作品タイトル不明
大戦⑧
「ハルドリア王国の先鋒はほぼ壊滅、ひとまずは我々の勝利だろう」
オーキスト殿下の宣言で会議室の中に静かな歓声が上がった。
「はっはっは、ハルドリアの弱兵共は全く手応えが有りませんでしたな」
「しかり、噂に聞くブラート王の兵とはこの程度だったのでしょうか?」
ん、少々不味い方に意識が向かっている者も居るわね。
「皆、気を緩めるのは早計だ」
私と同じ事を考えたのか、オーキスト殿下も静かだがしっかりと浮き足立つ士官達を嗜めた。
「確かに騎兵が敵の前線指揮官を討ってからは一方的な戦運びだったが、戦上手として名高いブラート王の采配にしてはお粗末だと思う。
その辺りについて、ブラート王の戦略に詳しいエリー義勇軍団長に尋ねたい」
オーキスト殿下に水を向けられた私は、立ち上がると一礼し、口を開く。
「先ず始めにお伝えしたいのは、あの先鋒を務めた軍勢はブラート王が鍛えた軍では有りません。
どうやら王太子フリード・ハルドリアが攻め込んで来たのは彼の暴走だった様です。
その後、ブラート王はフリード王太子の行動に便乗し、帝国との戦を始めました。
今回、先鋒に回されたのはフリード王太子に加担した貴族や属国の軍や私兵、傭兵です」
「ふむ、確かな情報かい?」
「はい」
「情報源を聞いても?」
「初戦時に敵軍に間者を送り込みました。
その間者からの報告と、私が個人的に王都に置いている人間からの報告です」
「なるほど、了解した。
では今後、ブラート王はどう動く?」
「正規軍で以てレクセリン砦に攻め寄せるでしょう。
そして、それと同時に精鋭部隊による迂回戦術を執る物と思われます」
「具体的には?」
「物資輸送の部隊への襲撃と後方の街道の封鎖によるレクセリン砦の孤立です」
私の発言に一同はより一層空気を重くした。
「あのブラート王がその様な搦め手を執るでしょうか?」
1人が発言の許可を取るとそう尋ねた。
確か、北方に領地を持つ伯爵だっか。
「ブラート王はその武名のお陰で正々堂々、正面からのぶつかり合いを好む様に思われておりますし、事実彼の性格はその通りです。
しかし、今回ほどの戦ならば、宰相のジーク・レイストンが同道している筈です。
ジーク宰相は常に効率を重視し、味方の損害を抑え、敵にダメージを与える様に策を練ります。
そして、ブラート王は臣下の献策に耳を貸す度量も有ります」
「成程、貴重な意見を聞かせて貰った」
オーキスト殿下は頷き、私は静かに頭を下げてから席に坐り直す。
「では、王国の搦め手を想定し、対策を話し合いたいと思う。」
◇◆☆◆◇
「おそらく帝国は我々が搦め手に出ると想定し対策を練ってくるだろうな」
「ええ、エリザベートが向こうに居るならば当然そう読むでしょう」
「アデルの動きも予想できん。此処で時間を食う訳にはいかぬ」
「では……」
「うむ、帝国がどんな策を練ろうともそのまま食い破ってくれよう」
ブラート王の言葉に王国の軍人達は歓声を上げた。
「帝国に浸透する部隊はファーマー将軍に任せる。
俺の直率以外なら好きに編成せよ」
「はっ!」
ファーマー将軍が部隊の編成の為、退室したのをきっかけに軍議は終わり、部屋にはブラート王とジークが残っていた。
「これで良かったのか?」
「はい、エリザベートならば初戦でこちらの軍に間者を紛れ込ませているでしょう。
間者が紛れているならば味方ごと騙すしか有りません。
こちらから送った間者は全て弾かれてしまいましたしね」
「仕方なかろう。こちらは軍を展開しているが、向こうは砦に篭っているのだ。間者は厳しくチェックされているに決まっている。愚息が不用意に影を送り込んだ事もあり警戒は強まっているだろう」
「そうですね」
ブラート王とジークは周囲を警戒しながら対策を話し合うのだった。