軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

モーガン侯爵家への訪問

オルトの手を借りて馬車から降りる。

何故かモーガン家総出で出迎えてくれた。

「やあクラウディアさん、いらっしゃい。よく来てくれたね」

アーネストを渋くしたような男性ーーヴィヴィアンとアーネストの父親であるモーガン侯爵が笑顔で歓迎の言葉を告げる。

家族総出での出迎えに内心で驚き 戦(おのの) きながらも淑女の礼を取る。

「ご無沙汰しております」

「ああ、堅苦しい挨拶はなしだ。さあ中へ」

侯爵のその一言でぞろぞろと応接間へと移動する。

それぞれがソファに座る。

クラウディアの前にモーガン侯爵夫妻が座り、左右の一人がけのソファにそれぞれヴィヴィアンとアーネストが座った。

オルトはクラウディアの背後に立っている。

キティは侯爵家の侍女たちと共に壁際に並んでいた。

それぞれの前にお茶が出され、各々が一口飲んだところでモーガン侯爵が口を開いた。

「こちらから依頼しておきながらなかなか時間が取れなくて申し訳なかったね」

「いえ、お忙しいのは承知しておりますので」

だからまさか家族総出で迎えられるとは思っていなかった。

「いや、本当はもう少し早く時間を取るつもりだったのだが……」

侯爵がちらりとアーネストに視線を向ける。

クラウディアがアーネストを見ると彼はにっこりと 微笑(わら) った。

「ごめんね。なかなか仕事の調整ができなくて」

「別にお兄様の同席は必要なかったと思いますけど」

「ひどいな、ヴィヴィアン。私も楽しみにしていたんだよ」

どうやらアーネストの休日の調整もあってなかなか日取りが決まらなかったようだ。

「というわけなのだよ」

侯爵が苦笑をクラウディアに向ける。

これはどう返せば正解なのだろうか。

「お父様、クラウディアが困っていますわ」

ヴィヴィアンが助け船を出してくれる。

「ああ、すまないね」

「いえ」

短く返す。

「ところで、」

ちらりと侯爵がオルトに視線を向ける。

「あ、先に紹介しておきますね。彼は我が家の執事のオルト・リノです。交渉事は彼に任せているのです」

「オルト・リノと申します。旦那様にこの度の契約についての権限をいただいております。どうぞよろしくお願い致します」

「そうか。なら座るといい」

オルトが窺うようにクラウディアを見る。

クラウディアは頷いた。

「お言葉に甘えたらいいわ。そのほうが話し合いもしやすいでしょう」

「はい。失礼します」

オルトはクラウディアの隣に半人分を空けて座る。

アーネストの視線が鋭いものになったような気がしたが気のせいだろう。

「リノというとリノ男爵家の?」

「はい。三男になります」

「君は父君に似ているな」

「あまり言われたことはありませんが、ありがとうございます。父をご存知なのでしょうか?」

領地が近いわけでもないので侯爵と父男爵が面識があるかどうかはわからなかったようだ。

「ああ。友人を交えて何度か呑んだことがある。ご家族は元気かな?」

「ええ、はい。前回会ったのは三ヶ月ほど前でしたが、元気でした」

思ったより浅くない付き合いでオルトも驚いた様子だ。

「そうか。よかった。またそのうち呑もうと伝えておいてくれるか?」

「承知しました」

「呑みすぎには注意してくださいね」

「彼と呑むと楽しくて酒が進むからな。その日だけは見逃してくれ」

「まあ、あまり会う方ではありませんものね。仕方ないので見逃しましょう」

「ありがとう」

部外者であるクラウディアたちがいる中で随分と私的な会話をしているがいいのだろうか?

ヴィヴィアンとアーネストが胡乱気な目で侯爵を見る。

こほんこほんと咳をして侯爵が何事もない顔でクラウディアに言う。

「ところでクラウディア嬢、例のものは借りてきてもらえたかな?」

「はい」

キティが静かに歩み寄ってきて そ(・) れ(・) をクラウディアに渡すと静かに戻っていった。

「こちらですわ」

クラウディアはそのまま侯爵に差し出した。

侯爵が受け取る。

「拝見させてもらうよ」

「どうぞ」

ティーカップを端に寄せて侯爵が広げる。

それは、家族をリスにして刺繍した例の父のハンカチだ。

可能であれば借りてきてほしいと事前に手紙で頼まれていた。

断れるはずもなく父に話せば、きちんと返してもらうことと言い含めて貸してくれた。

いや、さすがに取られることはないと思うのだが。

父は心配性だ。

モーガン家の皆様が身を乗り出してハンカチを見る。

彼らの口から同時に感嘆の息が漏れる。

「見事だな」

「ええ、本当に」

「凄いね。誰が誰だかわかる」

「さすがクラウディアね」

「ありがとうございます」

モーガン家の面々はハンカチから目を離さない。

これはしばらく時間がかかりそうだ。

クラウディアは背もたれにそっと身体を預けた。