軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23 ボイス君捜索

メルヴィの旅支度はすぐに済んだ。

もともと大気から魔力を吸って生きているから食事はいらないし、身の回りのものもわずかだ。

加えて次元収納を持っている上、いざとなれば【次元魔法】で妖精郷に戻れるから、ほとんど遠足と変わらない。

帰りはメルヴィの【次元魔法】でリベレット村の近くにひとっ飛び。

恐ろしく便利だが、【次元魔法】による移動は、まずこちらの世界にメルヴィがゲートを置く必要があるとのこと。

ゲートと言っても目には見えない魔力のマーカーのようなものらしい。

また、ゲートからゲートへ、つまり、こちらの世界のどこかからこちらの世界の別のどこかへの移動はできない。

こちらの世界から妖精郷、妖精郷からこちらの世界へのジャンプしかできず、帰り(妖精郷からこちらの世界への移動)は行きと同じゲートしか使えない。

例えば、リベレット村の外れにゲートを置き、そこから妖精郷へジャンプしたら、帰りは必ずリベレット村のゲートに出なければならない(妖精郷の「出口」から滝の裏の鍾乳洞に出ることはできるが)。

だから、リベレット村のゲート→妖精郷→別のゲートという形で、妖精郷経由で他の場所に移動することはできない。

ま、それでも恐ろしく便利な魔法だ。

ちなみに、俺の姿は元の3歳児相当(中身は8ヶ月弱くらい)に戻っている。

「……エド、あんた本当に子どもだったのね」

と、少し気安くなったメルヴィが目を丸くしていた。

驚き方が薄いな、と思っていると、

「そりゃ千年も生きてればいろんな人を見るわよ」

とのこと。

「ご主人様の方が、あんたの千倍くらいすごいしね」

うん、まあ、あのステータスを見てしまうと否定はできないな。

俺はうっすら明るくなりかけている村の中を、人目に付かないように歩き、村長宅へと戻ろうとする。

「――動かないで!」

突然、背後から声をかけられた。

ぎくりとしながら振り返る。

声からわかっていたが、そこには険しい顔のジュリア母さんがいた。

「エドガーくんから離れて!」

「えっ……」

母さんはメルヴィ――俺の肩辺りを飛んでいる妖精を睨みながらそう言った。

見えてる!?

メルヴィを見ると、慌ててぶんぶんと顔を振っている。

「明け方ふと目が覚めたら、エドガーくんがいないんだもん。まさかとは思ったけど、行方不明事件もあったから、村長さんを起こして捜索隊を作ってもらうことにしたの。

――でも、その前に犯人が見つかってよかったよ」

「ちょっとまって、母さん! メルヴィはわるくないよ!」

「……本当に?」

「ほんとう! ともだちになったの!」

母さんはなおも疑わしげに俺とメルヴィを見比べている。

「信じてもらえるかはわからないけど、本当よ」

メルヴィが言う。

母さんの声が聞こえたのか、村人たちがわらわらと集まってきて俺たちを遠巻きに囲む。

村人たちは手に手に鋤やら鎌やら鍬やらを構えている。

「エドに聞いたんだけど、今この村で子どもがいなくなる事件が起きてるのよね。

現場のそばにわたしたちの残した 妖精痕(フェアリーサークル) があったのは偶然よ。

そもそも、妖精は人に危害を加えられないから」

村人たちがメルヴィの言葉にざわつく。

村人たちに見えてるってことは、メルヴィは姿を見せることにしたんだな。

俺は最初から見えてるから、どこからそうしたのかわからなかったが。

「本当かよ……」「嘘に決まってる」「でも、妖精は嘘をつけないっていうぞ」「それだって嘘かもしれない」……

村人たちの反応は疑わしげだった。

科学的捜査だとか、疑わしきは被告人の有利に、なんて話はこの世界にはないもんな。

しかもそこへ、

「――妖精は悪魔の手下じゃ! 妖精がわしらを食いに来たぞ!」

髭もじゃの赤ら顔のおっさんが、手斧を片手にそんなことを叫ぶ。

こいつはたぶん、顔役の話にあった酒呑みの木こりだな。

「わたしたちは姿を隠すこともできるわ。――こうやって」

メルヴィは一旦姿を消したらしい。

村人がどよめく。

「でも、わたしはこうして姿を現してる。本当にわたしたちが子どもをさらってるんだったら、こんなことはしないわ」

メルヴィの言葉に、村人たちは顔を見合わせる。

一定の説得力はあったみたいだが、まだ疑ってるっぽいな。

「――メルヴィお姉ちゃん!」

突然声が割り込んできた。

村人の垣根の中から飛び出してきたのは、見覚えのある小さな女の子だった。

ええっと、あの子だ。村長宅で妖精をかばっていた。

名前は……アイノちゃんだったな。

「あら、あなたはたしか……」

「アイノだよ! 前迷子になってた時に、お姉ちゃんに助けてもらったの!」

「そうだったわね。ちょっと見ない間に大きくなったわねぇ」

メルヴィはアイノちゃんの頭上にふよふよ飛んで、優しく頭を撫でている。

その様子は妹をかわいがるお姉さんのようだった。

っていうか、妖精郷以外でもお姉ちゃんキャラなんだな、メルヴィ。

メルヴィとアイノちゃんの様子を見て、村人たちは構えていた鋤やら鎌やら鍬やらを下ろした。

「こりゃ! 妖精の言葉に惑わされるな! 妖精は悪魔の手下じゃ、そうに決まっとる!」

木こりは顔を赤くして喚くが、

「……おぬしの言葉を真に受ける方が危険じゃわ」

言いながら顔役の人が村人の奥から現れた。

「こんにちは、かわいらしい妖精さん。リベレット村へようこそおいでなすった」

「え、いや、その……か、かわいいだなんて、そんな……」

「しゃこうじれいだよ」

頬に手を当ててもだえるメルヴィに、一応つっこみを入れておく。

「して、妖精殿。この村にどのような御用向きじゃな? 済まぬが、ちと今この村は殺気立っておってのぅ」

「エドが、わたしたちの残した暗号を解いて、妖精郷に遊びに来てくれたから、それを送りに来たのよ」

あ、それは言わないでほしかった。

メルヴィは嘘がつけないんだからしょうがないが。

「それは本当じゃけ? その子はまだ3つにもなっとらんじゃろうが」

「え? でも、神の加護を――んんん!」

続々と口を滑らせてくれるメルヴィの口に手を当てる。

「(な、何よ?)」

「(おれのステータスのことはあまりしゃべらないで)」

「(難しいこと言うわね……わかったわよ。気をつける)」

俺とメルヴィが内緒話をしていると、

「メルヴィお姉ちゃん! ボイスくんがいなくなっちゃったの……」

「おともだち?」

「うん。ボイスくん、わたしのお誕生日にきれいな石をくれるって言って川に行ったの……」

「……そう」

沈んだ顔のアイノちゃんに、メルヴィが険しい顔で頷く。

そして、

「村長さん」

「いや、わしは村長ではないぞ? 村の顔役だ」

「どっちでもいいわよ。わたしも、そのボイス君捜索に協力するわ」

「そりゃ助かるが……いいのかね?」

「疑いを晴らすいい機会だし……妖精は子どもの味方だから。でも、その前に……」

メルヴィはあろうことか例の木こりの前にふよふよと向かう。

「――木こりさん」

「よ、寄るな! 邪悪な妖精め!」

「――あなた、何か憑いてるわよ?」

「な、何……?」

「ラララ……♪」

メルヴィは突然目をつむって歌い始めた。

その歌は1分ほど続いただろうか。

甘く優しい、胸が温かくなるような歌だ。

木こりはふらふらとよろめき、そばにあった民家の壁にもたれかかって……ありゃ、眠ってるのか?

「こ、こりゃどういうこったね?」

顔役が聞いてくる。

「今のは、心を落ち着かせる効果のある【妖精の歌】よ。

最初から気になってたんだけど、木こりさんは心を惑わす魔法にかかってたみたい。

さいわい、そこまで強いものじゃなかったから、《安らぎの歌》で解除できたけど……」

「何じゃって!」

これも先ほどの歌の効果か、メルヴィの言葉は村人たちにも素直に受け入れられたようだ。

「ちょっと待ってて」

メルヴィはそう断ると、村の外れに戻る。

ゲートが置いてある場所だな。

待つこと数分――

「お待たせ」

「「「「お待たせ~!」」」」

メルヴィは数人の妖精とともに戻ってきた。

どれも昨夜の宴で見た顔だな。

双子妖精――セセルとセセラもいる。

「妖精たちで、森の中を捜索するわ。川の上流側から探させるから、村の人は下流側をお願いできる?」

「お、おお……もちろんじゃとも」

顔役は呆気にとられた顔で頷いた。

いくらリベレット村が妖精郷に近いとは言っても、こんなにたくさんの妖精が揃っているのを見るのは初めてなのだろう。

「じゃあ、そういうことで。始めましょう!」

【統率】スキルの効果か、いつの間にかその場を取り仕切っているメルヴィがそう言った。