軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

誘拐、そして

時は少し遡る。

瑠璃と別れたコタロウは、町を眼下に眺めつつ更に越え海へとやってきていた。

海上には多くの船があった。時折大砲を放つ船と、それらを阻止しようとする船とが混在していた。

阻止しようとしている船には竜王国の国旗が掲げられているので竜王国の海軍と思われる。

竜王国の海軍は世界的に見ても優秀と言われているのだが、敵船を拿捕しようと動くも、それを阻むようにして多数のクラーケンがその邪魔をしているようで、中々手が出せないようだ。

その間も打ち込まれる大砲により、町が壊されていく。

クラーケンは飼い慣らされてでもいるのだろう。

そうでなければ、この界隈にクラーケンが現れることはほぼなく、ちゃんと奴らは敵船を守るように動いている。

それにしてもクラーケンの数が多いように思う。

そのせいで竜王国の船は思うように動けないようだ。

大きな体のクラーケン。

一体でも船を飲み込み海の中に引きずり込むのはたやすい大きさをしている。

それでも上手くクラーケンの攻撃をよけながら戦えているのは、さすが世界でも名の知れた竜王国の海軍と言ったところか。

しかしその海軍と言えどもクラーケンの相手をするだけで手一杯のようで、後方の船からの攻撃までは防げない。

しばらくしていると、そこにジェイドが率いる竜族が到着した。

竜体となった竜族が巨体のクラーケンを相手にする。

防戦一方だったクラーケンを次から次へと相手にしていく。

そんな姿を見ながら、そう言えば瑠璃がクラーケンを欲しがっていたなと、コタロウは思い出した。

『後で一匹持ち帰るか』

きっと瑠璃は喜んで抱き付いてくるはずだと、コタロウの頬が緩んだ。

『たこ焼きというものを作ってもらおう』

たこというものがどんな物か知らないが、瑠璃の手料理はどれも美味しく、きっとたこ焼きなるものも美味しいはずだ。

などとコタロウが呑気なことを考えている間も両者激しく入り乱れて戦っている。

それを見ていたコタロウには、先ほどから気になる船がいた。

激しく大砲を打ち鳴らしながら戦う敵船の一番後方。

まるで高みの見物を決め込むようにそこにある一隻の船。

そこから感じるあの気配。

リンやカイも気付いていたようだった。当然だろう間違うはずがない。

問題は何故あの船からあの気配がするのか。

睨むように見ていると、竜族も一隻だけ戦闘に加わらない船にようやく気付き、あの船が敵船の頭領だと考えたのか、数名の竜族が向かう。

クラーケンを単独で倒してしまうほどの力を持った竜族だ。

制圧も簡単にいくだろうと誰もが思っていた。

だが、船に降り立とうとしていた竜族が突如として黒い球体に閉じこめられ、捕らえられた。

囚われた本人は中から蹴ったり殴ったりと暴れているようだが球体はびくともしない。

そしてそのまま船の中へと連れ去られてしまった。

他の仲間数名が追うと、同じように球体が襲ってきた。

攻撃してもなくならず、追いかけてくるそれに、さらに何人かが捕まった。

竜族達は逃げ惑うしかなく、ある程度の距離を取ると追ってくるのを止めたため、近付けず見ているしかなかった。

そうして、竜族を捕らえたその船は向きを変え、沖へと逃げていってしまう。

もちろん竜族達は仲間を助けようと追うが、やはり近付くとあの球体が襲ってきて助けに行くことができない。

これ以上の被害を出すことを躊躇ったジェイドが撤退の合図を出す。

幸い他の敵船はすでに制圧されていた。

ここで無理をせずとも、乗組員を取り調べればすぐに居所と目的も分かるだろうと判断したのだろう。

そんな状況を空から見ていたコタロウは驚愕していた。

竜族を連れ去ったあの球体。コタロウもただ見ていたわけではない。風の力を叩き込んだのだが、その力は球体を前に霧散してしまった。

最高位精霊であるコタロウの力をそんなにしてしまう者の存在など限られている。

『やはり、あれは闇の……』

同胞と呼ばれる同じ最高位精霊達は、仲が悪いというわけではないが、特別仲がいいという訳でもない。

いや中には仲のいい者もいるが、皆が皆そうというわけではない。

特にコタロウはあまり他の精霊とも関わりが少なかったと言える。

不干渉とでもいうのだろうが、あまり同胞同士でお互いのことを干渉することはない。

なので、同胞が今どこで何をしているかはあまり気にしていなかった。

『何故闇のが、竜族を連れ去るのだ……?』

理解ができないコタロウは、竜族を連れ去りその場を去って行く船の後を追った。

そうしてたどり着いたのはヤダカイン。

魔女の国である。

***

城へと戻ってきた瑠璃は案の定勝手な行動をしたことをユークレース、そしてチェルシーにしこたま怒られた。

ベリルに無理矢理連れ去られた形だったのに理不尽だと思いつつも、口答えするとお説教の時間が延びると判断した瑠璃はただただ謝るしかなかった。

一通りのお説教が終わると、もうこんなことに時間を割いてる余裕はないとばかりに執務室から追い出された。

海ではまだ戦いが終わっていないらしい。

大会後で竜族の怪我人が多く、さらに大会を見に来た要人の護衛。町の警備に、大砲により被害を受けた人々の救出と、騒ぎの鎮圧。

人手の足りなさにジェイドやフィンも出陣したようで、城内も人手不足に陥り城の中はてんてこ舞いのようだ。

瑠璃に割く時間はないらしい。

なら説教などいらないのにと、グチグチとしながら部屋に戻った。

今日は一日部屋から出ないようにと言われたためだ。

念のためリンや精霊達を絶対に側から離さないようにとも強く言われた。

いつもは一緒に寝ているジェイドも今日は一緒にはいられないらしい。

戦いに向かったジェイドや、一向に帰ってこないコタロウにやきもきしながらも、その日は祭り気分を楽しむどころではなく一日部屋でおとなしくしていた。

翌日、朝起きて朝食を食べていると、ようやくコタロウが帰ってきた。

「おかえり、コタロウ。良かった。ちゃんと帰ってきた」

無事に帰ってきたことにほっとしていると、リンがパタパタとコタロウに近付く。

『ねえ、やっぱりそうだったの?』

『うむ。それにヤダカインと関わりがあるようだ』

『はあ!?なんであの国なんかと!

あそこは精霊殺しを作った魔女の国なのよっ!言わば私達にとって敵じゃない』

『本人に聞いてみないことには我も分からない。

それに何故か奴は竜族を連れ去っている。その理由も判明しない』

瑠璃にはよく分からないリンとコタロウの話を聞いていた瑠璃は、最後の言葉に驚きを隠せなかった。

「ちょっと、コタロウ。竜族が連れ去られたってどういうこと!?」

『うむ、そのことで王とも話がしたい』

『そうね、その方が良いかもね』

そうコタロウとリンが言うので、朝食もそこそこにジェイドのいる執務室へと直行した。

部屋の扉を開けると、ジェイドと側近達が揃っており、入ってきた瑠璃に気付かないほど真剣に話し合っていた。

その顔は一様に険しい。

「あの……ジェイド様」

瑠璃が声をかけると、部屋にいた者はようやく気付いたようで、ジェイドは若干表情を柔らかくする。

「ルリか、どうした?」

「昨日の件はどうなったかと思いまして。それにコタロウとリンが話があるって」

「話?私にか?」

『竜族が連れ去られただろう?』

そのコタロウの言葉で部屋の空気がピリッとする。

「何かご存じで?」

『あの船の後を追った。たどり着いたのはヤダカインだった』

ジェイドは目を険しくさせながら「やはりそうですか」と納得の言葉を発する。

『そちらも見当を付けていたか』

「昨日捕まえた者達を尋問した結果、そうではないかと」

話についていけない瑠璃がおずおずと声をかける。

「あの、ジェイド様。竜族が連れ去られたって。それにヤダカインとか……」

「そうだな。ルリにも話しておいた方が良いだろう」

そういうと、昨日の出来事を話し聞かされた。

最近竜王国の海域で出没していた不審船は昨日の騒ぎを起こした海賊一味によるもの。

大砲を撃ってきたのも、スラムで人を攫ったのも同じ仲間だという。

彼らはこの辺りに頻繁に出没することで自分達の存在を認識させる。

そして大会という最も人が集まり、大会により動けなくなる竜族が多くなるこの日を選び、大砲で町を攻撃し騒ぎを起こす。

だが、本当の目的は港の方に注意を向け、その裏でスラムを襲撃して人を攫い、その後奴隷商人に売りつけるという計画だったようだ。

クラーケンもいる。大会で負傷し多くの竜族は出張って来ないはず。要人や町の警護にも人が割かれて、自分達に向かってくる兵は少ないはず。

そんなことを思って実行された計画だったが、竜族達からしたら舐めてるのかとお怒りになる案件だ。

確かに人手不足は否定できないが、ちゃんと国を守るだけの兵力は残しているし、クラーケン如きに後れを取る竜族ではない。

スラムでの騒動はさすがに寝耳に水であったが、それは勇敢に助けを求めてきた子供と、クラーケンを肉片へと変えたベリルの存在によって無に帰した。

そこは海賊達も予定外のことであっただろう。

クラーケンと素手で戦える人間がいることなど。

「とまあ、これが事件のあらましね」

と、ユークレースが説明してくれた。

「よく一日でそれだけのことが分かりましたね」

「手段は選ばないから、若干手荒い尋問をしてもいいわよって尋問官に言っておいたらペロッと喋ってくれたわよ。うふふふ」

ユークレースの笑顔が黒い。

いったいどんな尋問だったのだろうか。

心の中で海賊達に合掌した。

「けど、問題はその海賊との戦いの時。数人の竜族が一番後方にいた船に連れ去られたのよ」

「そんな……」

クラーケンすら倒してしまう力を持った竜族を一人ならず連れ去るなど驚きしかない。

「被害を増やさぬために追跡は断念した」

ぐっと拳を握りしめ、そう言うジェイドは、仲間を助けられず苦悩していることが見て取れた。

ジェイドにとって苦渋の決断だったのだろう。

ユークレースが続ける。

「一緒に行動していたから海賊の仲間だと思っていたんだけどね、海賊達からは違うとの返答だったわ」

「でも一緒に行動していたんですよね?」

「その時だけ、頼まれて行動を共にしていたそうよ。頼んできたのはヤダカイン。魔女の国の王からの依頼だと言っているわ」

「また、ヤダカイン……」

「なんでも海賊とヤダカインは以前から取引があったそうよ。

海賊はヤダカインに物資などを送り届け、その見返りに魔女が作る魔法の道具などをもらっていたと。

魔法の使えない人間でも使うことのできるそれは、人間の国で高く売れたようね」

『人間でも使える魔法ね……』

意味深な言葉を発するリンの眼差しは険しい。

「これがその一部よ」

そう言ってユークレースが見せてくれた道具の数々。

それを見たコタロウが『精霊殺しが使われている』と説明してくれた。

その中にはナダーシャで使われた石も含まれていた。

やはり関わりがあったということなのだろうか。

それらは瑠璃が預かって、後で空間の中でリディアに処理してもらうことになった。

それにしても、精霊殺しは世界では禁忌の魔法とされている。精霊を殺すことができるからだ。

そんなものが使われた道具が人間の国に流れているとしたら、それはそれで問題なのではないだろうか。

それに瑠璃が持っている猫になる腕輪。

これも昔魔女が作ったという話だが、別に精霊殺しが使われているわけではない。

魔女が作った道具といっても色々あるのだろう。そんなことを考えていると、リンから不穏でドスの利いた言葉が飛び出す。

『いいかげん、あの国は何とかしないといけないようね。

ねえ、あなた達、どっちにしろヤダカインに連れ去られた仲間を助けに行くんでしょう?』

「勿論です」

即答したジェイドだったが、そこでクラウスが難色を示す。

「しかし陛下。他国への侵攻は四カ国同盟の規約に反します」

決して他国に戦争を仕掛け侵略してはいけないと、四カ国の間で決められた約束事。

ナダーシャとの戦争の時も、他の三カ国の同意を得てからしか動けなかった。

「今は大会で、獣王も霊王も皇帝もいるだろう。すぐに会談を申し込んでくれ」

「かしこまりました」

クラウスは一礼すると、素早く部屋から退出していった。

『王よ。ヤダカインと戦うことに関して言っておかねばならないことがある』

「なんでしょう?」

『ヤダカインには我らの同胞たる、闇のが味方している可能性が高い』

「闇の精霊がですか!?」

「けれど、ヤダカインは精霊殺しを使う国よ。精霊が味方をするなんてあるのかしら?」

ジェイドは驚きを露わにし、ユークレースは疑問を覚える。

『我にも何故闇のがあちらにいるかは分からぬ。だが、竜族を連れ去ったのは間違いなく闇のの力だ』

「どうすれば……」

たとえ竜族と言えど精霊の力の前では赤子も同然だ。

闇の精霊、それも最高位の精霊が相手では勝てるはずもない。

『ヤダカインには我らも行く。できるだけ多くの精霊が必要だ』

ここでいう精霊とは最高位の精霊だ。

『でもコタロウはルリの側にいた方がいいわ。念のためにね。

ヤダカインには私と地のと火ので行くわ』

「そんなに念を押しておかないといけない相手なの?」

『最高位精霊同士はあまり力の差があるわけではないけど、苦手な相手と得意な相手と色々あるのよ。

闇のははっきり言ってあまり戦いたくない相手よ。私達の場合は苦手な相手になるわ。三精霊相手でも抑えられるかどうか』

「でも、確か精霊同士は戦わないとか前に言ってなかった?」

『高位になればなるほど自我も強くなるの。最高位ともなったら皆我が強いから戦うことも想定していないといけないのよ。

闇のがどうしてあちら側にいるのか分からない以上はね』

「戦うかもしれないんだ……」

『そんな心配そうにしなくても大丈夫よ、ルリ。いくらなんでも殺し合いにまでは発展しないから。

一応同胞だからね。でも念には念を入れて多数で行った方が話し合いも有利になるから』

「そう。できるだけ話し合いで終わると良いね。

でも、うーん。ひー様が素直に行ってくれるかな?」

『そこの説得はルリに任せるわ』

「えー!」

あの、ルリにだけは異様に厳しいひー様が、瑠璃の頼みを聞いてくれるだろうか。

何かひー様を釣るものが必要かもしれない。