作品タイトル不明
宝飾店店長の来訪
執事長がクラウディアの部屋を訪れた。
「クラウディアお嬢様、お嬢様にお会いしたいと商会の者が来ております」
「どこの商会かしら?」
商会の名前を聞いてぱちりと瞬きをした。
何かあったのだろうか?
「わかったわ。応接室?」
「はい。ご案内致します」
「お願い」
一応応接室は複数あり、相手によって使う部屋を変えている。
それは貴族としては一般的だ。
執事長の後についていく。
着いた応接室は商談をする時に使われるものだ。
そこで待っていたのは宝飾品店の店主のナタンだ。
すっと立ち上がったナタンが一礼する。
「お時間をいただきありがとうございます」
余所行きの顔だ。
ラグリー家の屋敷内だからだろう。
「いいえ、別に構わないわ」
クラウディアはナタンの対面のソファに腰を下ろした。
「どうぞ座って」
「失礼します」
ナタンが腰を下ろす。
クラウディアにそっと紅茶が出され、ナタンの前に置かれた紅茶も交換された。
ナタンはきっちりとお礼を告げている。
紅茶を淹れた侍女がすっと壁際に下がる。
壁際にはその侍女の他に当然キティもおり、案内してきた執事長もいた。
それからマルセルも扉横に控えている。
友人以外の外部の者に会う時は必ず護衛を部屋に置くこと、とクラウディアは口酸っぱく言われていた。
たぶんシルヴィアも同じだろう。
だからマルセルがいるのはナタンを警戒しているのではなく、ただの規則だ。
クラウディアは紅茶を一口飲む。
ナタンも紅茶に口をつけた。
クラウディアはナタンがティーカップを置くのを待ってからティーカップを置き、口を開いた。
「貴方が私を訪ねて屋敷に来るなんて珍しいわね。どうしたの?」
「先日デザインしていただいたブローチを夫人が注文してくださったので、お約束通り、その報酬を支払いに参りました。お納めくださいませ」
ナタンが鞄から取り出した小箱をクラウディアの前に置いた。
信用ならない者だと間に誰かが入るところだが、ナタンはラグリー家御用達の宝飾店の店長なので問題はない。
「あ、お兄様のピンブローチね」
「左様でございます」
クラウディアは小箱を手に取り、開けた。
中の物を見て首を傾げる。
「あら、これ品が違うわ」
物を間違えるとは珍しい。
だがナタンはしっかりとした口調で告げる。
「いいえ、こちらで間違いございません」
「でも石が多いわ」
クラウディアがもらう約束をしていたのはブルーサファイアが一つついたシンプルなものだったはずだが、これには他にアメシストとチャロアイトがついている。
その石がついたことでデザインも変わっていた。
シンプルなものだったはずだが、品のいい華やかさが加わっている。
兄なら似合うだろう。
「夫人の心遣いにございます。このままお受け取りくださいませ」
「夫人の?」
「はい。素敵なデザインでしたのでクラウディア様にもお礼がしたいとのことです。このままお納めください」
「そう。そういうことなら」
夫人の好意を無下にはできない。
クラウディアはそのまま受け取ることにした。
「夫人に"素敵なものをありがとうございました"と伝えてくれる?」
「承知しました。ですが、クラウディア様が直接お伝えしたほうが喜ばれるかと」
ナタンは夫人の名前を口にする。
クラウディアは頷いた。親しくしてくれている方だ。
「もちろんお会いしたらしっかりと伝えるわ。でもいつお会いできるかわからないもの」
「夫人もクラウディア様にお会いしたいとおっしゃっていましたよ」
クラウディアがぱっと微笑む。
「私もお会いしたいわ」
ナタンが穏やかに微笑む。
「ではクラウディア様がお会いしたがっていたともお伝えしておきますね」
「ええ。ありがとう」
「クラウディア様はいつまで王都におられますか?」
「シーズン中はいると思うわ」
シーズンの終盤まではいると思う。
どうやらアーネストのお陰で変な噂は立たずに済んだようだ。
だからもうこのまま領地に帰ってもいい気がする。
だけど、モーガン家からの依頼の話もあるので、結局は終盤までいることになるだろう。
もうシーズンも半分は過ぎたのでそれほど長い間でもない。
「わかりました。その旨もお伝えしておきますね」
「ええ、ありがとう」
「とんでもございません。また是非店のほうにも足をお運びくださいませ」
「それは、客としてかしら?」
悪戯っぽく問いかければ、
「どちらででも構いません。歓迎致します」
さらりと答えられてしまう。
「ふふ、ではそのうちね」
「はい。お待ちしております」
ナタンが立ち上がった。
「それではこれで失礼します」
「ええ。気をつけて帰ってね」
「ありがとうございます」
ナタンは一礼して執事に案内されて帰っていった。
控えていた侍女がナタンの使った茶器を片付けて部屋を出ていく。
「淹れ直しましょうか?」
キティが訊いてくるのに首を振る。
「これでいいわ」
キティが頷き、傍に控える。
そんなキティを見上げて訊く。
「お兄様は気に入ってくださるかしら?」
「お喜びになると思います」
「だったら嬉しいわ」
クラウディアはゆっくりと紅茶を飲み干して立ち上がった。
自分でタイピンの入った小箱を持ち、部屋を後にした。