軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

瀕死タンク

その後運良く八十二階層への黒門を見つけることが出来た努たちは、進んだ後すぐにギルドへと帰還した。八十一階層は辺りが薄暗く黒門が見つけづらいため、一日目で見つかることは珍しい。努は光と闇階層の構造を把握しているためある程度見当はつくが、それでも運が絡む。

「すまない! お先に失礼するよ!」

そしてディニエルの発言を真に受けていたゼノは、顔面を蒼白にしながら努に確認を取るとギルドからすっ飛んでいった。そんな彼をディニエルは真顔で見送った。

「冗談だって言ってるのに」

ただディニエルが言っていたことは先日ハンナの発言で広まった記事で、ゼノが半ばストーカー行為をしていたと報じられていたということだけだ。そのことで妻が過去の者になってはいないし、そもそもゼノと昨日仲良く会話している時点でそんな可能性はないだろう。だがそれでも彼は確認のために妻の下へと走り出していた。

「まぁ、その顔で冗談って言われても信じちゃう気持ちはわかるけどね」

「…………」

「にじり寄るな」

完全に表情筋が死んでいるような顔でじりじりと近づいてくるディニエルにそう言いながら、努は三番台に映る無限の輪のPTを見ていた。その神台ではエイミーが非常に楽しそうな顔でガルムを双剣でなます斬りにしていた。

(……ガルムは、瀕死タンクみたいな立ち回りか)

攻撃したモンスターの体力を吸うことの出来る暗黒騎士は自分の体力が少ないほどステータス上昇や能力が付与されるディサイシブというスキルが存在し、自身で体力管理出来る上級者はあえて瀕死になりながらタンクをすることがある。それを『ライブダンジョン!』では瀕死タンクと呼ばれていた。

そんな瀕死タンクと同じようなことを、普段と違って軽装備のガルムはしていた。騎士であるガルムにディサイシブのようなスキルはないが、限界の境地と名付けられている現象を引き起こせることは知っていた。そのことはメルチョーから少し聞いていて、無限の輪ではガルムの他にもダリルがそれを出来るそうだ。

限界の境地を使うと身体が普段からかけているストッパーが外れるようなので、確かにガルムの立ち回りは良くなる。それは努も実際に確認してはいるし、誰にでも出来ることではないらしいので個性にはなるだろう。だが『ライブダンジョン!』ですら瀕死タンクはネタ枠だったため、一撃死しかねないリスクを背負ってまで行うことではないと考えていた。

ガルムは探索者歴が長く技術も高いので、常に一定の体力を保つ安定したタンクをすることも出来る。なので努はガルムに立ち回りを相談された時も限界の境地には触れず、自分の知識と現実を合わせた最善のタンクを教え込んでいた。

タンクとしての技術は努から見ればまだ改善するところは指摘出来るため、まだ詰めるべき点はいくらでもある。そしてその教えに対してガルムは忠実だったし、嫌々やっているような気配もなかった。

しかし今神台に映っているガルムは双剣士のエイミーに斬られて体力調整を行い、限界の境地を使ったタンクを練習しているようだった。その光景を見て努はちょっぴり悲しくなったが、顔に出すほどでもなかった。

「ツトム。確か貴方はガルムに何か指導をしていたように見受けられましたが、あのような立ち回りを教えていたのですか? どうもそのようには見えないのですが」

しかしそれを目ざとく察知したリーレイアは少し顔を寄せて 囁(ささや) いてきた。そんなリーレイアから努は露骨に嫌そうな顔をして離れると、彼女はにんまりとした。

「その様子だと、違うようですね」

「そうだよ」

「……しかし妙ですね。ガルムがツトムの指導を無下にするとは思えません。何故立ち回りを変えたのでしょうか?」

「さぁ、気分でも変わったんじゃない」

「気分で立ち回りを変えるような男でないことは、わかっているのでしょう?」

「…………」

「すみません、少し調子に乗ってしまいました」

ガルムのことを突っ込まれてあからさまに目が冷めてきた努を見て、リーレイアは素直に謝ると三番台に映るガルムを見上げた。

ただ限界の境地を使ったガルムの立ち回りは祈祷師のコリナだと合わせるのは難しく、見ている限りではあまり噛み合っていない印象である。

「どりゃー!」

そしてエイミーも双波斬を使わない立ち回りを試しているようで、その動きからはアルドレットクロウの一軍双剣士が垣間見えた。この短期間でそこまで動きを模範出来る能力には目を見張るものがあるが、まだ完全には理解出来ていない様子である。

ガルムは限界の境地を維持しようとするがあまりに意識が分散し、普段の冷静な立ち回りを維持出来ずガーゴイルに叩き殺された。そしてエイミーも普段の立ち回りとは違うため火力は目減りし、近距離で戦って手傷を負ってしまっていた。

「あれ? ガルムさんが死ぬなんて珍しいっすね」

「何やってんだアイツ」

「あわわわわっ……」

同じPTのハンナとアーミラはそんな二人の異変にすぐ気づき、怪訝な顔をしていた。そしてガルムが死ぬことを予測していたとはいえ現実となったことに、コリナは慌てた顔をしながら手を組んでいた。

とはいえ祈祷師によって自身の速さを最大限に活かせる避けタンクに、大分安定して高火力を出せるようになってきた大剣士。それに死が予測出来る能力を持っている祈祷師のコリナを中心にしてPTはそこそこ回っていた。

「すまない。もう一度試させてくれないか」

「は、はいぃ! 全然いいですよ!」

そして戦闘が終わると同時に蘇生されたガルムはコリナに頭を下げた後、すぐエイミーにざくざくと斬られて限界の境地へと向かい始めた。そんな新しいことを試している二人を見て、ハンナはごそごそと自身のマジックバッグを漁って魔石を取り出した。

「よーし! なら自分も魔流の拳試してみるっすー!」

「じゃあ俺も龍化結びやるわ」

「あ、あの……。あまり無茶はしないで下さいね」

ただそれからはPT全体が大分好き勝手動くようになってしまい、コリナはそれを強く止められなかった。その結果ハンナは炎の魔石の制御を失敗し、アーミラは実戦での龍化結びに慣れず精神力をどっさり持って行かれて地面に膝を付いた。そしてコリナの目には四人全員死ぬ未来が見えた。

「あ、全滅パターン入った」

「えぇ!? 不味くないですか!?」

「何だか、初めて組んだようなPTに見えます」

周りの石像を破って出てくるモンスターは火力が足らないので中々倒しきれず、強みがあまり感じられない瀕死タンクに魔流の拳で自爆した避けタンク。そして死への対応は出来てもPTを上手く纏められていない祈祷師を見て、リーレイアはそう呟いた。

その後エイミーとガルムは以前の立ち回りに戻して何とか挽回しようとしたが、その頃にはもう遅かった。そして無限の輪の五人PTは八十一階層でまさかの全滅を果たし、一番価値のあるマジックバッグ以外の全てを失ってギルドの黒門から吐き出されるように出てきた。ある程度代わりの利く装備をしていたとはいえ、ロストは中々に痛い。

「んふふ」

「笑い方怖いよ」

「失礼」

敗者の証である茶色の服を身に纏ったアーミラを見て、努の隣にいたリーレイアはほくそ笑んでいる。そんな彼女に軽口を言うと済ました顔でそう返された。

「す、すみませんっ!」

「しゃーねぇだろ」

「やー、いけると思ったっすけどねぇ?」

「すまない」

「ごめーん。判断が遅かったね」

周りからも結構意外な目を向けられている五人はそう話し合いながら、代わりの装備を受け取るためギルドの受付へと並ぶ。そして努がガルムをジッと見ると、彼はその視線に気づいた後気まずそうに顔を逸らした。そんなガルムに努は 訝(いぶか) しむように首を傾げた後、つかつかと近づいた。

「おーい」

「…………」

「いや、どうした? ガルムさーん?」

まるで何か悪いことをしている自覚があるような顔をしているガルムに、努は意識でも確認するかのように目の前で手を振った。そして何も言わないガルムをエイミーは目を細めて観察している。

「別に限界の境地ってやつを使ってもいいとは思うんだけど、それなら先に言ってくれればこっちもそれを踏まえて色々考えは出せるよ?」

「……ツトムには関係のないことだ」

「え? ……えーっと、まぁ僕これでもクランリーダーだから、関係はあると思うんだけど」

申し訳なさそうに藍色の尻尾を垂れ下げて顔を逸らしているガルムに、努は反応に困るような顔をしながらただ首を傾げた。

そして後ろにいるクランメンバーたちに窺うような目を向けたが、ハンナやアーミラも驚いたような顔をしているだけだった。どうやら何かの罰ゲームというわけでもないらしいが、それにしては罪悪感丸出しのガルムが気になった。

お互いの間に何とも言えない沈黙が流れ、後ろにいるコリナやハンナも固唾を呑んで見守っている様子である。そして一向に喋らないガルムに努は困ったように自分の頭に手を当てた。

「まぁ、そこまで言うなら好きにやればいいと思うけど」

「…………」

(いきなりどうしたんだろうな)

いきなり様子がおかしくなったガルムのことが良くわからず腕を組んでいると、その後ろからエイミーがモグラのようににゅっと顔を出した。

「ツトム~、ちなみにわたしの立ち回りは見ていてくれたのかな~?」

「ん? あぁ、見てたよ。アルドレットクロウの一軍双剣士意識してるよね?」

「そう! あれどうかなー? 双波斬ばっかりじゃ駄目だと思ったから、変えてみたんだけど……」

「いいと思うよ。ただスキルの使い方がまだ慣れてない様子だったから、そこから直していけばいいんじゃないかな?」

「じゃあ、帰ったら教えて!」

「いいよ」

「やたっ!」

びしっと手を上げたエイミーはその際にガルムの方をちらりと見たが、彼が言葉を発することはなかった。そんなガルムを見て彼女は少し眉間にしわを寄せたが、何も言うことはなかった。

「あ、コリナ。無くなった装備は帰ったらオーリに報告しておいてね。あとは反省会も忘れずに」

「は、はぃぃ!! すみませんでしたぁぁ!!」

「いや、流石に人前で土下座は止めて?」

クリーム色の長い髪が床につくのもお構いなしにその場で土下座したコリナに、若干引きながら声をかける。その後無限の輪はゼノを除く九人でクランハウスへと帰った。

ちなみにゼノは夕方から妻との愛を確認した後に戻ってきた。