軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

辺境からの帰還者②

「ロベルト様、今何か……きゃぁあああ!!!」

部屋に顔をのぞかせたメイドが妹を突き殺したロベルトを見て悲鳴を上げる。

「ち、ちがっ!僕は……」

戸惑うロベルトの声とは裏腹に、その体は滑るように地を駆けメイドに迫ると一閃。

ロベルトが姉のように思っていたメイドの首が宙を舞い、赤い鮮血を撒き散らした。

「うぁああ!!!!」

妹とメイドを手に掛けたロベルトはそのまま部屋を出て走る。

もはや自分の体を御することなどできなかった。

すれ違う使用人達を次々と斬り殺しながらロベルトは走る。

「なんで……どうして……違う……僕じゃない……」

幼少の頃から知っている使用人達を自らの手で斬りながらブツブツと呟くロベルトの前に新たな人物が現れる。

「何の騒ぎですか?」

「母上ぇええ!!!」

「え⁉︎ロベルどぉあ!」

母の右肩から入った刃が左の脇腹へと抜ける光景がスローモーションのように映りロベルトの網膜に刻まれる。

「あぁ……あぁああ!!!なんだよ!なんなんだよ⁉︎コレはぁあ!!」

尚もロベルトの足は止まらない。

屋敷の門を出ると血塗れの剣を引き摺りながら歩き出す。

アーティ伯爵家は代々近衛騎士を輩出する高位貴族である。

しかしその家柄故、屋敷は貴族街ではなく、王都の端、外周にある騎士団の訓練施設に近い場所にあった。

つまり、少し歩くだけで多くの市民で賑わう市場に着いてしまう。

「ふぅはっはっは!!この国は私が頂いた!」

「きゃあ~、フリードさま」

「魔女エリザベート!お前の好きにはさせないぞ!このフリード王子の剣を受けてみよ!」

布切れをマントのように羽織った少年が棒切れを持って少女を背に庇うと、エリザベート役の少年と対峙していた。

「あらあら、なぁにアレ?」

「あら奥さんは最近まで実家に帰っていたから知らないのね。

最近子供達の間で流行っているのよ。

なんでも国を乗っ取ろうとしていた魔女をフリード殿下とシルビア様が協力して追い払ったのですって」

「そうなの?

エリザベート様ってあの公爵家のお嬢様よね。

確か私達平民のために色々としてくれていた貴族様じゃないの?」

「それが裏では酷いことをやっていたらしいわよ。次期王妃様の立場を使って揉み消していたのだけれど、シルビア様が気付いて糾弾したんですって」

「まぁ!」

「そうしたら今度はシルビア様のお命を狙ってきたらしいけどね」

「酷いわね」

「でもフリード殿下がシルビア様を守り、2人で魔女に打ち勝ったそうよ」

「素敵ねぇ」

チャンバラが佳境に入った子供たちを見ながら噂話に花を咲かせる主婦。

いつも通りの光景であり、この後は子供を連れ帰り、旦那が仕事から帰るまでに夕飯の準備をするはずだった。

しかし、その日常は一瞬にして赤く染まる。

3人で遊んでいた子供達から、目を離したのはほんの瞬きの間。

その僅かな間に子供達は胴体から上を斬り飛ばされた。

「「え?」」

目を丸くする2人の主婦。

気付くと目の前に涙を流しながら笑う不気味な男が剣を振り上げていた。

「あ……」

男が剣を振り下ろすと主婦は何の抵抗もできずに血飛沫を上げながら倒れる。

「ひっ!い、いや……」

もう1人の主婦はあまりの恐怖に尻餅をつき這いずるように退がる。

「…………違う……ひっひっ、僕じゃない……あは、そうだよ……僕がこんなことを……するはずがない……あは……あははははは!!!」

男は狂ったように笑いながら後ずさる主婦の腹に剣を突き立てた。

「いやぁああ!!!」

「あっはっはっは!!!」

昼間の市場、多くの市民でごった返す中に狂ったように泣き笑うロベルトが飛び込み、手当たり次第に人々を斬り殺し始め、駆けつけてきた騎士団に取り押さえられる頃には市場は戦場もかくや、と言うほどの血の海と化していた。

◆◇★◇◆

「随分な騒ぎになったな」

ハルドリア王国の王城にある会議室の1つに疲労感を多分に含んだ溜息が漏れる。

「下手人はアーネスト卿の御子息だったか」

「奥方や御令嬢も被害に遭ったとか」

「不憫には思うがコレほどの惨事となるとな」

声を落としているがその言葉は静かな室内によく響いていた。

そして部屋の端に1人立つアーネストは、血が滲むほど強く拳を握り、顔を蒼白にさせながら俯いていた。

「静粛に!」

宰相を務めるレイストン公爵が言うと、部屋はすぐさま静まり返る。

そして最も上位の席に座っていたブラート王が重い口を開いた。

「ジークよ、最終的な被害はどれくらいだ?」

「はい、死者はアーネスト卿のご家族と使用人が数名、市井の民が105名、兵士が21名、騎士が2名。

その他重軽傷者が多数出ております」

「なまじ騎士としての英才教育が仇となったか」

「はい、アーネスト卿の御子息は武芸に秀でておりました。エリザベートが居なければ50年に1人の天才剣士として謳われていたでしょう」

「うむ……原因は分かったのか?」

「いえ……聴取によると『自分じゃない』『こんなことをするはずがない』と呟いているそうです。

話を聞こうにも支離滅裂でして……医者の話によりますと、事件の前から記憶の欠落が見えており、戦場帰り故の精神障害ではないか、とのことです」

「そうか……まだ若い彼奴には戦場は過酷であったか」

ブラート王は瞑目すると、大きく溜息を吐き出した後、鋭い視線をアーネストに向けた。

「アーネストよ。お前は若い頃から戦場を共にした親友だ。

これまで上げた数々の戦功もある。

できることなら恩情を与えたいが…………」

「難しいですね。

民にも多くの被害が出ております。

コレを断じなければ王家への不信に繋がりかねません」

「……そういうわけだ。済まぬ、アーネスト」

「いえ、陛下のご配慮、この身に余る光栄にございます。此度のことは、我が愚息がしでかしたこと。

その責は愚息と、この私にあります。

何とぞ、厳正な処罰を願います」

「…………うむ、では決を下す!ロベルト・アーティはA級殺人の罪により死罪とする!

また、A級殺人は王国法により連座制が適用されることになるが、アーネスト卿の長年の忠義、戦功を考慮し、近衛騎士団長の職の解任、男爵への降爵の上、ルミア砦への異動を命じる」

「陛下!」

その判決にアーネストが食い下がろうとするが、ブラート王は静かに首をふる。

「お前が責任を感じていることはよく分かっている。

だが、お前ほどの忠臣を今失うことは避けたいのだ」

「しかし!」

アーネストは一歩踏み出そうとするがよろけて膝をついてしまった。

「アーネスト、ろくに眠っていないのだろう。退がって休め」

「…………陛下」

「誰ぞ!アーネストを医務室へ連れていけ」

侍女達に連れられてアーネストが退室した後、ブラート王は宰相に指示を出す。

「ジーク、アーネストに誰か付けておけ。あのままでは自害でもしかねん」

「畏まりました」