軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

果実と文献

「エリー様、珈琲をお持ちしました」

「ありがとう、ミレイ」

私はミレイが煎れてくれた珈琲を受け取った。

帝国は、私達がダンジョンから戻って直ぐに薬師や錬金術師を動員して解毒薬の調合を開始した。

そして約束通り、私やエルザはユウが調合した解毒薬をいち早く受け取る事が出来たのだ。

ミレイやルノアが復調する頃には、他の患者にも解毒薬が行き渡り、調査の結果として例のキングポイズンスライムの変異種の件も公表された。

状況から考えると、あのキングポイズンスライムもティーダが遭遇した蠍とやらの仕業の可能性が高い。

一般には公表されていないが、帝国の上層部は帝都を狙った他国からのテロでは無いか、と調べを進めているらしい。

私も個人的に人を雇って調べさせているが、今のところ、特に情報は入っていなかった。

ティーダはダンジョンから出た後、そのままドルドの町に残った。

帝都に戻れば帝国から褒賞くらい出ると言ったのだが、『いやいやいや!公の場はこま……じゃなくて、女神様の下僕として当然の事をしたまでッス!

報酬は十分に貰ったッス!

ですから私の事は内密に!くれぐれも!

私、奥ゆかしい美少女シスターッスから!』

と、怪しさ満点の遠慮をするので冒険者ギルドで別れて来た。

例の《光の道》に頼んでいたギガンテスの素材の売却が終わってお金を受け取ってから帝都に戻ると言っていた。

「そう言えばルノアから手紙が届いています」

「そう、変わりはない?」

「はい、久しぶりに家族でゆっくりと過ごしている様です」

ルノアは体調が回復した後、休暇を与えてレブリック伯爵領へ送った。

しばらくは両親の下で休ませるつもりだ。

「あっ!」

ミレイと取り留めのない話をしながらページを繰っていた私は、目的の物を発見して手を止めた。

朝から調べていたのは【 傲慢の魔導書(グリモア・ルシフェル) 】に記録されていたハルドリア王国に保管されていた古文書だ。

ダンジョンで見つけたカカオと言う木の実は、何処かで見た事があると思っていたのだが、この古文書で見たのだ。

「エリー様が持ち帰った果実の利用法ですか?」

「ええ、なるほど。どうやら乾燥と発酵をして、更に砂糖やバターを加える事で菓子に出来るみたいね」

「菓子ですか?」

「ええ、古王国の貴族のお抱え料理人のレシピが残っているわ。

とても人気がある菓子らしいわね。

それにクッキーやケーキを始め、様々な用途に使えるみたい」

「それは……上手くすればかなりの利益が見込めますね」

「ええ、先ずは試作よ。

それと、ドルドの町の冒険者ギルドへ連絡して、《光の道》ってパーティに私の名前で指名依頼を出して頂戴。

秘密厳守を魔法契約で。

ダンジョン内の作物なんかは直ぐに繁殖するから枯渇はしないでしょうけど、私達の商会が軌道に乗せるまでは模倣させないように」

「畏まりました。

ギルドへの依頼と口の堅い料理人を集めます」

「お願いね。

それから喫茶分野に明るい人材も探して頂戴。

スイーツとして確立出来れば、それを武器に軽食の店舗として展開出来るかも知れないわ」

「はい、早急に手配致します」

◇◆☆◆◇

炎の様に赤い髪をポニーテールに纏めた若い少女が右手に手にしたマイクを口元に寄せて台詞を読み上げる。

『この時、当時の帝国では、まだ事の全貌は謎に包まれていました。

しかし、この事件が後に多くの国々を巻き込む大事件の始まりとなったのです』

赤毛の少女が左手をビシッと突き出し決めポーズを取る。

『《実録!歴史ヒストリー》来週も見てください』

赤毛の少女の顔がアップになり、ウインクをする。

「…………はい!オッケーです。お疲れ様、アカリちゃん」

「お疲れ様です」

「いや〜今回も良かったよ」

「ありがとうございます」

「次も宜しくね」

「はい、お疲れ様です」

「お疲れ〜」

スタッフに挨拶を済ませたアカリはマネージャーのマリーからコートを受け取り楽屋へと戻る。

最近売り出し中の新人アイドルであるアカリにとって、この仕事は初めてのメインリポーターと言う大事な仕事だった。

それも公国の公共放送のゴールデンタイムの新番組だ。

絶対に成功させるぞ、と気合を入れて撮影に臨んでいた。

その撮影も終わり、ディレクターの反応も好感触だ。

「ふ〜」

「お疲れ、アカリちゃん」

「マリーさん、ありがとう」

マリーからお茶を受け取るとアカリのお腹から、くぅ〜と小さな音が鳴った。

恥ずかしげに頬を染めるアカリにマリーは微笑みを浮かべる。

「朝からずっと撮影だったからね。

夕食前だけど、帰りに軽く何か食べる?」

「良いんですか?」

「ええ、今日の成功を祝って……そうね、《グリモアール》にでも行きましょうか」

「やった!新作のチョコレートケーキが美味しいって友達が言ってたんです!」

「ふふ、なら早く着替えなさい」

「は〜い!」

アカリは老舗の喫茶店の新作ケーキを思い描きながら、いそいそと着替えを始めるのだった。