軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

141 俺の嫁がこんなに怪物揃いなわけがない!?

そこで、執務室の扉が勢い良く開く。

「おにーいちゃーん!」

ぶわさっと白い翼を広げて飛び込んできたのは……もちろんアスラだった。

アスラの正確な年齢は不明だが、今の見た目は15,6歳くらい。歳としては小柄な方だ。

真っ黒な長い髪、透けるように白い肌。俺の前世風に仕立てたワンピースがよく似合っている。

「……アスラ」

「ひーまーだーよーう!」

アスラがいーっと歯を剥きながら言った。

あいかわらず、全身でものを言ってくるやつだ。

「フロストバイトはどうだった?」

「空から見ただけだけど、異常なーし! いつもどーり!」

「そうか。ありがとう」

空が飛べるアスラには上空からの偵察を頼んでいたのだ。

が、空振り。

ミスランディアに拠点となる大使館を構えてから1年半が経つが、その間ずっと「異常なーし」だった。

さすがに、アスラじゃなくても飽きもするだろう。

しょうがないので、暇つぶしに、できることはいろいろとやってきた。

たとえば、帝国周辺にあるダンジョンに片っ端から潜ってみたこともある。

あの時は、俺、エレミア、アスラ、ステフの4班に分かれ、それぞれが部下を引き連れて、誰がいちばん多くのダンジョンを攻略できるかを競ったんだった。

ちなみに結果はエレミア1位、ステフ2位、俺3位、アスラ4位。公務のある俺だけ時間的に不利だったからな。ま、寝なくていい分、それくらいのハンデは必要だろう。

この時の競争で帝国周辺のダンジョンは潜り尽くしてしまい、すぐにやることがなくなってしまった。

コンコン、と開きっぱなしの扉を叩く音がした。

そこには、十代後半くらいに見えるダークエルフの美少女が立っている。

相変わらず気配がしない。〈スピリチュアルエルダー〉という気配の察知や「気」の操作に特化したクラスを持つ俺にすら、気配が捉えられないことがある。

言うまでもなくエレミアだ。

「ただいま、エドガー君」

エレミアが淡く微笑んで言った。

エレミアは今年で22歳になるが、ダークエルフの特性で成長がほとんど止まっている。見た目だけなら今の俺とタメくらいだろう。

そして、これも言うまでもないことだが――超絶美少女に育っていた。

さらさらの銀髪と整った顔立ち。紫色の瞳は吸い込まれるようだ。

華奢は相変わらずで、全体的にスレンダーな体型をしている。

胸の大きさを比べるなら、ステフ>>>(越えられない壁)>>>アスラ>エレミア という感じか。

それぞれ美少女(美女)なので小さいからどうしたということではあるのだが。

「……エドガー君? 何か失礼なこと考えてない?」

……勘の鋭さでは群を抜いていることも忘れちゃいけないな。

勘と言うならアスラにも野生の勘のようなものがあるが、エレミアのそれはいわゆる「女の勘」というやつに違いない。

「新都の様子は?」

話をそらすように聞く。

「んー、順調なんじゃないかな? 予定通りの工期で収まると思う」

エレミアは帝国の中央、ソムターン丘陵に建設中の新帝都キュレベルクを見に行っていたのだ。

……キュレベルク。うん、まぁ、俺がエドガー・キュレベルだからつけられた名前だ。やめてくれと言ったのだが、俺に命を救われた百超将軍たちが是非にと言って聞かなかったのだ。最初の案だったエドガーグラードにされるよりはよかったと思うが。

「そっちも順調っと……」

俺はあくびを噛み殺しながら言った。

そういえば最近たまにあくびが出ることがある。【不易不労】で眠くはならないはずだが、人間の身体に染み付いた本能なのだろうか。

「……最近暇だね」

エレミアも同感らしく、そんなことを言ってくる。

「今年の武闘大会はどうする?」

「悪いけど今回もパスだな」

エレミアの言う武闘大会とは、俺が連邦で開催したトーナメント制の大会のことだ。

アルフェシアさんがテレビを開発し、各都市に大きなスクリーンが作られたのを記念して行ったものだ。

結果は、主催者の俺が優勝するという微妙なものとなってしまったが、大会自体は盛り上がった。

なお、準優勝はエレミア、3位はステフ、4位アルフレッド父さん、アスラは参加せず。

いくらなんでもキュレベル勢が強すぎるので、2回目以降は出場を辞退している。俺自身、中原にいて参加が難しい(魔導ヘリを飛ばせばできなくもないが)というのもあるし。

「ものづくりも、俺にできる段階を超えてるしなぁ」

アルフェシアさんに前世の知識で貢献できたのは最初の数年だけだ。今は完全にアルフェシアさんの独壇場になっている。魔導ヘリ、自動車、複葉機、冷蔵庫、エアコン。コンピューターや重工業を必要としない産物についてはこの十年でほとんど開発してしまった。

もっとも、そのすべてが実用化され普及しているわけではない。現状アルフェシアさんにしかできないことが多すぎるからな。

アルフェシアさんの開発意欲は衰えを知らず、今はコンピューターの設計に没頭しているらしい。魔法回路なんかも作れるアルフェシアさんだから実用化はそう遠い未来のことじゃないだろう。

……こうなってみると、魔法神アッティエラがアルフェシアさんを恐れて封印したのもわかる気がする。

アルフェシアさんに好意を寄せていたデヴィッド兄さんも、最近は住む世界が違ったことが身にしみてわかったそうで、イルバラ姫と仲睦まじく暮らしている。

とにかく、ものづくりの分野でも、俺にできることは残っていない。

そんなわけで、最近の俺は帝国の英雄、連邦の特任大使として事務仕事と社交に忙殺される日々を送っている。

「じゃあ、わたしと遊ぼ!」

アスラが机を飛び越えて首に抱きついてくる。

「うわっ、とと……あれ? そういえばナイトはどうした?」

アスラの2つ目の人格だった「ナイト」。

精神疾患による多重人格とは異なり、アスラの場合は元々別人(魔物含む)だったいくつもの人格が無理矢理統合されてしまったことによるものだ。その多くはアスラの人格へと統合されたが、ヴァンパイアとして強い自我を持つナイトだけはその統合に抗った。結果、アスラの中にはナイトという別人の人格が生き残ることになった。

が、この問題は既に解決済みだ。

もちろんアルフェシアさんの仕業である。アルフェシアさんは妖精と同じような外見の「器」を作り出してくれた。この器は、魂を宿さない空の器だ。

この空の器に、ナイトの意識を移植した。前世の科学でも実現は最低でも百年は先とされていたマインドアップローディングだが、妖精を作ることすらできるアルフェシアさんには可能だったらしい。

結果、ナイトは妖精の身体に入り込み、メルヴィが俺に付いているのと同様に、危なっかしいアスラの監督役を務めてくれている。

「いるわよ?」

と、ナイトがアスラのリュックの中から顔を出した。

アスラのリュックは羽の動きを邪魔しないように形状を工夫した特別製だ。アスラが高速で飛ぶとナイトはつかまっていられないので、リュックの中に入ることになっている。

リュックから抜け出したナイトは、黒髪、赤目、蝙蝠状の羽、といういかにもヴァンパイアらしい格好をしていた。妖精の身体なので十年経っても容姿は変わらないままだ。

「お忘れかもしれませんが、私もいますよー」

その声は、エレミアの背中から聞こえてきた。

エレミアが背に負った剣を引き抜いた。

ステフの大剣ほどには大きくない。どちらかといえば細身の、オーソドックスな剣だと言えるだろう。が、この剣が特別でないなどとは口が裂けても言えない。

聖剣〈 空間羽握(スペースルーラー) 〉。今は元の使い手であるアルシェラートさん(シエルさん)の意識が宿っている。

シエルさんについても、意識を妖精に移すことは可能だった。が、その場合制御する意識を失った〈 空間羽握(スペースルーラー) 〉はただの剣に成り下がってしまう。

それはもったいないということで、シエルさんは悩んだすえに〈 空間羽握(スペースルーラー) 〉に残ることを選んだ。エレミアという適合者が見つかったし、妖精の身体に入ったところで、サイズの問題で以前のような戦い方はできないからだ。

その代わりにシエルさんは、自身の剣と魔法の技をエレミアにみっちりと仕込んでくれた。

その中には俺にすら真似の難しい、勇者ならではの技術がたくさんある。

エレミアの元からの才能と相まって、本気で戦えば俺でも危ないかもしれないレベルにまで強くなっている。

「っていうかですねー、いい加減エドガー君は腹をくくるべきだと思うのです」

シエルさんが言う。

「これまではエドガー君がまだ肉体的には若いということで我慢してきました。でも、そろそろエレミアは限界ですよ? アスラちゃんだって、いつまでも兄妹でいられるとは思ってません。その先のステップに進みたいのです。それから、あなたに付いてきて婚期を逃しそうになってるステフさんについても、どう責任を取るつもりなんです?」

「う゛……」

シエルさんの正論に言葉が詰まる。

「ま、わたしはもう、こうなってしまった以上、婚活もできませんし。これはこれで悪く無いかなぁと思えるようになってきましたが……生身の皆さんはそうも行きません」

「で、でも……」

ためらう俺に、アスラが抱きついたまま聞いてくる。

「おにいちゃん……わたしのこと、嫌い?」

「ぐ……」

嫌いじゃない。嫌いじゃないが、正直に言うなら、「可哀想な女の子をチートで助けて奴隷ハーレムにする」という前世のネット小説のテンプレをやりたくない、というのが引っかかっている。そういう出会いを否定するわけじゃないが、十分にお互いを知って、相手への敬意と愛情を育んで……そういう恋愛の果てに結婚するというのならわかる。助けた女の子に対して「俺の女にしてやる! ありがたく思え!」みたいな態度は取りたくない。

ナイトが言う。

「あんた、理想が高すぎるんじゃないの? あんたに惚れてる女の子がいる、あんたもその子たちのことを悪くは思ってない。ここにどんな障害があると言うのかしら?」

ナイトの言葉は一面の真理を突いている。

前世でも恋愛経験なんてろくになかった。だからこそかえって、恋愛に多くを求めてしまっているのかもしれない。

「まぁまぁ、皆さん、坊ちゃまをあまりいじめないであげてください。坊ちゃまなりにいろいろ考えていらっしゃいますから」

ステフがそうとりなしてくれる。

エレミアがそのステフにかみついた。

「ステフさんは本命だからそんなことが言えるんです!」

「ほ、本命? そんなわけないじゃないですか! 本妻はエレミアお嬢様で決まりで、その後をどうするかって話ですぅ」

「えーっ! 待ってよ! わたしも本妻がいいよーっ! アスラはいちばんじゃないとヤダーっ!」

アスラが俺にしがみつく力を強くする。

反対側からは、気配もなくにじりよってきたエレミアがしがみついてくる。

そして、何を思ったのか、俺の頭の後ろから、ステフが思い切り抱きついてくる。

ステフの、この屋敷でいちばんの巨乳が、俺の頭の後ろで潰れている。

その感覚に気を取られていると、それを察したエレミアがナイフを抜き放ち、ステフに向かって斬りかかる。

ステフはこれを余裕でスウェー、背中の大剣を抜き放って迎え撃つ。エレミアも負けじと背中の〈 空間羽握(スペースルーラー) 〉を引き抜いた。

俺の頭の真上で、ステフの大剣と〈 空間羽握(スペースルーラー) 〉が激突、激しい鍔迫り合いが始まった。

「エドガー君はボクのだーーーっ!」

「そんなだから坊ちゃまに逃げられるんですぅーっ!」

「むきーーーーっ!」

ギャンギャンギャンと金属のぶつかり合う音とともに火花が散る。

俺のすぐ頭上で繰り広げられる剣戟に生きた心地がしなかった。

そこに、

「うがーーーーっ!」

と、アスラが吠えた。

キメラの実験体にされたアスラの中には無数の魔物の能力が眠っている。

その中からアスラは竜の雄叫びを使ったようだ。

衝撃波すら伴う竜の咆哮に、ステフとエレミアが吹き飛ばされ、執務室の壁に激突した。

2人とも受け身をとって無事だったが、さすがに頭が冷えたようだ。

「ケンカはダメーーーーっ! って言ってるでしょ!」

アスラが、あのアスラが、まともなことを言っていた。

俺はアスラの頭をよしよしと撫でる。

「案外、アスラちゃんは強敵なのかも……」

「ですねぇ」

エレミアとステフが不満そうにつぶやきながらも剣をそれぞれの背へと戻した。

こんな痴話げんか(物理)が、ここ半年くらいで激しくなった。

18歳になると、俺は前世の基準でも結婚できる年齢になる。

そういう名目で先延ばしにしていたのだが、いよいよその18歳が近づいてきたため、みんなが一様に焦ってきているらしいのだ。

ケンカだけではない。任務の達成でもことあるごとに競争するし、ぶつかりあう。これまで仲良くやってきていたと思うのだが……やっぱりこれは俺のせいなんだろう。

といっても、気持ちの整理がうまくつかない。

エレミアやアスラの傷をそのままで受け止められる自信がない。まして生涯に渡って支えていく自信なんて持てるはずがない。もともと俺は内向的なゲーマーで、人間関係は苦手だし、それが恋愛関係となればなおさらだ。

そして――さっきから一向に片付かない書類仕事。

夜は会食や社交界で、居心地の悪い英雄扱いを受けている。

前線はやる気みなぎる百超将軍たちが問題なく支えているから俺が現場に出る幕もない。

趣味だったスキル上げも、めぼしいスキルやクラスがこの十年の間に軒並みカンストしてしまい、目新しさがなくなってきた。

なんだか…… 疲れた(・・・) な。

いや、【不易不労】で疲れることがないのはわかってるんだけど、この世界に来て以来縁のなかった内勤をすることになって、かなり鬱憤が溜まっているみたいだった。

それでも、【不易不労】のおかげでミスが少なく、処理も早いということで重宝がられ、帝国の事務の手伝いまでさせられている。前世風の文書管理を教えたらいたく感謝されて、なおのこと重宝されることになってしまった。帝国では俺をなんとかしてこの国に取り込みたいと思っているらしく、百超将軍の中で随一の美貌を誇る女騎士や皇室の美姫などとの縁談が次から次へと持ち込まれる。エレミアたちと結婚してしまうのはその意味では煙幕になるかもしれないが、そういう理由で彼女たちと結婚してしまうのは嫌だった。

つまり、頑張れば頑張るほど仕事が増えるし、各方面からのプレッシャーがかかってくるという状況なのだ。そりゃ、最初はちょっと嬉しい悲鳴みたいなところはあったけど、今となってはただひたすら面倒くさいだけになってしまっていた。よくしてくれるみんなには申し訳ないのだが、申し訳ないと思うことで、下手に愚痴をこぼすこともできなくなってしまった。

かなり……抱え込んじまってる感じだな。

憂鬱にとらわれた俺は、きゃいきゃいはしゃぐ女子陣の話から置いていかれる。

俺はただぼんやりと、窓の外に広がる異国の街並みをながめていた。