作品タイトル不明
肥料を無料で卸してくれだと?
「ご理由を伺っても?」
「理由も何も情報ってのは無料で提供するものではないだろう? それに、俺が提供できないと決めたのだから、そこは納得してもらうしかない」
「……そうですか。佐藤冒険者」
「何か?」
「肥料の量ですが、どの程度ありますのでしょうか?」
「必要な分だけ提供する用意はあるが、価格次第だな」
「……先ほども、ご説明しましたが、日本は今、食糧供給が不足する事態です」
「それは確かに聞いた。それで?」
「日本国を助けるという事で、肥料の提供と情報提供をお願いできませんか?」
「情報提供はしないが、肥料は価格次第で提供する」
「お一人だと肥料を集めるのが大変だと日本ダンジョン冒険者協会は思っております。そういう意味合いも含めて、どこで肥料をドロップしているのかを情報開示して頂くことは非常に有意義なことかと思いますが?」
「だから情報開示はしない」
「それでは一人で、日本中の生産農家に肥料を届けられると?」
「どうして、日本中の農家という極端な話になるんだ? 行っただろ? 別に、日本ダンジョン冒険者協会に肥料を卸す事に関しては問題ないと」
「それは伺っていますが……、ちなみに肥料はいくらほどで?」
ようやく話が前に動いたか。
この目の前のハゲは、肥料をどこでドロップするのか知りたいらしいな。
「そうだな。いままで日本国内に流通している肥料の半分の価格で日本ダンジョン冒険者協会に卸すというのはどうだ?」
俺の言葉に一瞬剣呑とした表情を見せたあと、ハゲ支店長は笑みを浮かべると、
「人が動けば、お金が発生します。ここは、日本国を救うという意味合いも込めて日本国内に流通している肥料の1割で提供してはいただけませんか? 実際、佐藤冒険者も本来の肥料価格の1割で提供するとSNSで書かれていましたよね?」
おっと! 俺のSNSの書き込みを知っていたのか。
だが、あの時の事情が異なるからな。
「事情が異なる」
「事情が異なるとは?」
「今は、日本中のダンジョンから農作物を収獲出来ていた階層が消えている状況だろ? だったら一日で収穫できるようになる肥料の価値は高いはずだ」
「――ッ!? たしかに……そうですが……、佐藤冒険者は既に十分の資産を形成しているはずですが……。ここは、そんなにお金に固執せずに少しは恩のある日本国に奉仕するという考えなどを持っても良いのではありませんかな?」
「いや、俺は奉仕とかそういうのは嫌いなんだよな」
そもそも日本に恩なんて全く感じたことなんてない。
消費税を作って氷河期世代を切り捨てた時点で、氷河期世代の人間から見たら日本のために何かしたいという気持ちなんて湧いてこねーよ。
「佐藤冒険者、人というのは助けあいです」
「だから対価を払えよ。どうして、俺が肥料を無償提供するような話が確定してるんだよ」
「無償提供でも日本国民でしたら当然かと」
「――で、俺が無償提供した肥料は農家に無償提供すると?」
「いえ。輸送などもありますから、ある程度の価格は――」
「俺からは無料、もしくは限りなく安く仕入れておいて、費用を足して農家に提供するとか、やっている事が完全に転売師なんだが?」
「それは誤解です、佐藤冒険者。我々、日本ダンジョン冒険者協会は、日本中の農家にJAと連携して、適切な価格で肥料を提供するだけです」
「適切ね……。まぁ、俺には関係のないことだな。とにかく俺が日本ダンジョン冒険者協会に肥料を卸す価格は、いま市場に流通している肥料価格の半分で提供する。それ以外は、提供するつもりはない」
俺は席から立つ。
まぁ、何だかんだ言いながらJAは俺が検査のために持ち込んだ肥料を農家に売ってもいいと考えたのだから農業に利用しても問題ないという事だろう。
「佐藤冒険者!」
ソファーから立ち上がった俺に対して表情を剣呑とした笹口が口を開く。
「このままでは日本の食糧需給率が足りなくなることは分かっているはずです! 日本国を捨てるおつもりか! メディアで、どう扱われるかを理解されているのですか?」