軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お許しまでの道のり

ジェイドとクォーツの姑息な噓が発覚したことでモフモフ禁止令が発令されてしまったジェイドは、悲壮感漂う表情で瑠璃に許しを請うていた。

しかし、それもなしのつぶて。

新婚ラブラブ真っ只中なはずの二人の間には暗雲立ちこめていた。

「ルリ……」

いつもなら猫の姿で膝の上に乗っているはずの瑠璃は、ジェイドから遠く離れた所で、まるで見せつけるかのようにコタロウやリン達精霊とお茶を楽しんでいる。

ジェイドの悲しい声は無視である。

一方のクォーツも、暇があれば指輪に向かって声を掛けているようだが、こちらもまだ怒りが収まっていないようで反応はないもよう。

セラフィの場合、瑠璃よりも番いでいた期間が長いので、なおのこと裏切られたとおかんむりなのだろう。

同じく噓を吐かれてご立腹の瑠璃が仲裁に入ることはない。

竜族のことを知らないのをいいことに、自分の都合の良い噓を信じ込まされるとは。

ジェイドを心から信じていた分、怒りもまた大きい。

そんなこんなで数日が経ち、ジェイドの限界がやって来た。

モフモフ欠乏症が発症したのである。

「ルリ、もう限界だ! 癒やしが足りない!」

「そうですか。……で?」

瑠璃の声は酷く冷たく、視線すら向けない。

そんな瑠璃の前で片膝をつき、瑠璃の手を取る。

「私が悪かった。ただルリは恥ずかしがり屋だから、ああ言えば受け入れてくれると魔が差したのだ。もう二度とあのような噓は吐かないと誓う。だから……だから、猫になってくれ!」

真剣な眼差しで訴えるその内容はなんとも情けない。

たった数日でそこまでモフモフに飢えるのかと、別の意味で呆れてしまう。

ジェイドは見た目こそ最上級なのだが、どこか残念イケメンなのだ。

これが竜王国の竜王だというのだから、国民がこの姿を見てしまったら国の将来をちょっと不安に思うかもしれない。

とは言え、どうやら心の底から反省しているようなので、瑠璃も矛を収めることにした。

一つ溜息を吐いてから、ジェイドに向き合う。

「今度あんな馬鹿な噓吐いたら、即離婚ですからね」

「えっ、離婚……?」

ジェイドの顔が引き攣る。

「何か問題でも?」

ジトッとした眼差しで見ると、ジェイドは慌てて首を横に振った。

「ない、まったくない!」

「後、同調終わるまでキス禁止です」

「なんだと!?」

「あんな噓吐くジェイド様へのお仕置きです」

「すでにモフモフ禁止されていただろう!?」

「あれはあれ、それはそれ。キスしなくても同調できるんですからいいですよね?」

「いや、だが、それは……」

視線をうろうろさせるジェイドに、瑠璃はにっこりと微笑んだ。

「誠意を見せてくれますよね?」

「……はい」

ジェイドはがっくりと肩を落としつつ了承した。

「新婚なのに……」

などと呟いて嘆いていたが、瑠璃は無視である。

すっかり落ち込んでしまったジェイドを見て、瑠璃は腕輪を取り出しそれを腕にはめる。

久しぶりに白猫の姿となった瑠璃に、ジェイドは感激のあまり身を震わせていた。

『抱っこしていいですよ』

「……くっ。久しぶりのモフモフっ」

感涙しそうなほどのジェイドに呆れつつも、瑠璃の方から近寄れば、ジェイドは恐る恐る瑠璃に手を伸ばして、そのフワフワとした体ごと抱き上げる。

「ルリに触れられないのは苦痛だった……」

『これに懲りて二度と騙そうとしないことです』

「こんな思いをするなら二度としない」

このお仕置きは今後も使えるなと、瑠璃はこっそり思うのだった。

その頃セラフィの方でも動きがあり、目に見えてやつれ始めたクォーツを見て光の精霊が取りなしたことで、仕方がないと指輪から出ることにしたようだ。

代わりに懇々とお説教が続いたようだが、クォーツはセラフィが出てきたことに嬉しそうで、ちゃんと聞いていたのかは定かではない。

***

瑠璃からの許しを得たジェイドは、いつものように猫の瑠璃を膝の上に乗せて書類に目を通していた。

竜王と前竜王へ瑠璃とセラフィがしたお仕置きは、予想外のところまで波及していた。

お仕置きに精神をすり減らした国のツートップがポンコツと化し、政務に支障が出ていたらしい。

おかげでジェイドの仕事机の上にはたくさんの書類が山積みとなっていた。

瑠璃はクラウスから少しのお叱りを受けてしまった。

頼むから事前の報告はしてくれと。

まさか政務に支障が出るほど落ち込むと思っていなかったので、瑠璃は素直に謝った。

勿論ジェイドにではない。迷惑を掛けたクラウスや他の側近にである。

中でも宰相であるユークレースへの負担が一番大きかったようで、今も目の前でグチグチと言われてしまっている。

「まったく。新婚けっこう。喧嘩もけっこう。だけど、こっちに迷惑かけるのは止めてほしいわよ。おかげで睡眠不足でお肌が荒れ気味になったじゃないの」

『すみません……』

ユークレースの迫力にただただ謝る。

『で、でも、全然ユークレースさんは綺麗ですよ』

ちょっと持ち上げて機嫌を良くしようと思っての言葉だったが、何故か睨まれてしまった。

「あったりまえでしょう。私が美容にどれだけお金と手間をかけてると思ってるのよ! むしろあなたはもっと美容に気を使いなさい。若さでなんとかなるのは今だけよ!」

『は、はい!』

猫なのに背筋も尻尾もピンと伸ばす。

「そもそも同調もまだだって言うじゃない。それだけ一緒にいてなんで終わってないのよ」

それはジェイドが悪い。

本当なら手を繋いでいるだけで魔力を渡せるところを、キスをする時しか魔力を渡してくれなかったからである。

そのせいで時間が掛かっているので、全て嘘を吐いたジェイドのせいだ。

決して瑠璃は悪くない。

今は同調が終わるまでキスを禁止しているおかげか、積極的に瑠璃の頭や手に触れて魔力を流している。

最初からそうしていれば、とっくに終わっていただろうに。

やっぱりジェイドが悪いとしか言えない。

ジェイドも分かっているのか、気まずそうに視線をそらせる。

「同調した後は老いも竜族のようにゆっくりとなるから、早いに越したことはないのよ」

『へぇ、そうなんですか』

百歳で成人という竜族のように老いが緩やかになるのは、人間の瑠璃にはまだ想像ができない。

「まあ、どっちにしろルリは魔力が多いから長生きしただろうがな」

と、ジェイドが瑠璃の頭を撫でながら言う。

この世界では、魔力の多さで寿命が変わってくるようで、同じ人間でも魔力のあるなしで成人後ぐらいから老い方に違いが現れてくると言う。

そう言われてみれば、確かに瑠璃の母親のリシアや祖父のベリルはその年齢に対して若く見える。

それも魔力によるものだと聞かされる。

竜族が長命なのは随分前から分かっていたことなので、自分もそれに合わせられると知って瑠璃は少し安堵した。

それだけジェイドと一緒にいられる時間があるということだから。

ただ、それは両親や祖父とは生きる時間が変わってしまったことを意味している。

だが、今はまだそれを深く考えないようにした。

ユークレースのお説教も終わり、さらにジェイドの机の上に仕事が上乗せされ、ジェイドがうんざりした顔をするが自業自得である。

瑠璃は空気となり、邪魔をしないようにとしていると、突然前触れもなく扉が開け放たれた。

竜王の執務室にノックもせずに入ってくるのは誰だとユークレースとクラウスが眉をひそめたが、入ってきた人物を見てすぐに表情を緩めた。

入ってきたのは人の世界の常識など関係ない、光の精霊だ。

最高位の光の精霊相手に無礼者などと言えるはずもなく、ユークレースはジェイドまでの道を空けるように横に移動する。

「なにか用ですか?」

「お前にではない。用があるのはそれだ」

それと指を差された瑠璃はこてんと首をかしげると、光の精霊に首根っこを掴まれた。

「セラフィが呼んでおるのでな。これは連れて行くぞ」

どうぞとジェイドが了承するより先に光の精霊は目的のものを手にすると執務室を後にした。

ぶらーんと首根っこを掴まれた瑠璃と、フランス人形に見間違おうほどに可愛らしい幼女の姿をした光の精霊。

城内では密かにこのツーショットに身悶える竜族がいるとかいないとか。

『用事ってなんですか?』

「さあ、知らん。セラフィに聞けば分かる。何やら最近忙しくし何かを作っていたようだが」

『あー、あれかも』

瑠璃には思い当たる節があった。

光の精霊に連れて来られたのは、クォーツの私室だ。

クォーツ自身は仕事で部屋の中にはいなかったが、セラフィはそこにいた。

『セラフィさん』

光の精霊に降ろされ、トコトコとセラフィに近付くと、セラフィの周囲にはいくつもの腕輪が散乱していた。

それは今瑠璃がしている腕輪によく似たもので、瑠璃の予想が当たっていたことを予感させる。

「うふふふっ。やったわよ、ルリ。完成よー」

『本当にできたんですか!?』

「ええ。こっちがウサギ、こっちがリス、こっちが犬。他にも色々作ったわよ」

やり遂げた満足感に満ちあふれた顔で、セラフィは瑠璃に腕輪を見せる。

それらは以前にセラフィと話をしていた、瑠璃の持つ猫になる腕輪の模造品だ。

ヤダカインの初代女王が作った腕輪よりは質と能力は落ちるが、セラフィが作れる精一杯の魔法具である。

これを作るため、瑠璃とセラフィは城で働く竜族に、どんな動物になりたいかのアンケートを取った。

そうしてできあがったのが、この腕輪の数々だ。

『回数制限はどうなりました?』

「まだ三回ぐらいが限度かしら。けど、もう少し研究すれば多少は回数を増やせそうよ」

『おぉー。最高です、セラフィさん!』

「ふふふっ、もっと褒めてちょうだい」

得意げに胸を張るセラフィ。

「でも、ちゃんと商品にするにはその前にテストが必要ね」

『じゃあ、今から実験台になってくれる人を探しに行きましょう!』

「そうね」

ということで、瑠璃とセラフィは完成した腕輪を持って第五区の訓練場に向かった。

ここではいつも誰かしら訓練をしている竜族がいる。

ヤダカインとの戦争以後、最近は平和そのものなので、竜族が戦う場がないので竜族の兵士は暇なのだ。

瑠璃としたら平和で良いことなのだが、戦闘好きの竜族達からしたら物足りないのだろう。

暇な苛立ちをぶつけるように訓練にも力が入っている。

そんな彼らに癒やしを届けるのだ。

「皆さんちゅうもーく!!」

人間に戻った瑠璃が声を上げると、訓練をしていた竜族達がその手を止める。

多少血まみれな兵士達には随分慣れた。

兵士はなんだなんだと瑠璃に近寄ってくる。

「愛し子様どうしました?」

「皆さん、以前にアンケートを取ったの覚えてますか?」

「ええ。どんな動物になりたいかとおかしな質問されましたよね?」

「お前なんて答えた?」

「俺、猫」

「俺は羊」

「へへへ、俺はぁ……」

各々なりたい動物で盛り上がり始めたところで、腕輪を出す。

「ちなみに、ウサギになりたいって言った人ー!」

そう叫ぶと数人が手を上げた。

「じゃあ、その中で本当にウサギになりたい人ー」

手を上げた者達は困惑したような顔をして互いに目を見合わせた後、勘の良い者は目の前の腕輪に目を向けて誰より早く前に身を乗り出してきた。

「はいはい、はーい! 俺です!」

「返事がよろしい。では、その腕輪をしてみて下さい」

そう言えば、あらかたの者が事情を察した。

「えっ、嘘マジ?」

「本当か?」

「なれるの?」

腕輪を手にした者に視線が集まる。

息をのんで見守られる中、腕輪を付けた兵士が次の瞬間にウサギの姿に変化すると、その場に大きな歓声が上がった。

「うぉぉぉ!」

「ウサギだ、ウサギ!」

「おい、ちょっと触らせろ」

「ふぉぉ、モフモフだ!」

「俺もー!」

もみくちゃにされているウサギとなった兵士がわたわたとしているが、誰もが興奮してウサギが助けを求めていることに気付いていない。

このままでは圧死すると危険を感じた瑠璃は再び声を上げた。

「はい、ストーップ!! 落ち着いて! すぐにそのウサギから離れなかった人は二度と猫になった時に触らせてあげませんよ」

そう言うと波が引くようにウサギから離れていった。

まあ、そもそも、番いとなった瑠璃を他の男に触れさせることをジェイドが許すとは思えないが、これはもう条件反射である。

そうして救助したウサギから腕輪を抜き取ると、ウサギは元の兵士に戻った。

「し、死ぬかと思った……」

あれだけ体格の良い男達に囲まれたらそう思うのも仕方がない。

兵士達も、ひ弱そうな猫の瑠璃と違い、元が丈夫な竜族と分かっているので手加減がなかったのだろう。

危うく八つ裂きにされるところだ。

少し竜族のモフモフ愛を舐めていたかもしれないと瑠璃は反省する。

「ちなみにこれは私の持ってるものと違って回数制限があります。正直な感想……売ってたら欲しいですか?」

そう聞いた瞬間、ドドッと兵士達が身を乗り出す。

「はいはい!」

「欲しいです!」

「いくらでも出します!」

瑠璃はセラフィと顔を見合わせニヤリと笑う。

しかし、ちゃんと発動するかのテストなので、モニターとなってくれる人を数名くじ引きで決める。

外れた者はその場で泣き崩れたが、いずれ売り出すと聞いて機嫌を回復させた。

当たった人は大事そうに持ち、嫁に使うと言う者がいたり、自分で使うと言う者がいたりと予想以上に嬉しそうで、これは売れると確信した瞬間だった。

しかしだ。

この話がユークレースのところまで届くと、瑠璃とセラフィは正座で説教をされることになった。

「ルリ! あなた、以前にあれで動物に変化した賊に城内に侵入されて襲われたの忘れたの!? あんなもの普及させて、犯罪に使われたらどうするのよ!」

「ごもっともです……」

そこまで深く考えていなかった瑠璃は身を小さくした。

自分が普段何も考えず猫の姿になっていたので、他の人も変化できたら楽しいだろうなと思っただけなのだ。

犯罪に使われる可能性などすっぽり忘れていた。

あれを売ったことで得るお金に目が眩んだとも言う。

ユークレースにしこたま怒られて、腕輪は全て取り上げられ、これ以上の制作の禁止を言い渡されることになる。

後には落ち込む瑠璃とセラフィがいた。