軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒歴史、追加

王都から迷宮都市へ行くまでには必ず一日は野営を挟まなければいけない距離がある。そのため先行していた探索者たちは固まって野営の準備を始め、無限の輪も既に始めていた。オーリが中心となって準備を行い、それをコリナとダリルが積極的に手伝っている。

(リーレイアは、ガチの人なのかな)

そして無限の輪が立てた天幕の中で一人スキル回しをしていた努は、先ほどのリーレイアの顔を思い出しながらそう思った。

先ほど馬車で寝ている間にクランメンバーたちは自分の話題で盛り上がっていたようで、その際にアーミラが肉体関係がどうこうと 嘯(うそぶ) いていたらしい。そして目覚めた努は真っ先に嫉妬丸出しの顔をしたリーレイアに問い詰められていた。

殺したいほど好きという言葉を今思い出せば少し納得は出来るが、リーレイアの真意は少し読みにくい。なので実際のところどうなのだろうと努はあーだこーだ悩んでいた。

リーレイアの他にもハンナはもっと詳しくと興奮した様子で聞いてきて、エイミーは野良猫のような目になっていた。ただその誤解については努がカミーユの話を出すとすぐにアーミラが否定し始めたため、すぐに解けることとなった。

努はカミーユから聞いてもいないのにアーミラのことについて多く聞かされていた。そのため彼女がまだ誰ともお付き合いすらせずに十六歳を迎えつつある少女だということを知っていた。

「身体の芯から温まるコーンスープどうですかー」

外からは野営をする探索者たちの他にも、王都から迷宮都市へ移住を決意した商売人やら探索者志望の者たちが集まっている。

(にしても、いきなりこれだけの移民を迷宮都市は抱えられるのかな)

王都にある魔道具によって既に情報の伝達はされているようだが、数万人の王都民を受け入れる体制が迷宮都市にあるかは心配が残る。それに王都民たちは何処か迷宮都市を見下しているような雰囲気もあったため、絶対にトラブルが発生しそうな気配がある。

それに王都の貴族も先日の王城で見た光景からして、絶対に大手クランに取り入るつもりであることはわかっていた。少なくとも無限の輪はバーベンベルク家の庇護下にあるため問題ないだろうが、アルドレットクロウは絶対に狙われていることは間違いない。貴族自体には既にそこまでの力はないが、それでも魔法という力は努も自分の知識で計れない分気にしていた。

これから迷宮都市がどうなっていくのかを努は考えながら天幕内にスキルを飛ばしまくっていると、遠慮がちに入り口の布が持ち上げられた。そして夜食の準備を手伝ってエプロン姿になっていたガルムと、金色の狼耳を立てたレオンが顔を覗かせた。

「よっ、ツトム」

「レオンさん。何でここにいるんですか? せっかく距離を離していたのに」

「あっ! やっぱり無限の輪は俺たちと距離離してたよな? 何でだよー」

「野営でも平気でやらかすってアルドレットクロウから聞いたからですよ」

努が白い目でレオンを見ると、彼は誤魔化すように口笛を吹いて斜め上を向いた。

「が、我慢は身体に毒だし?」

「もっかい腕もげろ」

「ひっでぇな!? 俺だって好きでもげたわけじゃねぇし!!」

今回のスタンピードでレオンは二回腕がもげたせいで、他の探索者たちからもそのことについては弄られていた。

「そもそも、何でツトムは王都で俺の見舞いに来てくれなかったんだよ! そのせいで色々言いそびれちまったじゃねぇか!」

「話す機会なら王城であったでしょ。まぁ、貴族をナンパするのに必死そうだったみたいだけどね。さっ、ガルム。レオンがお帰りのようだよ」

「うむ」

「ちょい待て! 言いそびれたってのは嘘! ……まー、正直言うとだな、あんまり認めたくなかったっつうか、嫌なことを後回しにしたかったっていうやつだ」

ガルムに腕を掴まれたレオンは項垂れて自信のなさそうな様子でそう言った。そしてその場で胡座をかいて座ると、両膝に手を当てて頭を下げた。

「ユニスを助けてくれたこと、感謝する。あの時、俺じゃ間に合わなかった」

「……別に、僕が助けたわけじゃないですよ。ウンディーネがやったことなんで」

「あの時は俺も結構近くにいたからな。状況は、わかってるつもりだぜ。おかげで金色の調べは犠牲者を出さずに済んだ。今回は完全に助けられた。本当に感謝するぜ」

今回の金色の調べの被害はレオンの片腕と、ユニスがウンディーネ越しにオルビスへ蹴飛ばされて気絶したことくらいである。そしてユニスと努との会話を聞いていたレオンは、彼が自らの選択で助けたことはわかっていた。

「あそこで自分の守りを捨てて助けるなんて、中々出来ることじゃねぇ。ツトムだったらすぐに障壁魔法でぺしゃんこだろうしな!」

パチンと手を鳴らして笑顔でそう言ってくるレオンに対して、努は苦々しい顔をしていた。

「あれは自分が判断を間違えただけのことです。失敗でしたよ」

「いやいや! 失敗じゃねぇよ! そのおかげでユニスは助かったし、俺だって助けられた。……正直ツトムがあそこまで助けてくれるのは意外だったけどよ、俺は前のツトムより今の方が好きだぜ!」

「僕は嫌いなんで結構です」

ただあの選択は努からすれば失敗としか思えなかった。なのでそう言って話を打ち切ると努はしっしと手を払った。

「話はそれで終わりですよね。ならさっさと帰って下さい」

「……えー? 礼だけでいいのか?」

「僕にとってはただの失敗なんで、いらないです。あと、言いふらしでもしたら金色の調べを本気で潰しにいくので、そのつもりで」

全く冗談に聞こえない努の言葉にレオンは若干引いた顔で頷くと、その後も話を続けようとした。だが努の暗い気持ちを察したガルムによってレオンは連行されるように連れていかれ、二人は天幕から出て行った。

そしてそれを確認した努は寝転がって頭を抱えた。

(まさかこの世界でも黒歴史が追加されるとは……)

努は思い出したくもなかった出来事をレオンにほじくり返され、一人悶えていた。

▽▽

そして野営を挟んで馬車は迷宮都市へと向かい、既に目で見えるほどまで近づいていた。

「おー、帰って来たね」

努は馬車の窓から巨大な神台が飛び出ている迷宮都市を見ながら呟く。外のダンジョンへ行ったときにも外から迷宮都市を眺める機会はあったが、一ヶ月近く離れた経験はなかったので何だかやけに神台が新鮮に見えた。

それに迷宮都市の検問所にも普段より明らかに人が集まっていた。努が双眼鏡で眺めてみると、そこには迷宮都市へ入る手続きを素早く済ませるために増員されている多くの門番とギルド職員、それに迷宮都市へ残っていたアルドレットクロウや金色の調べ、シルバービーストの他にも多くの探索者たちが集まっていた。

努が知っている者としてはギルド長であるカミーユに、シルバービーストのクランリーダーであるミシル、それとヒーラーについてのことを初めて教えた一番弟子である兎人のロレーナがいた。

そして無限の輪を乗せた馬車が迷宮都市の検問所へと到着し、努たちは次々と降り始める。アルドレットクロウや金色の調べも降りると各々のクランから歓迎を受けていた。

「アーミラ!」

そんな人混みを掻き分けてカミーユは無限の輪の馬車へと向かってきて、アーミラを見つけるとパッと顔を輝かせて近づいてきた。そして嫌そうな顔をしているアーミラに構わず抱きつくと存在を確認するように顔をぺたぺたと触り始めた。

「んだよババァ。べたべた触るんじゃねぇ」

「アーミラ、私がどれだけ心配したと思っているんだ? もう少しはこうさせろ」

「うぜぇ」

すぐ離れようとするアーミラをがっしり抱きしめているカミーユは、頬ずりすらするような勢いである。そんな親子の姿をダリルは少し羨ましそうな顔で見ていて、リーレイアは何とも言えない表情で見つめていた。

他にもエイミーやガルムはギルド職員から声をかけられていて、ゼノは既に妻と抱き合っていた。そんなゼノを見てハンナとコリナは微笑ましそうに笑っている。

「ツトムさんっ! おかえりなさい!」

そして努も一番弟子であるロレーナが嬉しさを表すようにぴょんぴょんと跳ねて、少し涙を浮かべながらの笑顔で出迎えた。しかし努は早歩きで検問所に向かいながら軽く手を上げてあっさりと答えた。そしてミシルにも軽く目礼をするとすぐに検問所へと向かっていった。

「えっ……?」

すたすたと検問所に向かっていく努を見送ったロレーナは唖然とした顔をしていて、ミシルは面白そうにくつくつと笑っている。

「検問お願いします」

「あ、あぁ。構わないが……」

門番は急かしてくるように言ってきた努にそう答えたが、彼の後ろで怒っている様子の女性を見て頬を引き攣らせている。そして門番が検問しようとギルド職員に声をかけた時に、その女性は勢い良く走ってきた。

「なに無視してるんですかコラー!!」

軽く手で流されていたロレーナは、努の腰に勢い良く飛びついてタックルした。身体が反ってくの字に曲がりかけた努は声にならない叫びを上げ、そのまま地面に引き倒された。

そして思い切り地面に身体を打ち付けて悶えている努の身体に、ロレーナは手を触れてヒールを唱える。すっと痛みが引いて余裕が出来た努は、後ろからタックルをかましてきたロレーナに振り向いた。

「な……何してくれてるんだ」

「ツトムさんが無視したのが悪いんでしょう!?」

「いや、無視はしてないでしょ」

「いやいやいや!? 周りを見て下さい! 皆さん、無事王都から帰ってきたことをお互いに祝い合ってますよね!? なのにツトムさんは軽く手を上げるだけで済ませる気ですか!?」

「ただいまでーす」

「えー!? ちょ、えーーー!? 軽すぎますよ!? 今回のスタンピードって、王都を揺るがすような規模だったんですよね!?」

「迷宮都市でどう報じられていたかは知らないけど、まずは検問を済ませるよ」

ぱっぱと砂埃を払った努は驚愕といった目をしているロレーナにそう返しながら、門番からいつもの紙を受け取ると口に咥えた。そしてステータスカードを持っているギルド職員にそれを渡した。

そしてギルド職員がステータスカードで本人証明を確認すると、門番は書類に判を押して頷いた。

「キョウタニツトム、問題ない。入っていいぞ」

「どうも」

「ツトムさん! もう目がギルドの方にいってますよね!? 私! 私の目を見てちゃんと話して下さいよ!」

「うるさいな。あとその耳邪魔」

「うるさっ……!?」

相変わらず下から突き上げてくるように顔の前へ来る兎耳に努がそう言うと、ロレーナは表情を固まらせた。そして怒ったように兎耳で努の顔目掛けて乱れ突きをお見舞いした。

「私が、どんな気持ちで、迷宮都市に、残ってたか、ツトムさんにわかりますか!?」

「ちょ、それやめろ」

「本当は私だって行きたかったんですよ! でも警備団とギルドに止められたらどうしようもないじゃないですか! 迷宮都市にだってモンスターが奇襲して来るかもしれないから、待機命令を出されてしまったんですぅー!! それを、このっ、このっ!」

「もうわかったからやめろ」

そう言われたロレーナは涙目で努を見上げると、拗ねたようにぷいっと横を向いた。

「それに、私だってお蔭様で忙しいんです。だけど今日ツトムさんが帰ってくるっていうから、色々頑張って調整して今日を休日にしたんですよ。あぁ、何て健気な弟子なのでしょう。しかしこのお師匠様はそんな弟子に軽く手を上げるだけときたものです。酷い態度だとは思いませんか?」

「本当に健気な弟子は自分から健気とは言わないだろうけどね」

「また乱れ突きしますよ?」

「やめろ」

やけにキレのある動きで闘牛のように頭を振っているロレーナに、努は手を前にやった。そして彼女の頭を右手で軽く押さえた。

「心配してくれたのはありがたいことだけど、取りあえず今は神台を見たい気分なんだよ。一ヶ月近く見てないからね」

「はぁ。まぁツトムさんらしいといえばそうですけど、相変わらずですね。……でも、何だか雰囲気変わりました?」

「…………」

呆れたような目から一変して不思議そうに見上げてきたロレーナに、努は無言を返した。

「あだっ、ちょっと! 何するんですか!」

「行くよ」

そしてロレーナを突き放すように頭を押した努は、すたすたと巨大な一番台の方へと歩き出した。そんな努にロレーナは文句を言いながらも、軽い足取りで追いかけていった。