軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれの刺繍のお披露目2

婚約者三人のハンカチは見終わった。

クラウディアは自分のハンカチを手にする。

「次は私ですね」

「あら、わたくしが先でもいいわよ?」

伯母がからかうように言う。

「いえ、伯母様の後などとても」

「そう? 遠慮しなくていいのよ?」

伯母の瞳が悪戯っぽくきらめいている。

「いいえ。先に披露させてほしいです」

「そう。仕方ないわね。先を譲るわ」

「ありがとうございます」

クラウディアはふわりとハンカチを広げた。

「あら可愛いわね」

「表情が豊かね」

「ふふ、ロバート様ですよね、この表情は」

「そうです。お兄様です」

やはり表情で兄とわかるほどこの表情は似ているようだ。

頑張って表現した甲斐がある。

「このハンカチを見せたらますますロバート様は機嫌を損ねるのではなくて?」

「見せるつもりはないので大丈夫です」

あらあらまあまあ、と何故かみんなで生温い笑みを浮かべる。

クラウディアは何も変なことは言っていない。

そのはずだ。

「まあ見せるか見せないかはクラウディアの自由よ」

「はい」

もういいだろう。

クラウディアは丁寧にハンカチを畳んで膝の上に置いた。

伯母がみんなを見回した。

「最後はわたくしね」

みんながぴんと背筋を伸ばした。

その目はキラキラと輝いていて期待が隠せない。

ふふ、と 微笑(わら) って伯母がゆっくりとハンカチをテーブルに広げた。

思わず息を呑んだ。

ハンカチいっぱいに刺繍が施されている。

四辺を囲うのは蔓薔薇だ。

伯母の得意なモチーフ。

そしてその中にはーー。

様々な動物たちが刺繍されている。

そのどれもが表情豊かで、誰が誰なのかわかる。

さすが伯母だ。

それぞれを別々の動物にすることはクラウディアには思いつかなかった。

「伯母様さすがですね。私には思いつきませんでした」

伯母が得意気に笑う。

「ふふ、だってそれぞれっぽい動物って違うでしょう?」

「そうですね」

話しながらも一匹一匹誰かを確認してしまう。

「あら、もしかして私たちもいますか?」

クラウディアだけではない。ラグリー家の家族らしき者たちがいる。

「当然でしょう」

てっきりクラウディアたちは入れてもらえないと思っていた。

それなのに、伯母にとっては入れるのは当然のことだったようだ。

「ありがとうございます」

本当に嬉しい。

そんなことを話しながらもつい見入ってしまう。

入れてもらった嬉しさと、刺繍の素晴らしさ、その両方に感動していても目はしっかりと刺繍を観察してしまう。

活き活きとした刺繍だ。

その毛一本一本までもが繊細に表現されている。

それが刺繍に命を与えていた。

種類も様々な動物なのに見事に調和している。

それにこの短時間で十三匹もの動物を刺す手の早さ、正確さも見事だ。

それにもう本当に刺繍の見事なこと。

毛の一筋にも無駄がなく躍動感がある。

むしろ今にも動き出し、喋り出しそうだった。

夜中に全て抜け出して翌朝には真っ白な布だけになってしまってました、と言われても納得してしまう。

それほどまでに生きている動物を閉じ込めているようだった。

目が釘付けになってしまい視線が動かせない。

それはクラウディアだけではない。

エリーズもレオニーもサビーナも同じだ。

さすが刺繍の名手と呼ばれ伯爵家から公爵家へとその刺繍の腕で嫁いだ伯母だ。

クラウディアたちとは次元が違う。

エリーズたちは声も出せないようだった。

食い入るように見ている。

ただ感嘆しているだけではない。

その目はしっかりと観察している。

その技術を観察し、自分のものにしようと目を凝らしている。

これから修練してますますその腕を磨くに違いない。

クラウディアも同じ気持ちだ。

クラウディアももっともっと腕を磨いて高みを目指したい。

それを伯母もわかっているのだろう。

「手に取っても構わないわ」

そう言ってくれる。

四人で順番に手に取り、裏の糸処理までつぶさに観察した。

四人で気づいたことを共有し、今後に生かす算段をつけた。

そんな様子を微笑んで見ていた伯母は十分に観察する時間を取ってくれた。

「そろそろいいかしらね」

伯母が置かれたハンカチに手を伸ばす。

「あ、はい。ありがとうございました」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「ありがとうございました」

口々にお礼を言うと伯母は微笑んでハンカチを畳んだ。

それからみんなの顔を見回して告げた。

「みんな素晴らしい出来だったわ」

ぱあっとそれぞれの表情が輝く。

やはり伯母に褒められると嬉しい。

それから一人ずつにもっとこうすればよくなるという助言もつけてくれる。

本当に有り難くも贅沢な時間だ。

皆真剣な顔で聞き、メモを取る。

四人それぞれに助言をした伯母は婚約者三人に視線を向けた。

微笑んで告げる。

「三人とも後であの子たちにそのハンカチを見せてあげてちょうだい。なんなら贈ってもいいわよ?」

それは母親としての顔だった。

エリーズが頷く。

「わかりました。後で見せることにします。贈るかは、わかりませんけど」

ねだられれば負けてしまいそうだ。

というか絶対にねだられるだろう。

最終的に贈ることになるのだろう。

「私は見せるだけにします。帰ってから家族にも見せたいので」

そう言ったのはレオニーだ。

ゲラルトもねだるだろうが、レオニーは負けることはないだろう。

レオニーには意志の強さがあるのだ。

「わたしはせっかくなのでエアハルトに贈ることにします」

「きっと方々に自慢して回るわね」

エアハルトならきっとそうするだろう。

それで盛大に 惚気(のろけ) るのだ。

「それは、恥ずかしいですね」

父がやったことを思い出してクラウディアは言う。

「いつものことよ」

サビーナはどこか達観しているような表情だ。

父とは血の繋がりはないのだが、何故かエアハルトは父と同じ属性なのだ。

「仕方ないわ。どうせ言いくるめられて贈ることになるのですもの」

苦渋の選択感が漂っている。

「嬉しいくせに」

「嬉しくないとは、言っていませんわ」

つんとして言ったサビーナにみんなが 微笑(わら) う。

温かな空気に包まれていた。