軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

噂と破談の顛末と提案

「そうそう、聞いたよ。災難だったね」

アーネストのお土産のお菓子が並べられ、侍女が下がったところでおもむろにアーネストが言った。

侍女たちは話が一段落するのを待っていたようだ。

ヴィヴィアンと顔を見合わせる。

「ギルベルト・シルベスター侯爵令息のこと、って言ったらわかる?」

「ええ。王城で噂になっているのですか?」

それにしても噂が出回るのが早すぎではないだろうか。

シルベスター侯爵令息が訪ねてきたのはわずか二日前だ。

噂好きな貴族が多いといってもいくらなんでも早い。

そもそもシルベスター侯爵家の汚点になりそうな話が一体どこから漏れたというのだろうか?

ラグリー伯爵家(うち) からではないはずだ。

シルベスター侯爵家が誰かに話すとも思えないのだが。

「婚約者になったご令嬢が、選ばれたのは私、とティーサロンで自慢気に話していたからね」

王城には、訪れた者が喉を潤せるようにという配慮から、来客者用のティーサロンが何か所か設けられている。もちろん王城勤めの者が息抜きに利用することも可能だ。

「ほら、言った通りじゃない」

「そうね」

「他にいい縁があるだろうからあまり気を落とさないようにね」

アーネストが気遣うように言ってくれる。

「お気遣いありがとうございます。ですが全く気にしておりませんので。私のことより、ご婚約が破談になったとお聞きしました」

「うん? ああ、私が悪かったからね。あまり交流もなかったし、私は別にいいんだけど、先方には悪いことをした」

侯爵家の嫡男がそれでいいのだろうか?

元々うまくいっていなかったようだ。というより関心がなかったようだ。

親近感を覚えるが、クラウディアとは違い、アーネストは結婚しなければならないはずなのだが。

「それこそお兄様が気になさることはありませんわ。向こうにはすでに婚約者ができたとか。きっと破談にする理由を探していたのですわ」

いくら何でも早すぎないかしら?

ヴィヴィアンの言う通りなのかもしれないわね。

そうなればアーネストにしろ相手のご令嬢にしろどっちもどっちだったのだろう。

破談になって正解だったかもしれない。

「まあ、相手がいるのならよかった」

穏やかに言っているあたり、本当に元婚約者には何の感情もなかったのだろう。

「お兄様にとってあの方は魅力がなかったのですね」

「正直、顔もあやふやだ」

それはそれは、何とも。

次に顔を合わせた時にまずいのではないだろうか。

顔を合わせるとしたら社交の場だろう。

「まあ、それでしたら双方にとってよかったのでしょう」

あっさりとヴィヴィアンが言う。

そう言えばヴィヴィアンの口からアーネストの婚約者について聞いたことはなかった。

あまり好きではなかったのかもしれない。

「それより聞いてください、お兄様。今回の一件でクラウディアは領地に引っ込むつもりなのですよ」

今回の一件は関係ない。用事が終わったので領地に帰るつもりなだけだ。

「やっぱり傷ついているのかい?」

気遣うように訊かれる。

「いえ、ちっとも。慰謝料という名の迷惑料が入るので、いろいろ作りたいのですわ」

そう言うとアーネストは顔を曇らせた。

「そうだとしたら悪手だろう。ここで領地に引っ込めば、傷心だろうと思われる。そうだ、よかったら私とあちこち出歩くかい? っと婚約が破談になったばかりの私とでは世間体がよくないか」

「向こうにはすでに婚約者がいるのですからお兄様に問題はありませんわ。ですが男女二人だと余計な詮索を受けるかもしれませんわ。わたくしが一緒に行って差し上げますから、三人でお出掛けしましょう。お兄様、両手に花ですわよ?」

アーネストが 微笑(わら) う。

「それはいいな。それでどうだろうか、クラウディア嬢?」

アーネストとヴィヴィアンの視線がクラウディアに向く。

「クラウディア、楽しそうにあちこち出掛けていたら傷心だの何だのという不本意なことを言われずに済むわよ?」

他人にどう噂されるかは気にしないが、それで余計なお節介を受けるのは困る。

それなら気心が知れたヴィヴィアンたちと出掛けるほうがずっといい。

「そうね。お願いします」

そこでふと気づく。彼は仕事中毒者だ。

「でも、もしお仕事がお忙しいようでしたら私のことはお気になさらず」

「いや、仕事にかまけて婚約が破談になっただろう? 上司がやたらと気にしてね、当分暇になりそうなんだ」

それは気にするだろう。仕事のしすぎで破談になったとなれば。

「私は趣味らしい趣味はないからね。時間が空いても何をしたらいいかわからない。だから正直に言わせてもらえば、一緒に出掛けてもらえるなら有り難い」

「お兄様は仕事が趣味ですからね」

「違いない」

「そういうことでしたら、よろしくお願いします」

「うん」

ヴィヴィアンがいつの間にか広げていた扇の陰でにやにやと笑いながら二人のことを見ていた。