軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

継子との対面

それから話はとんとん拍子に進んだ。すぐさま婚約が結ばれ、三ヶ月後には私の両親と兄の立ち会いの元、教会で誓いを立て、婚姻書に署名した。

侯爵家当主の結婚とは思えないほど秘めやかな式だった。輿入れも同様に。好奇の目を避けるようにして、私はセシリア・デ・フェール改めセシリア・デ・ラウテルとなり、ラウテル家に居を移した。

ラウテル家に温かく迎え入れられ、見たことがないほど立派な私室をいただいた。私的な居間に、寝室、浴室、衣装部屋から書斎まで……私ひとりのために部屋がいくつもあるのだ。なんと、私の実家よりも今の私室の方が広い。

使用人も複数つけられた。一番身近に控えてくれるのは、侍女のヨランダ。化粧や髪結い、着替え等で人の手を借りることには不慣れだけれど、これからは慣れていくしかないのだと思う。

尚、寝室は夫婦別々だった。「追々、まずは生活に慣れ、交流を深めてから」とは閣下改め旦那様の弁だ。猶予に私が安堵したのも確かだけれど、もしかしたら……旦那様の『女嫌い』は真実なのかもしれない。壁というか、そこはかとなく『女性』を苦手に思っているような雰囲気を感じるのだ。それでよくまあ私生児が、とも思うのだけれど——私は、存在を無視するなんてあまりに寒々しいじゃないかと思い、今まさにその私生児を訪ねるべくヨランダに案内されている。

「奥様、本当にお会いになられるのですか?」

「ええ、もちろんです。この部屋ですね?」

「はい。こちらにお嬢様がいらっしゃいます……」

そう言って、ヨランダはためらいがちに扉を開いた。母となる覚悟は持てていない。愛し慈しんでやれる自信すらない。それでも、家族になったのだから。緊張しながら扉を通り、そして——

「あーう、うぁーった」

よちよちとおぼつかなく歩き、きょとんとこちらを見つめる赤子の姿に、胸を貫かれた。

「ワアー!! まあ、かわいいですねえ!! お名前はなんというのかしら???」

「アルベルティナ様です、奥様」

「アルベルティナ様とおっしゃるのぉ!」

思わず高い声を出し、膝をつき、両腕を広げてからはたと気づく。これでは他人行儀なのでは? 法的に私が母なのでは? かわいがり、愛し、慈しむべき状況なのでは???

「ティナちゃん、ティナちゃんおいで〜! 新しいお母様ですよ〜!」

アルベルティナはよくわからないだろうに、よちよちと歩き私の胸にどっと突撃してくる。ぎゅっと抱きしめればやわやわのぬくぬくで、ミルクのような甘い香りがした。

こんなかわいらしい子を手放さなければならなかったなんて、産みの親はどんなに辛く苦しかっただろう。こんなにかわいらしい子を……! 私は心の中で旦那様の評価を一段下げた。まだ何も知らないこの子を、母として慈しんでやれるのは今この家に私しかいない。せめて愛情いっぱいこの子を育てようと、私は今、心に誓った。

——思えば私は、昔からちいさきものが好きだった。集合住宅でネズミ捕りのために飼われている猫もだいすきだった。仕方のないこととはいえ、その猫が捕らえるネズミですらかわいくて、ちょっと苦しかったのだ。子猫が生まれたときなんかは、貢ぎ物をたずさえ親猫にお伺いを立て、子猫を見せていただいては心躍らせた。私はかわいいものにめっぽう弱かったのだ。

「ほっぺぷゆっぷゆ……とろける手触り……もうっティナちゃんのほっぺは何でできてるんですか〜! ギモーヴかなぁ〜っ!?」

アルベルティナの頬をもちもち揉んでいると、いやいやしてアルベルティナが私の膝から立ち去った。アッかわいいが! 癒しの手触りが! アアッでも後ろ姿もかわいい! よちよち歩く姿尊い!!

「んーぷ、ぶぶぶ」

そーっとゆっくりしゃがみ込み、床に手をついたアルベルティナがはいはいをする。ワアアッかわいい! 歩くよりはいはいの方が速いかわいい!!

「見た!? ヨランダ、ティナちゃんがかわいい!!」

たまらずヨランダに声をかける。ヨランダは胸元で手を握りしめ、大きく頷いた。

「は、はい! アルベルティナお嬢様は大変お可愛らしく……!」

「本当に、ねえ……! ぷゆぷゆのほっぺがぷゆぷゆすぎてこぼれ落ちそうかわいい……っ!!」

「はい……!」

あまりのかわいさに打ち震えていると、ぽかんと成り行きを見守っていたアルベルティナの使用人が「お、奥様……!」と声を上げた。

「アルベルティナお嬢様は、こちらの玩具をお気に召していらっしゃいます……!」

「まあ……! 教えてくれてありがとう!」

差し出された玩具を喜んで受け取れば、また別の使用人が声を上げる。

「たたんだ布を崩すことも、大変お気に召していらっしゃいます!」

「マアかわいい!!」

大声を出さないように抑えながら、キャアキャアと華やぎ皆でアルベルティナと遊ぶ。

――存在がもう尊い。私は完全に、アルベルティナに魅了されたのだった。