軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

集団墓地の悪夢

努たち四人PTは午前から早速三十九階層の荒野へと向かった。ディニエルに少し力を抑えて戦ってほしいことを努は告げ、バルバラともいくつか確認を行う。

結局あれからバルバラは戦闘中あまりスキルを使えずにいたので、努は取り敢えず精神力に余裕が出来たらすぐにコンバットクライを放つことをバルバラに指示。他にも何かして欲しいことがあれば遠慮なく言うことを念押しして三十九階層の探索を開始した。なぜ三十九階層かというと、努は練習場所として丁度いい場所を三十九階層で見つけているからだ。

階層主手前の三十九階層には 骸骨(スケルトン) がほぼ無限に沸く集団墓地が存在する。大量に転がる人骨に骸骨を再構築するモンスターであるデミリッチが存在する集団墓地は、たまに黒門転移先として飛ばされることのある場所である。

骸骨を倒してもデミリッチを倒さない限りは粒子化せずに魔石が得られず、倒された骸骨はすぐに復活する。そこを抜けるにも結構な距離を歩かねばならず、探索者に対する嫌がらせのような場所である。

しかし骸骨の出現上限が十体であることと、聖属性の攻撃ならば骸骨は骨も残さずに消滅する。なので白魔道士、灰魔道士、聖騎士がいれば突破は容易であるし、戦わずにそこから脱出するという手もある。

ただし時間経過や骸骨を完全消滅させた数により骸骨がどんどんと上位モンスターに変わっていき、後には荒野の階層主の強さを越える裏ボス的なデミリッチに大量の骸骨や、骨系の大型モンスターが稀に出現する。

『ライブダンジョン!』でも初期の頃のレベリング場所として知られていたその場所でまずは最初に努が実戦を見せて、その後ユニスに練習してもらうこととなっている。集団墓地に到着すると早速地面に落ちている骨がかたかたと動き始めたので、努は気を引き締めつつエリアヒールを足元に設置した。

揺れている骨が浮かび上がり人の形を成すと、骸骨は首の様子を確認するように頭蓋骨を押した後に四人へ迫った。

先制攻撃の矢が骸骨の頭蓋骨に命中。勢い良く放たれた矢は頭蓋骨を貫通し穴を開けた。ディニエルは首を傾げつつも一度地面に矢を撃って威力調整を行う。

「コンバットクライ!」

バルバラから赤い闘気が広がり骸骨を包む。その五体はバルバラへと一斉に向かい始め、バルバラは左手に持った丸盾を強く握る。

「エリアヒール、プロテク、ヘイスト」

すっぽりと入れるような大きさのエリアヒールを地面に設置しその上に立つ努は、二人に支援スキルを飛ばしながらバルバラの動きを凝視していた。骸骨六体までなら支援無しでも十分はギリギリ耐えられるまでには成長しているバルバラ。彼女は骸骨の持つ尖った骨を丸盾で捌きながらじりじりと後退していく。

ディニエルの加減された矢が骸骨の一体に向かう。しかしその矢は骸骨の胴体をすり抜けて不発。今まで骸骨相手には全て頭蓋骨を射抜いていたディニエルは面倒くさそうな目で次の矢を番える。

ディニエルは金色の調べで一軍のアタッカーメンバーのためか、ヘイスト付与がなくともかなり動きが素早い。弓術士は近接戦闘で使えるスキルが一つしかないため、モンスターに接近されないことが何よりも大事となる。そのためか彼女は常に動き回りながら矢を放っている。

今回はユニスに合わせてエリアヒール内に留まりつつ支援を行わなければいけないため、努は少しディニエルの素早い動きを意識しつつも白杖を構える。

「バルバラさーん。ヒールいりますー?」

「え? あ、はい!」

「ヒール」

バルバラは何度か腕に打撃を受けていて、尚且骸骨が復活間近だったので努は彼女に提案した。反射的に返事をしたバルバラに努は頷き、彼女の腕にヒールを飛ばしつつ周りを見る。新たな骸骨五体が出現し始め、それらは無差別に三人へと向かい始める。努はバルバラに指示を飛ばした。

「コンバットクライお願いします!」

「コンバットクライ」

「ナイスー」

努の声の方をチラリとみたバルバラはすぐにコンバットクライを発動。再び骸骨十体の視線がバルバラに突き刺さり、彼女は兜の中で冷や汗を流した。彼女が今までの練習で受け持てた数は六体が限界。今回は支援があるとはいえいつまで持つかとバルバラは不安に包まれていた。

しかし彼女が今まで練習で受け持っていた骸骨六体は全てヘイストが付与されていて、更に努の支援もなかった。

「プロテク」

横目でディニエルを捉えながらも撃たれたプロテクがバルバラに向かう。バルバラが骸骨の攻撃を横に避けたが、飛ぶプロテクはバルバラの動きを察知したように直角に曲がって彼女の身体にすんなりと当たった。バルバラのVIT上昇が継続し身体の軽い痛みが軽減される。

骸骨はいつもより四体ほど多いが、バルバラはいつもより動きの遅い骸骨に、自身に付与されたプロテク、そろそろ欲しいと思う手前に飛んでくるヒールに驚いていた。

(これは……凄いな)

プロテクを切らすことなく付与され身体の打撲も痛みが強くなる前に癒され、痛みで身体が動かしづらくなることもない。それに骸骨の動きも彼女は何処か遅く感じていた。練習の成果か? とバルバラは自問しつつも囲まれないように立ち回る。

「ヒール欲しかったら声かけて下さいねー!」

「はい!」

怖いと言われたことを気にしているのか微笑を浮かべながらそう伝えてくる努にバルバラは短く答えながらも、丸盾で骸骨の体当たりを押し返して後ろの二体を巻き込ませた。右手の短槍を前方に振るって骸骨を懐に潜り込ませないように牽制。モンスターとの打ち合いを最小限に。自分でモンスターを倒さなくていい。それは――

「パワーアロー」

「ヘイスト」

アタッカーの仕事である。ディニエルのスキルによって威力強化された矢が骸骨の骨盤を粉砕。バルバラに這いずってきた骸骨の頭蓋骨を矢が小気味よい音を立てて貫通する。

そして努の放ったヘイストは効果時間切れ一秒前でディニエルに付与され、AGI上昇は延長。ディニエルは峡谷で経験した効果の切れないヘイストを受けて少し努を見た後、後ろのポニーテールを揺らしながら徐々に足を速く動かし走り始める。

ディニエルは努に手を抜いて欲しいと頼まれていたために、そこまで本気を出さずに地を駆けていた。しかし今回は火竜戦と同じように全力で駆けている。

峡谷でもディニエルは努の飛ばすスキルを見ていたが、どれも迷いなく正確に味方へスキルを当てていた。弓術士と白魔道士。ジョブでは同業者ではないが何かを飛ばして当てることに関しては同じ。ディニエルは努の射撃の精密さを試してみたくなったのだ。

速さに揺れるディニエルの視界。加減して弦を引きながら走り、飛び引きながら射撃。骸骨の肩を弾いた矢を見てディニエルは腰に巻きつけている細長いマジックバッグから長矢を手にした。

「ダブルアロー」

一度の射撃で二本の矢が発射されるスキルを使い、走りながら長矢を左右に分けて放つ。それはバルバラの両側にいた骸骨を貫通し、後ろの者も巻き込んで四体同時に骸骨は倒れた。自身の顔の真横を長矢が通り過ぎて内心震えながらも、バルバラは努に指示を受け骸骨復活に合わせてコンバットクライを放つ。

突然野を駆け回る兎のように元気になったディニエルに努は驚きつつも彼女の動きに合わせる。彼女の動きを目で追いつつもバルバラの切れかけたプロテクを再付与。ヒールはまだいらないと判断しディニエルのヘイストが終わる時間を待つ。

(……何か、明らかに動き変わったよな。どうした?)

今までの努が見てきたディニエルはあまり無駄な動きをしようとしないし、矢も使えるものはこまめに拾っている倹約家、というイメージがあった。以前の峡谷でも必要ない所では結構手を抜いている場面も見受けられたので、無駄が嫌いな人だという人物像を彼女に当てはめていた。

しかし今の彼女はまるで別人になったかのように動き回っている。かなり無駄な動きが多くまるで野獣にでも変貌したかのよう。いきなりどうしたんだろうと努は少し心配になりながらも彼女にヘイストを飛ばした。

少し時間に余裕を持たせて撃たれた青い気の塊のヘイスト。ディニエルはヘイストが当たるギリギリのところで横にステップ。ヘイストは外れた。

しかし努は彼女が避けた方向にヘイストをくっと曲げ、彼女にヘイストを付与させた。軌道を変えたヘイストを身に受けた彼女は青い気を身体に纏いながら静止。努をじっと見る。

彼女の表情はいつもと変わらず眠そうな顔つきであったが、明らかに努を見る目だけは変わっていた。

それから戦闘しながらもヘイストを避けようとするディニエルと、効果時間を切らさないようにする努の勝負が勝手に始まっていた。段々とヘイストの追尾を理解したのか速力を上げ、なおかつフェイントも交えてくるディニエル。そのフェイントを見越してヘイストを当て続ける努。

努が今採用している飛ばすスキルは追尾性が高いのでフェイントなどには強かったが、彼女に純粋な速度で挑まれるとギリギリ追いつけなかった。試行錯誤して飛ばすスキルの攻略法を見つけたディニエルは内心でニヤリと笑った。

骸骨を合間に何体か倒しつつ全速力でヘイストから逃げ始めるディニエル。努は微かに困ったような表情を出しながらも飛ばすヘイストで彼女を追いかけ続ける。

(何だあの金髪エルフ!)

何故かヘイストから逃げる彼女。努はディニエルのわけのわからない行動に困惑しながらも、まずはバルバラにヒールとプロテクを飛ばす。そしてヘイストから逃げるように走っているディニエルの進行方向にヘイストを置いた。

突如進行方向の地面に現れた青い気。それをまんまと踏んだディニエルはAGIが上昇。これ峡谷で見たやつだ、とディニエルは悔しがりつつも骸骨に矢を放つ。そして努がヘイストを飛ばしてくるまでは普通に戦闘を続けた。

どうせまた逃げるんだろうと察していた努は早めにヘイストを飛ばしてみると、ディニエルはすぐに逃げ出した。もうそんなにヘイスト当たりたくないならもっと遠くに逃げればいいのにと努は思うのだが、ディニエルは決してあまり遠くには逃げない。

つまりはこの範囲内で私に支援スキルを当ててみろという挑戦か、と努は彼女の行動の意図を察した。

それならば受けて立とうと努は少し笑いを零しながらもバルバラを見つつ、逃げるディニエルをヘイストで追い立てた。

何度かディニエルは飛ぶヘイストで進行方向を絞られて置くヘイストでAGIが上昇してしまっていた。しかし慣れれば怖くはない。足元を見て青く光ったらジャンプ。これだけだとディニエルは骸骨を矢で粉砕しながらも考える。

そしてディニエルは遂に飛ぶヘイストから逃げながらもジャンプで置くヘイストを避けることに成功。二度目、三度目と失敗を繰り返しつつも置くヘイストをジャンプとステップで避けていく。

努も空中に出したりと置くヘイストの位置を変えたりしてディニエルに当て続けていたが、それも慣れてきたのか機敏な動きと反応速度でヘイストをくぐり抜けていくディニエル。

そろそろヘイストの効果時間が切れる。もう置くスキルは通じない。飛ばすヘイストと置くスキルは攻略した。ディニエルは勝利を確信しつつも短く息を吐きながらヘイストを避けていく。

しかし努の射撃能力も優秀であるとディニエルは認めていた。彼は自身にヘイストを当てつつバルバラにも支援を絶やしていなかった。もしバルバラがいなかったら負けていたかもしれないと、ディニエルは努を内心で称えていた。

ヘイストの効果時間が五秒を切ると努は降参するようにため息をついた。ようやく終わったとディニエルが思っていると、彼は白杖を軽く振るった。

そしてその瞬間、ディニエルの身体は青い気で包まれていた。

(今……何が起きた?)

自分の身に一体何が起こったのかディニエルは理解出来なかったが、自身の身体に青い気がまとわりついている事が何よりの事実。彼女は動揺を隠すように咳払いした後に走り出す。

しかし努はヘイストを飛ばしたり置いたりせずにじっとしている。

(私の動揺を狙っているのか……?)

地面に突然ヘイストを置かれることを恐れて動き回るディニエル。しかし努は不気味なほど動かない。一体彼は何が目的なのかディニエルにはわからなかった。

そしてヘイストの効果時間が切れる五秒前に努が白杖を振るうと、ディニエルはまたヘイストを付与された。人差し指ほどの大きさに絞られたライフル弾のように形取られたヘイストが、目にも止まらぬ速さでディニエルの身体に当たっている。

(奥の手だ。悪く思うな……)

飛ばすヘイスト、置くヘイストともに避けられるとは思っていなかった努は、困惑げな表情をしているディニエルに賞賛の笑みを浮かべながら彼女に降参を進めるように首を振った。

(……ふざけやがって、です)

その一部始終を見ていたユニスは、いつもはあんな動きをしないサボり魔のディニエルと気取った動作をしている努に冷めた視線を送った。

――▽▽――

一時間ほど経過すると 骸骨弓士(スケルトンアーチャー) が出現し始めたため努たちPTは一度ギルドへと帰り、休憩をした後にまた三十九階層の集団墓地へと向かった。まだバルバラは普通の 骸骨(スケルトン) で精一杯なので、他の種類の骸骨は後回しだ。

「ねぇ、さっきのあれ何?」

「あれは撃つスキルです。というか僕の方が聞きたいんですけど」

「撃つスキル」

努の質問を無視して視線を向けてくるディニエルに努は先に折れ、撃つスキルを彼女に実演した。撃つスキルは現状あまり使う機会がないのであまり練習はしていないが、努は手慰め程度には練習していたため精度は向上していた。

実際に黄土色のプロテクで弾を生成するところから見せて前のバルバラに飛ばしてやると、ディニエルはそれにかなり興味を持ったようでいつもの眠そうな目がくっきりしていた。

「何だ!? モンスターか!?」

「あ、すみません。間違えました」

「そうか……」

努にプロテクで撃たれたバルバラはすぐに兜を被って後ろに振り返ったが、努の両手を合わせての言葉に兜を外した。ちなみに兜は熊耳が圧迫されて痛くなるためあまり好きではないらしく、バルバラは戦闘時以外では兜を外している。

ディニエルとの話もそこそこに打ち切って、努は集団墓地につく前にユニスへと話しかけた。

「ユニスさん。実戦での練習ですが、何か聞きたいことはありますか?」

「……今はないのです」

「そうですか。何か聞きたいことがあればいつでもどうぞ」

「ふん。要は君と同じことをすればいいだけなのです。やってやるのです」

そっぽを向いて早足で努を抜き返していったユニス。彼女はその後バルバラとディニエルと一言二言話すとそれ以降は言葉を交わさなかった。

そして集団墓地へと到着し奥に入ると地面の積まれている骨が音を立てて人の形を成し始める。努は身体をほぐすように背伸びをして欠伸をしている中、三人は戦闘態勢を取り始める。

「コンバットクライ」

骸骨(スケルトン) が十体現れた途端にバルバラがコンバットクライで全ての骸骨のヘイトを引き受ける。ディニエルが弓の弦を軽くピンと鳴らし、ユニスは杖をバルバラに差し向けた。

「プロテク」

黄土色の気を飛ばしてバルバラの背中に当てて、次にディニエルにもヘイストを当てる。今度のディニエルは先ほど努にヘイストを避けないよう念を押されたのか大人しかった。

「エリアヒール」

人二人分入れるようなエリアヒールを作成したユニスはその中に入ると、頭の上の狐耳を全開に立てた。大きい尻尾も気を張っているためか逆立っている。

(一、二)

プロテクとヘイストは効果時間を統一してほぼ同時にかけたため、ユニスは秒数を数えながら戦況を見守る。今回は飛び道具をほぼ持っていない骸骨なのでモンスターの範囲攻撃に気を配る必要もなく、バルバラもスキル使用をコンバットクライに絞っている。なので骸骨が蘇る時くらいしかヘイトが他に向かうことはない。

ディニエルは軽く走りながらも緩めの矢を骸骨に放ち肩骨や足首などに当てている。怯む二体の骸骨。バルバラは精神力が回復したらコンバットクライを放つことを考えつつ、骸骨たちの攻撃を捌いている。

(四十。そろそろなのです)

一分に効果時間を固定してあるプロテクとヘイスト。時間に余裕を持って当てようとユニスはまずバルバラに杖を向けた。

「プロテク」

黄土色の気が杖の先端から射出。バルバラの背へ一直線に向かっていく。しかしバルバラもモンスターに囲われないよう立ち位置を変えているため、途中でその軌道修正をする必要がある。

プロテクがそろそろ当たるといったところで、骸骨が手に持っている研ぎ澄まされた腕骨による突きを避けるため右に動いたバルバラ。ユニスは慌ててプロテクを動かした。

しかしその軌道修正は間に合わずプロテクは骸骨が突き出した腕骨に当たり、その骸骨のVITが強化される。骸骨に誤射したことに舌打ちをしたユニスは再度プロテクを飛ばし今度はバルバラに命中させたものの、効果時間が切れる直前であった。

ということは当然ディニエルに付与されたヘイストは既に切れてしまっている。ヘイストは身体にかける感覚が変わるAGI上昇の支援スキルのため、効果時間が切れれば付与された者は身体が突然鈍くなるような感覚に襲われてしまう。

ディニエルはヘイストが切れたことを確認するといつものように身体に入れる感覚を切り替えた。今までの戦闘でも最初はヘイストをかけられることがあったので、ディニエルはその感覚にはなれていた。

「ヘイスト」

しかし遅れてきたヘイストが弓の弦を引いていたディニエルに命中。また身体の感覚が変わりディニエルは面倒くさそうに目を細めながらも、身体に入れる感覚を切り替えつつまた弦から一旦力を緩めた。

(プロテクがあと四十五秒、ヘイストは六十秒)

ユニスが内心で支援スキルの秒数を整理している間にバルバラが骸骨十体を相手にして被弾している。ディニエルはバルバラの多い被弾を見て新たに矢を番えて骸骨の頭蓋骨を三つ素早く打ち抜く。

そしてまたモンスターに誤射することを恐れたユニスは、今度は三十秒前にバルバラを狙ってプロテクを放った。今度はプロテクを飛ばす速度を遅めて確実にバルバラが止まった時に命中させ、プロテクの残り効果時間の二十秒が上書きされ新たに一分延長される。

支援スキルの効果時間は上書きされる仕様なので、今回は二十秒分のプロテク効果時間が無駄となった。一度や二度だけならばさしたる問題はないが、それが積み重なってくるとスキル一つ分違ってくることになる。なので六十秒以上の無駄を出さないことが支援スキルの基本となる。

そしてユニスはディニエルにもヘイストを飛ばすが彼女の速度を落とした動きでも、ユニスは移動する彼女へヘイストを当てることにかなり気を使った。少し遅めに飛んでいるヘイストは時間をかけてディニエルへと当たる。しかしディニエルのヘイストは既に三秒前に切れていた。

身体が重くなったと思えば軽く感じる。それは弓の弦を引く速度や走りながらの射撃に影響が出るため、ディニエルは苛立ったようなため息を吐きながらも細長いマジックバッグに手を入れた。

(ヘイストが六十。プロテクが……)

「すまない! ヒールを貰えないだろうか!」

ディニエルの感覚の違いによる射撃中断により骸骨が削れず、先ほどの戦闘よりも被弾が多くなっているバルバラはユニスにヒールを求めた。ユニスはバルバラの言われた通りにヒールの準備に入る。

「ヒール」

杖をバルバラに向けてユニスはヒールを放つ。バルバラに近づくにつれ球体のヒールの動きを遅くし、バルバラが止まった時一気に動きを早めて背中へ当てる。しかしバルバラが負傷している場所は腕だ。勿論背中に当ててもヒールの効果はあるが、直接怪我の部位に当てた方が効果が上がる。

(ヘイストが……三十? プロテクは? あぁ、くそ! わからないのです!)

バルバラはまだ少し痛みの残る腕に再度ヒールを要請しようとしたが、ユニスの内心苛立っているような様子を見て口にすることを辞めた。

ディニエルの弓から放たれた矢が骸骨の頭蓋骨を射抜くと、その人間を形取っていた骨はバラバラになって地面へ転がる。しかし十秒も経たない内にそれはまた集まって人間の姿となり、復活した骸骨は交換した頭蓋骨を調整するように両手で頭を軽く押している。

そして復活したばかりの二体の骸骨はバルバラとユニスに一人ずつ向かい始めた。バルバラは先ほど精神力が満タンになってコンバットクライを使ったばかり。ユニスはその骸骨に向けて杖を構えた。

「ホーリー」

強い光の柱が地面から立ち昇り、ユニスに向かってきた骸骨を浄化する。基本的に何が起ころうとも努は静観するつもりであったが、流石に今のユニスの行動は見逃せなかった。

「ユニスさーん。練習なんですから自分で倒すのは止めて下さいねー」

努の言葉を聞こえているにも関わらず無視したユニスは既に切れているプロテクとヘイストを二人に付与。スキル名だけが響く戦闘はその後も二十分続いたが、バルバラが限界を迎えたため努が戦闘を中断させて集団墓地から離脱した。

モンスターへの支援、回復スキル誤射、支援スキルの切らし、ヒールの不十分、わかりやすい簡単なヘイト管理も指示しない。特に終盤では霧吹きヒールの再来や秒数管理を諦めたような節が見えた。そしてPT内もユニスの苛立ちとディニエルの苛立ちが重なってかなり悪い空気になっているという、ある意味百点満点の酷い状況であった。

流石に今回は自分でも悪かったところは認識しているのか、ユニスはいつも威勢よさげに立てている黄色い尻尾を垂れ下げていた。バルバラも倒れてしまったことを不甲斐なさそうにしていて、ディニエルはいつも通りの眠たげな表情だが何処か不満げであった。

「はい! それじゃあ今日は帰りましょう! お疲れ様です!」

「そうだね」

努の盛り上げるような明るい声にはディニエルがぶっきらぼうに答えただけだった。