軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開戦③

アルバ・ファーノルドは帝国の端にあるファーノルド男爵家の嫡男である。

貴族の嫡男と言えば聞こえは良いが、その実、ファーノルド男爵家は田舎の貧乏貴族であり、元を辿れば田舎の土地を切り開いた開拓民のリーダーでしかなく、男爵家の者達も普段は領民とともに畑を耕していた。

そんな田舎暮らしが嫌になったアルバは、成人すると共に親類を頼って兵士になるべく帝都に出て来た。

そこで兵士をしている親類のツテで訓練兵になり、1年の訓練を経て正規兵として配属されたばかりだった。

ようやく兵士になったばかりのアルバは、隣国であるハルドリア王国からの侵略軍を迎え撃つ為に、皇太子であるオーキスト殿下に率いられ、レクセリン砦へと出兵して来ていた。

南側の城壁に配置されたアルバは、攻め寄せて来る魔物混じりの軍隊に、少々飲まれてしまっていた。

盗賊やゴブリンの群れの討伐経験はあるが、本格的な戦争など初めての事だ。

緊張に息を飲むアルバの肩を、隣にいた兵士がポンと叩く。

「ゆっくり深呼吸しろ、アルバ」

「兄貴……」

帝都に来てから何かと世話を焼いてもらっている親類だ。

先輩兵士でもあり、アルバが所属する小隊の小隊長でもある。

言われた通り、息を整えたアルバは、雄叫びを上げて攻め寄せる敵軍との戦闘を開始するのだった。

「うぉぉお!!」

アルバの突き出した槍が、敵兵の胸を貫く。

現在、アルバの所属する小隊は、防壁から降りて壁際に溜まった敵兵や魔物の死体を焼き払う任務を受けていた。

このまま死体を放置すれば、魔物を誘き寄せたり、敵兵が防壁を越える足場にされてしまう。

そこで、油を掛けて焼いてしまうのだ。

そうすれば、死体を始末出来る上、炎が防壁代わりになってくれる。

アルバもいい作戦だと思った……その死体を焼く任務を与えられるまでは。

仲間が死体に油を掛けている間、敵兵の相手をする危険な任務だ。

だが、一兵士に拒否する事など出来る筈もなく、アルバは同期の戦友と共に槍を振るっていた。

「ぐぁぁあ!!」

「っ⁉︎」

同期の叫び声に振り向くと、アルバ達に与えられている正規兵用の装備よりも遥かに上等な武具を身に纏ったホブゴブリンが同期の首を刎ね飛ばしていた。

「う、うわぁあ!!」

目前で友人を殺されたアルバは、半ばパニックになりながら懸命に槍を振り回す。

それを見たホブゴブリンは、つまらない物を見る目をアルバに向けると、背中の槍を手に取りクルリと回した。

たったそれだけの動作で、アルバの槍は魔法の様に宙高くへと飛ばされてしまう。

「あ、あ、あ……」

空になった自分の手を唖然と見つめるアルバ。

「アルバぁああ!!!」

ホブゴブリンが自分に向かって槍を突き出す様子や、目を見開き此方に駆けて来る親類である小隊長の姿が、やけにゆっくりと見えた。

瞬間、脇腹に焼き型を押し付けられたかの様な痛みが走った。

「ぐぁぁああ!!!!」

「アルバ!!」

小隊長がホブゴブリンに剣を振るうが、軽やかに躱されてしまう。

ホブゴブリンが小隊長に狙いをつけようとした時、更に横から別の兵士が剣を突き出した。

「大隊長!」

「こいつは俺が相手をする!お前は負傷者を連れて退がれ!

他の奴らも撤退だ!」

「は、はい!」

大隊長はかつてBランク冒険者として名を馳せた人だ。

そんな人が決死の表情で殿を務めるなか、小隊長の背中に背負われて運ばれる自分を、アルバは何処か他人事の様に情けなく思うのだった。

◇◆☆◆◇

ユウが調合の為に部屋を出た後も、私は治療の手伝いを続けていた。

「通してくれ、通してくれ!重傷だ、治癒を頼む!

アルバ、頑張れ!もう助かるからな!」

背中に血だらけの青年を背負った男が部屋に飛び込んで来た。血を流しすぎたのか、怪我人の青年は真っ青な顔だ。

「此方に!エリーさん、水をお願いします!」

「ええ」

私のそばに居たリリが即座に反応し、空いているスペースに青年を寝かせる様に指示をだした。

その青年は槍で突かれた様で、脇腹に大穴を開けている。

「これは……」

無理ね、助からない。

勿論、上等なポーションを使ったり、私の【暴食の魔導書】で【上級治癒】でも掛けれは直ぐに治せる。

しかし、それは出来ない。

この戦場で兵士達には、その階級に応じて使える治療法が制限されている。

魔力も薬も限りがあり、より多くの兵士を救い、継戦能力を維持する為には必要な事なのだ。

見たところ、彼は下級兵士、使用出来るのは下級治癒魔法と下級ポーションくらいだ。

もう助からないなら、これ以上苦しませ無い事が彼の為だ。

リリもユウの弟子として経験を積んだ薬師だ。

当然、助けられ無い事もあると理解しているだろう。

だが泣きながら青年を背負って来た兵士にそれを伝えるのはまだ幼いリリには心苦しいだろう。

私は傷を睨みつけているリリの肩に手を置く。

「…………」

「リリ、私が……」

懐の短刀を取り出しながらそう言うと、リリは私の腕を握り止める。

「リリ?」

「まだ助かります!エリーさん、消毒の用意をお願いします!」

リリは強い意志を込めてそう告げると、懐から愛用の医療器具を取り出した。