作品タイトル不明
165 宇宙船を造ろう(一時刻)
「アルフェシアさん!」
俺は、モノカンヌス新市街の外れにあるアルフェシアさんの工房の扉を開きながら言った。
俺の後ろにはメルヴィ、エレミア、アスラ、リリア(人化)、美凪さん、サンシロー、女神様がいる。
「ああ、エドガー君。早かったですね」
つなぎ姿のアルフェシアさんが顔を上げ、ゴーグルを外しながらそう言った。
白銀色の豊かな髪を後ろで束ね、どこかあどけなさの残る美貌に淡い笑みを浮かべたている。
なお、これまでの事情は、【念話】の有効距離に入った時点で、既にアルフェシアさんに伝えてある。
「ほう……これが『アンドロイド』というものですか」
アルフェシアさんが目を輝かせてサンシローに近づく。
「とても興味深いです。まさか魔法を一切用いずに自律行動のできる存在を造り出してしまうとは……エドガー君の元いた世界にますます興味が湧きました」
『はじめまして、サンシローです。妖精を『造った』方にそう言っていただけるのは光栄です。魔法を極めただけでは飽き足らない知的好奇心に敬服いたします。』
「魔法と科学は別腹です……じゃなかった、別物ですから」
思わず本音をポロったアルフェシアさんに俺が言う。
「アルフェシアさん、悪いけど……」
「ああ、すみません。時間がないのでしたね」
アルフェシアさんが我に返る。
アルフェシアさんは、単刀直入に言った。
「要は、真空中で活動できる乗り物があればいいんですね?」
「ああ」
「この星の重力を振り切る必要もないし、宇宙から大気圏に突入する必要もない」
「その通りです」
「重力や空気抵抗を考えなくていいなら、何も航空機に似せる必要はありませんね。単純な球形でもいい。いえ、居住性を考えるなら直方体の方がいいでしょうか。でも、隔壁の強度維持に魔法を使うなら、球形の方が効率がいい……」
アルフェシアさんがすっかりものづくりモードに入ってしまった。
ああなってしまうともう何を言っても聞こえない。
だが、任せておけば必ず期待以上のものを作ってくれる。
俺もこの世界にやってきて以来、前世知識を生かした生産チートにも挑戦してきたが、アルフェシアさんが解放されてからはすっかりお株を奪われた格好だ。
とはいえ、俺はもともとエンジニアでもなんでもない。こっちの世界にあっちの情報を運ぶまでが俺の役割だったということだろう。あとはこの世界のエラい人たちに任せてしまえばいい。もっとも、キュレベル財閥が特許料を取っているので、儲かった分はきっちり俺に還元されている。そのおかげで、俺の手元には、なんだか申し訳なくなるくらいの大金があった。
アルフェシアさんが、顎に指を添えたままぶつぶつとつぶやく。
「そもそも、宇宙船に物理的な実体がある必要自体ないのでは? なんだ、単純なことですね。球状のフィールドを発生させ、中の空気は次元収納を使って循環させればいい。長期的には二酸化炭素から酸素を分離する装置が必要ですけど、短時間なら問題ないはず。攻撃は赤の193、防御は青の69の魔道具があればなんとかなるでしょう」
つぶやきながら、アルフェシアさんが虚空からいろいろなオブジェを取り出した。
どれもアルフェシアさんお手製の魔道具だ。
アルフェシアさんはそのいくつかを専用の器具でいじったり、魔法をかけたりする。
そして、猛烈な勢いで、無数の部品を組み立てはじめた。
一時刻後。
「……ふぅ。完成です」
「も、もうできたんですか?」
「仮組みですけどね」
アルフェシアさんが言って、完成品を指さした。
大きさは、前世のエアコンの室外機くらいだろう。
といってもファンはなく、無数の配線やチューブがからまりあっている。
全体的な印象としては、家庭用のプラネタリウム発生機みたいな感じだ。
「これは、宇宙用のバリア発生装置です」
「えっ? 宇宙船ではなく?」
「ゆくゆくは船があった方がいいと思います。でも、要は宇宙空間から隔離されたスペースを作れればいいわけですから」
アルフェシアさんがスイッチを入れる。
ぶぅん、と音がした。
(いや、音じゃない。魔力の波動だ)
周囲の魔力を調べてみる。
俺たちを包み込むくらいの範囲で、強力なバリアが生まれているのがわかった。
「今は物理空間に干渉しない設定にしていますが、宇宙に出たら物理的にも空間を隔離します。そうしないと、敵が実弾兵器を使ってきた場合に貫通してしまいますから」
たしかに、セカンダリ側でもなんらかの備えをしている可能性はある。
「どうやって進むんです?」
「バリアのエネルギーを噴射して進みます。MP効率はあまりよくないですけど、わたしやエドガー君がいるのだからMP切れはありえません」
「なるほど。いつも通りの力技ですね」
俺の言葉に、アルフェシアさんがにっこり笑う。
なんとも無垢な笑みである。デヴィッド兄さんが惚れたのもわかる。
つい見とれていると、足に衝撃。
見れば、エレミアがふんと顔をそらすところだった。
そんなやりとりには気づかず、アルフェシアさんが続ける。
「加速はあまり速くありませんが、真空中なので空気抵抗がありません。すぐに音速を超えますよ。ルラヌスまでの距離を考えると、地球の軌道上から7、8時間といったところでしょうか」
「ぶっつけ本番で大丈夫ですか?」
「そうですね……一度モノカンヌス湖に沈めて試してみましょうか。メルヴィ、手伝って」
「はい、ご主人さま」
そう言って、アルフェシアさんとメルヴィが外に出る。
アルフェシアさんの工房は湖に面した場所にある。
いざとなればゲートを使って逃げられるメルヴィが、アルフェシアさんの造った装置を魔法で抱えて湖の上へと飛んで行く。
装置を起動し、バリアのエネルギーを上に噴射して湖の中へと沈んでいく。
アルフェシアさんは、メルヴィと【念話】であれこれやりとりしているようだ。メルヴィは水中でアルフェシアさんに言われた通りに試験をする。
その間に、俺は残された面々に言う。
「宇宙船はこれでいいとして、世界樹をどうするかだな」
「どうっていうのは?」
エレミアが聞き返してくる。
「どこで俊哉に世界樹になってもらうかってことだよ。世界樹になったら移動はできないんだよな?」
俺は女神様に聞く。
「ええ。大騒ぎになるでしょうから、世界樹の麓となる場所は選ぶべきね」
「世界樹になったら元には戻れないのか?」
「そんなことはないわ。ただ、戻るにはそれなりに時間がかかるわね。世界樹になるのには数時刻もあればいいけど、戻るには2、3週間くらいはかかるかしら。一度戻ったら、また魔力を蓄えるまで世界樹にはなれなくなるから注意してね」
「月に行って帰る間は世界樹のままでいてもらう必要があるってことか。だとしたら、人里離れた場所で、簡単には近づけないような場所がいいか」
「それなら、お母様のいる竜ヶ峰にすればいいじゃない」
と、リリア。
「その手があったか。たしかにあそこなら人が近づかないし、近づいてもアグニアが睨みを利かせてくれるな」
というわけで、世界樹の設置箇所も決まった。
しばらくして宇宙船(バリア)の試験も終わった。
「またあんたたちを抱えて飛ばなくちゃなのね……」
げっそりと言うリリアを励ましつつ、俺たちはアルフェシアさんを加えてモノカンヌスを発ったのだった。