軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

好意の輪は広がって

後日、エルンストは休日にアルベルティナを連れて厩舎に向かった。私はついていかなかった。だって、本当に見ていられる気がしないんだもの……!

ハラハラしながら部屋で待ち、こんなにも心配ならいっそ見に行った方がよかったのだろうかと迷い始めたころに、頬を真っ赤に染めたアルベルティナが「おたあまま〜!!」と声を弾ませ帰ってきた。

エルンストに抱き上げられたアルベルティナは興奮して、はしゃいだ声でしきりに「おおましゃねえ! パッカパッカしてねえ!」と繰り返した。私はほっと息を吐いて、「よかったわねえ」とリンゴのような頬を両手で包んだ。

アルベルティナはエルンストの顔を見るたびに「おおましゃ、おおましゃいこ!」とねだるようになった。馬が大好きで子供らしい活発さにあふれているけれど、聞き分けもするようになってきたし、少なくとも池に飛び込んだり生き物を捕まえたり妙なものを口に入れたりはしない。エルンストは心底安堵していた。私もほっとしている。よかった、木を切り倒しそうにはない。

両親と祖母、兄にも、アルベルティナを紹介することができた。こちらに招待して、アルベルティナは人見知りしながらも挨拶ができて。どうしても私の娘というより侯爵家の御息女という意識が強く、少し気後れしているけれど、それでも両親はアルベルティナを小さな可愛い孫娘と思い接してくれている。

私はお茶や料理、ワイン等の目利きを勉強しながら、カルラ様のサロンを訪ねたり、アルベルティナと遊んだりして過ごしている。乗馬の練習も始めた。予想以上に筋力が必要で大変な思いもしたけれど、エルンストに手綱を引いてもらいながら馬を歩かせるのはとても楽しく、勉強のいい気分転換になる。

温かな日々が積み重なっていく。気づけば、ラウテル家に嫁いで二年以上の月日が流れていた。

§

「おかあさま、とりはなんでとぶの?」

庭をてくてくと走り、木の枝に小鳥を見つけたアルベルティナが指をさして素朴な疑問を口にする。

「どうしてかしらねえ、木の実を探すのに便利だからかもしれないわ」

イヤイヤが収まったと思ったら、次はなぜなぜが始まった。アルベルティナは目に入るすべてを不思議がって、なぜ? どうして? と繰り返している。

「……何故」

隣でエルンストが、顎に手をあてて真剣に考え始めた。

「鳥には羽があり、羽ばたいて飛ぶ。しかしどうやって体を浮かせているのだろう……あの羽だけで? それとも風に乗って? しかし、風に逆らって飛ぶこともあるように思える……」

「もう、エルンストったら!」

私はたまらず吹き出して、エルンストの背中に触れる。

「あなた、この前もアルベルティナに『お空はどうして青いの?』と聞かれて、それでカルラ様のサロンに行ったんでしょう?」

カルラ様のサロンに集まる学者たちを捕まえて、『空はなぜ青い』と聞いて回ったらしい。当然自信を持って答えられる学者はおらず、謎は解明されていない。

「聞いたのよ。空気や熱について研究している方のパトロンになったんですって? もう、本当にあなたったら」

まさか幼い子供の素朴な質問にそこまで真摯に向き合うと思わず、つい声を上げて笑ってしまう。私なんて、『きっと神様がお空に青い絵の具を塗ったんだわ』とこたえてしまったのに!

エルンストは「しかし、不確かなことを教えるのはよくないのではないか、と……」なんて困った顔をしている。次は『鳥は何故飛ぶか』を調べさせるのだろうか。大変、アルベルティナが『どうして?』と無邪気に問うたびに、ラウテル家が抱える学者が増えてしまいそう!

笑いがおさまらず声を上げて笑っていると、エルンストが眩しいものを見るように目を細め、そっと話し始めた。

「――私は王太子殿下と親交が深い。幼少の頃から交流があってな」

「はい」

突然の話題に笑いが引っ込んで、私は驚いてエルンストを見上げる。エルンストは優しく笑みを深めた。

「先日、『互いにもう少し分別がついたら、娘同士にも交流を持たせようか』とご提案いただいた」

ハッと、私はアルベルティナに視線を送る。アルベルティナはしゃがみ、興味深そうに何か覗き込んでいて。

「……それは」

「ああ。王太子殿下が、次期国王がアルベルティナをラウテル家の正式な娘だと認めてくださっている」

それは、外に出たアルベルティナを守る盾のひとつ。有難さにくちびるが震える。守ろうとしてくれる人々の好意に目が熱くなる。そして、それを築き与えてくれるのは――

「……ありがとう、エルンスト」

私は潤む瞳で、エルンストに微笑みかけた。