軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編:幽霊13

「アリエス様、大変です! 政務官のっ、えっと……バウアー様が亡くなったそうです!」

ジークが資料室にふらりとやってきてから二日後の朝。

朝食を持ったユッタが部屋に入ってくるなり叫ぶように教えてくれた。

「……それは残念ね」

「は、はい。そうですね……」

ゆっくりアリエスが答えると、ユッタは騒ぎすぎたことを恥じたようにしゅんとした。

アリエスとしては予想していたことなので、いつもと変わらぬ態度なだけである。

「バウアーさんは、どこで亡くなったの?」

「それが、体調が悪くて医務局で休んでいらしたのに、いつの間にかあの執務室で暴れてたところを発見されたそうです!」

「あの執務室って、幽霊騒動のあった部屋?」

「そうなんですよ! しかも急に倒れて、あの自殺した政務官の名前を呼びながら息を引き取ったとか。ですから、みんな幽霊の呪いだって言ってます!」

アリエスが詳しく訊くと、ユッタはすぐに調子を取り戻したようだ。

こんな大事件はないとばかりに、嬉々として答えてくれる。

アリエスはその話を聞きながら、いったいどうやってバウアーは医務局を抜け出したのだろうと考えていた。

ジークが二日前に言っていた通り、バウアーは怪我人のふりをした騎士の監視下に置かれ、ヘベノン中毒の治療を受けていたのである。

「結局、その方はどうして亡くなったのかしら? 過労?」

「ええ? やっぱり呪いですよお。だって、自殺した政務官の名前を呼びながら亡くなったんですよ? ひょっとして幽霊に襲われたのかも」

「それなら法務官の方たちがその幽霊を捕まえてくれるんじゃないかしら?」

「幽霊って捕まえられるんですか?」

「さあ? でも幽霊が生きている人間を襲えるなら、生きている人間が幽霊を捕まえることもできないとおかしいでしょう?」

「確かに……?」

「それにしても、また封鎖されている部屋に入られるなんて、衛兵は何をしていたのかしらね」

「耳の痛い話ですね」

アリエスが現実的な死因について考えても、ユッタは幽霊から離れようとしない。

適当に答えていると気まずそうな声が割り込み、ユッタは小さく悲鳴を上げた。

開け放たれたままの部屋の入口に衛兵隊長のガイウスが立っていたのだ。

その背後には興味津々な他の使用人たちの顔も見える。

アリエスはガイウスの存在に気付いていたので嫌みを言ったのだが、まったく堪えていないらしい。

嫌な予感しかしないアリエスに、ガイウスはにっこり笑いかけた。

「バウアー人事官が亡くなったのはもうお聞きになったようですので、説明は省きますね。一緒に来ていただけますか?」

「お断りいたします」

「そうですか? そういえば、近衛騎士の宿舎内での――」

「わかりました。同行しましょう」

後で話を聞けばいいと思っていたのにと、アリエスは内心で舌打ちした。

周囲の者たちはわっと喜んでいる。

おそらく 誰(・) か(・) がアリエスに、バウアーの死因について調べさせろとでも言ったのだろう。

「ユッタ、その食事は後で食べるから置いていてね。フロリスは先に資料室に行ってくれるかしら?」

「そ、それなら、お食事はまた後でお持ちします!」

「いいのよ。もったいないから」

まだ食事も終わっていないのだと強調してみても、ガイウスは気にしていない。

だがこれくらいでないと、今の立場でやっていけないのは間違いなかった。

心配するフロリスに大丈夫だと頷いてみせ、アリエスはこれ見よがしにため息を吐いて部屋を出た。

ユッタは食事について気遣ってくれたが、後で話を聞けるとばかりに喜んでいる。

「使用人でしたらともかく、政務官の死亡事故現場に私を呼ぶようよう命じたのは誰ですか?」

「私は上からの命令に従っているだけですよ。ほら、私は使用人棟の衛兵ですからね」

「建前は大切ですよね」

二人とも白けた気分で話をしながら廊下を進めば、すれ違う者たちは皆が期待した視線を向けてくる。

アリエス・クローヤル女史としてはずいぶん目立つようになってしまったなと、アリエスは今後の活動について考えた。

女官としてこれだけ知名度が上がれば別の意味で動きやすくなるだろう。

しかし、弊害も多くある。

とにかくメイド姿だけは目立たないようにしなければならない。

アリエスは気持ちを切り替えて、バウアーの死亡現場に向かった。

「ずいぶん楽しそうですね」

「あら、顔に出ていました?」

「いいえ。相変わらず冷めた表情に見えますが、足取りが軽いようでしたので」

「……ガイウスさんは、この仕事に就いてどれくらいになるのですか?」

「かれこれ五年くらいですかね」

「そうですか」

他愛ない会話をしているうちに、タイザム卿の執務室にたどり着いた。

部屋の周囲にはまた多くの政務官や使用人たちがうろうろしており、アリエスを認めた瞬間、皆が顔を輝かせる。

しかし、アリエスはそこにジークの姿を認めて、盛大に顔をしかめたのだった。