作品タイトル不明
帝都への帰還
渓谷を抜けた後は直ぐに帝国領へと入り、それからは魔物の襲撃は激減した。
この辺りは帝国の直轄領なので、騎士団が演習がてら定期的に魔物の討伐を行っている地域だ。
街道に出て数日、野営地から朝早くに出発し、昼前にようやく遠目に帝都の防壁が見えて来た。
焦って走らせても仕方ないので、昼の大休止を取り、夕方と言うには少し早い時間に帝国へと帰り着く事が出来た。
帝都の門には多くの旅人が並んでいるが、検閲をしている衛兵の数も多いのでそこまで待たされる事なく列は進んだ。
私の番になり、商業ギルドのギルドカードを衛兵に手渡し確認して貰う。
私のギルドカードを見た衛兵は少し目を見開く。
多分、ギルドカードに記されている特別認可商人の記述に驚いたのだろう。
帝都でも数人、帝国全土でも20人と居ないからね。
その肩書きのお陰もあり、私のチェックは簡単な物だけで直ぐに終わる。
次のイーグレット達は外国からの行商なので少々厳重に調べられている。
まぁ、それは仕方ない事か。
「すまない、待たせてしまったね」
「仕方ないわ。他国の人間なんだからそれなりに調べられるわよ」
彼らには帝都で宿を紹介する約束をしているのでもう暫く同行する事になる。
その後、私の商会と取引のある宿を紹介し、イーグレット達と別れた。
彼らとはアクアシルクの件で商談をする予定なので数日後にまた会う事になるだろう。
トレートル商会としても、ナイル王国での販路を持つバーチ商会とのツテは有り難い。
イーグレットは貴族出身である為、そっちの方にも顔が利くらしい。
トレートル商会で扱う化粧品やチョコレート、アクアシルクなどは上流階級をターゲットにした高級品なので、貴族に顔が利くのも都合が良い。
少々寄り道をしてしまったが、まだ昼間と言える時間に屋敷へと戻って来られた。
馬車をバアルに任せてミレイと共に屋敷の玄関ホールへと入った。
「ママ〜!」
帰ってきた馬車が見えたのか、2階からの階段からアリスが走って来た。
「お帰りなさい」
「ただいま、アリス」
飛びついて来たアリスを受け止めて頭を撫でる。
そうしていると、アリスを追う様にルノアが降りて来る。
「お帰りなさい。エリー会長、ミレイさん」
「ただいま、ルノア。何か問題は無かった?」
「その……お仕事には問題は無かったんですが……」
困った様に眉根を寄せるルノアによると、私に客が来ているそうだ。
今まで不在だった私が帰った途端に来客か。
おそらく人を使ってずっと門を張っていたのだろう。
「来客はどんな人なの?」
「えっと……多分、貴族様だと思います。
今は応接室でミーシャが対応しています」
貴族?
ミレイと顔を見合わせた私はルノアに来客の名前を聞いて、苦虫を噛み潰した気分になった。
応接室の扉を少々乱暴に開いて中へと踏み込んだ。
整えられた応接室のソファには軽薄そうな優男が優雅にカップを傾けていた。
「どうしたんだい、エリザベート?
君らしくないな、そんなに乱暴に扉を開けるなんて。
もっと淑女らしくしなくてはいけないよ。
ああ、キミ。済まないが珈琲のお代わりを貰えるかな?
キミの様な可憐なお嬢さんに淹れて貰うとより美味しいよ」
「は、はい、ありがとうございます」
貴族然とした優男の微笑みにミーシャは緊張しながらも、練習通り丁寧に対応していた。
「ミーシャ、珈琲は私のだけで良いわ」
「え?」
珈琲を淹れようとしていたミーシャが私の言葉に戸惑う。
「おいおい、ダメじゃないか。
お嬢さんが困っているよ?」
両手を上げて身振り手振りを交えてオーバーにやれやれと胡散臭く微笑む優男を睨みつけ、正面のソファに腰を下ろした。
オロオロするミーシャから珈琲を受け取り、一口飲む。
ミーシャは私の背後に立ったミレイに手招きされ、入り口の近くでルノアと並ぶ。
「やあ、ミレイ。久しぶりだね。
キミも変わらず美しいね。会えて嬉しいよ。
これも女神様のお導きなのかな?」
「…………」
ミレイも私と同じ胡散臭い物を見る様な視線を向けているが、優男は気にする事もなく微笑んでいた。
「それで……本日は一体どのような御用でしょうか、エイワスお兄様」
私は警戒心を隠す事もなく、優男……私の兄であるエイワス・レイストンへと問い掛けるのだった。