軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

63 冒険者登録

「――ごめんください」

と、言うのが正しいかどうかは知らないが、挨拶しながら冒険者ギルドに入ると、そこにはモリアさんとミゲルの親子、ハフマンさん、それからなぜかベックまでがいた。

「あれ? オロ……じゃなかった、エドガーじゃないか。

今日はたしか……」

何かを言いかけたミゲルを遮って、モリアさんが言う。

「おや、どうしたんだい?」

「いえ、べつに用事はないんですけど、たまにはミゲルの顔でも見に行こうってメルヴィが」

「えっ? わたし……って、ああ、そうだったわね。

ひさしぶり、ミゲル。

元気してる?」

「へ? ああ、うん。

母ちゃんのしごきがキツいけど、だんだん慣れてきたよ」

ミゲルがそう言って胸を張る。

ミゲルのドヤ顔をスルーしつつ、俺はベックに話しかける。

「ベックは、どうしてここに?」

「うん、実は、ハフマンさんに相談があって」

「相談? ……ああ、いや、言いたくないことならいいけどさ」

「べつにいいよ。

ハフマンさんもパーティでは盾役だって言うから、いろいろ相談に乗ってほしかったってだけだよ。

もっと強くならなきゃいけないんだって、思い知ったからね」

ベックも、あの事件で思うところがあったのだろう。

いつまでもキュレベル家に世話になっているわけにはいかないと言って、冒険者として自活する道を模索したいと以前から言っていた。

「そっか。ベックなら、きっと優秀な盾役になるよ」

「ありがとう。

でも、それはスキルのことでしょ?」

「それもないとは言わないが、おまえ自身が言ってたじゃないか。

『僕だって、金剛騎士ディクレオス・ウォンの息子なんだ!

仲間を残して、敵に背を向けられるか』ってさ」

「ち、ちょっと、やめてよ、恥ずかしい!」

「恥ずかしくなんかないさ、かっこよかったよ」

「……あの時はありがた迷惑だって言ったくせに」

「あの時のことはお互い様だよ。

俺が言いたかったのは、ベックにはそれだけの覚悟が既にあるってことさ」

俺とベックがそんな話をしていると、

「お……。

金剛騎士ディクレオス・ウォン、と言ったか……?」

ハフマンさんが聞いてくる。

「知ってるんですか?」

「知ってるも何も……ソノラートにその人ありと言われた、有名な騎士だ。

内戦で裏切りにあって死んだ、と聞いている……」

「……そうです。

僕をかばって、父さんは殺された。

その後、僕は〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉に洗脳されて……」

暗い顔でつぶやくベックの頭に、ハフマンさんが手を置いた。

「……大事な者を守りきって死ぬ。

さすがは金剛騎士だ。

俺だって、そういう場面で、自分を殺して他人を守れるか……確信はない」

「ハフマンさん……」

盾役を任じる者にしかわからない何かが、ベックとハフマンさんの間にはあるようだ。

「それじゃあ、ベックも冒険者か。

なんだか俺だけ置いてかれてる気がするな」

俺がそうつぶやくと、

「おや、エドガーはまだ冒険者登録してないのかい?

……って、そりゃそうか」

俺の年齢を思い出したのか、モリアさんが納得する。

「でも、ギルドへの登録に年齢制限はないからね。

冒険者の親が、子どもを登録することなんかもけっこうある。

ま、その場合は、親のお使いを子どもがやりやすいように、便宜上冒険者にするってことなんだが」

「へえ、そんなことが……」

「せっかくだから、エドガーも登録してみるかい?

手数料くらいなら、あたしが出してやるよ」

「いいんですか?

いや、手数料は自分で出しますけど」

「いいっていいって。

だって今日は……じゃなかった、ジュリアの子どもでミゲルの友だちなら、あたしにとっても子どもみたいなもんだ。

Aランクのお姉さんに任せなさい」

そう言ってモリアさんは、ギルドのカウンターへと近づいていく。

「ああ、ミランダ。

新人の登録をしたいんだが……」

「はい、いいですよ。

そちらのお子さんですか?」

「そうそう、名前は……」

「――ちょっと待ったあああああああああっ!」

突然大声を上げて割り込んだのは――俺だ。

「な、なんだい、驚くじゃないか」

「モリアさん、ちょっと耳を貸してください」

「なんなんだい、まったく……」

言いながらも、モリアさんがかがみこんで俺に耳を向けてくれる。

俺はごにょごにょと要求を伝える。

「ええっ……」

面倒そうなモリアさんに頼み込み、俺はいったんギルドの扉から外に出た。

◇◆◇◆◇◆◇◆

――俺は、冒険者ギルドの扉をくぐる。

扉をくぐった途端、ギルドに併設された酒場からじろじろと無遠慮な視線が送られてくる。

酒場には、いかにも歴戦の冒険者といった風情の男たちが何人かと、壁に背中をもたせかけた赤髪の露出の多い女戦士の姿があった。

俺はカウンターへと近づき、

「――冒険者登録をしたいんだが」

とギルドの受付嬢に語りかけた。

受付嬢はギルドの看板だ。

20代になったばかりのスタイルのいい美人だが、にこりともしないのが玉に瑕だ。

「では、こちらの書類にお名前を――」

受付嬢が言いかけたその時だった。

「おいおい、マジかよ。

おまえみたいなちっこいのに冒険者が務まるかよォ!

ガキはうちに帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな!

ギャハハハハッ!」

そう言って絡んできたのは、さっきまで酒場で仲間と飲んだくれていた赤ら顔の冒険者だ。

大柄で、顔には大きな刀傷がある。

俺は、男の言葉を冷然と無視して、受付嬢に質問する。

「……なあ、絡まれてるんだけど」

「冒険者同士のいざこざには、ギルドは関与いたしておりません。

ご解決は、本人同士でなさってください」

「へえ? じゃあ、好きなようにさせてもらっていいんだな?」

俺がニヤリと笑ってそう言うと、刀傷の男が俺の肩をつかんできた。

「おいクソガキ!

今なんつった?」

「何だ、耳が悪いのか?

冒険者としては致命的だな。

命をなくさないうちに引退したほうがいいんじゃないか、オッサン」

「な・ん・だ・と!

もう許せねえ!

Cランク冒険者《猟犬》アンドリュー・ジョーを馬鹿にしてただで済むと思うな!」

男――アンドリューがずらりと剣を抜き放った。

「ちょっと、アンドリューさん!

ギルド内での刃傷沙汰は――」

「うるせぇ!」

アンドリューが切りかかってくるのを、俺は【見切り】を使って紙一重で交わすと、懐に飛び込んでアンドリューの胴衣に【サイコキネシス】をかけ、むりやり壁へとふっ飛ばした!

「ぐああああっ!」

アンドリューがうめく。

「お、おい、《猟犬》のアンドリューが新人にやられたぞ……」

「あの子、かっこいい……惚れた! 抱かれたい!」

酒場の方からそんなささやき声が聞こえてくる。

「じゃあ、そろそろ登録をしたいんだが」

「あっ、は、はい! こ、この紙です!」

俺は涼しい顔でペンを取ると、冒険者登録の用紙に名前と得意分野を書き、受付嬢に渡した。

「これで登録完了になります」

受付嬢の言葉にうなずく俺――の頭にげんこつが落ちた。

「痛っ!」

「いつまでやってんだい、まったく!」

俺にげんこつを落としたのは、もちろんモリアさんだった。

「ほれ、アンドリューもいつまでも寝てない!」

「あいあい」

壁に吹き飛ばされた(という演技をしていた)男が起き上がる。

「おい、坊っちゃん、言われた通りの演技はしたんだから、酒は奢れよ?」

「うん、ありがとう、おじさん。

――あ、ウェイトレスさん、おじさんたちのテーブルにお酒を出してあげて! 代金はこれで」

俺は通りかかったウェイトレスさんに銀貨を一枚渡して芝居に協力してくれたアンドリューさん他エキストラの皆さんに酒を振る舞う。

ちなみにこの銀貨はジュリア母さんからもらったお小遣いではなく、〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉から出てくる時に幹部の部屋からかっぱらってきたものだ。

「――念のため申し添えておきますが、ギルドに所属する冒険者同士で諍いがあった場合は、原則喧嘩両成敗となっております。

冒険者の質を維持するため、冒険者同士の諍いには厳罰が適用されます。

たとえば、さっきのように片方の冒険者が剣を抜けば、ほぼ間違いなくギルドから除名です。

応戦した側は、必要最低限の自己防衛は認められますが、やりすぎれば罰金、ランクダウン、最悪の場合は除名となります。

ケンカをふっかけて、相手に先に剣を抜かせ、正当防衛を口実にボコボコにする、というような事件も過去にはあったからです。

冒険者は自由な存在ですが、無法者では困ります。

くれぐれも、お間違いなきようお願いします」

こちらは演技でも何でもなく、素のままで無表情な受付嬢さんがそう言ってくる。

無表情だけど、芝居に乗ってくれた辺り、案外ノリのいい人なのかもしれない。

ちなみに、受付嬢さんに提出した冒険者登録の用紙は本物である。

「……で、この茶番はいったい何だったんだ?」

俺にジト目を向けながら、ミゲルがそう聞いてくる。

「だって、冒険者登録と言ったらこれだろう?」

「まあ、冒険者モノのサーガではたしかによくある展開だけどね」

モリアさんが肩をすくめながら言う。

あ、この世界でもそういうのあるんだ。

「で、この場面の続きと言ったら、ぶちのめされた不良冒険者の親分が出張ってきて、路地裏で主人公の新人冒険者に襲いかかるってやつだね」

「へええ、そういう風なんですか」

俺が素直に感心していると、

「――いっちょ、その線でやってみるとしようか」

モリアさんが目を光らせてそう言ってきた。

「『おうおう、さっきは俺様の舎弟をずいぶんとかわいがってくれたみたいじゃねえか。

生意気な新参者には、この街の掟ってやつを教えてやらねえといけねえなぁ!』」

ノリノリで言ってくるあたり、モリアさんはその手のサーガのフリークのようだ。

「『へっ、できるもんならやってみやがれ!』」

……こんな感じか?

そんなわけで、俺とモリアさんとハフマンさんとミゲルとベックで、ギルド裏手にある訓練場へと向かうことになった。

ついでにアンドリューたち酔っぱらい冒険者までついてきているが……まあいいか。