作品タイトル不明
覚悟
ジーク宰相に率いられていたハルドリア王国軍の精鋭と共に戦線から離脱した僕達は、丸1日を掛けて撤退を続け帝国軍の勢力圏から抜け出す事が出来た。
此処はまだ帝国国内だが、帝国軍が拠点とするレクセリン砦からの距離や地形的な重要度などの観点から考えて、監視や警戒の範囲外だと判断できる。
一先ずは逃げ切ったと言って良いだろう。
「今日は此処で休息としよう。念の為火は使わないようにしてくれ。
日の出と共に出発すれば何とか国境に布陣する友軍と合流出来るだろう。明日は強行軍になる。
体を温める事は出来ないがしっかりと休んでくれ」
僕の指示を聞いた騎士や兵士達は木の影や草叢に身を隠しながら休息を取り始めた。
暗い木陰で冷たい地面に身を横たえての休息だ。
当然まともな休息など取れないだろうが、帝国から出るまでは油断は出来ない。
「アデル陛下」
僕も同じ様に休もうとするが、その前に声を掛けられた。
振り向けばオルトとフロンテが僕の前に跪き頭を差し出した。
「アデル陛下。先刻の命令違反の件、弁解のしようも有りません」
「我ら2人、どの様な罰も受ける覚悟です。どうか御裁可を」
先刻の命令違反……エリザベート姉様、今はエリー姉様か。
エリー姉様への攻撃を禁じると言う命令を無視して僕とエリー姉様の間に割って入ったことだろう。
「…………その件なら不問だよ。アレは僕の失策だ」
そう、僕は甘かった。
口では覚悟が何だと言ってはいても、エリー姉様との交渉が決裂して動揺したのだ。
そもそも初めから僕はツメが甘かった。
最初にエイワスを送り、エリー姉様と交渉しようとした時点でフリードを拘束しておくべきだった。
父上がフリードに加勢すると決定した時に力ずくでも止めるべきだったのだ。
僕は甘かったのだ。
エリー姉様には覚悟が有った。
自らの邪魔をするならば、僕を迷い無く殺す覚悟が。
「今、僕が捕まったら王国の民にも多くの被害が出るかも知れない。
それを防ぐには今回の侵攻の上層部、特にブラートとフリードの2人の身柄の確保は絶対条件だ。
出来る事ならジークも確保したかったが、エリー姉様に先を越されてしまった。
もう、甘い事は言ってられないよ」
「アデル陛下……」
「民の為にももう失敗は出来ない。
ブラートとフリードの身柄は確実に僕が確保する。
エリー姉様とかち合う可能性も高いが、これだけは譲れない」
あの2人を確保するのはこの戦争から民を守る為に必要なことだ。
「もしそれでエリー姉様と敵対すると言うのなら…………」
その時は、僕はエリー姉様を殺す。