軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第911話 彼女は海賊狩りへと旅立つ

第911話 彼女は海賊狩りへと旅立つ

彼女が老土夫のいないリリアル工房に足を向けると、留守を任されている『癖毛』が工房を運営しているのが見て取れた。長らく、老土夫の元で鍛冶師として学んできたかいもあり、今では工房主代理の仕事も務まるようになっているようだ。ひねくれている子はもう、歩人しかいない。おじさんはの場合、生来のものなので治らないのだろうが。

「ちょっと提案がある」

「何かしら」

海上の戦闘において、最後は接舷しての白兵戦で相手を制圧して勝敗を決するという事は変わっていないが、陸上で攻城戦に大砲が大量に使用され、軽量砲が野戦で使用され戦列を破壊する為に活用されるようになったのと同様に、船に野砲やそれを改良した艦砲を搭載し砲撃を行い敵船に打撃を与えるという戦い方は、この五十年ほどで随分と普及している。

とはいえ、ガレー船の場合、櫂を配置する関係から甲板上あるいは、船首・船尾の『楼』に砲台を備え付け砲撃することになり、あまり大量の大砲を据え付けるわけにはいかない。甲板に乗せうる大砲の大きさにも限界があり、射撃の度に甲板上で砲を前後させ、砲身を掃除し火薬と砲弾を詰めて射撃するのにも時間がかかりすぎる。

なので、砲撃をしつつ接近し、旧来の弓銃あるいはマスケット銃での射撃を行った後、接舷……という戦い方になっている。

「これ使えねぇか?」

癖毛が彼女に見せたのは『バリスタ』と呼ばれる巨大な弓砲用ほどもある太く長い矢。弓の矢というよりも、弓銃用の 矢(Bolt) に似ている。

「これは」

「対艦投擲槍ってところか。この先端の部分に、屑魔水晶二つにそれぞれに『火』と『水』の魔力を込めて魔鉛でコーティングしてあるんだ。勢いよくぶつけると爆発する」

魔装銃の発射に使われる水蒸気爆発を攻撃用にアレンジしたものだという。 癖毛はちょっといいかとばかりに彼女を射撃訓練場へと連れ出した。

普通の弓銃矢ほどの大きさのそれ。どうやら、『対艦』何某のミニチュアのようだ。

「これ、そこの的に向かって当ててみてくれ」

『MUGUUUU!!!!』

そこには、ヌーベで新たに入手した、新着吸血鬼達磨が据え付けられている。この的の良いところは、破壊されても時間が経てば自動再生されるところ。捌いた豚か鶏の血でもかけておけば、数年は再利用できる。地球にやさしい的なのである。何やら叫ぶので、口は襤褸布を突っ込んで塞いである。

「では遠慮なく」

『とぅ!!』とばかりに魔力を込めた腕を振り下ろすと、弓銃では出し得ない速度まで加速した『矢』が轟音と共に『的』に命中する。

GOONN!!!

『MOOGUYAAAAA!!!!』

命中した矢は爆発し、吸血鬼の胸から腹にかけてを弾け飛ばし、背後の人造岩石の表面を破砕する。

「……」

余りの破壊力に彼女が絶句していると、癖毛が「どうだ?」と視線で問うてくる。

「威力は申し分ないわね」

「なら、どのくらい作る」

「……バルディッシュほどの大きさでなら何本くらい作れるのかしら。一週間で」

早々にニースに向かう事になるだろう。ニース商会経由で後から送らせるとしても、それほど長く時間を掛けてはいられない。先ほど見せられたものよりも短い方が彼女には扱いやすいのだ。自分の背丈ほどもある『投矢』を投じるのは難しいと感じていた。

「……一発で船が沈む威力だと……」

「その数分の一で良いわ。海賊船の漕ぎ手は御神子教徒の奴隷なの。海賊は兎も角、漕ぎ手は助けたいのよ」

「そうだな。威力は……抑えよう」

敵の大型ガレー船を派手に破壊するというのは、相手の心を大いに圧し折る事になる。敵が強いと分かれば、一目散に逃げだすのが海賊の習性。数が集まっても、行動原理は変わらない。

漕ぎ手の奴隷は、寄港しても船から降ろされることはない。なので、停泊時に『投矢』で撃沈すると、海賊は生き残り、漕ぎ手だけが死ぬことになる。

「まぁ、城塞攻撃とか、城門の破壊にも使えるからなぁ」

「では、破壊力「大」と「小」の二種類作ればいいわね」

「それなら、数も揃えられるな」

海賊の砦やサラセンの旗艦を狙う威力大と、海賊船制圧用の威力小を作ることにする。屑魔水晶の在庫量から、威力大を五本、威力小を四十本作ることになった。大の五分の一の量の屑魔水晶を用いたのが威力小になるのだという。人造岩石を破壊することは難しいが、土を突き固めて石積で覆った旧来の城壁や城門程度なら威力大で破壊することができると癖毛は評価している。

「威力小の一二本で、甲板にいる海賊は一掃できると思うぞ」

「大きさにもよるでしょうからね。実戦で試してみるわ。それと」

「わかってる。追加も出来るだけ作ってニース経由で送ればいいんだろ?」

ニースのジジマッチョ団なら、喜んで海賊船に投げつけるだろうことは容易に想像できる。漕ぎ手をさせられている同胞を助ける為に攻撃を躊躇する面もあるかも知れないが、どの程度甲板が破壊されるのか試してみなければ何とも言えない。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

『我は海賊狩りに行く。シャリブル殿は留守居か。妥当であろうな』

『はい。魔装銃の新型を考えつつ、閣下の御祖母様の護りを務めましょう』

『はは、年寄同士馬が合うだろう』

調子に乗るガルムゥ!!

『リリも楽しみ!!』

ピクシーのリリも常に風がどこからか吹いている海の上は好きなようで、彼女にアピールしている。風に巻かれクルクルするのが楽しいようだ。目が回るのではないだろうか。

彼女の魔力を糧に成長しているとはいうものの、大きくなったりどこかが膨らんだりしているわけではなく、存在が少しずつ強くなっているようだ。悪戯好きの存在であり、海賊相手に暴れてくれるだろう。多分。

金蛙のフローチェは『塩水は苦手なのだわ』といい、赤毛のルミリと共に王都城塞でお留守番確定。

水魔馬のマリーヌは内海程度であれば十分に活躍できる模様。内海に出たら魔導船と並走させたり、色々試す予定だと灰目藍髪と伯姪は打合せしているようだ。

船の上に乗せられそうもない魔猪軍団、そして弾除けにもならない達磨吸血鬼はお留守番。そして……

『行きたいのだけど~ 水草じゃないからいけないのよ~』

海の上を踊る草が流れてきたらかなり怖い。来なくていい。

リリアル一期生、ルミリを除く二期生、三期生全員とガルムが今回の遠征に参加する。狼人の守備隊長は開拓村を守ってもらう。癖毛は工房の留守居。冒険者四人組も狼人と同様、開拓村の警備に回ってもらう。リリアル領の冒険者ギルド職員の椅子を空手形に頼んだのだ。

遠征に参加する人数は総勢四十人。わずか四十人だが、ほぼ全力であり、若干、人手は無くなったものが含まれるのだが。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

魔装馬車に分乗し、一路ニースへ向かい出発する。数日の行程だが、彼女が向かうのは久しぶりである。途中の南都まではタラスクス騒動で赴いたが、それ以前ではもう五年振りになるだろうか。

「あの頃は魔装馬車も無かったから大変だったわ」

「山賊もゴロゴロいたしね」

王太子が編成した王国騎士団は、コネと貴族の子弟だけで編成された南都騎士団を解体して新たに王太子領の治安維持と防衛のために作られた実力本位の騎士団。南都騎士団から一部の優秀な騎士は引き抜いたが、やれ男爵の三男だ、子爵家の陪臣の騎士の息子だといった出自だけの役立たずは排除し、頻繁に王太子領内を巡邏、治安の回復を進めた結果、元傭兵の賊の類は討伐されるか帝国領などに逃げ出してしまった。

街道整備も進捗し、すいすいとその日のうちにブルグントの公都手前まで進んでしまった。早い。

四十人を泊める宿を探すより、領主館を借上げ中庭で一部野営し、二期生三期生のように遠征に不慣れなものは領主館内で休ませることにする。領主館の機能として、領主の一団が巡回する際に滞在する為、それなりの人数が仮泊できる程度の設備がある為だ。

「リリアルも盗賊村跡地あたりに領主館を建てた方がいいかもしれないわね」

「羅馬牧場が成功すれば、羅馬市も開けるでしょう。夢が広がるわね」

馬産地では定期的に馬の見本市が開かれる。それと同じように、羅馬の見本市を開けるようになれば、王都周辺・シャンパーやブルグンドから買い付けに来る商人も増えることだろう。羅馬だけでなく、リリアル領の特産品も売れる場所となればさらに良い。

ブレリア商会の支店も出したいものだ。本店は当然、領都に置く。

「それより、そろそろ二つの魔導船に誰を配置するか決めましょう」

伯姪が言う通り、二隻の魔導船にどのように人を配置するか、まだ検討中なのである。南都の南あたりから川幅も広がり、魔導船で下ることは難しくなくなる。明日の夕方、あるいは明後日の朝にはそれぞれの船に乗り込む必要があるのだ。

「セバスとガルムはそれぞれが引き受けましょう」

「仕方ないわ。二人揃ったら」

「うざいことこの上ないもんね」

ガルムは散々息巻いていたが、歩人は大人しかった。てっきり留守居かと思いきや、留守中サボりそうだという理由で同行が決まったのだ。

どうやら、歩人は泳げないのことがデフォらしい。本当かどうかは疑わしいが。土夫は筋肉質すぎて水に浮かばないという話は聞いたことがあるが。

歩人、プヨである。

二つの船に彼女と伯姪がそれぞれ分かれて乗る。魔力量を考えると、 一番艦 30m級魔導キャラベル船『聖ブレリア』号には彼女が乗り、魔力の少ない伯姪が二番艦 18m級魔導ホイス船『聖フローチェ』号に乗る方が良いと考えるのだが、操船を船長自身が担わなければ話は変わる。

伯姪に黒目黒髪&赤毛娘を付けて魔導外輪の魔力供給を充実させれば、問題なく対応できるだろう。加えて、喫水が深く船体も大きな聖ブレリア号には魔装銃手たちを乗せ、高速を生かしつつ離れた距離から魔装銃で敵船上の海賊を撃ち倒す役割を担わせてはと考える。また、そのサポート要員に、魔力無の三期生を付けることにする。

「貴女の方は手薄にならない?」

「速度の出ない喫水も浅いホイス船なら、相手が斬り込んでこようとするでしょう? こちらは遠距離から魔装壁を蹴って乗り込むか、引き込んで船上で戦うことを想定するわ」

彼女と蒼髪ペア、赤目銀髪に灰目藍髪、茶目栗毛、そして、三期生魔力有メンバー。ここにガルムを加える。貴族っぽい若造が大言壮語を吐いていれば、海賊も襲ってくると思われる。けして、彼女が歩人と同じ船の上にいたくないからではない。決して。人数は少ないが、荒事は得意な冒険者組を揃える。

「離れた位置から敵船に乗り込むか、接舷させて殲滅、逆襲するかの選択ね。囮も兼ねる感じかしら」

「ええ。ホイス船は魔導外輪も小さいし、帆船に見えやすいと思うの。海賊船に襲撃されてから、聖ブレリア号で急行して速度の違いを生かした強襲・後背を突くということもできるのではないかしら」

海の上は常に水平線が見えているので、遠くまで見通せると思われるが、実際は4㎞ほどであり、帆柱の上の見張台から見てもせいぜい10㎞ほどでしかない。

どうやらニース海軍では、法国で研究開発された『気球』という大きな風船に人を乗せ、帆柱より高い位置から海賊船を見つける魔導具を使う研究をしているという。

仮に、100mの高さまで気球を飛ばし人を乗せ見張らせるとすると、40㎞先まで見通せるようになると分かっている。海賊の監視塔が海に突き出た小高い岬の上に建てられる理由はその辺りにある。

海上で先に海賊船を見つけ、海賊船の視界の外から15ノットの速度で接近するという戦い方は有効ではないだろうか。魔導船が風向きに影響を受けず速度を出せるという点は、この効果をより高めるだろう。

「人数に差があるわね」

「大きな船には多くの人間が乗る方がいいでしょう。それに、ホイス船は船倉がさほど大きくないので、見た目よりたくさん人は乗せられないのよ。船尾楼も申し訳程度なのだし」

「確かに。こちらは射撃戦と高速で動いて相手を攻撃し、行動を阻害する役割り。例えるならば騎兵ね」

「ええ。ホイス船は動きを止める役目を担うわ。相手に攻めさせて、返り討ちにするつもりよ」

リリアルの騎士が少数であったとしても、魔装の防御力を考えれば陸での騎士一人が十人の兵士に勝ると同じ効果を海賊に対して発揮するだろうと彼女は考えている。

海の上で万が一、海中に落ちたことを考えると海賊は薄着であり武装も片手剣に小楯程度が多い。サラセンは王国や帝国兵よりもさらに軽装を好む。攻撃は最大の防御というわけだ。少数で多数を囲む戦いを好むサラセン海賊ならば、防御を固める必要性も薄い。

リリアルの魔装は布である故に、軽く、海に落ちるとしても魔装壁を足場にする事で落下を回避することもできる。サラセン海賊の多数は王国の一般兵士同様魔力持ちではないので、リリアル優位は変わらないと思われる。

「そういう役割で行きましょう」

「オトリ役は美味しいかもしれないわね」

「ふふ、海賊船は数隻から十数隻で船団を組んでいるみたいなのだから、山分けしても十分な敵がいるわよ」

海賊の首を山分けぇ。海賊船に奪った宝がそのまま残っているわけではないだろう。海賊の拠点となる島などに降ろして、何度も海上を通る船を襲い、商品を奪い船員を奴隷として連れ去る、あるいは、沿岸の街や村を襲い、物資を奪い人を攫う。その奪い攫った人品が集められた島も襲撃し、解放できればしたいものだ。

「キュプロス島遠征の前に、ニース周辺の海賊退治で海の戦いになれないとね」

「その為には、ニースの海軍・聖エゼル海軍に教導を申し込まなければならないわ」

彼女は既に、ジジマッチョ経由でニースでの海賊討伐教導を打診しており、承諾してもらっていた。タイミングが良ければ、サボアの魔導船の習熟訓練にも立ち会えるかもしれない。

海賊との戦い、そしてサラセン海軍との戦闘。その前には、神国・海都国・教皇庁との遠征擦り合わせの会議……気が重くなることばかりが頭をよぎるのである。