軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ

「酷い目にあった……」

瑠璃がようやくジェイドから解放された後には、すでに瑠璃の同調が終わったことが城中に伝わっており、アゲットがハッスルしていた。

これは祝わねばと、勝手に城でのパーティーを決定して準備を進め、数日後には盛大なお祝いが行われることになった。

瑠璃としたら恥ずかしいことこの上ない。

だが、テンションバク上がりのアゲットの暴走を止めることは誰にもできなかった。

観念して帰って早々アゲット主催のパーティーに参加すれば、方々からおめでとうと祝われる。

同調を終え、これで瑠璃も竜族の仲間入りを果たした。

老いも緩やかになり、体も竜族ほどではないが人間よりも強くなったようなのだが、瑠璃自身はまだ実感はない。

これから少しずつ感じてくることになるのだろう。

「ルリー!」

ユークレースに呼ばれて向かえば、ユークレースから一通の手紙を渡される。

「ベリル様からよ」

「おじいちゃん?」

急いで手紙を開けば、そこには写真が一枚だけ入っていた。

どうやらこっちにインスタントカメラを持ってきていたようだ。

写真には、どこかの海でカイと一緒に笑顔のベリルが写っている。

魚釣りをしていたのか、その手にはベリルをひと飲みしそうなほど大きな魚を抱えている。

どうやらベリルはこっちの世界を大いに満喫しているようだ。

「良かった。おじいちゃん元気そう」

「良かったじゃない。ベリル様のことは私達も配慮が足りなかったと心配していたから安心したわ。それと、ギベオンだけど、彼かなり即戦力だったわ。さすが滅んだとはいえ元王子ね。国の経営に関する帝王学をちゃんと教え込まれてたんでしょう。一を言ったら十で返してきて私もびっくりだわ。なんであれだけのことができて犯罪に手を染めながら生きてたのか分からないわね。まあ、まだ信用できるかお試し期間だから、そう重要なことは任せられないけれど、いい拾いものだったわ」

そう言って去って行ったユークレースを見届けると、次にパーティーに参加していた両親を見つけ、写真を持って近付いた。

ベリルの写真を見た二人は揃ってクスクスと笑い、ベリルが楽しんでいるのを見て嬉しそうな顔をする。

「正直言うと、私達のような魔力持ちがあちらの世界で生きるのには窮屈すぎたわ。見えないものが見える。目に見えない力が使える。それを隠して生きるのは大変なことだった。お父さんにとったら解放されたような気持ちなのでしょうね。私も同じ気持ちよ。だから瑠璃もあまり気にすることはないのよ」

母親の顔で瑠璃の頭を撫でるリシアは、瑠璃が感じていた負い目を分かっている様子。

自分がこの世界に来てしまったために家族を巻き込んでしまったのではないかと。

そんな気持ちがないかと言われたら嘘になってしまう。

しかし、この写真に写っているベリルの笑顔を見ると、そんなこと気にしている方が馬鹿らしくなりそうなほどに、ベリルも、そして両親もこの世界を楽しんでいた。

それでもやはり……。

「ごめんね」

そう謝るのは、巻き込んでしまった家族へのけじめだ。今さらすぎであるが。

ベリルに直接謝れなかったのが申し訳ない。

けれど、きっとその内帰ってくるだろう。

両手に抱えきれないほどの土産話を持って。

その時には瑠璃にも子供ができているかもしれない。

きっとベリルなら全力で子供と遊んでくれるだろう。

その光景が見えるようで、楽しみで仕方がない。

「私はここに来て良かったと思っているわ。この世界に新しい服の革命を起こすという使命ができたんですもの。瑠璃も手が空いたら手伝いに来てね。瑠璃ならモデルとしても構わないわ」

「リシアのお店は、最初こそ人が来なかったんだけど、今ではコアなファンが付いて大忙しみたいなんだ。従業員の手が足りないぐらいにね」

琥珀が教えてくれたリシアのお店は予想以上に順調なようだ。

「ひー様も手伝ってるんでしょ?」

「ええ、そうよ」

「真面目にやってるの?」

瑠璃は疑いの眼差しだ。

そもそもが精霊。労働などとは無縁の世界で生きている、人とは違う常識の中で動く存在。

しかも、女のことしか考えていないひー様が真面目に労働するとは思えない。

現に今も、給仕の女性を口説いている最中だ。

そこへギベオンも加わり、なにやら話し込んでいるかと思うと、ギベオンが「師匠と呼ばせてください!」と言って舎弟になっている。

ひー様はまんざらでもないようで、「よかろう」などと偉そうにふんぞり返っている。

同じ女好き。どうやら気が合うようだ。

「ひー君もちゃんと仕事してるわよ。モデルをして宣伝活動にも活躍してくれてるわ」

あの俺様ひー様をここまで手のひらで転がすとは……。

「お母さん、ひー様の弱味でも何か握ってるの?」

「うふふ」

リシアは意味深に笑うだけで答えてはくれない。

結局、その辺りのことは謎のまま過ぎ去るのだった。

両親から離れた瑠璃にはたくさん人からお酒を勧められる。

瑠璃の祝いだと言っているが、ただお酒が飲みたいだけのような気がするのはきっと気のせいではない。

瑠璃に勧めておきながら、それ以上の酒をあおっているのだから、どちらがメインのパーティーなのか分からない。

だが、皆が楽しそうにしているのを見ると、瑠璃も楽しくなってくる。

少々お酒を飲みすぎてふらふらとしてきた瑠璃は、酔いを覚ますために庭へ行く。

肌を撫でる風が気持ちいい。

潮の匂いのする空気を大きく吸って吐き出した。

遠くでは人々の話し声や笑い声が聞こえる。

その声を背に、瑠璃はそこから移動した。

やって来たのはジェイドの執務室。

ノックの後扉を開けて入れば、ジェイドが仕事をしていた。

「ジェイド様はパーティーに行かなくて良かったんですか?」

「私でしか決裁できない仕事が溜まっていたからな。それにあれは私達を理由に騒ぎたいだけだ。竜王国の民は祭りやパーティーが好きだからな。竜族は特にな」

「確かに、皆ジェイド様がいないのにも気付かずにお酒を飲んで大騒ぎでしたね」

「城を壊さないなら問題ない」

「それは難しいんじゃないですか?」

酒を飲むパーティーを行うと、必ずと言っていいほど竜族が暴れて城を破壊する。

そして、翌日二日酔いのままで修繕作業がいたるところで行われるのが恒例だ。

きっと今頃どこかの壁が破壊されている頃かもしれない。

「そう言えばジェイド様が酔って暴れたのは見たことないですね」

「当然だ。竜王が酔って暴れたら誰が止めるんだ」

「ごもっとも」

なにせ竜王は竜族の中で最も強い者がなるのだから。

竜族複数人で取りかからなければ押さえ込めないだろう。

しかし、そんな王など見たくない。支持率が一気に落ち込みそうだ。

それで言うなら愛し子が酒乱なのも問題なのではないかと思う。

セレスティンにはぜひともイメージに気を付けてほしいものだ。

ラピスは普段からアウェインに怒られている姿をよく見るので、周囲への影響はそんなになさそうだから問題ないだろう。

自分も気を付けようと瑠璃は思った。

書類を捌いていたジェイドはペンを置く。

「もう終わりですか?」

「いや、少し休憩だ」

ジェイドは立ち上がると瑠璃の手を取ってソファーへ移動し、テーブルに空間から取り出したサンドイッチのような軽食を置いていく。

どうやらパーティーに参加する気のないジェイドのために食事があらかじめ用意されていたようだ。

ジェイドは瑠璃を膝の上に乗せる。

当然のように定位置となっている場所は、猫の姿なら良いのだが、人間の姿だとジェイドの顔が近いので少し恥ずかしい。

「ほら、ルリ」

一口サイズのサンドイッチを手にしたジェイドは、自分で食べるのではなく先に瑠璃の口へ持っていく。

それをパクリと食べた瑠璃を満足そうに見つめ、瑠璃の髪を耳にかけ後ろに流した。

露わになる首筋に見えるのは、同調の証であるジェイドの瞳のような鱗だ。

ジェイドはゆっくりと顔を近付け、愛おしげにそこにキスをした。

確かめるような長い口付けが終わると、再び瑠璃を見つめ、鱗をそっと指でなぞる。

「ジェイド様はそこばっかり触ってますね」

同調が終わってからというもの、ジェイドは浮き上がった鱗を何度となく確認するように触れている。

「これで本当の意味でルリが私のものになったという印だからな」

ジェイドの顔は本当に嬉しそうで、それを見てしまっては瑠璃も何も言えなくなる。

「そうだ。おじいちゃんから写真が送られてきたんですよ」

瑠璃は両親にも見せた写真を渡した。

「ルリの世界のものは便利なものがあるな。似たようなものが作れないものか……」

「セラフィさんに頼んだら作ってくれるかもしれませんよ」

「うーん。あまりセラフィ殿を忙しくするとクォーツ様からの視線が痛くなるからな」

「クォーツ様もセラフィさん大好きですからね」

「竜族の男とはそういうものだ。ルリも諦めろ」

「はーい」

もうすでに諦めている。というよりは、受け入れていると言った方が正しいかもしれない。

「それにしても、ベリル殿は随分楽しそうだな」

「カイもですね。旅行感覚で旅を楽しんでいるようで良かったです。まあ、おじいちゃんならどこででもやっていけるでしょうけど」

最初は書き置き一つでいなくなって驚いたが、落ち着いて考えれば、そこまで悲観するようなことがベリルには一つもないことに気が付いた。

愛し子であり、カイがいて、アンダルもいる。

なので、あまり心配はしていなかったが、こうして無事な姿を実際に見るのとでは安心感が違う。

「おじいちゃんも満喫してるようですから、ジェイド様もあまり気にしなくていいですよ」

ベリルが出て行ったことで、ジェイドが責任を感じていたのは分かっていた。その矛先が貴族へ向かったのもちょっと八つ当たりもあったかもしれない。

けれど、気にする必要はない。こんなにも写真のベリルは楽しそうなのだから。

「そうだな。帝国の貴族にも責任は取らせたし、ベリル殿が気にしていないようならそれでいいのかもしれない」

「そうそう。その内ひょっこり帰ってきますよ。お母さんもなんだかんだで楽しんでいるようなので、私も気にしないことにしました」

「そうか」

瑠璃は一拍おいて呟いた。

「……同調したことで、私は両親やおじいちゃんとは違う時間を生きることになったんですよね……」

「……そうだ。後悔しているか?」

瑠璃は首を横に振った。

「寂しい気持ちはあります。けど、おじいちゃんとかお母さんとか、今を存分に楽しんでる人の姿を見たら、私も先のことじゃなくて、今を楽しもうって思いました。この先後悔したくないから」

「そこに琥珀殿を入れなくていいの?」

瑠璃は小さく笑った。

「確かに。……けど、お父さんはお母さんに振り回されてるのが好きなので、お母さんが楽しければ問題ないと思います」

いつか来る別れの時。けれど、後のことは後で考えて、今を楽しみたい。

「以前にも似たようなことを言ったことがあるが、もう一度誓おう。私はルリの両親の分もルリの側にいる。ずっと、死ぬその時まで」

そう言ってジェイドはきゅっと瑠璃を抱き締めた。

瑠璃もジェイドに腕を回した。

「私も、ずっとジェイド様の側にいます」

その誓いはきっと果たされるだろう。

二人がそれを疑わぬ限り。

そっと二人の顔が近付き、心が満たされるようなキスを交わす。

その時。

ドーンと大きな音が鳴った。

がっくりと肩を落とすジェイド。

「とうとうやらかしたな……」

どうやら誰かが城を壊したらしい。

「仕方がない」

ジェイドは瑠璃を膝から下ろし立ち上がる。

「様子を見に行くんですか?」

「竜族が暴れていたら止める者がいるからな」

「ふふふっ。大変ですね王様は」

「とっとと誰かに押し付けてルリとのんびり過ごしたいものだ」

「それナイスアイデアですね。ジェイド様が王様辞めたら、チェルシーさんの家の横に新しく家を建てて二人で暮らしましょうか」

「ふむ、それも悪くないな」

「じゃあ、今度チェルシーさんの所に行って、家を建てられそうな場所を探しに行きましょう!」

「チェルシーの迷惑そうな顔が目に浮かぶな」

そんな未来の話をしながら、二人は手を繋いで笑顔で部屋を後にした。