軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

霊王国へ

その日、瑠璃は四カ国会談に向かうために、港へ来ていた。

それはもう大きな豪華客船を前にして、大きな口を開けている。

「ほわぁ、すごい」

「最近開発された、最新式の船だ」

隣に立つジェイドが説明してくれる。

しかし、瑠璃には疑問に思うことがある。

「今回は飛んで行かないんですか?」

前回霊王国へ行った時はジェイドや護衛は竜体となって飛んで霊王国まで向かった。

けれど今回は船で行くという。

「ああ。これのお披露目のためにな」

「船の?」

「この船は、セラフィ殿の魔女の知識を生かした、船の形をした魔法具だ。魔力をエネルギーに活用し、従来の帆船よりも遙かに早い速度が出る」

そう言えば少し前にセラフィから大量の魔石が欲しいと頼まれたことを瑠璃は思い出した。

空間の中には山ほどあったので、バケツいっぱいの魔石を進呈したのだが、まさかこんなものを作っていたとは思いもしなかった。

「これは船の業界に革命を起こすだろう。それぐらい速度が桁違いだ。国同士の行き来も楽になる。これを帝国や霊王国の者に見せたいのだ。あの二国は流通の重要地点となる港があり、自国でも海軍を有しているからな」

「売りつけるんですか?」

「早い話が、そういうことだ」

特に帝国には売れるだろうと、ジェイドは悪い顔をした。

帝国はほとんど人間の国。

魔力が使える者は他の三国と比べても少なく、霊王国へ向かうのにも飛んでいくというわけにもいかず、長い船旅を経るので毎度霊王国へ行くのも一苦労なのだそうだ。

速い船があれば、高い金を出してでも飛び付くだろうとジェイドは言っている。

なるほどと思いつつも、ジェイドがそんなアマルナのように金に執着を見せるのは珍しいなと思っていたら、共に向かうクラウスがそっと耳打ちした。

「あれからも何度か帝国の貴族から愛し子と面会を求むという手紙が届いているのですよ。あまりにしつこくて、温厚な陛下も頭にきているようで、今回はこの船で貴族と交渉するつもりなのです」

最初に高値をふっかけて、相手が渋ったところで、今後愛し子と会わせろというようなことを言ってこなければ少し安くしてやる、という交渉に持ち込むつもりのようだ。

よほど、帝国の貴族にうんざりしているらしい。

その問題の愛し子は瑠璃を始めとした身内なので、瑠璃も申し訳なく思う。

そんなこんなありつつも、準備が整ったので瑠璃は船に乗り込んだ。

勿論、コタロウとリンも一緒である。

すると、船に乗り込む階段の前でなんやら揉めている様子。

見ると、ひー様が乗り込もうとしているのを、母親であるリシアが笑顔で止めているところだった。

「私も一緒に行くぞ!」

「だーめよ。ひーちゃんには新作の服のモデルになってもらうんだから」

「い~や~だ~」

「もう。我が儘言わないの」

そう言ってずるずると船から引き離されていった。

瑠璃は見なかったことにする。

目出度くジェイドが用意した王都の店で服屋を始めたリシアは、この世界では目新しいデザインをした服を続々と発表している。

実際に自分も着たりしているおかげか、愛し子が着ているということで新しい物が好きな一部の者から少しずつ広まってきているようだ。

そこまではいいが、男性用のモデルとしてひー様が駆り出されているようだ。

リシアが城を出る時にひー様を連れて行った理由が分かった。

まあ、見目はいいので、服の宣伝係として不足はないだろう。

何だかんだで、ひー様も店にやって来る女性を口説きつつ服の宣伝もしているので、天職かもしれない。

リシアも満足なようだが、やはりひー様はリシアが苦手なようで、今もリシアから離れるべく船に乗り込もうとしたのをリシアに止められたようだ。

あのひー様を手のひらの上で転がせるとは、我が母ながら恐ろしいと瑠璃は思う。

その後続々とジェイドや、クラウス、フィンが乗船してくる。

ジェイドがいない間の竜王国のことは、先王でもあるクォーツと宰相のユークレースに任せられている。

二人も見送りのために船の前まで来ており、クォーツの横にはセラフィと光の精霊の姿もある。

そんな彼らに手を振り、船は動き出した。

ジェイドが言うように、確かにこれまでの帆船よりスピードが速い。

それに加え、帆船のように帆を張ることで、風の力も加えてさらにスピードを上げることができるようだ。

魔力で動く船とはなんともファンタジーだなぁと、今さらに瑠璃は思う。

しかしだ、ヤダカインの魔女の知識を外に出して良いのかという心配もある。

なにせヤダカインの魔女はこれまで精霊殺しの魔法を使って色々とやらかしてきた存在だ。

あまり良いイメージはない。セラフィは別だが。

そんな良くない印象を持つ瑠璃に、クラウスが否定した。

「これには精霊殺しの魔法は一切使われておりませんから大丈夫ですよ」

まあ、当然だろう。

そんなことをコタロウ達精霊が許すはずがないのだから。

「元々魔女は精霊殺しの魔法などは使っていなかったのです。セラフィ殿から提供された知識は、そんな精霊殺しを活用しない、本来の魔女が使っていた知識です」

「あー、確か、精霊殺しを作ったのは二代目の王様で、初代の女王様はそれを許さなかったってリディアが言ってたような……」

つまり、それまでは精霊殺しを使わない魔法が使われていたということで、精霊殺しなどなくとも魔法具は作れるのだ。

しかし、初代の女王のことなど初耳のクラウスは驚いたような顔をしている。

「そうなんですか?」

「リディアによると、初代の女王様は、精霊殺しを作った次の王様に殺されちゃったみたいです。初代は精霊殺しを世に出したくなかったから」

「そんな経緯があったのですか」

「セラフィさんも知らなかったみたいですからね」

さすが精霊。生き字引のような存在だ。

「すごい魔女だったようですから、そんな人なら飛行機でも作れちゃうかもしれないですね」

「ひこうき?」

「私の世界にあった、すごい速さで空を飛ぶ乗り物です」

「ほお、ルリの世界にはそんな便利なものがあるのですか」

クラウスが実際に見たら腰を抜かすかもしれない。が、逆に瑠璃の世界の者が空を飛ぶ竜族を見たとしても間違いなく腰を抜かすだろう。

船旅は帆船ではないスクリューエンジンで動く現代の船を知ってる瑠璃から見たら、特に驚くほどのものではなく、すぐに飽きた。

逆に、帆船しか知らない乗組員はどう動いているのかと興味津々だ。

動力の元となる魔石に魔力を流すことで動いているようだが、どうしたらそうなるのかはセラフィしか知らない。

魔女の持つ知識なので、誰も分からないのだ。

ただ、魔石のある部屋には、大きな魔法陣が刻まれていた。

その魔法陣に書かれている内容によって動くようになっているのだが、魔女にしか分からないのだという。

この船が無事に航海できたなら、ヤダカインと国交を回復し、魔女の知識を授けてもらうべきではないかという声もあるそうだ。

勿論、一方的な取引ではなく、竜王国側もそれに見合う何かを渡さなければならない。

そんな話がジェイドと側近達の間で話し合われていたが、その辺のことは政治に干渉すべきではない瑠璃には関係ないので、邪魔をしないようそっと部屋を出た。

甲板に出ると、潮風が気持ちよく瑠璃の髪をなびかせる。

「うーん、気持ちいいな」

ふと、視線を向けると、青ざめた顔でうずくまるユアンを発見した。

「ユアン、どうしたの? 具合悪いの?」

「き、気にするな。ただの船酔いだ……。うっ……!」

込み上げてきたのか、両手で口を押さえるユアンに、瑠璃は慌てる。

「大丈夫!? 薬は飲んだ?」

「今飲んだら全部出す……」

瑠璃はグロッキー状態のユアンの背を優しく擦ってやる。

「部屋で横になってた方がいいんじゃない?」

「見張りの仕事が……」

「そんなんでできるわけないでしょ。見張りなら精霊達に頼んでおくから、部屋で休んでおいでよ」

ユアンは少し逡巡した後、今の自分では役立たずだと判断したのかよろめきながら部屋へ向かっていった。

それを心配そうに見送ってから、瑠璃は精霊達にお願いする。

「皆ー。何かあったらすぐに教えてね」

『はーい』

『分かったー』

元気よく挨拶をする精霊達。

そう頼んだものの、海の上で見張るものなどないだろうにと、瑠璃はそう思っていた。

だが……。

その時瑠璃は部屋でのんびりとしていた。

いくらスピードが早くなったと言っても、飛行機のように速いわけではないので、霊王国へ着くまで数日かかる。

だが、その数日間特に問題はなく、順調な航海を続けていた。

そしてもう霊王国の領海内に入っただろうと思われた頃、船は帆船の力のみで動いていた。

魔法具を動かすには魔力を必要とするが、常に魔力を流し続けていたらすぐに枯渇してしまう。

一応交替で魔力を流しているようだが、巨大な船を動かすとなると相当な魔力を消費してしまうようだ。

それ故に、魔力を使わない休憩の時間を設けている。

その間は帆船として動いていた。

航海は予想以上に順調。多少のんびりしていても問題なく進んでいたのからこそだ。

そして、霊王国もあと少しかと全員の気が緩んだ時に、突然の砲撃の音が鳴り響き瑠璃は椅子から転げ落ちそうなほどに驚いた。

「な、なに、今の音!?」

途端に外がざわざわとし出す。

瑠璃は様子を見に、外へと向かう。

すると、瑠璃達の乗る船に横付けするように一隻の大きな船が並んでいた。

「えっ、何、何?」

なにが起きたのか分からない瑠璃は困惑する。

そうしている間に、船からこちらの船にどんどん人が乗り込んで来た。

武器を持った者が甲板で好き勝手に暴れ始める。

それを呆然と見ていた瑠璃に、クラウスが慌てることなく駆け付ける。

「瑠璃、危険ですから部屋に入っていてください」

そこかしこで戦闘が始まっているにもかかわらず、冷静を通り越してのんびりと笑うクラウスに瑠璃の方が慌ててしまう。

「どういう状況なんですか!?」

「少し海賊が襲ってきただけですよ」

まるで、ちょっと通り雨が来たぐらいのノリで言うクラウスに瑠璃は目を丸くする。

そして、海賊と聞いた瑠璃は思わず上を見た。

そこには竜王国の竜王を示す国旗がはためいている。

クラウスに視線を戻した瑠璃は、真剣な顔で問うた。

「海賊?」

「はい」

「この船を襲ってるんですか?」

「はい」

「竜族がたくさん乗ったこの船を?」

「ええ、この船を」

「もしかして相手は竜族並の力を持った亜人とか?」

「いえ、ただの人間のようです」

「…………」

瑠璃は思わず呆れた声で「えっ、馬鹿なの?」と呟いた。

クラウスもそれには否定しない。

無言。それがなにより雄弁に物語っていた。

この船には旗が立っている。

遠目に見ても分かるそれには、竜王国の竜王を示す紋章が描かれている。

つまり、この船には竜王が乗っていると言っているようなものだ。

世界最強の竜族。その竜族の中で最も強い者がなる竜王に喧嘩を売るなど自殺行為でしかない。

それが分からないとは、ただの愚か者か。何か思惑があってのことなのか。

分からないが、その辺りで瞬殺されて転がっている海賊達を見るに、前者かもしれないと瑠璃は思った。

そしてよくよく見ていると、誰よりも前列で海賊を次々に再起不能にしているのはジェイドである。

「いやいや、竜族の船を襲うとかアホでしょう」

クラウスの落ち着いた様子から見ても、大丈夫なことが分かるので、瑠璃も海賊が襲ってきたと聞いても動じない。

むしろ、海賊達に憐憫すら浮かんでくる。

あらかた片付いたところで、クラウスは海賊達を縄で縛るのを手伝うべく離れていった。

『あ、ルリ』

「へ?」

リンに呼ばれて振り返ろうとすると、後ろから腕が伸びてきて瑠璃は動きを封じられる。

首元にはキラリと光る刃物が突きつけられ、ようやく海賊の残党に捕まったことをさとる。

ひげ面の人相の悪い男は、瑠璃に短刀を突きつけながら叫ぶ。

「おらぁ! この女を離して欲しかったら大人しくしろ!」

どこぞの三文芝居のようなお決まりの言葉を発するひげ面の男は、その瞬間全員の殺意を一身に受けていることに気が付いていない。

中でもジェイドの顔は恐ろしく、味方であるはずの瑠璃の方が背筋が寒くなるようだ。

「おじさん、悪いこと言わないから投降した方がいいかも」

すでに逆鱗に触れているので許してくれるとは思わないが、早いに越したことはない、はず。

瑠璃も、目の前で般若のような顔をしているジェイドを見ると、この男が無事ですまされる自信がない。

というか、静かすぎる精霊達が気になった。

恐る恐る視線を向けてみると案の定、目を吊り上げたリンとコタロウの姿が目に入ってきた。

「おじさん、早く命乞いした方が……」

「ああ!? うるっせぇな小娘! 殺すぞ!」

「人が親切に言ってあげてるのに……」

瑠璃の親切も海賊には伝わらないようだ。

そんな二人の前に泣く子も逃げ出す怖い顔をしたジェイドが剣を片手に持って立った。

さすがに鈍い海賊も、このジェイドの覇気の前では青ざめている。

「きさま、私のルリに触れるとは万死に値する。その腕切り落としてやろう」

「ジェイド様、ブレイク、ブレイクー! 落ち着いてください」

と、瑠璃が止めようとすると、ジェイドの怒りは何故か瑠璃にも。

「何故止めるのだ! そのような男、四肢を切り落とした上で細切れにしてから海に撒いて魚の餌にしてやる」

「だから止めてるんですよ。目の前でスプラッタは嫌ですから!」

すぐ隣で血飛沫を浴びたくない瑠璃は必死で止める。

「ごちゃごちゃとうるせえ! 少し黙ってろ!」

そう言って男が瑠璃に短剣を振り下ろす。

が、コタロウにより常に守られている瑠璃を傷付けられるはずもなく、短剣はコタロウの張った結界により弾かれてどこかへ飛んでいった。

武器を失った男が狼狽えている間に静かに瑠璃は移動してジェイドの側に。

ジェイドは安堵したように瑠璃を抱き締めた。

一方の男には、精霊達がビタンビタンと張り付いていく。

「な、なんだ、体が動かない」

どうやら男に精霊は見えていないようだ。

さらに、リンが海の水を操り、海水が柱のように吹き上がったかと思うと、蛇のような動きで男を飲み込んだ。

「ガボガボガボ」

全身を海水に包まれた男は息ができないようで、必死に藻掻いている。

そのまま少しすると、がくりと男は意識を失って倒れた。

それを見届けてから、何事もなかったかのように海水は海に還っていった。

「こ、殺してないよね?」

『大丈夫よ、ちょっと気を失わせただけだから』

鼻息荒くリンが答えた。

愛し子を襲って気絶ですんだのだから手ぬるい対応である。コタロウは少し気に食わないのか、それとなく前足で男の顔を踏んづけていた。

残っていた海賊はそれを見て戦意喪失。

次々に捕縛されていった。

なんともあっけない海賊の襲撃は、暇を持て余していた竜族の暇潰しにし大いに貢献したと言って良いかもしれない。

全てが終わった後になってから、幽鬼のように顔色の悪いユアンが姿を見せた。

「何かあったのか?」

「海賊が襲ってきたの。もう終わったけど」

「そうか……。なら、寝てくる」

「お大事に」

瑠璃は苦笑を浮かべる。

ユアンも海賊と聞いても一切動じていない。

竜族の強さと信頼が分かるというものだ。

片付けが終わると、海賊は一カ所にまとめられ、この後霊王国に引き渡すそうだ。

心なしか竜族の人達の顔が生き生きとしているのは、海賊のおかげで軽く運動できたからだろう。

思わず海賊を憐れに思ってしまった。

よりによって竜族の船を襲撃するとは、運がない。

そうこうしている内に、船は霊王国へと辿り着いた。