軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6 カンストカンストカンスト

魔法習得から、一週間が経った。

今俺が行っている反復作業は、次の2つだ。

1つ、MPを0まで使い切り、MPの最大値を上げる。

2つ、積み木を ♭(フィジク) で浮かせる。もちろん同時に複数個。解除する時は普通の解除ではなく ∃(イレイズ) を使う。要するに ♭(フィジク) と ∃(イレイズ) のレベル上げである。

他の魔法は、ジュリア母さんに言われたこともあり、今のところは後回しにしている。

夜ならバレないと思うけど、母さんは暴発のことを気にしていた。俺はまだ赤ん坊だから、何か事故が起きた時に自力では対処できないかもしれない。もうすこし大きくなって最低限事故が起きても逃げられるようになってからはじめようと思う。

そして作業とは別に、母さんにだだをこねて頂戴した『アバドン魔法全書』の解読も進めている。

昼に母さんに1項目を何回か読んでもらって、それをひたすら暗唱し、後で文章と付き合わせるという作業である。

前世だったら途中で投げ出しそうな精神的にしんどい作業だが、【不易不労】のおかげで飽きもしないし疲れもしない。

対応表のおかげで文字を読むだけなら問題なく、暗唱と付き合わせのおかげで語彙も着々と増えている。

できれば信頼できる辞書がほしいのだが、まだ生後半年の俺は一日中ベビーベッドですごしているために、屋敷の中を探索することすらできていない。

この子ども部屋の窓からは、現代日本ではなかなか望めないようなそこそこの広さの庭が見える。建物の方もそれに見合う大きさがあるとすれば、ひょっとしたらちょっとした書斎とか図書室のようなものがあるかもしれない。

話は変わるが、ジュリア母さんの前で魔法を使った翌日、俺には専属のメイドが付けられることになった。

ジュリア母さんがあの翌日に三人のメイドさんを代わる代わる連れてきて、俺との相性を見極めてそのうちの一人をつけてくれた。

10代半ばくらいの、やや童顔のおっぱいの大きなかわいい女の子である。

……もちろん、くだんの相性見極めの際に、せいいっぱいこの子がいいとアピールしたことはいうまでもない。

名前はステファニーで、ジュリア母さんとの会話を聞いていると、領内にある村の有力者の娘らしい。

母さんのいない時を見計らってこっそり【鑑定】してみると、

《ステファニー:村娘。年齢:16歳。レベル1、HP:8/8、MP:7/7。スキル:なし》

ふむ。普通、という以外の感想を思いつかない。

スキルに家事とかあるのかと思ったが、とくにそういうものはないようだ。

ひょっとしたらこの世界のスキルは戦闘関連のものに限るのかもしれないな。

ジュリア母さんにも【鑑定】を使ってみたいのだが、ひょっとしたら勘づかれるかもしれないと思って、これまで試していなかった。

でも、【鑑定】が魔法じゃないことはわかってるし、寝ている時を見計らって使えば大丈夫だろう。

そう思って、俺をあやしているうちに眠ってしまった母さんに【鑑定】を使ってみる。

ジュリア・キュレベル(キュレベル子爵夫人・《炎獄の魔女》)

レベル 47

HP 79/79

MP 253/253

スキル

・達人級(たゆまぬ修練によって獲得への道が開けるスキル。)

【火精魔法】4

【魔力制御】4

・汎用

【火魔法】7

【水魔法】3

【風魔法】3

【地魔法】2

【光魔法】3

【念動魔法】2

【魔力操作】5

【魔力感知】6

【同時発動】3

……この人、ヤバくね?

スキルの多さもきっとヤバいんだろうけど(達人級とかあるし)、その辺はこの世界の相場観がわからないから置いておくとして。

俺が何よりヤバいと思うのは、HPとMPだ。

パッと見では、RPGの魔法使いにありがちな数値のように見える。

HPなんか、ちょっと後半のボスを相手にするには辛いかなという微妙な数値のように思えなくもない。

だけど、思い出してほしい。

【鑑定】。

《HP:生命力を数値として抽象化したもの。現在値/最大値。

数値は一般的なレベル1成人男性を10とした目安であり、

HPが残っているのに死亡することやHPが0であるにもか

かわらず死亡しないこともまれではあるが生じうる。最大値

は怪我や病気、疲労によって一時的に減少することがある。》

特に大事なのは、ココだ。

《……数値は一般的なレベル1成人男性を10とした目安であり、……》

つまり、ジュリア母さんのHP79とは、レベル1成人男性の実に8倍近い数値だということになるのだ。

この世界における「レベル1成人男性」というのがどのくらいのものなのかはわからないが、ステフ(ステファニー)が16歳にしてレベル1であることを考えると、軍人や冒険者でない一般人の大半はレベル1なんじゃないだろうか。

たとえば、俺がこのマルクェクトに転生するきっかけとなった通り魔。

あいつが刺殺していた元の世界のサラリーマンは、きっとこの世界の「レベル1成人男性」とほぼ同じようなステータスを持っているはずだ。

その基準でいえば、ジュリア母さんは通り魔に何度か刺されたくらいでは致命傷にはならない、ということになってしまう。

そんなことがありうるんだろうか。

そして、HPだって十分に高すぎるけれど、ジュリア母さんの真価はきっとMPの方にある。

253。

【鑑定】のヘルプ情報によれば、《一般的なレベル1成人を10とした目安》だそうだから、ジュリア母さんのMP(魔力量)は常人の25倍以上あるということになる。

単一の魔法文字を使った最小構成の魔法( 卜(フレイム) や π(アクア) など)の消費MPが1であることを考えると、かなり豊富な魔力の持ち主だということになるんじゃないだろうか。

もちろん、外の世界には母さんクラスの冒険者がそれなりにいるという可能性もないわけじゃないが。

で、ついでだから俺のステータスをドン。

エドガー・キュレベル

レベル 1

HP 4/4

MP 77/77

スキル

・神話級

【不易不労】-

【インスタント通訳】-

・伝説級

【鑑定】9(MAX)

【データベース】-

・達人級

【物理魔法】1

【魔力制御】1

【無文字発動】1

・汎用

【火魔法】1

【水魔法】1

【風魔法】1

【地魔法】1

【光魔法】1

【念動魔法】9(MAX)

【魔力操作】9(MAX)

【同時発動】9(MAX)

《善神の加護》

はい、【念動魔法】【魔力操作】【同時発動】カンストいただきました!

それぞれカンストボーナスは【物理魔法】、【魔力制御】、【無文字発動】。

【物理魔法】は、【念動魔法】と同じく ♭(フィジク) を用いるが、その効果・威力に大きな補正がかかる、というもの。ジュリア母さんが持ってる【火精魔法】の【念動魔法】バージョンだと思えばいい。

【魔力制御】は、【魔力操作】と同じく ∃(イレイズ) を使う、【魔力操作】の上位互換。

母さんとお揃いだ。母さんは【魔力操作】をカンストしていないが、他にも取得の道があるんだろうな。

【無文字発動】は、「魔法文字を書く」「魔法文字の読みを声に出す」という最低限どちらかは必要だった魔法発動の手続きを、両方とも省略できるというもの。

脳内で文字と効果をイメージし、声なり念なり身振りなりのトリガー行動を合図に魔法を発動することができる。

しかし、【物理魔法】や【魔力制御】はともかく、【無文字発動】がヤバすぎる。

何がヤバいって、俺が使って超便利だっていうのもそうだが、もしこれを習得している不心得者がいたとしたら、不意打ちフェイントやりたい放題なのである。

二つ名を持っている母さんですら【同時発動】は3だったし、そうそういないと思いたいが、忘れてはいけない。

俺は女神様からの頼みで、この世界に転生した通り魔をどうにかしなければならないのだ。

向こうには悪神とやらがついているらしいから、こちら同様チート能力を持っている可能性が高い。

その上あちらも転生者なのだから、【同時発動】に目を付けないはずがないし、そうなればカンストボーナスである【無文字発動】までも手に入れてしまうかもしれない。

いや、ほぼ確実に手に入れる。そう見ておくべきだろう。

たしかにこちらには【不易不労】がある。スタート時点が同じなら、向こうはまだ【無文字発動】を手に入れてはいないだろうが、おそらくは時間の問題だ。

ジュリア母さんが【魔力操作】をカンストさせずに【魔力制御】を手に入れているように、他の習得経路が存在するかもしれないしな。

とはいえ、まだ生後6ヶ月の赤ん坊にできることなんて限られている。

当面は新たに手に入れた達人級スキル3種のレベル上げと、最大MPの拡張かな。

【不易不労】のおかげでMPはかなり速やかに回復するのだが、だからといって最大MPの意味がなくなるわけじゃない。

そろそろ全体の3分の1ほどを暗記している『アバドン魔法全書』には、膨大なMPを消費する大規模魔術の記述もある。

また、休む間もなく魔術を使い続けるような状況だってあるだろう。

いざという時に最大MPが足りなくて術が使えなかったり、回復する暇もなくMPを使い尽くしたりしてしまったら確実に命に関わる。

MPを使い尽くすたびに激しい頭痛に襲われるのが難ではあるが、そこは気合いで乗り越えて、1日に10回はMPを枯渇させることにしている。

さいわい、【不易不労】のおかげか数分で目が覚めるみたいだしな。

そんなこんなで、毎日24時間、文字通り不眠不休で鍛え続ける日々を送っていたのだが――

「――ジュリア! 今帰ったよ!」

存外若々しい声でそう言って俺の部屋に飛び込んできたのは、

――アルフレッド・キュレベル。

今生(こんじょう) における、俺のオヤジ様にあたる男だった。