軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

156 すれちがい

一人のエルフを中心に、円を描くように残りのエルフが立っている。

円周上には5人。エルフは6人いたことになる。

(5人が等間隔に円周上に……そうか、五芒星?)

わたしの内心の言葉が聞こえたかのように、円周上のエルフが懐から小瓶を取り出した。

小瓶には赤い液体が詰まっている。

5人は日本語をつぶやきながら、手にした瓶の中身をぶちまける。

赤い液体は5人を相互に結ぶ直線を描く。

直線は上から見ると五芒星の形になるだろう。

6人の声が高まっていく。

儀式はいよいよ佳境に入ったらしい。

……って。

(これ……黙って見てていいわけ?)

わたしの目的は精霊核のかけらの入手だ。

目の前にいる集団は、精霊核に対して何かをしようとしている。まず間違いなく 邪(よこしま) なことだろう。

わたしは彼らを好きにさせてしまってよいのだろうか?

(こんな時は……)

魔眼を使おう。

選択肢1:エルフの集団に声をかける。悪魔召喚の儀式を邪魔されたエルフたちは、制止する間もなく木砲を撃ってくる。魔法で対抗しようとするが間に合わず、エルフたちに射殺される

選択肢2:エルフの集団に声をかけず、魔法による奇襲を試みる。が、エルフたちは魔力を察知、連携の取れた魔法攻撃によって抵抗する間もなく殺される

選択肢3:エルフの集団に声をかけず、様子を見守る。エルフたちは仲間を生け贄にして上級悪魔の杭を召喚する。エルフたちは、召喚した杭を精霊核に打ち込み、広間を去る。杭によって砕かれた精霊核のかけらが地面に転がる。しばらく様子を見たのちに、精霊核のかけらを入手する

1、2は当然真っ暗だ。

3は明るい。

つまり、魔眼は手出しせずに様子を見るべきだと言っている。

しかも、わたしの目的である精霊核のかけらが入手できると明言されている。

とはいえ、

(わたしの目的には適っても、「精霊核」に「悪魔の杭」を打ち込むなんて、いいことのようには思えないんだけど)

もっとも、手出ししても返り討ちになるだけなのだ。様子を見守るしかないだろう。

(だいぶ強くなったつもりだけど、考えてみれば向こうはこの世界の住人なのよね。わたしより強いってことは当然ありうるか。人数にも差があるし)

ゲームみたいに、簡単に無双させてはくれないらしい。

魔法を覚えたことで、ちょっと調子に乗っていたかもしれない。

わたしが迷いながらも見守っていると、五芒星の中央に立っていたエルフが絶叫を上げた。

目から血を流し、鼻と口からも血を噴き出して地面に倒れる。

倒れたエルフの口が大きく開く。

顎がはずれる。

口が裂ける。

血にまみれた歯が転がり出る。

喉の奥から、黒い何かがせり出してくる。

「……っ!」

わたしは悲鳴を呑み込んだ。

生け贄になったエルフの口から現れたのは、黒く長い杭だった。

あきらかに、エルフの内臓に収まるサイズじゃない。

その杭が、ひとりでに宙に浮く。

杭は、何の予備動作もなく、精霊核に突き立った。

魔力が、吹き荒れる。

にわか魔法使いのわたしでも感じ取れるほどだ。

わたしはとっさに角から身を引く。

地面が揺れている。

かつて経験したことのない規模の地震に、思わず地面にうずくまる。

思いついて、〈穿嵐〉を逆手に持ち替える。

〈穿嵐〉が指し示す地面を突く。

わたしの周囲だけ地震がなくなる。

奇妙な光景だが、気づかれたり、周囲が崩壊して生き埋めになったりするよりはずっといい。

揺れは数分も続いた。

このダンジョンとやらは随分頑丈にできているらしく、これほどの地震でも崩れる様子がない。

揺れが収まる。

わたしは改めて気配を確かめてから、慎重に角の向こうを覗く。

エルフたちは起き上がるところだった。

口々に何かを言い合っている。

その言葉はやはり、日本語ではない。悪魔の召喚の時だけが日本語だった。

悪魔。日本語。異世界。

そして、生け贄の儀式。

ここまで揃えばピンとくる。

(あの通り魔・杵崎亨は、異世界へ渡るための儀式として、あの事件を起こした!)

異世界に渡れる保証があるからこそ、名声を投げ捨て、凶行に及ぶことができたのだ。

そして、

(杵崎亨は、この世界にやってきた。そして、あのエルフたちに悪魔召喚の方法を教えた)

そういうことだろう。

わたしが寒気に震えている間に、エルフたちが動き出す。

エルフたちが部屋の奥に向かう。

そこには先の見えない通路がある。

こっちに来なくてよかったと、胸を撫で下ろす。

わたしはそのまま十分ほど様子を見た。

選択肢も確認したが、ちょっとした行動で選択肢が変化することもある。

万全を期して、エルフたちが戻ってこないことを確かめる。

それからわたしは部屋に入る。

禍々しい悪魔の杭には近づかないように回りこみ、地面に転がる精霊核のかけらをできる限り拾っていく。

そのまま足早に立ち去ろうとして、できることがあるのではと気がついた。

魔眼で確認する。

「うん、大丈夫」

わたしは〈穿嵐〉を構え、切っ先を悪魔の杭へと向ける。

魔剣の指し示す場所を〈穿嵐〉で刺す。

悪魔を悪魔たらしめている「嵐」が、一瞬にして枯れ果てる。

――ィィッッ!

杭は、声にならない悲鳴を上げて、黒い霞となって霧散した。

「……よし。何もしないよりは、いいでしょ」

わたしはひとりでうなずき、精霊核の部屋を後にした。

床を切り裂く。

ダンジョンの床は余剰次元の断絶だ。

通常の方法では斬ることはできないが、【次元魔法】を究めれば、その断絶ごと切り裂くことが可能になる。

抜けた床がそのまま下層に落ちる。

地響きが収まりきらないうちに、俺とミトリリアが下層に降り立つ。

あとから、メルヴィがふわふわと降りてくる。

俺は、降りた先にあったものを見て声を上げる。

「おっ。やっとあったな」

そこにあったのは、茶褐色の巨大なクリスタルと、その周囲を覆う岩の殻だ。

直径は4メテルほどで、先だって見た火の精霊核と同じくらいの大きさをしている。

「やっとって……半日もかかってないじゃない」

ミトリリア――金髪赤眼の火竜娘が呆れたように言ってくる。

「そうは言うが、ここまで50層もあったからな。面倒なことこの上なかった」

「わたしらにかかればざっとこんなもんよ!」

メルヴィがリリアに胸を張る。

いや、掘ったの、主に俺だからね。

俺(もちろんエドガー・キュレベルだ) は、地の精霊核に目を向ける。

精霊核には大きな亀裂が入り、そこから地の精霊たちが漏れ出していた。

そこまで見て、ようやく気づく。

「あれ? 悪魔の杭がない」

ここに来るまでに想定していたのは2パターンだ。

精霊核が無事だというパターンと、何者かが精霊核に悪魔の杭を打ち込んでいるパターンだ。

精霊核が壊されているが、しかし悪魔の杭は残っていない。こんなパターンは想定外だった。

「どういうこと?」

メルヴィが聞いてくるが、俺にだってわからない。

「さぁ……悪魔の杭がもう品切れだったとか?」

「それだったら、精霊核を傷つけられないよ。上級悪魔みたいな濃密なカースの塊じゃないと無理だって母さんが言ってた」

俺の適当な推測に、リリアがそうつっこむ。

「じゃあ、こういうのはどうだ? 俺たちの追ってる何者かが、この精霊核にも悪魔の杭を打ち込んだ。だけど、その後に別の何者かが現れて、精霊核に刺さった悪魔の杭を破壊した。でも、その何者かには、精霊核を修復出来るだけのMPがなかったから、そのまま放置せざるをえなかった」

「わたしたち以外の誰かがここに来たってこと? でも、悪魔の杭を破壊できそうなのって、あんたとご主人さま以外じゃエレミアくらいしか思いつかないんだけど」

厳密にはシエルさんもだ。

もっとも、シエルさんは聖剣〈 空間羽握(スペースルーラー) 〉に宿っている。その所有者はエレミアなので同じことだ。

リリアが言う。

「まぁ、手間が省けてよかったじゃん。早く次の精霊核に向かおうよ」

ここに来るまででもわかっていたが、リリアはあまり考えの深い方じゃない。

べつに頭が悪いわけじゃないが、考えるより先に身体が動く方らしい。母であるアグニアは、どっしり構えたいかにもな竜だが、娘の方は若い分だけ行動的だ。

が、実際、ここで考えていてもわかりそうにない。

次の精霊核に向かって、今度こそ敵に先回りするなり、ひょっとしたらいるかもしれないもう一方の当事者に話を聞くなりした方が早いだろう。

「そうだな。ちょっと待っててくれ、この精霊核も治すから」

地の精霊核の傷は、火の精霊核のものよりだいぶ浅い。

精霊核には自己修復能力があるから、放っておいても治るだろう。

とはいえ、治せるのだから治しておくに越したことはない。

俺は精霊核に近づき、MPを大量に注ぎ込んでいく。

精霊核はMPをぐんぐん吸い取り、急速に傷を埋めていく。

今回は、20分ほどで修復が終わった。

「あとは……万一敵が戻ってきた時に備えて、警報装置を置いておくか」

「これね!」

メルヴィが、次元収納からアルフェシアさんお手製の警報装置を取り出し、天上隅の目立たないところに設置した。

「もういい? 次は、風の精霊核でいいの?」

リリアがあくびまじりに聞いてくる。

「いや……悪いけど、ちょっと寄り道をさせてくれないか?」

「寄り道? あんまりかかるようだと、お母さんに怒られるよ?」

「そんな長くはしないからさ」

首を傾げるリリアをそうなだめる。

「それならいいけど……どこに行けばいいわけ?」

「地名はわからないけど、すぐにわかると思う」

「どういうこと?」

リリアの隣でメルヴィもけげんそうにしている。

俺は言う。

「この大陸の、西の果てを見てみたいんだ」