軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ドレスの仕立て

ラグリー家の馬車でヴィヴィアンを迎えに行き、今馬車内にいるのはクラウディアとヴィヴィアン、ヴィヴィアンの専属侍女と兄だ。

今日はヴィヴィアンの紹介でドレスを仕立ててもらいに行くのだ。

「どのようなものを仕立てるかもう決まっていまして?」

「前回が夜会用だったので、今回は昼間のガーデンパーティのような場で着られる物にしようかと思っています」

「すでにどこかに出席のご予定が?」

「いや、まだありませんが招待されてからでは間に合わないですからね」

「それもそうですね。伯爵夫人やシルヴィア様の付き添いで参加することもありますでしょうし」

そういえば、シルヴィアが仲良し姉妹コーデを流行らせようと言っていたがあれから何も言われていない。

きっとあの場での思いつきの言葉だったのだろう。

「ええ」

むしろ出来上がってからこそ嬉々としてどこかのお茶会に引っ張っていかれそうだ。

しかも当日の朝に言われたりするのだろう。

事前に言われれば逃げるとでも思われているのかもしれない。

……場合によっては逃げ出すだろう。

「ふふ、わたくしもクラウディアのドレスがどんなものになるか楽しみですの。デザイン選びに参加してもよろしいですか?」

「ええ、もちろんです。むしろ是非」

「ありがとうございます。一度やってみたく思っていましたの」

そんな話は聞いていない。

「え、ヴィヴィアン?」

「任せて、クラウディア。わたくしがもっと素敵にしてあげるわ」

ヴィヴィアンは楽しそうだ。

「お手柔らかにお願いね」

「任せておいて」

楽しそうな微笑みのままヴィヴィアンが請け負った。

きっとクラウディアの願いは聞き届けられないのだろう。

それだけはわかった。

ゆっくりと馬車が止まった。

外から声をかけられ扉が開けられる。

ヴィヴィアンの侍女がすっと降りていった。

続いて兄が降り、ヴィヴィアンに手を差し出した。

その手に手を重ねてヴィヴィアンが降りる。

最後にクラウディアも兄の手を借りて降りた。

クラウディアたちを下ろした馬車は馬車停めに移動させるために動き出す。

店の前には女性が数人立っていてにこやかにクラウディアたちを出迎えた。

「お待ちしておりましたわ、ヴィヴィアン様、お連れ様も。どうぞ中にお入りくださいませ」

女性の案内で奥に通された。

「こちらはわたくしの友人のクラウディア・ラグリー伯爵令嬢と兄君のロバート様よ。今日は彼女のドレスを作りに来たのよ」

「本日は当店をご利用いただきありがとうございます。わたくし、オーナー兼デザイナーのジゼル・コレトと申します。以後御贔屓いただければ嬉しいですわ」

さすがヴィヴィアン贔屓の店のオーナーだ。着ているものは上品ながらも動きやすそうだ。

後でじっくり見せてもらえないだろうか。

さすがに無理よね。

「ロバート・ラグリーです。本日はよろしく頼みます」

「クラウディア・ラグリーです。よろしくお願いします」

「ご丁寧にありがとうございます」

にこやかに言ったジゼルがクラウディアの外出着に目を留めた。

「それにしても素敵なお召し物ですね。縫製も丁寧で動きも阻害していない。刺繍も細かいですわね」

今日の外出着は濃い紺のドレスに白と銀の糸で刺繍されているものだ。

お針子たちが張り切って刺繍まで丁寧に施して作ってくれたものだ。

「ありがとうございます。うちのお針子たちが作ってくれたものなのですよ」

「まあ、素晴らしい腕のお針子ですね。うちに引き抜きたいくらいですわ」

家のお針子たちを褒められ、クラウディアはにこにこと微笑む。

帰ったら褒められたと伝えてあげよう。きっと喜ぶ。

「クラウディアだけじゃなくてラグリー家はお針子の刺繍の腕もいいのね」

クラウディアの隣にいたヴィヴィアンがまじまじとクラウディアのドレスを見て言う。

きらりとジゼルの目が光った、気がした。

「まあ、クラウディア様も、失礼、クラウディア様とお呼びしても?」

「あ、はい」

「クラウディア様も刺繍がお得意なのですか? 何か刺繍したものをお持ちでしょうか?」

「あ、ハンカチなら」

「見せていただいても?」

妙な圧を感じつつクラウディアはハンカチを取り出してジゼルに渡した。

何故かジゼルの他にも助手たちまでもが彼女を取り囲み、ハンカチを凝視している。

ヴィヴィアンは自分の言った一言が発端だったからか申し訳なさそうな顔をしている。

「お気になさらず」

兄が小声でヴィヴィアンに言う。

クラウディアも頷いた。

ヴィヴィアンのせいではない。

そのまま少し待っていれば満足するまで見たのか、ジゼルたちが我に返った。

「失礼しました。お客様をお待たせするなんて大変に礼を欠くことでした。申し訳ございません」

ジゼルと助手たちは深く頭を下げた。

「いや、職人の 性(さが) でしょうし」

兄が穏便に収める。

ヴィヴィアンとクラウディアも頷く。

「ありがとうございます。クラウディア様、素晴らしいものをお見せくださりありがとうございました。お返し致しますね」

クラウディアはハンカチを受け取った。

「本当に素晴らしくて、うちに来ていただきたいくらいですわ」

たぶん、お世辞も含まれているのだろう。

「光栄です」

「ふふ、お世辞ではありませんわよ? 素晴らしいものを見せていただき時間もいただいてしまったので、仕立てるドレスは腕によりをかけさせていただきますわ」

「お、お手柔らかにお願いします」

「我々にも仕立て屋としての矜持がございます。お任せくださいませ」

何故かやる気に満ちた顔をしている。

それからが凄かった。

助手の方に採寸されている間に兄とヴィヴィアンを交えて話し合ったらしく、戻った後はひたすら着せ替え人形にされた。

サンプルのドレスをクラウディアが着る度に話し合いが行われ、デザインに追加されたり、デザイン画が新たに書き上げられたりした。

クラウディアはデザイン決めについては蚊帳の外に置かれたが、ドレスのデザインを興味深く見ていたので問題ない。

兄とヴィヴィアンとジゼルが満足してドレスのデザインと布地を決めるのとはまた別の意味でクラウディアもまた満足したのだった。