軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒い者同士

それから努が公開訓練場に行ってみると、丁度ガルムがダリルの顔をショートソードで撫で切りにしたところだった。二人が持っている武器は共に刃引きされておらず、更に防具も着けていない。そんな武器で斬られたダリルの頬は割かれ、赤い血が冗談のように流れ出た。

ダリルの高い VIT(頑丈さ) とガルムの低い STR(攻撃力) によってそこまでの深手は負わないだろうが、人体の弱点である顔や首はクリティカル判定となり攻撃が通りやすい。そのためダリルのVITを持ってしても、顔に傷を付けられていた。

「私を殺すつもりで来い。でなければ、本当に死ぬぞ」

「……くっ、そおぉぉぉ!!」

マウントゴーレム戦の時にダリルが見せた限界の境地。努も新聞記事でそれに関する一文を見かけていた。曰く命がけの戦闘を潜り抜けた者がたどり着ける境地で、そこに至れると人間離れした身体能力を有すことが出来ると言われている。

努もテレビ番組かなにかで脳がリミッターをかけて身体能力をセーブしている、などと聞いたことがあるので、そういうものなのかなと思っていた。

「このっ! この!」

そして頬を大きく割かれたダリルは限界の境地に入れたのか、見るからに動きが変わった。技術的には劣るものの、真剣での勝負。それも死ぬ気でかかってくる相手というのは厄介で、途端にガルムが押され始める。

たまにガルムの攻撃が腕や足を捉えるが、攻撃を受けているダリルはビクともしていない。それにクリティカル判定となる部位だけは守っているため、致命打を当てることは難しい。ダリルの守りはガルムに仕込まれているだけあって、非常に上手い。

「くっ」

更に押し合いとなれば、身体のリミッターが外れているダリルが絶対に勝てる。ガルムもタンク職の中で素早い方ではあるが、エイミーやハンナのようにはいかない。そのため容易に近づかれてしまうので、苦しい戦いを強いられていた。

「おぉ。あいつ、いつの間にあんな強くなったのか」

「いい勝負してるな。頑張れー」

訓練場の周りで二人の戦闘を見学している探索者たちは、押し始めたダリルを軽く応援し始める。ダリルがガルムの弟子ということはかなり広まっているため、下克上を期待して盛り上がっているようだ。

「たあっ!」

そして純粋な力押しで体勢を崩されたガルムは、大盾での殴打をもろに頭へ喰らった。嫌な鈍い音と共にガルムが軽く吹き飛ばされ、地面に膝をつく。

「おぉ! すげぇ!」

「このままいけるぞ!」

ガルムが地に膝をついたのを見て周りの者たちは湧いている。努は何食わぬ顔でそれを見ているが、その黒い瞳は動揺するように揺れていた。

「当たった!?」

そしてガルムにまともな一撃を与えられたことに、当人のダリルが驚いていた。初めての体験に少しダリルの動きが止まる。そしてやはりこの力があればガルムでも倒せると思い、すぐ追撃に入る。

だが地面から立ち上がったガルムの雰囲気が、先ほどとは明らかに違った。

「見ないうちに、成長したものだ」

努でも感じる異様な空気。見学していた探索者たちも息を呑む。そして相対しているダリルも今まで向けられたことのない目に、後退りせざるを得なかった。

「だが、これはお前だけのものではない」

ダリルと同様に限界の境地に入ったガルム。そこからの戦闘は本当に一方的で、努が目を覆いたくなるような惨状だった。

限界の境地に至れば二人の身体能力はそこまで変わらず、ダリルは頑丈でガルムはその分素早い。そのため押し合いもダリルが一方的に勝てることはなくなった。

それにガルムは探索者の犯罪行為を取り締まる警備団に目を付けられるほど、対人戦闘に長けていた。ガルムはその実力によって警備団に何度か誘われているが、そもそも勧誘されること自体が稀である。エイミーはそのアイドルのような影響力込みでの勧誘であるし、他に実力で勧誘を受けた探索者はヴァイスしかいない。

そんなガルムに身体能力も同格となってしまったダリルが勝てるわけがなかった。血を流しすぎて意識が 朦朧(もうろう) となり膝をついたダリルの鼻先に、ガルムはショートソードを突き出す。

「もう諦めろ。冬将軍が相手ならばまだわからんが、私には勝てない」

「まだ……まだぁ! これからです!!」

「そうか、なら仕方あるまい」

ダリルも今まで鍛えられてきて体力があるだけに、勝負が長引いてしまったということもあるだろう。それでもまだ勝負を諦めていないダリルの顔面を、ガルムは鉄靴で蹴り飛ばした。

倒れてもなお起き上がろうとするダリルを、ガルムは徹底的に蹴った。そして待機していた医者に止められて、二人の勝負は幕を閉じた。

「ヒール」

ダリルの症状を見ながら適切な治療を行い始めた医者を横目に、努はこちらに気づいてやってきたガルムを見上げた。

「やりすぎじゃない?」

「徹底的に潰してやらねば、同じ過ちを繰り返す。あの力を得た時は、誰にでも勝てると思ってしまうものなのだ。だから仕方あるまい」

「なんか、やけに実感が籠もってるね」

「……昔、私も痛い目を見たからな。まぁ、その時よりはマシだろう。むしろ感謝してほしいくらいだがな」

ふん、とガルムは嫌な思い出を吹き飛ばすように鼻を鳴らしてそっぽを向くと、もうダリルが回復したのか起き上がってきた。その整った顔にはもう傷がなく、泣きそうな顔で努を見てきている。どうやらガルムと話すのが気まずそうだったので、努は助け船を出した。

「自分で殴っといて当たった!? は流石にないよね、ダリル」

「ご、ごめんなさい……」

「ふん。起きたか。ならさっさと来い。先ほどの戦闘を振り返るぞ」

「は、はい!!」

鋭い目つきでそう言って歩き出したガルムに、ダリルは急いだ様子で後を追う。そんな二人を見送った努はどちらの尻尾も嬉しそうに揺れているのを見て、笑みを隠すように口を押さえた。

―▽▽―

模擬戦も終わり、最終的な一軍メンバーは、タンクがゼノとガルム。ヒーラーが努。アタッカーがエイミーとディニエルとなった。二軍はタンクがダリルとハンナ。ヒーラーがコリナ。アタッカーがアーミラとリーレイアである。

八十階層を突破するまでは基本的にこのPTメンバーで固定し、階層攻略に向けて切磋琢磨していく予定である。努は早速今週の予定や目標を書き記し、練習メニューなどを割り振っていく。

「ダリル、これ練習メニューね。ただこれはあくまで資料だから、PTに合わせて変えていってね」

「はい! わかりました!」

二軍のPTリーダーに任命したダリルへ資料を渡すと、彼は晴れやかな笑顔でそれを受け取った。以前行ったガルムとの模擬戦でダリルは多少認められたおかげか、今は幸せ真っ盛りといったところである。

その後努は一軍についても考えを巡らせ、クラン経営について色々と提案してくるオーリと軽い協議をした。そしてそれが終わった後に努はリーレイアの部屋を訪ねた。その目的は勿論、アーミラについて話すためだ。

事前に何か話すことを言っていたので、リーレイアはすんなりと努を自室に通した。その部屋は非常に整理整頓が成されていて、いつも散らかっているアーミラやハンナとは大違いである。

そして挨拶もそこそこに努はすぐに本題へ入った。

「アーミラと本格的なPTを組むことになったけど、大丈夫?」

「問題ありません」

努は精霊契約で色々なことを試すためPTを組んでいたので、ある程度リーレイアと打ち解けている。それに少し自分と似ている性質を感じたので、努は一歩踏み込んで発言した。

「いっそのこと、直接言ったらいいんじゃないかな。アーミラは鈍感だから、多分わかってないよ」

「……ですから、何も思うことはありません」

「いや、流石にそれはないでしょ。一ヶ月もPT組んでたら少しはわかるよ」

四人PTを組んでいた時ハンナやアーミラは全く気づいていなかったが、努にはわかった。アーミラのためにわざわざクラン移籍までするようなねちっこさは、同類から見ればわかりやすいものである。

「マイナスからプラスに変わると周りからは良く見えるけどさ、でも結局過去に酷いことをしたのは確かだよね。正直今のアーミラにムカついてるでしょ? 何であんな好き勝手やってた奴が、今はもう更生しましたって顔で仲良しごっこしてるんだってさ」

「…………」

リーレイアは心を突かれたように目を見開く。心の底で思っていたことを代弁したかのような言葉。今まで馬鹿にされ続けてきた仲間のためにここまで追ってきたという殻の中にある、どろどろとした負の感情。それが努に共感された気がして、リーレイアはポツリと呟いた。

「……嫌な感情がないとは、言い切れない、かもしれません」

「だろうね。僕は今のアーミラは良い奴だと思ってるけど、過去のことはあまり知らないからさ。だから僕がリーレイアにアーミラを許せと言う資格はないと思う」

「はい」

きっぱりと返事をしたリーレイアの様子を見て、努は無理かと思いつつも提案する。

「ただ、少しは今のアーミラも見てやってほしいかな。多分二人は、話し合えば解決出来る可能性がある。勿論それがしたくないなら、実力で示してもいいよ。アーミラを差し置いて一軍を取れるなら、それもいいと思う」

「……何故、そこまでわかるのですか?」

「え? あぁ、リーレイアは少し僕と似ている部分があるからね。申し訳ないけど」

自虐するように言った努に、リーレイアは意外そうな顔をした後にちょっとした笑みを浮かべる。そして緑色の瞳で真っ直ぐと努を見た。

「……今は、実力を示そうと思います。それでアーミラを、見返したい」

「そう。なら八十階層は突破しないとね。PTは違うけど、お互い頑張ろう」

「はい。精一杯頑張らせて頂きます」

今までずっと心の内に貯めて毒を吐き出したリーレイアは、少し晴れたような顔で努に頭を下げた。