軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

84 キュレベル家の近況

絶対暦1300年 遅燕(おそつばめ) の月(2月)3日。

王都モノカンヌスは 切り裂き魔(リッパー) の噂で持ちきりだが、キュレベル家の今日の話題は、俺の6歳の誕生日である。

訪問を知らせるベルとともに玄関がガチャリと開いた。

たまたま玄関ホールにいた俺は、入ってきた人物と鉢合わせになった。

「よぉ、弟。誕生日おめでとう」

そう言ってニカッと笑いかけてきたのは、ベルハルト兄さんだった。

元近衛騎士で、現在は竜騎士となったベルハルト兄さんは、竜騎士団の寮に住んでいるためあまり会う機会がない。数ヶ月に一度、屋敷にやってきて顔を合わせるくらいだ。

兄さんは現在24歳。父さん譲りの金髪を短く刈り上げ、顔はうっすら日に焼けている。騎士だけあって引き締まった身体をしているが、がたいはそこまで大きくはない。なんでも竜騎士は騎竜への負担を軽くするため小柄な体格の持ち主が優遇されるらしい。といっても、あくまでも騎士としては小柄だというだけで、身長はチェスター兄さんと同じくらい、アルフレッド父さんより少しだけ低いという程度だ。

しかし、この人は、体格以上に存在感がある。

その理由は、 眼力(めぢから) のある大きな目にあった。太い眉と長いまつげも相まって、相対しているとちょっと息苦しく感じるくらい濃い顔をしている。もっとも、本人に他人を圧迫するつもりはなく、自然とそうなってしまうだけのようなのだが。

「ありがとう、ベルハルト兄さん。今日はそれを言いに来てくれたの?」

「だったらよかったんだが、竜騎士団の仕事でな。……ジュリアさんはいるか?」

ベルハルト兄さんは、今年から竜騎士団長であるイルフリード王子の従士となっている。

将来的には副団長にとの声もあるらしいが、アルフレッド父さんが既に 王室騎士団(ロイヤルガード) 団長の要職にあるため、キュレベル侯爵家の影響力が強くなりすぎると懸念する貴族たちもいるらしい。

「えっ、ジュリア母さん? 父さんじゃなくて?」

「ああ、冒険者ギルド王都本部所属のAランク冒険者ジュリア・キュレベルに用事があるんだよ。

ま、オヤジがいて悪い理由はないから、いるなら一緒に呼んでくれ」

「俺も聞いていい?」

「おまえはジュリアさんと組んで冒険者もやってるんだったな」

「うん。年齢が年齢だから、ランクはEのままだけど」

「6歳で上位ランクの冒険者なんて、目立ってしかたねぇだろ……できの悪い冗談みたいなやつだな、相変わらず」

「じゃあ、呼んでくるね」

というわけで、俺は父さんと母さんに声をかけた。

キュレベル一家のいつものメンツが食堂に集まることになった。

アルフレッド父さん、ジュリア母さん、俺、エレミアに加え、ステフがお茶を淹れてくれている。

「ひさしぶりだね、ベルハルト」

「ああ、オヤジも元気そうで何よりだ。同じ城勤めなのに、案外会う機会がないよな」

「たしかに。竜騎士団は厩舎が必要な関係で王城といっても外れのほうだしね」

「だなぁ。イルフリード殿下のお付きで城内に行くこともないではないんだが」

父さんと挨拶を交わすベルハルト兄さんに、母さんが話しかける。

「ベルくん、ひさしぶり~。まだお母さんとは呼んでくれないのかな?」

「ひさしぶりです、ジュリアさん。それから、母さんと呼ぶのは勘弁してくれ……」

父さんの長男であるベルハルトと、父さんの後妻であるジュリア母さんは、1つしか歳が違わない。前世だったら同じ学校の先輩後輩でもおかしくない歳の差だ。いくらこの世界でも、今さら「母さん」と呼ぶのは辛いだろう。

母さんは天然なのか何なのか、1個下の「息子」がいることをさして気にもしていない様子だが。

「エレミアも、ひさしぶりだな」

「はい、お兄さん」

「敬語じゃなくていいって言ってるだろうに」

「あ、はい……じゃなかった、うん、ごめん」

ベルハルト兄さんはエレミアにも声をかけてくれる。

「遠慮なんてするなよ? 俺もチェスターも、可愛い妹ができたって喜んでんだから。デヴィッドのやつは相変わらずの鉄面皮でよくわからんけどな」

「デヴィッド兄さんもよくしてくださいます……じゃなかった、よくしてくれてる、よ? 児童司書にならないかって誘われた」

俺は別枠として、エレミアも年齢からするとかなり聡い女の子だ。

本も好きで、よく俺と背中合わせに座って読書に興じることがある。

「エドガー君と一緒だと疲れないから」と言われるとちょっと微妙な気もするが、俺にとっても疲れ知らずで付き合ってくれるエレミアの存在はありがたい。

この世界に転生したばかりの頃は、赤ん坊だったし、前世の感覚を引きずってもいたので、疲れ知らずに動きまわるといっても限度があった。

が、この世界で目覚めてからもう5年半にもなる。俺は最近「疲れる」という感覚がどういうものだったか、忘れかけつつあった。そのせいで、気をつけていないと一緒にいる人が疲れていることに気づかないまま無理をさせてしまうことがある。

その点、エレミアは俺といれば疲れないがひとりでいればちゃんと疲れるという立場だ。そのせいか、俺のやりすぎに気づいてストップをかける役割を果たしてくれることが多い。

ともあれ、エレミアの聡明さには歳とともに磨きがかかっていて、デヴィッド兄さんが勧誘したのも頷ける。

ベルハルト兄さんも、太い眉を跳ね上げて、

「へえ、それはすごい。あいつはその辺シビアだからな。同情やら兄妹のよしみやらで誘ってくれるような可愛げのあるやつじゃねえし。そのあいつが誘ったってことは、エレミアにはそっちの素質もあるんだろ。やらねぇの?」

「うーん、読書は好きだけど、司書になってまでとは思わないかな」

「そっか。ま、おまえの人生だからな。今日はエドガーの誕生日だが、エレミアも大きくなった。まだまだ肉が薄くて細っこいが」

ベルハルト兄さんがそう言って、エレミアの頭を撫でる。

たしかに、今日は俺の誕生日だが、当然のことながら俺の周りにいる人たちだって歳をとっている。

たとえば、ジュリア母さんは現在26歳。この人の場合雰囲気はほとんど変わってないが、少しだけ人妻らしい色香が出てきたような気がする。

エレミアは12歳になった。出会った時は7歳だったから、顔形も大人寄りになり、背も歳相応に伸びている。現在実年齢が6歳で身体が8、9歳の俺と比べると、頭半分くらい背が高い。そして、前から綺麗だと思ってはいたが、二次性徴に差し掛かるような時期に来て、美少女ぶりにさらに磨きがかかっていた。この年頃の少女にしかない透明感と相まって、触れたら壊れてしまいそうな繊細な芸術品めいた美しさを醸し出している。

「お茶が入りました~」

そう言ってティーセットの載ったトレイを持ったステフが食堂に入ってくる。

俺付きメイドのステフは現在20歳。背が少し伸びて、顔からあどけなさがやや抜けた。メイドとしてもベテランで、屋敷ではメイド長につぐ古株としてメイドたちを指導する立場になっている。ステフの代名詞であったドジも目立たなくなっており、俺としてはちょっと寂しいような気がしないでもない。もうしょっぱい紅茶やとろみのついた紅茶が飲めないのかと思うと……いや、それは飲めなくていいけどな。

ステフは手慣れた様子で紅茶を淹れ、集まった面々の前に音を立てずに、しかしきびきびと置いていく。

〈魔法戦士〉としての修行を積んだステフの挙措は洗練されていて、最近は屋敷を訪れる他の貴族からも感心されるほどだ。

一方で、あまり変わっていない人もいる。

アルフレッド父さんだ。

父さんは現在44歳、来月には45歳になる。しかしあいも変わらず20代にしか見えない涼やかな美貌を維持しており、妻帯者だというのに貴族のご婦人・ご令嬢からはいまだにラブコールをもらっているようだ。もちろん、母さん一筋の父さんは見向きもしないが、それがまたいい! と言われて余計にモテるという悪循環に陥っているらしい。

それにしても、父さんの変わらない容姿を目の当たりにすると、どうしても「これはズルい」という思いが浮かんできてしまう。人間の領域におけるエルフへの差別には、少老長命への嫉妬と羨望が絡んでいるのかもしれない。もちろん、だからといって差別が許されるわけではないが……。

「それで、今日はどうしたんだい? ジュリアに用があると聞いたけど」

父さんが、ベルハルト兄さんに聞く。

「……ボクは外した方が……」

「いや、遠慮するな。エレミアはジュリアさんのパーティメンバーだし、何より俺たちの家族なんだ。そこのエドガーなんざ自分から聞かせろと言ってきたぞ。それくらい厚かましくてもいいんだからな?」

遠慮して尻を浮かせかけたエレミアを、ベルハルト兄さんがそう言って制止する。

……厚かましくて悪かったね。

「そういうことなら、ステフさんも座って。君もエドのパーティメンバーみたいなものだから」

とアルフレッド父さんが言う。

ステフが遠慮がちに端の席に座ったところで、ベルハルト兄さんが咳払いをして切り出した。

「単刀直入に言おう。王都の郊外に奇妙な魔物の群れが現れた。ジュリアさんに頼みたいのは、その群れの調査もしくは撃滅だ。とはいえ、群れの危険度を考えて、基本的には調査だと思ってくれていい」

「どんな魔物の群れなのぉ? わたしたちでも倒せないってことは、火竜か何かでも出たのかなぁ?」

火竜、と聞いて俺はぴくりとしてしまう。

カラスの塒そばに巣を作ろうとした火竜と遭遇したのはもう5年も前だが、あの時の緊張感はいまだに色あせていない。

この5年で俺も相当強くなったつもりだが、あの時対峙した火竜アグニアに勝てるかと言われれば、自信を持って勝てるとは言いがたい。

「いや、さすがに竜はいないみたいなんだが、それ以外の魔物なら、何がいてもおかしくない、という状況でな」

「何がいてもおかしくないぃ?」

「……順を追って説明した方がいいな。俺が所属する竜騎士団では、定期的に王都周辺を飛び回って、魔物の群れなどの脅威がないかを確認している。これを、騎士団では定期哨戒と呼んで、大切な任務であるとともに実戦的な演習でもあると位置づけ、重要視してるんだ。で、その定期哨戒の途中で、魔物の群れが発見された」

「だからぁ、何の魔物の群れなのぉ?」

母さんが、やや焦れたように聞く。

「最初に発見されたのは、 邪巨人(スプリガン) だった」

「 邪巨人(スプリガン) ならCランク、オーガより弱いくらいだよねぇ? よっぽど数でもいたのかなぁ?」

「いや、 邪巨人(スプリガン) 自体は10体程度の小規模な群れのようだった」

「ん~? それくらいなら、竜騎士団が急降下攻撃をかけたら簡単に蹴散らせるよねぇ?」

「その通り、たしかに 邪巨人(スプリガン) 10体程度なら、高い練度を誇る我らが竜騎士団の敵ではないな。実際、そう判断して、斥候として行動していた1小隊4名が 邪巨人(スプリガン) に急降下攻撃をかけようとした」

竜騎士団の1小隊は4名だ。それぞれが騎竜に乗っているから、それ以上だと連携が取りづらいらしい。

邪巨人(スプリガン) は、青黒い肌をした痩躯の巨人型の魔物で、木の枝のような節くれだった腕で襲いかかってくる。腕は見かけとは裏腹に力が強く、手足はおろか人間の背骨すらへし折ってしまうという。

とはいえ、空から襲いかかる竜騎士に対抗できるとは思えない。練度の高い竜騎士は、急降下して槍や魔法で攻撃を加えては、急上昇でその場を離脱するというヒット&アウェイ戦術を取る。これをやられては、さしもの 邪巨人(スプリガン) といえども自慢の腕を巻き付ける隙などなさそうだ。

竜騎士たちは、日頃の訓練の成果を見せるべく、急降下攻撃に入ろうとした。

「そこに、ハーピーの群れが襲いかかってきた」

「えっ? 邪巨人(スプリガン) の群れのそばに、ハーピーの群れまでいたのぉ?」

驚くジュリア母さんに、ベルハルト兄さんが頷いた。

「とはいえ、ただのハーピーなら竜騎士にとっては目障りなだけの雑魚でしかない。だが、そのハーピーはあきらかに連携しあって行動していた。竜騎士たちを分断してそれぞれを押し包むような戦術を取ってきたらしい」

「まさか、ハーピークイーン?」

「いや、クイーンがいるかどうかは、結局確認できてないな。

ともかく、ハーピーによって苦境に陥った竜騎士たちだが、ハーピーはもともと強い魔物ではないし、騎竜の急降下にはついて来られない。ならばとハーピーを無視して 邪巨人(スプリガン) に急降下攻撃をかけることにした。竜騎士たちは一糸乱れぬ動きで一斉に急降下をかけ、 邪巨人(スプリガン) に降下の勢いまで乗せた鋭い槍撃を見舞おうとした。

しかし――」

ベルハルト兄さんが眉根を寄せる。

「……そこで、 炎魔人(イフリート) の攻撃を受けたというんだ」

「 炎魔人(イフリート) ぉ!?」

ジュリア母さんが驚きの声を上げる。

「炎熱大陸では見たことがあるけど……」

「いや、それについては、おかしなことでもないらしい。王立図書館迷宮の司書に頼んで調べてもらったんだが、稀ではあるものの、モノカンヌス周辺でも目撃例はあるというんだ。理由は知らないが、地溝帯に沿って目撃情報があるらしい」

「じゃあ、何が問題なんだい?」

アルフレッド父さんが聞く。

「ああ。問題は、その 炎魔人(イフリート) が、まるで 邪巨人(スプリガン) どもを守ろうとするかのように、竜騎士たちに攻撃を仕掛けてきたことだ。無詠唱で《フレイムランス》相当の炎弾を飛ばしてくるAランクの魔物とあっては、さしもの竜騎士たちでも分が悪い。斥候隊は岩場を回り込むように飛行して 炎魔人(イフリート) の追撃をなんとかかわしながら、命からがら逃げ帰ってきたというわけだ」

「 炎魔人(イフリート) が…… 邪巨人(スプリガン) と? ううん、そこまでいったら、ハーピーも一緒だと見るべきだねぇ」

「竜騎士団でも、そういう話になった。そこで、竜騎士団ではその後何度かに渡ってその群れへの強行偵察を行った。それによって群れの全容……とまではいかないまでも、ある程度のところが判明した。その結果は恐るべきものだった」

ベルハルト兄さんが出されたお茶を一口啜る。

そして、険しい顔で言った。

「――種類が異なる魔物が徒党を組んでやがった。それも、Bランク以上の大物どもがだ」

兄さんの言葉に、俺たちは息を呑んだ。

悪神から力を注がれた魔物たちは、同種以外の魔物と馴れ合うことをしないと言われている。

もしそうでなく、魔物のすべてが結束して人類に向かってきたとしたら、人類はとっくに滅んでいただろう。

どうしてそうなっていないかには諸説あるが、デヴィッド兄さんによれば、「他人のためを思って行動を律することを善と呼ぶならば、悪とはそれができない存在のことである。善は仲間と助け合うが、悪は仲間とすら争い合う」というのが定説らしい。

「指揮個体がいるとしても、一種類だけのはずだよねぇ」

とジュリア母さん。

以前、ステフと古代火竜の廃巣窟に潜った時に、オーガの変異種と出くわしたことがある。

変異種の脅威は、何もその個体が普通の個体より高い能力を持っているだけではない。変異種の中には、通常の個体を指揮する能力を持っているものがいるのだ。通常なら連携を知らないはずの魔物の群れが、稚拙なものながら集団行動を取ってくる。たとえば、一部個体が盾役を抑えている間に、残りの個体が盾役の背後にいる後衛を脅かす――という戦術を取られただけでも、一般的な冒険者パーティは全滅の危機に晒されてしまう。だから、冒険者ギルドでは、変異種を発見したら、元の種の脅威度に関わらず即座に撤退するよう、所属の冒険者たちに勧告している。

ただし、この「指揮個体」と呼ばれる変異種の指揮能力は、魔物の種を超えては働かないことが知られていた。だから、たとえば竜騎士団の発見した群れにハーピーの指揮個体であるハーピークイーンがいたとしても、指揮できるのはハーピーだけであって、 邪巨人(スプリガン) や 炎魔人(イフリート) など他の個体を指揮することはできないはずだ。

「たしかに、指揮個体がいたとしても、その指揮能力は同種にしか及ばないはずだ。それに、少なくとも上空から確認できた範囲では、例の魔物の群れの中に変異種の存在は確認できなかった。連中は岩山を拠点にしているから、まだ洞窟の奥にでも隠れているのかもしれないが、そうだとしても、洞窟の中から指揮ができるものなのかどうか」

「具体的には、どんな魔物がいたのぉ?」

「ここにリストがあるから読み上げよう。

まずはCランクだが、 河馬(ケルピー) 、 邪巨人(スプリガン) 、 地獄狼(ヘルハウンド) 、 妖魂(ウィスプ) 、 骸骨鷲(ボーンイーグル) がそれぞれの群れを作っていた。

Bランクは、 石化鶏(コカトリス) と 鎧亀(よろいがめ) が数体ずつ。

Aランクとしては、 鷲獅子(グリフィン) と 炎魔人(イフリート) がそれぞれ1体ずつ確認されている」

「うわぁ……」

そうそうたる顔ぶれに、さすがの母さんも絶句した。

何だそれ、百鬼夜行か何かか。

「Dランク以下はどうなんだい?」

「スライムは当然のように湧いているが、ゴブリンやオークの姿はなかったようだ。他に目立つところでは、やはりハーピーの数が多いな。しかも、こいつらが空から周囲を警戒しているせいで、竜騎士たちとも何度も戦闘になっている」

父さんの質問に、ベルハルト兄さんが答える。

「……ハーピー、か」

ベルハルト兄さんの言葉に、俺は思わずつぶやいていた。

5年前の〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉事件の時も、フォノ市の西北部でハーピーの異常行動が確認されていた。結局、ハーピーの異常行動と〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉の接点は不明のままだったが、翌年以降はハーピーに異常行動は見られなかったことから、何らかの関係があった可能性は捨てきれない。

「はっきり言って、この魔物たちは異常だ。個々の魔物たちの強さも問題だが、それらが連携を取って動いているとすると、Aランク冒険者のパーティでも太刀打ち出来ない可能性が高い」

「わたしたちも、Aランクパーティなんだけどぉ?」

「ジュリアさんは広域殲滅型の火属性魔法が使えるからな。ステフさんが魔法剣を使うことも、国王陛下や王子殿下は既に掴んでおられるよ。それに加え、エレミアの卓越した斥候能力、そして転生者であるエドガーだ。間違いなく、王都にいる冒険者パーティの中でも最強だ。

本当なら、Sランク指定して国に囲い込みたいくらいの戦力だと聞いている」

「わたしたちは、そういうのはちょっとぉ」

「わかってるよ、ジュリアさん。エドガーの秘密のこともあるしな。一応、《護国卿》アルフレッド・キュレベル侯爵の身内だということもあって、無理にでも国に紐付けしようという話にはなっていない」

なるほど。見えないところでそんな駆け引きが行われていたのか。

「もう、被害は出ているのぉ?」

「……近くにあった小さな集落のひとつが群れに呑まれ、消滅している。竜騎士団の斥候隊が群れに気づいた時点で、もう手遅れだったらしい。

群れが今後どう動くかは予想できないが、王都にでも流れ込んできたら大変なことになる」

「うぅん……」

ジュリア母さんは悩んだ様子を見せるが、これは母さんの癖だ。

引き受ける場合でも、一応考えるふりだけはするように、と俺も教えてくれた。

あまり乗り気に見えてしまうと、その後の報酬額の交渉で不利に働きかねないからだという。

「なお、今回のクエストには、竜騎士団が帯同し、空中からの戦闘支援を行うことになっている。

それから、ジュリアさんのパーティの戦力を隠すために、依頼はジュリアさんのパーティだけに出す。本来ならこうした場合、できる限り多くの冒険者を集めるところなんだが、まずはジュリアさんのパーティで一当てしてもらって、その感触で集める冒険者のランク制限を考えるという名目になっている。ああ、もちろん、竜騎士団にはジュリアさんたちの戦力を口外しないよう箝口令を敷く。全力を出すわけにはいかないだろうが、それなりの力を使ってくれて大丈夫だ。

そして、このクエストは、竜騎士団長であるイルフリード第一王子からの指名依頼でもある。王家に貸しが作れるぞ?」

「貸しとかはどうでもいいけど、放っておいたら大変なことになりそうだねぇ。エドガーくんやエレミアちゃんの経験にもなりそうだし……この依頼は受けるよ、ベルくん」

「ありがとう、ジュリアさん。でも、ベルくんは勘弁してくれないか?」

「ダ~メ。そういうことなら、もう1個条件を付けちゃおうかなぁ? ベルくんがわたしのことをちゃんとお母さんって呼ぶこと……って」

「ぐっ……」

ベルハルト兄さんが言葉に詰まる。

が、それはさておき、イルフリード王子からのクエストはジュリア母さんパーティで引き受けることになった。

――奇妙な魔物の群れか。

悪神がらみでなければいいが……。