作品タイトル不明
アデルの勧誘
「アデル殿下……アデルが帰って来ているのですか?」
「ああ」
アデルはブラート王の第二王妃の娘でフリードの腹違いの妹だ。
兄と違い聡明で優秀な少女だ。
私の事を実の姉の様に慕ってくれていた。
だがアデルは彼女の母の故郷である南大陸のレキ帝国へ留学し、卒業後はそのままレキ帝国の高位貴族に嫁入りする予定だった筈だ。
そのアデルが帰って来ているらしい。
それも、王国を立て直しているブレーンの正体として。
「私はアデル殿下にお仕えする事にした。
あの方はいずれ王国の頂点に立つ傑物だ。
エリザベートにも私と共にアデル殿下を支えて欲しい」
「…………」
「エリザベートがフリードや老害共に報復したいと思っている事は分かっている。
王国の民を見限っている事もな。
別にもう1度貴族として王国の民に尽くせと言う訳ではない。
ただ仕事として力を貸してくれれば良い。
それにアデル殿下はエリザベートが望むなら報復相手の身柄を引き渡すと言っている」
「…………そうですか」
私は目を瞑りエイワスお兄様の話を吟味する。
この話を飲めば私の報復は完遂する。
今までの王国の状況を鑑みるに、アデルはそれを成すだけの力を持っている。
だがそれは再び王国の為に働くと言う事。
以前の私なら気にする事は無かったが、国を出て自由を得た私はあの頃に戻りたく無いとも考えている。
アデルなら私を利用だけして顧みないなんて事はしないだろう。
私にとっても可愛い妹分なので協力しても良いとは思う。
私が悩んでいると、エイワスお兄様は席を立つ。
「直ぐには答えられないだろう。
私は王太子の代理として祝祭に参加する。
帰国は数週間後だ。
ゆっくりと考えると良い」
そう言い残してエイワスお兄様は颯爽と帰って行った。
私はエイワスお兄様が帰った後も応接室のソファで瞑目しながら考えを巡らせていた。
ミレイ達にはしばらく1人にして欲しいと伝えて出て行って貰った。
このまま自力での報復を目指して商人を続けるか、王国でアデルと共に再び政治の世界に戻るのか。
トレートル商会は既に巨大な商会へと成長している。
私が居なくても十分やって行けるだろう。
だが…………。
「…………ふぅ、悩んでいても仕方ないわね」
私は立ち上がり、今日は休もうと自室を目指して歩き始めた。
大体私は帝都に戻ったばかりだ。
馬車の旅はそれなりに体力を消耗するものだ。
こんな状態で考えても的確な判断なんて出来ないだろう。
思えばエイワスお兄様がこのタイミングで現れたのは、私の判断力が鈍っているのを狙ったのだろう。
だが、私がクビを縦に振らなかったので長期戦へとシフトしたと言う所だろう。
「取り敢えずエイワスお兄様は祝祭が終わるまでは帝都に居る。
ゆっくりと答えを考えるとしましょう」