あなたが馬鹿にして物のように扱った令嬢、どなたかご存知?
作者: 忍者の佐藤
本文
「あなたたち、何をしているの!」
私が空き教室に踏み込んだ時、クララは女子生徒たちに羽交い締めにされていた。少し離れた場所で、一人は陶製のティーカップを掴み、窓の外に落とそうとしている。
「ベアトリス!」
クララは私を確認して涙をためたまま笑顔になった。
逆に彼女をイジメていた令嬢たちは、バツが悪そうに眉をひそめる。睨んで来る者も居た。
「あらベアトリス様、誤解ですわ。彼女があまり淑女らしい振舞いが出来ていないものですから、私たちが指導して差し上げていただけです」
ティーカップを持っていた令嬢が平然と言った。確か彼女は子爵令嬢のデボラだ。
クララはいつもあのカップを大事にしていた。亡き兄との思い出が沢山詰まっているのだと。
私はデボラを睨み返した。
「そうは見えませんわ。それに、寄ってたかって一人をいじめることが、貴女たちにとっての淑女の振舞いなのかしら」
睨み合いが暫く続いた後、デボラは急に視線を外した。
「話にならないですわ。皆さん、行きましょう」
ため息を付き、近くの机にカップを置くと、取り巻きを引き連れてさっさと出て行ってしまった。
私はしばらくの間、彼女たちが出て行ったドアを見ていた。
こ、怖かったぁ……。
私の足がガクガク震えていたことはバレていないと祈りたい。
***
「ベアトリス、少し顔を貸せ」
放課後、帰ろうとするとステファノから呼び止められた。彼は侯爵令息で、私、ベアトリス・チェスターフィールド伯爵令嬢の婚約者だった。
少し嫌な予感がした。ステファノは私と婚約してから、一度も婚約者らしいことをしてくれた記憶が無い。彼はいつも別の生徒と一緒に居るし、もっと言えば別の令嬢と親しくしている。
その彼がわざわざ私を呼び出したのだ。嫌な予感こそすれど、胸のときめきなどが感じようはずもない。
ステファノに呼び出されたのは、偶然だろうがクララを助けた空き教室だった。
「お前、いつまであの芋女とつるんでいるんだ。俺の立場まで悪くなるだろう」
芋女とはクララの蔑称だ。その名はクラスどころか学年中で通じるくらい広まってしまっている。
何故そんなあだ名がついたかと言えば、彼女の家が貧しい男爵家だからだ。基本的にお金持ちしか居ないこの王立学園に入学出来たのが奇跡だと思えるくらいに、クララは貧乏だった。どうやら、彼女の両親が高等な教育を受けさせようと、かなり無理をしてお金を工面したらしい。
しかし入学出来たからといって安泰ではない。普段は制服で目立たないけれど、上流階級としての作法を学ぶこの学園では、ドレスを着る機会も珍しくない。
その際に彼女が着てくるのは二種類。どちらも流行遅れだった。少し色あせてさえいる。
加えて彼女はくせっ毛で、いつも枝毛だらけ。顔にはそばかすがあり、令嬢たちからすれば格好の話のタネだった。
意地悪されても言い返せない内気な性格も災いしたと言える。
私も昔太っていたことを理由にイジメられたことがあり、彼女が容姿を理由にイジメられている場面を黙って見ていられなかった。
一度助ければ次に助けないわけにもいかず、お陰で私はクララと共に孤立した立場にあった。彼女の性格が天使なことだけが救いである。
「ベアトリス、お前は俺の婚約者である自覚はあるのか?」
ステファノは詰め寄って来る。彼は私が孤立しても助けてくれたことは一度も無い。むしろ他の生徒と一緒になって馬鹿にしてくることさえある。
「それは……分かっているつもりです」
「いいや、分かっていない。もっと損得勘定で付き合う人間を選ぶべきだ」
ステファノに言いたいことは山ほどある。彼が他の令嬢と浮気していることを私は知っていた。相手は伯爵令嬢のエミリー。昨日、彼女とステファノのキスを偶然見てしまった時は、怒りと無力感でぐちゃぐちゃになりそうだった。
それに本来学校に提出しなければならないレポートだって「俺とエミリーの分もやって提出しておけ」と押し付けてくる。三人分の作業をこなすのは……しかも浮気相手の物もこなすのは、果てしなくストレスの溜まる作業だった。
けれど文句は全て呑み込まざるを得ない。
我がチェスターフィールド伯爵家が、彼のファルネーゼ侯爵家に多大な借金をしているからだ。この婚約はいわば、借金の「 形(かた) 」のようなものだ。
私という生贄に加え、チェスターフィールド家は領地の一部をファルネーゼ家に割譲していた。
圧倒的にステファノの方が立場が強い。もし機嫌を損ねるようなことをすれば、我がチェスターフィールド家は没落する未来しかないのだ。
「忠告はしたからな。さっさと関係を断て。もしこんな簡単な損得勘定も出来ないようなら、今度こそ婚約は解消だ」
それは忠告というより脅しのように感じられた。
***
次の日。
私とクララはランチのために中庭を目指していた。ちょうど人が少なく、過ごしやすい場所があるのだ。
「ベアトリス、助けてくれてありがとう」
私は苦笑する。
「それ、昨日から何度目のお礼? 友達なんだから当たり前だわ」
クララはぶんぶん首を振った。
「当たり前じゃないよ。私を助けてくれる人なんて今まで居なかった。あなたは特別で大切な存在よ」
最後のセリフを是非婚約者様から聞いてみたいものだった。何故過去形なのかは察して欲しい。
そんなことを考えていたのが災いしたのか、前方からステファノを含む一団が歩いてきた。
盛り上がっているらしく、大きな笑い声が響いてくる。
先頭のステファノは後ろ向きに歩いており、こちらに気付いてない。嫌な予感がして二人で廊下の端に避ける。やり過ごせば問題ないはずだ。
しかし、そこからの展開は想定外だった。
前を見ていないステファノが、急にぶつかって来たのだ。
「きゃっ!」
衝撃でクララがよろける。私は慌てながらも、咄嗟に彼女を抱きかかえることに成功した。危なかった。もう少しで彼女が転げ、大事に抱えているカップが割れてしまうところだったのだから。
ここでようやく前を向いたステファノ。クララを確認した途端、怒りをあらわにした。
「どこを見て歩いているんだ!」
廊下に居た生徒が全員こちらを向くほどの 大音声(だいおんじょう) だった。呼応するように、取り巻きたちも彼女を批難する。
不味いことになった。ステファノはキレたら何をするか分からない。
宥めなければクララが危険だ。
「申し訳ありません、ステファノ様。どうか不注意をお許しください」
頭を下げようとした時、彼がクララのカップを奪い取るのが見えていた。
「この芋女め!」
怒鳴り声と同時に床へ叩きつけた。止める間も無かった。
カップの割れる甲高い音。
生徒たちのざわめき。
そして、クララの泣き叫ぶ声。
まるで沸騰するように、私の身体の内から赤い感情が溢れる。
今までステファノに対して溜まっていた怒りと 綯(な) い交ぜになって、化学反応を起こしたかのように、大爆発した。
「何するのよ!」
私はステファノに負けないくらい大きな声で叫んだ。詰め寄った。
ステファノは目を白黒させる。今までずっと従順だった女が急に怒りを露にしたからだろう。
「そ、そこの女がぶつかって来たのが悪いんだ!」
「あなたが後ろ向きに歩いていたからでしょう! それに私たちはちゃんと端に避けていたわ!」
怒鳴り合いながらも、心の隅では「やらかしてしまった」という気持ちが湧いて来ていた。しかし、足元で泣きながらカップの破片をかき集めているクララを見て、引くわけにはいかなかった。
「クララに謝って」
「は? 何故俺が謝らねばならない」
「あれはクララの大切なカップなの。それを割っておいて謝罪もしないなんて、あまりに不誠実だわ」
「ふん、そんな平民まがいの芋女に謝るくらいなら、死んだ方がマシだ」
ステファノは開き直って暴言を吐いてくる。取り巻きたちも同調し、頷いていた。
「それにベアトリス、お前は自分の立場が分かっているのか?」
ステファノは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。借金のことを言っているのだ。こんな時に人の弱みを持ちだしてくるなんて卑怯にも程がある。私の怒りは更に倍化されていった。
「いい加減、そいつと付き合うのを止めろ」
「絶対に嫌よ! クララは大切な友達なんだから」
「ああそうか、それなら忠告通り婚約は破棄だ。どうなっても知らないからな!」
ステファノは鋭く人差し指を突き付けてきた。
「望むところよ」
私は鼻を鳴らす。
「馬鹿め。損得勘定が出来ないやつに待っているのは破滅だ。そのことをよく噛み締めろ」
ステファノは私たちの横を、早足に通り過ぎて行った。
***
「はああああ! やらかしちゃったァ!」
ベッドにダイブした私は足をバタバタさせていた。取り返しのつかないことをしてしまった。
学校での出来事を両親に報告すると、お母さまは「大丈夫よ、あなたは悪くないわ」と言った直後に貧血でぶっ倒れ、使用人たちに運ばれていった。
「問題ない」と言ってくれでもお父様も、ずっとトイレと執務室の間をぐるぐるしていた。
お兄様はずっと険しい顔で家宰さんと話し込んでいた。恐らく、返すあての無くなった借金の財源をどうするか決めかねているのだ。
私のせいだ。私のせいでチェスターフィールド家は無くなるのかも……。家族に迷惑をかけたこと、先のことを思うと涙が溢れてくる。
「お嬢様、お客様がいらっしゃいました」
使用人の声がする。私は涙を拭ってドアに駆け寄った。
「お客様ってどなたかしら」
「クララ様と、クララ様のお兄様でございます」
「分かった。直ぐ行くわ」
返事をしながら私はおかしいことに気付いていた。あれ、クララはお兄様と死に別れたのではなかったかしら。
支度を整えた私が応接室に入ると、座っていたクララ、並びに隣の人物が合わせて立ち上がった。その顔を見て、私の足は一瞬止まってしまう。
歩くのを忘れるほど美しい青年だった。艶のある金髪には枝毛一つなく、深い海を思わせる瞳は優し気で、怜悧さと柔和さを同時に感じさせる。そして精密な顔の造形。私はこれほど顔の整った人を今まで見たことが無かった。
しかし私は彼の服装に、一番の違和感を覚えていた。
「突然お邪魔して申し訳ございません」
お兄様(仮)は深々とお辞儀をした。お辞儀して尚、隣のクララより背が高い。
「私はヴィクトール・レヴァントと申します」
「えっ!?」
彼の名前を聞いた瞬間、私は驚いて座り込みそうになった。だって、その姓は__!
***
それから二か月が経った頃。
私は隣国のレヴァント帝国の宮殿に居た。
レヴァント帝国は巨大な海洋国家であり、私の住んでいるテルニア王国など片手でひねりつぶせるほどの握力、いや国力がある。
私は謁見の間にて、ステファノを眺めていた。彼は今、皇帝陛下たちの前に平伏している。遠目にも滝のように汗をかいているのが分かるほどだった。
一体、どうしてこうなったのか。
***
時はクララが生まれる前に遡る。
クララの母親、マリー様はレヴァント帝国の宮殿にて、侍女として仕えていた男爵令嬢だった。そして彼女の父親こそ、現皇帝陛下であり、当時皇子殿下だったロレンツォ・レヴァント様だったのだ。
実は彼らが愛し合う少し前、ロレンツォ様の正妃クロエ様が流行り病で逝去されていた。
クララが生まれたのは、新しい妃を選んでいる最中のことだった。
しかし二人は身分が違い過ぎる。彼女は存在を秘匿され、宮殿の外で育てられることとなった。
母子ともに帝都の隅で匿われ、暫しの間幸せに暮らしていた。その時ロレンツォ様のご子息(正妃様の子供)が、よくお忍びで遊びに来てくれたそうだ。
彼はとても妹を可愛がっていた。兄妹仲はすこぶる良く、クララの帝都での記憶は「お兄様が遊んでくれたことしか思い出せない」と語る程だ。
そして彼女は兄から貰ったカップをとても大切にした。
そう、その兄こそ、私の家にクララと共に来た男性、ヴィクトール様その人だ。
幸せに暮らしていた母子だが、クララが大きくなるにつれ、マリー様の不安は募っていった。「いずれこの子は政争の道具にされる。命を狙われてもおかしくない」と。
そして彼女はロレンツォ様に短い書置きを残したのみで、我がテルニア王国へ娘と共に亡命したのだった。
マリー様はそこでパタタ男爵と再婚。クララは男爵令嬢として育てられることになったというわけだ。クララには、皇帝陛下の血が流れていることは秘密にされていた。
彼女が記憶の中にある兄について尋ねても、母親のマリー様は曖昧にしか答えてくれなかった。そのため死に別れたに違いないと、クララは思い込んでいたのだ。
しかしロレンツォ様も、ヴィクトール皇子も、ずっとクララたちを探していた。ロレンツォ様が皇帝陛下となり、その世継ぎであるヴィクトール皇子が次期皇帝としての地位を盤石にした今、クララが政争の道具として使われる心配が無くなっていたからだ。
そして長年の捜索の末発見されると、「王国への外遊のついで」という名目で、ヴィクトール様がクララの家に直接訪れた。どうしても早く妹に会いたかったらしい。
そこでカップのことを聞いた皇子は怒りを露にした。
……とはいえ、外国のことであるし、下手に手を下せば国際問題に発展する。
そこでヴィクトール皇子はテルニア国王に話を通した上で、ステファノに抗議の手紙を出す許可を得た。
許諾は即刻下りた。
王国と帝国の力の差は歴然たるものがある。
テルニア王国としては、ステファノ一人など切り捨てても構わないと思っていただろう。
ちなみに表立って報復を受けたのはステファノだけだけれど、他にクララをイジメていた子たちも制裁にあったと思っている。
というのは、クララのカップを割ろうとしていたデボラ子爵令嬢は、結婚寸前だったのに婚約の話が流れてしまったというし、その取り巻きの商家の子も、急に実家の経営が傾いて学園に居られなくなったと聞いている。他にもイジメに加担していた生徒は、必ず何らかのトラブルに巻き込まれていた。帝国を敵に回すということは、そういうことなのだろう。
話を戻す。ステファノへの手紙の内容は「カップの件での賠償金の支払い、並びにレヴァント帝国宮殿へ直接謝罪に来るよう」求めるものだった。
それは彼の実家、ファルネーゼ侯爵家が逆立ちしても払える金額ではなかった。
ステファノを始め、侯爵家はパニックに陥った。
当然である。
ついこの前までは芋女と馬鹿にしていた令嬢が、実は巨大なレヴァント帝国の皇女殿下だったのだから。そしてあろうことか、彼はクララが最も大切にしていたカップを「故意に」損壊していた。
本来なら首を差し出しても足りない程の罪である。
彼の狼狽ぶりは私がよく知っている。何故なら彼は私に「クララとの仲を取り持ってくれないか」と何度も頭を下げに来たからだ。
あれほど私を借金のことで脅しておいて、いざ自分が払えなくなると下手に出るとは。掌を返すとはまさにこのことだろう。
しかしあのプライドの高かったステファノが頭を下げ続けるのだ。相当精神的に参っていたらしい。
私のところに何度も来ていたのは、私がクララと仲が良かったからというのもあるけれど、一番は他に頼るあてが無かったからだ。
彼は普段からつるんでいる貴族令息、令嬢たちに金を貸してくれるよう頼んだが、全て断られたらしい。
あれだけ「損得勘定で付き合う人間を選べ」と言っていた彼は、どうやら有言実行していたようだ。いざとなったら、簡単に友人を切り捨てる人間しか彼の周りには居なかったのだから。
今でも彼が最後に来た時のことを思い出す。
***
「頼む、仲を取り持ってくれないか」
ステファノの声には全く覇気が無かった。本来、うちに借金があれば彼も強く出られたかも知れない。ところがヴィクトール皇子が、何と我が家の借金を肩代わりしてくれたので、綺麗さっぱり無くなっていた。その返済されたお金があっても、ヴィクトール様が指定した賠償金には遠く届かないのだ。
こうなると完全に立場が逆転する。
「あなたの口からクララに直接謝罪をするべきよ」
ステファノは弱り切った顔をしている。この数週間のうちに大分やつれたようだ。
「だ、だが彼女は今帝国に居るのだろう」
彼はどうにか帝国にも行かず、賠償金も払わないで済む方法を模索していた。結果、私から口添えしてもらうという方法以外に思いつかないのだ。
「あなたがあの時誠心誠意謝っていれば、こんなことにならなかったわ。それだけじゃない。クララを見下して、人を人とも扱わない態度で接していたから起きた問題よ」
ステファノは肩を落とし、深くうつむいた。手紙を受け取ってからこれまで、彼は何度も、それこそ飽きるほど己の過ちを後悔したに違いない。
「なあ、一度は婚約した仲だろう」
やがてステファノは絞り出すように言った。
「もう婚約破棄をしたから他人よ。損得勘定で付き合う人を選べと言ったのは貴方じゃない」
「うっ、それは………」
「それに、私には新しく婚約した方がいらっしゃるの」
「それは誰だ? やはり学園の?」
彼の脳裏には学園内の様々な人物が浮かんでいるに違いなかった。しかし残念ながらそこには居ない。というか、仲良くなった男子なんて一人も居なかったのだから。
「帝国の、ヴィクトール皇子よ」
言った瞬間、弱弱しかったステファノの目と口が皿のように丸くなっていた。
***
結局、ステファノは一人でやって来た。私が「出来る限り殺されないように取り計らってもらうから」と言ったのもあるけれど、彼は最後の勇気を振り絞ったらしい。
ステファノは皇帝陛下、ヴィクトール様、そしてクララの前でこう宣言した。
「畏れながら申し上げます。このたびはクララ皇女殿下に対し、多大なる無礼とご不快の念をおかけいたしましたこと、心より深くお詫び申し上げます。しかしながら、仰せつけられました賠償の額につきましては……」
と震える声で謝罪した後、どうにか賠償金の減額を求めた。
彼はカップを割った時、クララに謝るくらいなら死んだ方がマシとか言っていたが、結局命の方が大切だったようだ。
何の感情も籠っていない表情で、ステファノを見下ろしていたヴィクトール様は一言、呟いた。
「では地道に返して貰うしかあるまい」
***
ヴィクトール様がステファノに言いつけた借金返済法。それは、皿洗いだった。
ちょうど厨房で人が足りて無かったのだという。
皿洗いで払うなんて、本来一生かかっても無理だ。そのことをヴィクトール様に聞くと「何年か真面目に働いたら国に帰らせてやろうと思っている」とのことだった。
料理長の話では必死に働いているというし、まあ、良い薬になるだろう。
クララは帝国に引っ越すことを決めたが、母親のマリー様は、テルニア王国に残る選択を取った。現夫と、まだ幼い息子を残していけないという判断だったようだ。
私はこちらに来て3か月になるが、日が経つごとに、クララが綺麗になってく様子には驚かされた。流石帝国。女を磨く技術も世界一らしい。それもクララがダイヤの原石だったからだけれど。
彼女は今も私の一番の親友で居てくれる。異国で心細い私の心の支えになってくれている。
それに私がヴィクトール様と結婚することになったのは、クララの猛烈なプッシュがあったからだ。彼女は「ベアトリスはとても優しい人なの」「こんな完璧な令嬢は帝国を端から端まで探しても居ないわ」「彼女を逃すと一生後悔するわよ!」と、兄と顔を会わせるたび、刷り込むように言いまくった。
私も何度か会う度、ヴィクトール様の誠実な人柄に惹かれていった。外見だけでなく、内面もとても美しい方だと分かった。初めて見た時は似ていない兄妹だと思ったけれど、今はそっくりだと確信している。
愛する人が居て、心から信頼できる友達が居て、毎日がとても満ち足りている。
損得勘定で人付き合いをしていたら、こんな幸せは手に入らなかったに違いない。
うん、友達は大切にするべきだ。
おわり