軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

辺境の砦奪還戦④

エルザが居る辺りを目指して走る私の視界の端に大きな火柱が見えた。

多分ルーカス様の魔法だろう。

ルーカス様は父であった前レブリック男爵が急死したため、若くして家督を継承することになったが、それまでは帝国の魔法騎士団に所属していたと聞いたことがある。

火属性の魔法適性を持つ実力者だ。

歴戦の戦士であるドレッグも付いているので心配は無い。

「な、なんだお前は!止まれがばぁ⁉︎」

私を見咎め制止しようとした兵士をすれ違い様に斬り、砦を回り込み開けた場所に出た。

そこではエルザが30人ほどの傭兵に囲まれていた。

戦況は拮抗、いやエルザが少し押しているか。

「神器【 暴食の魔導書(グリモア・ベルゼブブ) 】」

私が【暴食の魔導書】を生成すると、その魔力を察したのか、こちらに近い傭兵が私に気付き『新手だ!』と声を上げる。

「【 風刃(エア・カッター) 】【 岩棘(ロック・ニードル) 】【 炎弾(フレイム・バレット) 】」

【暴食の魔導書】の能力を使い3つの魔法を同時に発動させる。

エルザに気を取られていた傭兵達は、私の魔法に対する反応が一瞬遅れた。

風の刃は盾で受け止められたが、人の頭ほどもある炎が数人の傭兵を3メートル以上吹き飛ばし、地面から突き出た岩の棘が1人の傭兵を革鎧ごと貫く。

「複数の属性魔法を同時に⁉︎」

「どうなっている!」

「神器の能力か?」

「くそ!新手も神器使いだ!」

傭兵達に動揺が広がる。

この隙に殲滅しましょう。

「【 炎槍(フレイム・ランス) 】」

「狼狽えるな!!!」

浮き足立つ傭兵に燃え盛る炎でできた槍を放つが、飛び出してきた顔に大きな傷が走る傭兵が【 炎槍(フレイム・ランス) 】を剣で打ち払った。

「慌てるな、状況D!

撤退する!ガトー隊は俺と殿だ!」

リーダーらしき男が叫ぶと、傭兵達は直ぐに冷静さを取り戻し、まるで1つの生き物のように滑らかに陣形を変えた。

サージャス王国軍よりも遥かに練度が高いわね。

「エルザさん!」

「わかっている!」

私はリーダーの相手をエルザに任せ、背後に跳び魔法を放とうと【暴食の魔導書】に魔力を込める。

しかし、傭兵のリーダーは共に殿として残った傭兵の援護を受けてエルザを抜け、私に迫っていた。

「む……」

「ふん!」

リーダーが突き出した剣を躱した私はフリューゲルを振るいリーダーの胴を薙ぐ。

しかしリーダーは鎧で受けたり盾で防ごうとはせず、剣で打ち払おうとする。

「⁉︎」

私はフリューゲルをピタリと止め、右足を軸に半回転。

リーダーの剣を左腕の小手で受け止めた。

「その反応、やはりその剣は 叙事詩級(エピック) の魔法武器『 翼を持つ者(フリューゲル) 』か!何処ぞの国の宝物庫に納めらていると噂で聞いていたのだが……まさかこんな所でお目にかかれるとはな!」

そう言いながらもリーダーは休む事なく剣を振るい、私はそれを左腕の小手で受け続けている。

確かにコレはフリューゲルへの対処としては正しい。

最適解と言える。

伝承によれば、フリューゲルはスカイドラゴンの牙を極限まで研ぎ上げて作られたと言われている。

透けるほど薄く研ぎ上げられた刃はミスリルすら抵抗なく両断できる斬れ味を持つ反面、その耐久性は皆無と言って良い。

衝撃を受けるどころか、無理な軌道で振るっただけで、その刃は砕け散る。

刃と同様にスカイドラゴンの素材で作られた鞘に納めておけば、砕けた刃は再生するが、それなりの時間が掛かる。

つまり、この剣は敵の攻撃を受け止めることはおろか。受け流すことすらできないのだ。

傭兵のリーダーはその伝承を知っていたらしく、執拗に刀身を狙ってくる。

エルザの方をみれば、殿になった傭兵達を数名倒しているが、その捨て身も辞さない攻撃に足止めされてしまっている。

「お前さんほどの冒険者が、噂すら聞いたことが無いってのはいったいどういうわけだ?」

「私は冒険者ではなく商人ですわ」

嵐のような剣戟を休み無く繰り出しながら問うリーダーに律儀に返答を返してやりながら、私は魔法を使う隙を狙う。

しかし、それよりも早く笛の音が聞こえてきた。

「ようやくか……」

リーダーが呟くと小さな球を取り出して、投げ捨てながら背後に跳んだ。

瞬間、小さな球が眩い閃光を放ち私の視界を潰した。

使い捨ての目眩しのマジックアイテムか!

咄嗟に退がり攻撃に備えるが、リーダーからの追撃は無かった。

まだチカチカと閃光の余韻が残る視界に、一目散に逃げるリーダーと生き残った殿の傭兵の姿があった。

どうやらエルザも同じマジックアイテムを使われたみたいね。

離れたところで集まっていた傭兵達は、彼らとは違う上等な鎧を装備した青年と、その護衛らしき者達と共にリーダーと殿として残った仲間を待っていた。

「アイツは!」

私はその青年に見覚えがあった。

サージャス王国の王子グリント・サージャスだ。

「エルザさん!」

「ああ!」

私とエルザは傭兵達へ向かって駆け出した。

犠牲を出してまで時間を稼いだのに逃げずにリーダーを待っていた。

それも大将だと思われる王子を連れて。

つまり、此処から一気に逃げる用意があるに違いない。

リーダーが懐から複雑な魔法陣が描かれた羊皮紙を取り出し広げる。

魔法が封印された古代の遺物、マジックスクロールだ。

「 解放(リリース) 【 転移(ゲート) 】」

リーダーが叫ぶと傭兵や王子達の姿は一瞬で掻き消え、その場には20人以上の人数が消失した静寂だけが残されていた。