軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迷宮と大鎌①

「薄情者〜!!」

ティーダの叫びが薄暗い通路に木霊した。

その声を背中に受けながらエリー達の姿は15階層への階段がある通路の先へと消えていった。

「はぁ〜、本当に置いていかれたッスね」

やれやれと、深く息を吐き出す。

そこに殺到するレイスの群れ。

高位アンデッドであるレイスによる生命力の吸収は屈強な大男ですら枯れ木のように変えてしまうほどの恐ろしい攻撃だ。

それを繰り出すレイスの手が津波のようにティーダに迫る。

「…………【 浄滅(バニッシュ) 】」

小さな呟き。

詠唱すらなく発動した強力な光属性魔法による聖なる光が広間を満たすと、怨嗟の声を振り撒き、生者を仲間へと引き込もうとするレイスや怨念に取り憑かれたリビングアーマー、不浄なるリビングデッドなど、数多のアンデッドは瞬く間に浄化され、塵1つ残さず消え去った。

アンデッドの姿が消え去った静謐な空気の中、それでもティーダはいつもの緩んだ雰囲気を微塵も感じさせることなく、広間の柱の1つを睨みつける。

「そこの人、そろそろ出てきたらどうッスか?」

ティーダが声を掛けると、少しの間を置いて柱の裏から人影が姿を現した。

体付きから女であることは分かるが、フードを被っており、顔立ちは分からない。

「…………いつから気付いていたの?」

「10階層からずっと私達を尾けていたッスよね。多分みんな気付いていたッスよ」

「……そう、私もまだまだね」

「それで?あんたは何者ッスか?

ダンジョンの魔物の異常はあんたの仕業ッスよね?」

「さぁ、どうかしら?」

「まぁ、素直に答えてもらえるとは思ってないッスよ。おおかた雇われの死霊術師ってとこッスかね?誰に雇われたんッスか?」

「さぁ?」

「はぁ〜、言うわけないッスよね。

先月叩きのめした生臭神官ッスか?

それとも去年潰した邪教団の生き残りッスか?」

「…………何言ってるの?」

「ん?私が成敗した奴の依頼で狙ってきたんじゃないんッスか?

あ、それともあのクソ親父の関係ッスか?それなら私は無関係ッスよ?

文句なら直接あのクソ親父に言ってほしいッス」

「何を言っているのか分からないわね。

とにかく、私の邪魔をするなら排除させてもらうわよ、シスター」

「え?」

女の答えにティーダは目を丸くする。

「私を狙った刺客じゃないんッスか⁉︎」

「貴女は無関係ね。邪魔をしないでほしいわ」

「……………………あ〜、じ、じゃあ、お互い何も無かったってことで1つ」

「悪いけど、姿を見られたからには生きて返すわけにはいかないわ。分かるでしょ?」

「そうッスよね〜」

ガックリと項垂れるティーダの足下の地面を割って腕が伸びる。

「おっと⁉︎」

ティーダが咄嗟に後ろに跳ぶと、地面から次々とリビングデッドが這い出てきた。

「逃げられないわよ」

女が腕を振ると更にレイスまで現れる。

「またワラワラと……これだから死霊術師は……」

「愚痴を言うなんて、随分と余裕じゃない」

「そりゃあ余裕ッスよ。私は女神様の御加護が半端無いッスからね。

アンデッドがいくら束になっても私には勝てないッスよ。相性が悪かったッスね」

「…………殺しなさい!!」

女が指示を出すとアンデッドは一斉にティーダに襲いかかる。

だが視界を埋め尽くすほどの不死者の群れを前にしてもティーダには一切の焦りは見えなかった。

「だから無駄ッスよ。アンデッドでは私には勝てないッス【 浄滅(バニッシュ) 】」

今日3度目の上級魔法だが、ティーダには疲労の様子は無く、魔法も正常に発動し、目の前のアンデッドの壁を消し去った。

そして…………。

「な⁉︎」

アンデッドの壁の向こう側。

消え去ったアンデッドの背後には更なる敵が控えていた。

不死者共を隠れ蓑にティーダに迫っていたのは鋭く光る剣や槍を構えた醜い悪鬼。

ホブゴブリンだった。

人間の子供ほどの背丈しかないゴブリンとは違う。

大人と遜色ない大柄な体格に、生まれ持った筋肉質な体を持つ魔物だ。

しかもその手に持つ武器はその辺のホブゴブリンが持つ略奪品などとは違った。

錆や罅などは無く、手入れも行き届いている。

更にホブゴブリン共はお互いに死角をカバーし、連携を取ってティーダに迫る。

明らかに訓練された動きだった。

ホブゴブリンの剣が、槍が、ティーダの修道服を突き破り肉を裂く。

鮮血が舞い、僅かな暇にティーダの足下に血溜まりを作り出した。

「ぐぅ……あ、あんた……し、死霊術師じゃ……ない……ごはっ、も、 魔物使い(モンスターテイマー) ……ッスか?」

「ご名答、正確には死霊術師であり、魔物使い。

私は『蠍』、人形使いの蠍よ」

そう言って女はフードを取ってみせた。

褐色の肌に金の瞳、そして緩くウェーブの掛かった黒髪を持つ若い女だった。

「さようなら、名も知らぬシスターさん」

蠍がティーダから視線を外してエリー達が向かった方へ足を向けた時、空を裂くような鋭い音が鳴る。

「『ティーダ』ッスよ」

「え?」

「イブリス教、大神殿所属、ティルダニア・ノーチラス。

ティーダって呼んでくれて良いッス」

蠍はホブゴブリンに串刺しにされたティーダの方を振り向く。

あれだけの傷を負って平然と話せるはずがない。

ならば何故……。

蠍の視線がホブゴブリンの体の間からティーダの瞳を捉えた瞬間、ホブゴブリンの体が崩れ落ちた。

いや、それは正確な表現ではない。

正確にはホブゴブリンの上半身が崩れ落ちたのだ。

胴体を鋭利な刃物で切断され、上半身のみが地に落ちた。

それを成したのは大鎌。

修道服が裂け、血が滲む。

しかし、 そ(・) の(・) 肌(・) に(・) は(・) 傷(・) 1(・) つ(・) 無(・) い(・) ティーダが手にしていた、柄から刃に至るまで全てが純白の大鎌だった。

「神器【 神の恵みを刈り取る刃(ハーベスト) 】」