軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ガルムの弟子、ダリル

努は立ち上がると机に向かい四つの大手クランに向けて手紙を書き始めた。タンク、ヒーラー、アタッカーの三つの役割。飛ばすヒールの方法に火竜の情報。それらの情報を新聞社二社合同で行う企画の中で提供すること。そしてその企画に参加することを検討してくれないかということが手紙の内容だ。

クラン名やクランごとの特徴などを褒めた文などを添えたりして内容を変えながらも手紙を完成させ、努は宛先を確認した後に四つのクランハウスへと向かった。

金色の調べ。アルドレットクロウ。紅魔団。迷宮制覇隊。その四つのクランハウスを周って手紙を配った頃には既に夜となっていた。宿屋に帰った努は食堂で夜食が運ばれてくるのを待っていた。

努の予想では紅魔団以外のクランは乗ってくるのではないかと思っている。アルドレットクロウは努の戦法を既に真似て活用していることからして絶対に興味を示すはず。金色の調べはアタッカー4ヒーラー1でも火竜を攻略出来る可能性が高いクランだが、飛ばすヒールと火竜の情報は欲しいはず。

迷宮制覇隊については努はあまり詳しくはないので不明ではあったが、命をかけてまで外のダンジョンを攻略しているクランだ。こういった情報には貪欲なのではないかと努は予想している。

それから手紙が帰ってくる間の二日間。努は森の薬屋に朝一で並んでポーションを少量補充したり、二桁台を中心にダンジョンの様子を探っていた。クラン設立のためにはあと二人はPTメンバーが必要であり、一人はガルムの紹介してくれる者で埋まっていて、そろそろ顔を合わせる予定となっている。しかしもう一人は自身で探さねばならない。

努はギルドの掲示板で募集されている即席PTでダンジョンに潜っている者。その中で誰か良い人材はいないかと探してはいるのだが、この二日間で彼の目に止まるものは特にいなかった。その他にも大手クランに情報提供する際に飛ばすヒールを実際に見せて認識を変えさせる時、出来れば二軍三軍辺りから引き抜けないかと努は画策はしている。

それでもいなかった場合には最悪ギルドでクランメンバーを募集することになるが、努としてはあまりやりたくはなかった。

もし素性や行動に問題のない中堅レベルに達している探索者がいたとするならば、間違いなく他のクランが既に唾をつけているだろう。なのでギルドのクランメンバー募集に食いついてくる者はクランからスカウトをされていない余り物か、宝石かもわからない原石ばかりだろう。一からのんびり育てるのも悪くはないが、出来るのなら三十レベルは努としては欲しいところだった。

引き抜きに関しては金色の調べはほとんどがクランリーダーのハーレム。迷宮制覇隊もそのクランに在籍していることに誇りを持っている者が多いと努は聞いているため、彼はアルドレットクロウから引き抜けないかと期待を抱いていた。そのクランには百人以上在籍しているので、レベル三十~四十くらいの者を一人くらい引き抜いてもそこまで 軋轢(あつれき) は生まないと努は踏んでいる。

(出来れば軽戦士系のアタッカーがいいな。ガルムが紹介したい人は多分タンク職だろうし)

宿屋の受付で四通の手紙を受け取った努はまだ見ぬクランメンバーを夢想しながらも部屋に戻り、まずはアルドレットクロウの封筒から開いた。

その内容は努の予想通り是非とも参加したいとの旨が 綴(つづ) られていて努は一先ずホッとした。これでクランメンバーについては希望が見えたからだ。結構な熱意の篭った文章を流し読みした努は続いて金色の調べから来た手紙を開く。

金色の調べは参加の意思はあるが何か裏がないか探っている、そんなような文章だった。特にその情報の報酬についての言及が多かった。しかし努はこれで金色の調べも大方確保出来たなと上機嫌だった。

努が情報の報酬として設定するものは G(ゴールド) ではなく、新聞社二社のインタビューを受けてもらうことだからだ。その程度で情報が得られるのならば金色の調べはほぼ確実に了承するはずである。

ソリット社以外の新聞社二社は資金力もそうだが、大手クランに対する繋がりがほとんどない。なので今回は三種の役割とヒーラーの境遇復建という努の主目的の他にも、二社の新聞社と大手クランに繋がりを持ってもらうことも努の狙いの一つにあった。

現状の二社は努とガルムとエイミーの無償インタビューによって業績は伸びているし、努の発信する情報コーナーにエイミーとガルムの質問インタビューコーナーのストックがあるためあと一月はネタに困らない。しかしもう努のPTは解散しているため、その後が続かなくなってしまう。

なので今回は一月後に業績が落ちないように大手クランとのコネクション作り。それに中堅クランも大手クランを餌に集めるのでそこでもコネクションを形成してもらう試みである。その頃には多少クランに取材報酬を多く出せるようにはなるので、選択肢の一つには入るようになるはずだ。

続いて努は紅魔団の手紙を開く。そこにはお祈りメールのような格式張ったお断りの文章が書かれていた。だがこれは予想の 範疇(はんちゅう) だったので努はさっと迷宮制覇隊の封筒を手に取った。

他のクランの封筒も中々質の良い封筒が使われていたが、迷宮制覇隊の封筒は金の布線が入ったいかにも高級そうな封筒だった。それに何か固形物が入っているのが外から見てもわかる。これ売ったら何Gするかな、と汚いことを考えながらも努は封を丁寧に開いた。

すると中身は少し癖のある文体でその企画に参加するという旨が書かれている手紙と、小魔石の雷魔石と氷魔石、それに努が判別出来ない魔石が一緒に入っていた。手紙を詳しく読むとこの魔石は企画に誘ってくれたことへのお礼であり、情報への報酬には含まないと記されている。

(随分と高待遇だな……)

未だ顔すら見たことのない手紙の書き手らしい迷宮制覇隊のクランリーダーを胡散臭く思いながらも、努はその珍しい小魔石三つをマジックバッグにしまった。

その翌日にはガルムがクランメンバーにと紹介してくれるらしい人と会うために、努は午後にギルドへと出向いていた。受付付近で努がガルムを探してきょろきょろとしていると受付嬢に彼は呼び止められた。

「ガルムなら今ダンジョンに潜っていますよ。……確か 13(いちさん) には戻ると言っておりましたので、そろそろ戻られると思います」

「あ、そうですか。わざわざありがとうございます」

「いえいえ」

営業スマイルの受付嬢に頭を下げた努はギルド内にある黒門付近のベンチに腰を下ろした。その間努はボケーっとモニターに映るPTを見ていると、黒門から見慣れた高身長の男性を見かけて彼は手を上げた。

「どうもー」

「ツトムか。待たせてしまったようだな。ステカ更新を済ませたらすぐに戻ってくる」

「はーい」

いつも通りの真顔なガルムの後ろには真っ黒の垂れた犬耳が特徴的な少年が全身汗まみれのまま控えている。その少年はまだ幼げを残している顔つきをしてはいるが、背は高く身体も鍛えられている。そして装備している鎧も重厚で大きい。

ガルムよりは背が小さく努より大きい彼は疲れているのか 胡乱(うろん) げな目で努を視界に収めると、下がっていた黒と白の混じった尻尾を警戒するように立てながら勢い良くお辞儀をした。

「ダリルです! よろしくお願いします!」

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。一先ずステカ更新してきてから落ち着いて話そうか?」

「あ! はい!」

前のベンチに座りだしたダリルという少年に努がそう促すと彼は元気な足取りでガルムの後を追った。元気な子だなと思いつつもダリルの見たことある装備を見て彼はタンク職なのだなと察して一安心した。

ダリルの装備している鎧は重騎士初心者がよく着ているものだ。それを見て努は彼のジョブは重騎士、重戦士辺りであると推測した。それならばアタッカーは軽戦士の他にも選択肢があるかなと努がこの先のPT編成に思いを巡らせていると、彼の向かいにガルムとダリルが座った。

「ツトム。この者が私がクランメンバーに推薦したい人物だ。名をダリルという」

「はい! ダリルです!」

「そうですか。私はツトムといいます」

ダリルに差し出された籠手に包まれた手を軽く握った努。彼はその後脇に挟んでいたステータスカードを努へと差し出した。

「これが私のステータスカードです!」

若干汗臭いステータスカードを努は受け取ってダリルのステータスを拝見する。

ダリルはレベル三十一の重騎士で VIT(頑丈さ) はB-。その分 AGI(敏捷性) が低いものの重騎士は全ジョブでも屈指のVITの高さを誇るジョブだ。ステータスだけ見ればガルムの代わりになり得る貴重な人材だ。

努はそのステータスカードを見て顔を綻ばせつつそれをダリルに返却した。

「重騎士ですか。いいですね」

「ダリルは少し弱気なところはあるが、しかし臆病ではない。彼ならばいずれ私を超えられるタンクになると自負している」

「いやいやいや! ガルムさんを超えるなんてそんな!」

「タンクに限っての話だ。調子に乗るな」

でへへと頭に手を当てて照れているダリルに、ガルムは厳しい言葉を吐きつつもため息を吐いた。

「防御もボロボロ。モンスターへの攻撃もまだまだだ。特に攻撃はまるでゴブリンのような貧弱さだ。だから攻撃面はあまり期待出来ないだろう」

「ごめんなさい……」

しゅんとしたダリルを横目に努はガルムの話に耳を傾ける。

「コンバットクライの制御も甘い。だが私が指導していけば制御は出来るようになるであろうし、成長すればモンスターへの攻撃もどんどんマシにはなっていくはずだ。ツトム。クランはいつ頃作る予定なんだ?」

「そうですね……。二ヶ月、長くても三ヶ月後には立てる予定です。飛ばすヒールの浸透と役割を馴染ませるのにそのくらいかかると思うので」

「そうか。ならその間にこいつを私と同じようにタンクをこなせるように鍛えておくことにしよう。私の知る者の中ではダリルが一番可能性を感じた。ツトム。どうだろう?」

「……ガルムがそこまで太鼓判を押すのでしたら、即採用でもいいくらいですけどね。まぁでも一応彼の人物像なりを見たいので、クラン結成後の一週間は試用期間ってことでいいですか?」

「あぁ。検討してくれるだけで充分なくらいだ。ありがとう」

ガルムは両膝に手を当てて大きく頭を下げ、隣のダリルも釣られるように頭を下げた。努もこちらこそと頭を下げた。

「やっぱりタンクが安定しているとPTが安定しますんで、こちらとしては良い人材を紹介してくれるのは本当にありがたいです」

「こちらこそありがたい話だ。……皆が私のようになれるわけではない。だが私のようにならなくとも騎士に役割が出来るのならば、協力は惜しまない。何かあれば何でも言ってくれ」

「そうですか。あ、なら今度空いてる日聞いてもいいですか? 今企画してることがあって……」

大手クランに対する情報公開などの話をガルムと話し合い、ダリルにも話に参加出来るよう気を遣いながらも努は二人と雑談にふけった。