軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第919話 彼女は廃村を確認する

第919話 彼女は廃村を確認する

村長の家は、領主館を兼ねているので応接間や、代官が来たときの執務室などもある。村長は応接間に彼女達を案内すると、席を勧めた。

「本日の御こしは如何なる御用でしょうか」

「まずは、この手紙を読んでください」

「お預かりいたします」

彼女からジョヌに渡された姉からの手紙。ジョヌから村長へと手渡され、一度捧げ祀ってから、内容を確認し始める。村長は読み進めると、幾度も頷いていた。

「あの村の住人がいなくなったことは知っていましたが、まさか賊に身を落としていたとは」

読み終え、手紙をたたみ終えると、深くため息をつき村長はそう口にする。

「この村は大丈夫だったのですか」

「はい。魔水晶の採掘は重要な軍事物資でしたので。我らは賦役を免除され、法国戦争には従軍していないのです」

恐らくは、軍事物資の調達が戦争協力として最優先とされた村なのだろう。近隣ながら、魔水晶の採掘を担っていなかった村は賦役を課され、法国戦争に従軍させられ荷駄を運ばされたのだと思われる。

「あの頃の村の者たちなら、もう年寄りばかりなのでしょうか」

「いえ。川賊村で子世代孫世代がいるのです。川賊に身を落とした男達は既に処刑されているのです」

手紙に書いてあったであろうが、彼女は改めて経緯を説明する。一通り聞いた村長は納得したかのように深く頷く。

「それで、私どもはどのような協力をすればよろしいのでしょうか」

「若い男は有期奴隷としてガレー船の漕ぎ手を務めます。子供たちはニースで教育と下働き、若い女も城の下働きをさせる事になっています。一年ないし二年後、元の村の場所に村を再建するのですが、凡その村づくりはこちらで手配します。その間、年嵩の女たちをこの村で預かってもらいたいのです」

彼女は、村の一角に小屋を作り、そこに住まわせ、魔水晶の採掘や農作業を手伝わせてほしいと伝える。それに、廃村後には林檎の木を植え、村に人が戻る頃には、実がなるようにしたいとも伝える。

「小屋はこちらで作るのでしょうか」

「いいえ。今回私たちが訪問した理由も、そこにあります。土魔術で凡その外回りは作ります。内装は村の方に協力していただかないと難しいですが、床や壁、屋根は魔術で作るので、良い場所を示してください」

「……なるほど……」

『魔術で小屋を作る』という意味が良く解らなかったであろう村長は、彼女の言葉に生返事で返す。

「この、セバスさんが作るんだよお爺ちゃん」

「そうなのかい。すごいんだねセバスさんは」

「そ、そうでもねぇよ。オイラなんてさ」

「「その通りね(ですね)」」

村長一家のリップサービスに調子に乗る歩人、そして釘を刺す彼女と灰目藍髪。

村長が彼女達を先導し、村の外れであろう場所に案内する。何事かと村人も後をついてきていた。

「セバス」

「合点承知!!」

珍しく人に注目され、気合が入る歩人。最近、一人ぼっちで土魔術を使い続けていたこともあり、人の眼があるのは大変うれしいようだ。キモイ。

「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の壁を作り賜え……『 土(barba) 壁(cane) 』」

「「「おおお……」」」

土の板壁が地面から突き出る。高さは凡そ3mほど。それが四面。

「この辺に窓、この辺に入口……と」

魔力を通した剣で斬りつけ壁に開口部を開け、只の土の壁から家の壁っぽくなる。最初から開放部を作るよりは後で工作する方が簡単。

「床は土間でいいよな……お嬢様」

「そうね。まずは土間。それ以上は、皆さんに協力してもらいましょう」

建物自体は使用後、村に寄贈されるので村に否はない。寝る場所は板で床上げしないと体が冷える。

屋根は簡単に葺いてもらい、煮炊きできる竈も土魔術で作り、形が整ったところで『硬化』を掛け凡その形ができる。

「あっという間ですな」

「屋根まで土魔術というのは難しいので、屋根は村で葺いてください」

「承知しました」

これでおおよその役目は終わった。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

村長の家にジョヌを置き、彼女は歩人と灰目藍髪と三人で魔装馬車に乗り、廃村へと向かった。

「近いと言えば近いのですね」

「ここにコボルドがいたのかよ……でございますかお嬢様」

家の形を保っていた記憶があるが、今はすっかり板キレが散乱するだけの野原に近い形になっている。

「この辺り、整地しましょう」

「えー いや、ここに戻ってくるの何年か先だろ? まだいいんじゃ……はいよろこんでお嬢様!」

歩人に殺気の籠った視線を飛ばす彼女。その背後では、冷ややかな目線をで歩人を睥睨する灰目藍髪。オジサンは波風立てたくないのである。おじさんはか弱い生き物なんだよ!!

街道から入る支道を整地し、村であった場所の中心に広場をつくる。どうやら、礼拝堂や教会はなかったようで、領主館に相当する建物も無い。歴史のある村であれば、礼拝堂や教会・領主館を石造で作り、何かあった場合の避難場所等に使うため建設するのだが、どうやら新しい村だったのかもしれない。

水晶の村から分かれて別の開拓村のような存在だったのだろうか。村長の世代なら、その辺りのことも知りえるだろうが、今さらのことであるので特に聞かない事にしようかと思う。

「広場から十字でいいんだよな」

「そうね。街路の左右は奥行き20mくらいは整地してちょうだい」

「うへぇ……魔力持つのかよぉ……」

領都や領内の街道整備で多少魔力も増え、魔力操作の精度も改善されたので、多分大丈夫。魔力ポーション飲んで頑張れ!!

「肩で風切ってるわね」

「いえ、肩で息切れしていますね」

「ふ、ふ、ふざけんなぁ……なんで、俺一人で……で……ございます……お、お嬢様……」

『土』の精霊の加護を持つ歩人。魔力の消費量は加護無しと比べれば、百分の一で済む。当然、土魔術の行使は加護持ちが行うべきだろう。とはいえ、魔力量はリリアルでは中程度、精度が悪いからやや悪いに改善した程度では、やはり数時間で村の整地を進めるのは難しかったのかもしれない。

「まだまだ鍛錬が足らないようねセバス」

「……うう、おいら、どんだけがんばりゃいいんだよぉ……」

そりゃお前の為だろビト=セバス。自分で壁を作ったらそこまで。限界を越えれば、それは嘘になるんだ。無理は嘘つきの言葉だビト=セバス。感謝の気持ちで働くんだ。

「さ、帰りましょう。暗くなる前に」

「はい。セバスさん、帰らないんですか? 馬車に乗らないと置いていきますよ」

「うう、乗るに決まってんだろ……でございます」

よろよろとわざとらしく足を進め、歩人はのたのたと馬車のお立ち台に乗った。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

一晩、村で泊めてもらい、彼女は幾ばくかの謝礼を渡し、「お孫さんを

お預かりします」と村長に言い残し村を後にする。

「先生」

「何かしら」

村長の孫娘が昨夜聴いたところによれば、彼女の予想通り、元川賊村の住人は、村長の親世代の頃に村から分かれた集落であったとのことだった。なので、恐らく、あの年嵩の女の中には、村長の見知った者もいるだろうと言われたそうだ。

「そう、なら安心かしらね」

「そうだといいですけど」

元はと言えば親戚にあたる者たちであろうが、相手は元川賊まで落ちた者たち。村長の子供世代はあの廃村との関係をもう知らないのだというので、村長世代は口裏を合わせ、元親戚であることを黙っておこうと考えているのだそうだ。

「最初から、他人であると割り切った方が、新しい関係が築けるということかもしれないわね」

「難しいですね」

当時を覚えている年寄り世代からすれば、助けなかった・見捨てられたといった感情が無いではない。そういう心に蓋をして、新しい関係を作る方が建設的だと理性では思えても、感情が付いてこないかもしれない。

「良く良く言い聞かせるしかないでしょう。そもそも、あの場所に戻すことが、年寄世代のいざこざが生じればなくなる可能性もあるのですもの」

もとからある村の住人を領主としても優先するのは道理。ノーブル領で受け入れるというのは姉の好意に過ぎない。いや、助け出した彼女の行動に対する好意であって、元川賊たちには何の感傷も持たないのが彼女の姉の性格だ。

下手な行動をとれば、あの場所に戻る可能性も、若い者がノーブルで職を得ることもできなくするだろう。姉の性格ならば。

「言い聞かせって大事だよな」

「セバスさんも心当たりがあるんですか?」

おじさんには心当たりがグサグサあるのです。このくらいは大丈夫で考えていると、いつの間にか引き返せなくなるくらい深みに嵌るのですよ。村長の孫娘『ジョヌ』の問いに、歩人は深く頷くのである。

馬車を飛ばし、急ぎニースへと向かう。そろそろ、整備も終わっていることだろう。船員の研修を終えた三期生達と、魔導船でニース艦隊と共に訓練航海兼近場での海賊討伐へと向かう予定があるのだ。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

水晶の村から数日を経てニースに到着する。帰還の連絡も早々に、彼女はニース軍港に足を向ける。

商業港は大きく新たに作られたものだが、ニース軍港は城塞の麓にある小規模の古い港をそのまま防御施設で囲んだ堅牢なもの。包囲されたとしても、商業用の新港はともかく軍港は守られる形になっている。

「おお、戻ってきたか」

「整備は問題ありませんでしたか」

「ああ、勿論だ」

老土夫をみつけ話しかけると、ノー心配ないとばかりに言葉が返される。最終点検も終わり、後は艤装を改めて乾船渠から進水させるばかりだという。

元々魔導外輪を据え付けて間もない二番艦の『聖フローチェ』は軽度の整備と点検だけであり、三期生を乗せ港の外で船員の教育をニースの船乗りから受けている最中である。朝早く出航し、日が暮れる前には戻ってくる日帰り航海だが、最も気を使うのは出航と帰航の際の段どり。毎日繰り返すことで、航海に出ればそうそう行わない手順の反復を繰り返している。

どうやら、ニースの船員たちの評価も上々であり、栗鼠のようにクルクルと甲板や帆柱の上を走り回るリリアル生たちを大いに感心しているとか。二期生は……ほどほどまじめに仕事を覚えている程度なのだが。人には向き不向きがある。体も小さく、幼い頃から暗殺者教練を受ければ、そりゃ身軽に動くのは得意になるだろう。要は慣れと才能だ。やっぱり才能なのか。

乾船渠に載る『聖ブレリア号』。船体周りも修繕され、多少付着していた貝類なども剥がされ、今は整備完了と言ったところなのだが……

「あれはなんでしょうか」

彼女が目に止めたのは、金属でできた兎馬車ほどもあるだろう『犂』のような何か。

「ああ、あれか」

いつも渋面な老土夫だが、そこに視線を向けると目元がほころぶ。まるで、癖毛の作った装備の出来が良かった時のような、可愛がっている何かを見るような視線である。

「軍船には、古来から『衝角』を備え付けるのが習わしだ」

『衝角』というのは、古帝国時代以前から存在する軍船用の装備であり、当時の汎用ガレー船であれば木杭を束ねたようなものを船首に猪の牙のように備え付けていた。あるいは『犀』の角のようにだ。

大型の戦闘ガレー船であれば、それは専用の青銅製の『犂』のような形となる。牛や兎馬などに引かせ、畑を耕すV字型の金属の農具だ。もっとも、船に着けるそれが耕すのは畑でも海でもなく、敵の軍船の船腹なのだが。

「……近年はあまり見かけない装備だと聞きますが」

白兵で決着をつけるのが最終的な姿だが、相手に接近する前には弓や弓銃による射撃戦が行われる。近年は、そこに船楼に装備された銃や大砲での砲撃が加わる。

そもそも、『衝角』で船体に傷を負わせれば、拿捕し接収した後、自軍の船として使用する事が出来なくなりかねない。

「いや、良い魔鉛が手に入ったのでな。魔導外輪からちょこっと魔力を回せば良いだけなんじゃよ。素材も儂の自腹、手間賃もいらん。だからな!!」

土夫は老いても土夫。良い素材が手に入った!! 軍船には『衝角』!!いい装備つくったろ!! とどうやらハッチャケてしまったらしい。珍しく。

チラッチラッと視線を送ってくる老土夫に、彼女は深いため息で答えるのである。