囲気が好きだったりする。

見ると幸せが訪れるフーリエルの再びの来訪を祈って、というのを名目に飲んで騒ぎまくる面々。

もはやフーリエルの存在など忘れているだろとツッコみたい気持ちだ。

瑠璃は大人しく度数の低い甘めのお酒を飲みながら、ユークレースやセラフィなどと話していた。

それを近くで優しげな表情をしながら見守るジェイド。

時々甲斐甲斐しく瑠璃の口に料理を運んでくるジェイドを、クォーツが羨ましそうに見ていた。

「はぁ、できれば私もセラフィに食べさせてあげたいんだけど……」

「幽霊の私に食事は無理だもの。諦めてちょうだい」

「仕方ないね」

そんなやり取りすら少し前のクォーツにはできなかったもので、不満を口にしつつもなんだかんだでこの二人も幸せそうだ。

瑠璃は持っていたグラスを近くのテーブルに置く。

「ちょっと離れますね」

「どこに行くんだ? 私も付いていく」

すかさずジェイドが問いかけてくる。

「女性にそんなこと聞くものじゃないですよ。リンを連れていきますから」

「ああ」

そう言えばジェイドも納得したようで、大人しくその場に留まった。

「念のため私も行きますよ」

そうルチルが申し出てくれたので、ありがたく受け入れる。

大広間を出てお手洗いを済ませた瑠璃は、会場へ戻ろうとリンを連れて廊下を歩いていた。

そこへ立ちはだかったのは、珊瑚である。

侍女の服を着ている珊瑚は、驚いて目を丸くして固まる瑠璃を、親の敵でも見るかのような眼差しで睨みつけていた。

「ねぇ、あんたが愛し子? 聞いたんだけど、あなたも私と同じ地球から来たのよね?」

「えっ、あ、はい。そうですけど……」

何故ここに珊瑚がいるのか分からなかった。

珊瑚はまだ瑠璃と会わせないように対応されていたはずだ。

しかし、恐らくパーティーで人手が必要になり、珊瑚も呼ばれたのかもしれないなと瑠璃は推測する。

珊瑚は瑠璃の周囲に視線を巡らせてから鼻で笑う。

「もしかしてあなたの精霊ってそれだけなの?」

今瑠璃のそばにいるのは、リンと二人の下級精霊だけだった。

他の子はパーティー会場で楽しそうに見回っていたので、付いてこなかったのだ。

リンがいるので問題ないと思っていたのだろう。

「その大っきなクリオネってあなたのだったの? それも精霊? だとしても精霊がそれだけなんて私以下じゃない。それなのに愛し子なんて言われて、そんな豪華なドレス着てちやほやされるなんて、何が私と違うのよ!」

激昂する珊瑚は、憎々しさでいっぱいの目をしていた。

瑠璃が口を挟むのもはばかれるほどに。

「なんでよ、なんでなのよ!! 私がこの世界に来たのは意味があるからなんじゃないの!?」

叫ぶように声を発したかと思えば突然静かになり、瑠璃をひたりと見つめる。

「ねぇ、あなたからも言ってよ。あなたは愛し子なんでしょう? あなたが愛し子なら、私だって愛し子になれるわ。綺麗なドレスを着て、豪華な部屋に住んで、あのかっこいい王様の奥さんになるの。きっとそのために私はこの世界に呼ばれたのよ。だから私にちょうだいっ」

珊瑚は瑠璃の胸ぐらを掴もうと手を伸ばしてきたが、ルチルが止めに入る前にコタロウの結界に触れて弾かれる。

「きゃあ、痛い!」

珊瑚の手は赤くなっており、コタロウが念入りに結界を張っておくと言っていたのを思い出す。

これは少々念入りがすぎるだろうに。後で元に戻すように言っておいた方がよさそうだ。

痛みにうめく珊瑚は手を押さえながら潤んだ眼差しで瑠璃を見つめる。

「なんで、なんで!? 私は愛し子でしょう? 愛し子になって何か役目を終えたら帰れるんじゃないの? なんであなただけ特別なのよ。なんで私は愛し子じゃないのよ!」

瑠璃を責め立てる珊瑚に、かける言葉が出てこなかった。

ただの偶然でこの世界に来てしまった珊瑚。

そこに意味などない。運が悪かっただけ。

そして、あちらからこの世界に来られても、元の世界にはどうやったって戻ることはできない。

だが、そんなことをどうしてすぐに受け入れられよう。

物語の主人公のように役目を終えたら帰れると、わずかな希望にすがりたいと願って何が悪いのか。

瑠璃とて最初は思っていた。

きっとどこかに元の世界へ帰れる方法があるんじゃないのかと。

けれどないのだ。そんな方法など。

「そこで何をしている!」

はっとして声のした方を見れば、ジェイドとフィンが厳しい顔でこちらへ歩いてきていた。

瑠璃の側までやって来たジェイドは、瑠璃と瑠璃を守るように立つルチルを見てから、赤くなった手を押さえる珊瑚に視線を向ける。

その眼差しは射殺しそうなほど強く、今にも珊瑚に手を出しそうな雰囲気だった。

瑠璃は慌ててジェイドの腕にしがみついた。

「ジェイド様、なんでもありませんから」

「そんなわけがないだろう。何かされたのだな?」

最後の問いかけは、瑠璃ではなく、瑠璃の前に立つルチルに対して。

ルチルは珊瑚を静かに見つめた後、今度は珊瑚を庇うようにしてジェイドの前に立った。

「陛下、この場は私に任せてはもらえませんか?」

「愛し子に危害を加えようとした者を放置しろと?」

「お願いいたします」

ルチルはジェイドに深々と頭を下げた。それを見て、瑠璃も頭を下げる。

ルチルなら酷いことにはならないと感じたから。

「お願いします、ジェイド様!」

チラリと見上げたジェイドは、激しく葛藤しているようだった。

大事な番いの害となる者を排除すべきという本能と戦っているのだろう。

けれど、瑠璃の必死の懇願に、最後は折れた。

「分かった。今回のことはルチルに任せる。しかし、二度目はないぞ」

「ありがとうございます」

再び頭を下げると、ルチルは珊瑚の赤くなった手に、取り出したハンカチを巻いてから珊瑚をどこかへ連れて行った。

それを見送り、瑠璃はほっと息を吐いた。

「ルリもルチルも甘すぎる」

苦虫をかみつぶしたような顔で不満を口にするジェイドに、瑠璃も苦笑する。

「そうかもしれませんね。けど、同じ境遇でありながら、私だけ特別待遇をされているのを見て不満に感じるのは仕方ないと思います。彼女はまだ十六才の子供なんですから」

「もう、十六だ」

「私の世界ではまだ未成年です。だから少しだけ目をつぶってください」

「……今回だけだ」

「はい。それでじゅうぶんです。きっとルチルさんがなんとかしてくれますから」

周囲の声を聞いていれば分かる。

ルチルが世話好きで悩んでいる人を放っておけない性分のようだと。

ルチルがあんなにも人気者なのは、お世話になったという人がそれだけたくさんいるからだ。

珊瑚のこともよいようにしてくれるだろうと瑠璃は期待していた。