軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

163 虹サボテンの正体

杵崎亨のコピーが月にいる可能性が高いってことはわかった。

だが、

「どうやって月に行く? さすがのアッティエラさんもスペースシャトルを造るには何年もかかると思うぞ」

俺は眉根を寄せてそう言った。

『グリンプス社に掛け合って、NASAの専門家のアドバイスを受けることは可能だと思います。しかし、建造に必要な素材の製作に必要な機材の製作に必要な設備……というように、地球の宇宙産業が前提としている種々の基盤技術の開発から始める必要があるでしょう。』

「いっそエドガーくんが空を飛ぶ魔法を改良して宇宙まで飛んでっちゃう方が早いかな?」

「さすがに月に着くまでにMPが尽きるだろ。休めば回復するけど、宇宙空間で休めるわけもないし。あと、宇宙空間にはたぶん精霊がいない。風の魔法で推進するのも不可能だな」

ものすごい数の困難を乗り越えれば宇宙遊泳用の魔法が開発できるかもしれないが、開発中に事故で死んだら元も子もない。

「世界樹が現存していればよかったのだけれど」

と、女神様が言う。

「世界樹?」

「ええ。天を衝くほどに高い魔法の巨木なのだけれど、あれは一種の軌道エレベーターとしても利用可能なの。世界樹の樹冠はラグランジュポイントにまで到達するから」

『宇宙まで出てしまえば、その後の移動手段の開発はいくらか楽になりますね。』

「そうなのか?」

俺が聞くと、

「この惑星の重力を逃れるのに必要なだけのエネルギーを出すことと、大気中でも真空中でも壊れない機体を造ることが難しいわけですから。宇宙空間でだけ運用するシャトルを造るのは、大気圏内でのみ運用する航空機を造るのに比べてそこまで難しいわけではないと思います」

と、美凪さんが説明してくれる。

それにしても、美凪さんはインテリである。

同じ転生者なのに知識量が違う。

有名大学のロースクールに通っていたというから文系のはずだが、理系分野の知識もあるようだ。

しかも格闘ゲームでは世界最強のプロプレイヤー。

ううむ。俺の勝ってる部分が何もない。なぜ美凪さんは俺のような男に惚れてしまったのか。

「その世界樹というのはどういうものなんですか?」

美凪さんが、女神様に聞く。

「世界樹は、虹サボテンという種族の特殊なサボテンが、長い年月の果てに膨大な魔力を蓄えることで爆発的に成長したものだと言われて……って、あああ!」

「ど、どうしたんですか?」

戸惑う美凪さん。

だが、驚いたのは俺も同じだ。

「女神様。今、虹サボテンって言ったか?」

「……言ったわ」

「魔力をたくさん蓄えていればいいんだな?」

「そうね」

「ときに、俺の相棒であるところの妖精さんが、虹サボテンをペットにしていてな」

「知ってるわ」

「メルヴィはせっせと毎日自分の魔力を虹サボテンにやってるんだ。俺が虹サボテンをあげて以来だから、かれこれ16年にもなる」

「そうね」

「メルヴィ自体、俺の発見した最大MP拡張法を使ってMPをがっつり上げてる。ていうかメルヴィは、そのために吐き切ったMPを、すべて虹サボテンに食わせてるんだ」

「…………」

俺と女神様が見つめ合う。

そして、

「メルヴィ!」

「メルヴィさん!」

思わずそう呼ばわった。

すると、

「ち、ちょっと何よ! ようやく見つけたと思ったらいきなり大声を出して……」

宿の戸口から、ふよふよと妖精さんが入ってきた。

アルフェシアさんの元へ行っているはずのメルヴィその人だった。

「タイミングいいな、おい!」

「あんたが呼んだんでしょ! こっちはご主人さまと東方領域に試作型の飛行機で飛んでって、水の精霊核を修復してからとんぼ返りしてきたのよ?」

そう言われると、タイミングとしては不思議ではない。

船で行くとばかり思っていたが、アルフェシアさんは飛行機の試作を間に合わせてしまったようだ。

「アルフェシアさんは?」

「モノカンヌスよ。わたしはゲートを使って戻ってきたから。……って、それより」

メルヴィが、女神様に向き直る。

女神様が「はぁい」と言って片手を振る。

「め、女神様よね……?」

「そうよ。ひさしぶりね、メルヴィさん」

「ど、どうして地上に女神様が!?」

「話すと長くなるんだが……」

俺はかくかくしかじかとメルヴィにこれまでにわかったことを説明する。

メルヴィの顔が青くなる。

「お、 大事(おおごと) じゃない!」

「マジで大事だよ」

「こ、これからどうすんのよ!?」

「うーん……アルフェシアさんと合流するべきだな。俊哉のことはその後でいい」

メルヴィの育てている(飼っている?)虹サボテン・トゥシャーラヴァティが世界樹という名の軌道エレベーターになれるのだとしても、それはその後の算段を整えてからのことだ。

先に軌道エレベーターなんて用意したら、 杵崎(のコピー) に警戒してくれと言ってるようなもんだからな。

メルヴィは俺の言葉にうなずき、ふと気づいたように美凪さんを見る。

「……この子は誰?」

首を傾げて言うメルヴィを、美凪さんがなぜか驚いた顔で見つめている。

「か……」

「か?」

「かわいいっ!」

「きゃあっ!」

いきなり席を立ってメルヴィに詰め寄った美凪さんに、メルヴィが悲鳴を上げる。

美凪さんがメルヴィに手を伸ばすが、メルヴィはそれをするりとかわす。見かけは小さいが、メルヴィだって歴戦の猛者なのだ。

が、

「――そこっ!」

「きゃぁっ!」

美凪さんの左目が光ったかと思うと、次の瞬間、メルヴィが美凪さんの手の中に収まっていた。

「な、ななななんですかこれ! めっちゃかわいいんですけどっ」

「ち、ちょっと、やめ、苦しっ」

目を輝かせて聞いてくる美凪さんと、その手の中でもがくメルヴィ。

美凪さんは選択予見の魔眼まで使ってメルヴィを逃さないようにしていた。

その美凪さんの手からメルヴィを奪って放してやる。

「い、いきなりなんなのよ!?」

メルヴィが珍しく本気で怒っている。

「あ、う、その……かわいかったからつい……ご、ごめんなさい」

美凪さんがしゅんと落ち込む。

その様子を、

(ちょっとかわいいな)

と思っていると、テーブルの下の足が思い切り蹴られた。

「……エドガーくんの馬鹿」

犯人のエレミアが頬を膨らませてそう言った。