軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

眩しい師匠

「ふははは! 付いてきたまえ!」

「負けませんよ!」

今回タンクを務めているゼノとダリルは、お互い競うように大きなスノウゴーレムのヘイトを取り合っている。ゼノが銀色のコンバットクライを放つと、ダリルも負けじと黒の闘気を放つ。ガルムがクランに加入してからダリルは藍色のコンバットクライを止めて、自分の色に合わせたのか黒色にしている。

「エンチャント・フレイム」

そんな二人の方を向いているスノウゴーレムの後ろから、大剣に炎を纏わせたアーミラが強襲を仕掛けた。龍化によって赤く光り輝いている瞳から残光が走る。

「おらあぁぁぁ!!」

そして巨大雪だるまのような見かけをしたスノウゴーレムは、胴体からその大剣で焼き切るようにされて真っ二つになった。龍化の力をある程度制御出来るようになってきたアーミラは、続いて横のスノウゴーレムを倒しにいこうとする。

「ミスティックブレイド」

そんなアーミラの横から雪を踏みしめて前に出ていたのは、ショートソードを構えたガルムである。騎士の攻撃スキルを使ってスノウゴーレムを大きく怯ませ、器用に大きい腕を駆け上がる。そして飾り付けのように鼻部分へ付いている核を剣で砕き、スノウゴーレムに止めを刺した。

粒子化して身体が崩れ始めたスノウゴーレムからガルムは飛び降りると、メディックを受けながら地面に着地。確認するように周りを見回した後は安心したように息を吐いた。

瞳を赤く輝かせていたアーミラも龍化を自己解除し、落ちた魔石を努に軽く投げ渡す。ダリルも遠くでどこどこと音を立てながら雪に埋まっている魔石を拾っていて、ガルムもそれに参加している。

するとガルムは黒い尻尾で魔石を器用に掴んでいるダリルへと尋ねた。

「そういえば、何故コンバットクライの色を変えているのだ? 以前からもたまに見かけたが」

「あー、えっと、それは」

「なんだ。要領を得ないな。はっきりと言え」

「あの、怒りません?」

魔石を手に持って様子を窺うように見上げてくるダリルにガルムは頷くと、彼は安心したように言葉を続けた。

「だって格好良くないで……す、か?」

前半部分を聞いたガルムの顔が途端に冷めたものになったので、その視線を受けたダリルの言葉はどんどんと尻すぼみになっていく。そしてガルムは一つため息をついた。

「……くだらん。そんな理由だったのか」

「お、怒らないって言ったじゃないですか!?」

「ただ呆れているだけだ。コンバットクライの色を変えるのにも精神力を使っているのだろう? 現に七十階層の最後、お前は赤いコンバットクライを放っていた」

「……はい、すみません」

「ぬ。くだらんとは随分な言い草ではないか? ガルム君」

すると近くで氷魔石を拾い上げたゼノは、少し茶化すような声色で二人に近づいた。しかしその表情はいつもよりか真剣である。そんなゼノに対してガルムは静かに首を振った。

「お前に対しては別に言っていない。神台で見た限り、それがゼノという探索者の戦い方なのだろう。個人の戦い方にまで口を出す権限は私にない」

「ほう?」

「だが、ダリルは私の弟子だ。こいつにはお前のような、華やかな戦闘は合わない」

「果たしてそうかな? 彼は見たところ要領がいい。すぐに私のコンバットクライも自分でアレンジしていたしな」

「……技術的には出来るかもしれんが、ダリルの性格からして無理だろう。それならば実戦に絞って鍛えた方がこいつは伸びる」

ガルムの言葉にゼノは優雅な動きで顎に手を当て、何か考えているのか黙り込む。そんな二人の間にいるダリルも身長的にはゼノと同じくらいなのだが、この場ではやけに小さく見えた。

「そうだな。確かにそれも悪くない考えではある。だが、ガルム君は観客に向けたアピールを悪とは思っていないのだろう?」

「……私個人としては好まないが、有用性は認めている」

ガルムは忌々しそうにしてはいるが、否定はしなかった。最も身近な例を挙げればエイミーが一番わかりやすいだろう。彼女はアタッカーの実力でいえば上の下といったところで、ユニークスキル持ちには確実に負けているのが現状だ。しかしエイミー個人の影響力はユニークスキル持ちにも劣らないし、ダンジョン探索をするための資金も豊富に持っている。

ダンジョン探索というものは様々な神台に映され、探索者以外の者たちにも多くから観戦される。いわばこの世界のスポーツ観戦といっても差し支えないだろう。その中でアイドル的立ち位置にいるエイミーは、ダンジョンに入るだけで一定のファンがその神台を見学する。

そしてエイミーは様々な店からスポンサーを受けていて、その話題を神台に聞こえるように話す。それが宣伝となって店の売り上げが上昇し、その利益の一部はエイミーのダンジョン探索で使う装備品や消費する備品に還元される。

他にも知名度や発言力なども上がって様々なことがやりやすくなるため、観衆に気に入られるということは神のダンジョン探索をすることで重要と言える。

エイミーの株をあまり上げたくないのかつまらなそうな顔をしているガルム。端から見れば怖くダリルなら怯えることだろうが、ゼノは全く怯むことなく身振り手振りを交えてガルムに提案する。

「それならば別に絞らなくとも構わないのではないか? ダンジョンを進む実力と観客を湧かせる力。そのどちらも鍛えればいいだけだ」

「……こいつにそんな器用な真似が出来るのか?」

「ふっ。私のように完璧な華麗さっ! 優美さっ! 美しさっ! があれば人気者は確約されたようなものだろう。しかし、観客の心を掴むのは何もそれだけではないのだよ。ダリル君にはダリル君の美しさがある。それに、今アタッカーをしている君だって人のことは言えないじゃあないかね?」

さらさらとした銀髪を払って不適な笑みを浮かべるゼノに、ガルムは少し考え込んだ後にダリルを見下ろした

「……それもそうか。ダリル。お前はどうなんだ」

「えっ、僕ですか」

「お前がやりたいのならやればいい。ただし、実力が落ちるようならば……」

「大丈夫。ダリル君ならば両方出来るさ」

凄むように目が据わっていくガルムと気楽に無茶ぶりをしてくるゼノに、ダリルはおっかなびっくりとした様子だった。しかし少しすると覚悟を決めたようでしっかりと二人を見返した。

「はい。頑張ります」

「ふっふっふっ! 私に任せたまえ!」

「訓練はサボるなよ」

笑顔でダリルの手を取ったゼノに、それを訝しむような目で見つめるガルム。そんな三人は早速訓練の内容を話し合いながら、魔石を持って努とアーミラの下に帰って行った。

ちなみに神の眼はゼノの配慮で先ほどから努とアーミラの方に向かわされていて、三人が話している間神台では二人の熱い雪合戦が中継されていた。

―▽▽―

ガルムの頼みで彼をアタッカーとしてPTに入れて半日潜り、ダンジョンでの実戦は終わった。

(今日のPTはむさ苦しかったな)

ガルム、ダリル、ゼノに男勝りのアーミラときたので、努はもはや男五人PTだなと内心で酷いことを考えながらクランハウスに帰った。最後の雪合戦は雪玉が弾丸のように飛んできたため、努は生きた心地がしなかった。

「どうだった。私のアタッカーは」

努がリビングで今日のダンジョン探索で得たことや感じたことをメモに纏めていると、風呂から上がってきたガルムが近くのソファーに腰を下ろした。ガルムの質問に努はペンの底をこめかみに当てた。

「ハンナには及ばないだろうけど、ある程度は機能すると思う。で、どうしたのいきなり? 取りあえず試してからと思って何も聞かなかったけどさ」

「うむ、このままでは駄目だと思ってな。色々と可能性を模索することにした」

「ほぉ?」

「茶化すな。一応真面目な話だ」

「ごめん」

あまり似つかないゼノの真似をした努に、ガルムは苦笑いしながら突っ込んだ。そして冷たい飲み物を持ってきてくれたオーリに礼を言う。

「拳闘士のハンナは避けタンク。重騎士のダリルは一番VITが高い。聖騎士のゼノは、エンバーオーラやアンデッドに有効なスキルがある。それに加えて個性もあるだろう」

「騎士のガルムには一体何の強みがあるのか。それの模索?」

「そうだ。今は新入りだから努とPTを組めているのだろうが、いずれはわからん。いや、勿論コリナも優秀なヒーラーであることはわかっているぞ?」

ガルムは周りを気にしたように少し湿った藍色の耳をぴくぴくと動かす。そして氷の入ったグラスに口を付けて傾け、喉を鳴らして酸味の効いたレモン水を飲み干した。

「しかし、私は努とPTを組むためにこのクランへ加入したのだ。このまま置いて行かれるのだけはごめんだからな」

「別に一軍二軍にはそこまで拘らないから、気にしなくていいと思うけど。まぁ初めて挑む八十階層は一度メンバー決めするけどさ。でも一度クリアした後は全員八十階層突破させるつもりだし」

「その八十階層を攻略するメンバーに入りたいのだ。……七十階層の初攻略を神台で見た時、私は正直悔しかった」

ガルムはグラスを置いて手を握る。七十階層をも初見で攻略した努を見て、ガルムは嬉しかった。周りの者はもう誰も努を馬鹿にしない。そのことがガルムは誇らしかった。

しかし自分があの場にいられなかったことは、正直な気持ちを言えば悔しかった。自分がもしあの場にいられたら、どうなっていただろうか。それを想像して頭の中で戦闘を繰り返していたガルムは、それで一日眠れなかった。

「だから、今度こそはあの場に立ちたい。そのための努力は惜しまないつもりだ」

「そう。……なら、取りあえずレベル上げから始めようか。目標は七十レベルで」

ガルムに真剣な目で真っ向から見つめられた努は、逃げるように視線を逸らした後にそう提案した。

ガルムとエイミーはギルドでの業務もあったため、そこまでレベルを上げられていない。そのため現在は二人とも六十六レベルで止まっている。

するとガルムはさっと立ち上がった。

「わかった。行ってくる」

「ちょい待て。今日はもう十分でしょ」

「時間は有限だ」

「がむしゃらにやればいいってもんじゃないでしょ」

だから座れと努が目で制すると、ガルムは本当に渋々といった様子で再びソファーに腰を下ろす。

「正直、このままでもいいとは思うけど。別にダリルやゼノとの差別化は十分出来てるし」

「私の気が済まない」

「……じゃあやるしかないね。明日までには色々と考えとくから、今はしっかりと休んでおくこと」

「あぁ」

珍しくにっこりと笑ったガルムに努はしょうがないとため息をついた後、騎士職のあれこれを思い出しながらどうするかを考え始めた。