軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

家族と刺繍入りハンカチ

毎日刺繍をして、家族の分の刺繍入りのハンカチが 縫(ぬ) い上がったのは三日後だった。

ヴィヴィアンとアーネストの分を先に刺していたために遅くなったのだ。

興(きょう) が乗り過ぎてヴィヴィアンのものがかなり手の込んだものになったのも一因だ。

出来には大満足しているが。

「みんなに渡したいものがあるのでこの後お時間をいただけませんか?」

晩餐(ばんさん) 中にクラウディアは食卓につく家族に告げた。

晩餐後、談話室に家族全員で移動した。

クラウディアは兄とシルヴィアに挟まれて座り、正面に両親が座る。

一応一人がけのソファもあるのだが誰も座らない。

ふと配るならクラウディアは一人がけのソファのほうがやりやすいかもしれないと思い、移動しようとしたが、両脇からがしりと腕を掴まれ諦めた。

幸い渡すものはすでにキティに渡された籠の中だ。

本当にクラウディアの専属侍女は優秀だ。

「それで、クラウディア、渡したいものとは何だい?」

父が口を開いた。

「ハンカチに刺繍をしましたので、みんなに渡したかったのですわ」

それを聞いて父がそわっとする。

自分の分もあるのか、と期待と不安が見て取れる。

「お父様にもありますが最後にしますね」

「わ、わかった」

とりあえず自分の分もあることにほっとしたようだ。

「まずはお母様に」

籠から母の分のハンカチを取り出して母に差し出した。

「ありがとう」

ハンカチを受け取った母がテーブルの上に広げる。

「あら、素敵ね」

母のものはバスケットに花が盛られているモチーフにした。

四方の辺には 蔓薔薇(つるばら) を 這(は) わせてある。

「お母様に気に入っていただけたなら嬉しいです」

「ええ、気に入ったわ。大切にするわね、クラウディア。ありがとう」

笑顔の母に微笑み返す。

母が丁寧にハンカチを畳んだ。

「次はお兄様ですね」

籠の中から兄の分のハンカチを取り出して隣にいる兄に手渡した。

受け取った兄は母と同じようにテーブルの上に広げた。

「お兄様のは普段使いできるようにいつも通りシンプルなものにしました」

兄のものはラグリー家の紋章にイニシャルを飾り文字で刺してある。

「いつもありがとう」

「使ってくださいね」

「ああ」

兄は大切そうにハンカチを畳む。

「次はシルヴィアね」

「はい」

籠の中からシルヴィアの分のハンカチを取り出して隣に座るシルヴィアに渡した。

「ありがとうございます、お姉様」

シルヴィアがテーブルの上にハンカチを広げた。

「ふふ、素敵です。あ、 向日葵(ひまわり) もあります! お姉様ありがとうございます!」

向日葵はシルヴィアの好きな花だ。

どうしても入れてあげたくて、でも今は季節が違うから、それなら四季折々の花を刺繍しようと思い立ち、四隅に四季折々の花を刺したのだ。

「喜んでもらえて嬉しいわ」

クラウディアはにこにこと 微笑(わら) う。

「お姉様がくださる刺繍入りのハンカチで喜ばないはずがありませんわ!」

好みから外れたことがないようでほっとした。

「最後はお父様の分ですわ」

わくわくそわそわしている父に視線を向けた。

籠の中に残った最後の一枚を取り出し、父に差し出した。

「ありがとう」

父はそっとテーブルの上にハンカチを広げた。

「あらまあ」

「おい」

「可愛いですね」

母、兄、シルヴィアが順番に声を上げる。

父のものは子リス三匹と親リス二匹の図柄が刺してある。

はっきり言って大の大人の男性が持つようなものではない。

でもいいのだ。これは父への意趣返しなのだから。

とはいえいつまでもねちねちとやるつもりはないので、意趣返しはこれでおしまいのつもりだ。

「これはいいな!」

父が喜色の声を上げた。

あら? 思っていた反応と違う。

クラウディアがきょとんとすると兄が呆れたような視線を向けてきた。

「これが私、これがミランダだろう? それにロバート、クラウディア、シルヴィアだ」

ミランダは母の名だ。

「……当たりです」

一発で言い当てられてしまった。

まさかこんなにすぐに気づかれるとは思っていなかった。

親リスの父親は父の瞳の色である青色の蝶ネクタイをしており、母親は母の瞳の色である、クラウディアよりほんの少し赤みの強い菫色のリボンをしっぽに結んでいる。

子リスの兄は兄の瞳の色である青色のネクタイをしており、妹はシルヴィアの瞳の色である紫色のリボンを耳につけている。真ん中のリスは手紙を持っており、腕にクラウディアの瞳の色である菫色のリボンをしている。

リスの瞳の色はそれぞれの髪の色で、父親とクラウディアのリスは焦げ茶色で、母親と兄とシルヴィアのリスは黒い瞳だ。

母と兄とシルヴィアが身を乗り出してハンカチを凝視する。

「あら、本当ね。私たちの色を身に 纏(まと) っているわ」

「相変わらずお前は変なところに 凝(こ) るな。本当に同じ色だ」

母は感心したように言い、兄は呆れた様子だ。

シルヴィアははしゃいで腕に抱きついてきた。

「素敵ですわ! お姉様、わたくしも欲しいです。額装して部屋に飾りたいのです」

「ええ、いいわ」

「セルジュも入れてくださいますか?」

「ええ」

「婚約者として適切な距離で、だぞ」

兄が口を挟む。

「え、刺繍ですよ?」

「関係ない」

兄が口を引き結ぶ。

これは退く気がない。

だがシルヴィアに作ってやるのだからシルヴィアの希望に合わせよう。

「シルヴィア、後で詰めましょう」

「はい」

嬉しそうににこにこ 微笑(わら) っているシルヴィアを見て、絶対に要望通りにしてあげようと決めた。