軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第750話 彼女は王国の敵を考える

第750話 彼女は王国の敵を考える

ポンスタインの北部諸侯陣営への嫌がらせ攻撃は、予想以上に効果を発揮した。姉が指揮官たちを隔離し鏖殺した後、魔導船に戻ると、ジジマッチョはじめ、半数の聖騎士OB達がいなかった。

「どこへ行ったのかしら。お爺様たちは」

「それが……」

灰目藍髪曰く、茶目栗毛が「流言飛語を流す良い機会」等と呟いたのを耳にした一団が、船からおりて野営地へと向かったのだという。先ほどから、北岸に広がる悲鳴や叫び声の中に「裏切りだー」とか「**が寝返ったぞ!!」といった聞き覚えのある野太い声が響いている気がするのだ。

「……聖騎士団ってなんなのかしらね」

「戦えば必ず勝つ。どんな手段をもってしても。負ければすべてを失う。国も民も土地も名誉も命も……とか、考えているみたいね」

「物語の騎士様とは全然違うよ。異教徒と殺し合いして同胞を守るのが仕事だからね」

とはいえ、城塞の正面、北岸の街の中心地には数十メートルの炎の渦が立ち上り、何やら肉の焼けた臭いが辺りに広まりつつある。一部の兵士は馬を奪い、適当な武器を身につけて一目散に北へと逃げ始めている。

また、同士討ちがそこかしこで始まっており、誰が味方で誰が敵かわからない状態が広まっている。指揮する者、取り締まる者もおらず、混乱は収拾がつきそうにない。

「頭を潰されるとやっぱり軍は弱いね」

「仕方ないわ。傭兵も徴用兵も上の命令に従うだけですもの。あの炎の柱の中で、指揮官はたぶん全滅でしょう。明るくなって落ち着くまではこのままなのでしょうね」

自身で仕掛けたこととはいえ、想定以上の大混乱に彼女は戸惑う。とはいえ、僕らはみんな生きている。

「さて、そろそろ引き上げたいわ。お腹も減ったし」

「減りましたぁ」

「減ったのですわぁ」

女性陣はそろそろ食事をして睡眠を取りたい時間ではある。

「姉さん」

「何かな妹ちゃん」

「引き上げの合図に、『大魔炎』はどうかしら」

「お、わかってるね!! 私もちょっと物足らなかったんだよ」

「真上ではなく、斜め上に打ち出してね」

「と、当然じゃない!!」

姉、どうやら真上に大魔炎を放つ予定であったらしい。その真下は危険だろ!!

姉が大魔炎を放ち、北岸野営地の混乱がさらに深まった頃、ジジマッチョ団が三々五々戻ってきた。

「普通に水の上走ってきました」

「さっきも走って行きましたわ!!」

ジジマッチョ団は、身体強化を頑張った結果、右足が沈む前に左足を出す作戦で水上を走れるようになったらしい(50mくらい)。

「修行の成果だ!!」

「神の恩寵ではないのか!!」

「……普通に魔力の塊を作って足場にするだけじゃない?」

伯姪の無慈悲な指摘に、ジジマッチョ団に動揺が広がる。

「「「「「なんじゃとぉ!!!」」」」」

ジジマッチョ団の多くは、自分たちと同様、リリアル生も水の上を走っているのだと理解していたらしい。そんなわけがねぇ。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

ポンスタイン防衛戦の喧騒から離れ、川の流れに乗って海へと至る。落ち着いたので、遅くなったが夕飯の時間となる。

「また、クラーケンか」

「沢山あるので、食べましょう」

「好き嫌いはよくありませんわ、お爺様方」

「「「「くうぅぅぅ……」」」」

流石に三食クラーケンは苦しい。食べても食べても減らないのがクラーケンの肉。賢者学院でも相当振舞ったのだが、ルーン市民一万人が数日掛けて消費するほどの烏賊型と比べ、蛸型はさらに肉が多い。筋肉質であるし、噛み応えも半端ねぇ。

「マリーヌはとても気に入っているようです」

BURURUNN!!

さすが肉食の『 水魔馬(ケルピー) 』。蛸でもイケる口だ。

「王都の孤児院の子供たちにも食べさせてあげたいわ」

「けど、妹ちゃん。悪魔の魚だからシスターたちが嫌がるんじゃない?」

鱗の無い魚という括りで、タコやイカ、ヤツメウナギやナマズやサメだってダメなはずだ。実際は食べているのだが。

「まあ、何かの謎肉ってことにすればOKですよ!!」

「確かに。子供は肉なら何でもいいですからね」

「例えば、刻んでガレットに混ぜたりしたらいいかもしれませんね」

「「「「即採用!!」」」」

茶目栗毛の思い付きに、クラーケン祭りに疲弊していた全員が即座に賛成する。

「蛸だけじゃなく、貝やエビなんかも一緒にするといいかもですね」

「臭みを消すハーブや海塩なんかもいいんじゃない? 味に変化があっていいと思うわ」

「「「「採用!!」」」」

ジジマッチョ団がどこからともなく鉄板を持ち出す。厚板を敷き煉瓦を積んだ足場を組んで鉄板を渡す。

「ほれ、アイネ、火球で熱するのだ」

「うえぇぇ……竈係ですか」

「姉さん、働かざる者ガレットを食うべからずよ」

「はいはい、こんな感じで……ジリジリ熱くなる感じね~」

姉は器用に小火球を幾つか鉄板の上に置き、ジリジリと熱を伝えていく。その間に、リリアル女子はガレットの生地を作っていく。

「最初からハーブは刻んで生地に練り込んじゃおう」

「そうね。塩はお好みで最後振るようにしましょう」

「クラーケン、最初に刻んで火を通しておきますね」

「「「了解!!」」」

これで明るく岸が近い海上であれば、ジジマッチョ団が素モグリで貝くらい調達してきそうな勢いである。が、既に月が海を照らす時間。

「毎日クラーケン焼じゃなくなっただけ良いわ」

「「「確かに」」」

海上生活で食に文句を言う事はできないが、さすがに……毎日蛸は

飽きる。顎も疲れるし。

魔導船で操舵兼見張り役を交代しながら、ゆっくりと南下していく。行きの旅程は連合王国の視察を兼ねたゆっくりとしたものであったが、帰りは内乱の影響を避けるために海上を進んでいるのである。影響……与えている方なのだが。

「燃えてたね」

「燃やし尽くしていたわ」

「あの指揮官たち全滅ね。全滅すぎて、本拠地に真面な情報が揃うまで相当時間が掛かりそう」

そうなのだ。勢いに乗って、指揮官の天幕群を纏めて鏖殺してしまったのだが、指揮する人間がいないので撤退の判断が出来ず、更に報告者がいなくなったため、本拠地に残っているであろう北部諸侯の留守居あるいは後継者たちが判断できないという問題が生じるはずなのだ。

「簡単に内戦が終わらなさそうになっていることは間違いない」

「鏖は……まずかったかもね~」

「今さらよ。それに、背後の北王国と黒幕の神国が介入しやすくなったのではないかしら。露骨に活動を始めるかもしれないわね」

北部諸侯の当主あるいは有力な将軍らが『 戦死(みなごろし) 』したのであれば、混乱のち、従属・追従する者が増えるのではないかと思われる。協調して独自の行動から、従い指示される関係に変わるかも知れない。経験不足の新当主からすれば、なにをどうすればいいのかもわからないだろう。

「まあ、しばらく時間を稼いで、『反乱起こした前当主は戦死したので、我らは素直に降伏して、今まで通り女王陛下に忠節を誓います』と

言い始めかねぬな」

「生き残るのであれば、そうやって時間を稼ぐ必要もあるかもしれませんねお爺様」

ジジマッチョと姉の間で今回の反乱の落としどころについての所感が交わされる。一応、女王陛下の為の時間稼ぎができたのであれば悪い結果ではない……かもしれない。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

海上を船で移動していると、白亜島を統べる王家にとって海は防壁でもあり敵の進撃路でもあると理解する。

白亜島の南岸、あるいは東岸には様々な部族が来襲し、略奪するか棲みつきやがて先住民の王を倒し新たな王家となったのである。

「私掠船でもいいから、海上から来る敵を攻撃したいということなのかしらね」

「二―スとは全然違うから、その辺、私にはピンと来ないのよね」

ニースは海上貿易で利を稼ぐ都市であり領地であるが、周辺との交易は船以外の陸路でも存在する。今では王国の一部であり、以前は法国や帝国の一部であった時代もある。

法国の商人あるいは内海の貿易というのは、所謂『奢侈財』の扱いが高い。東方の貴金属や宝飾品、あるいは食器や香辛料、あるいは香料や織物など、王侯貴族や富裕な都市住民が必要とする商品の扱いが多い。織物も、絹織物であったり薄手の豪奢な毛織物であったりする。

法国の各都市で様々な工房が軒を連ね、職人が技を競うような工芸品が作り出される。その中には武具も含まれるだろうか。

反対に、東外海あるいは商人同盟ギルドの扱う商材は、『資本財』あるいは『素材』が多い。鉄鉱石に木材、小麦に塩魚。特に、連合王国は小麦を輸入し、羊毛や毛織物を輸出して経済が成り立っている。

「そう言えば、その昔、百年戦争の頃? 商人同盟ギルドがイケイケだった頃って、ランドル伯相手に、経済的な脅迫を仕掛けていたらしいよ。ほら、ランドルって人口の割に都市が多くって農村少ないじゃない? 織物とか商品を売って小麦を買うようになっていたんだよね。で、商人同盟ギルドは、関税特権を受ける為にランドルへの小麦不売をやらかしたんだってさ」

「……ああ、百年戦争の時期だと、王国とも不和だったから小麦を押さえられたら文句が言えなくなったというわけね」

当時、ランドルは連合王国と組んで王国に対抗していた。ランドルは主に帝国の商人同盟ギルド商人を通して帝国内の小麦を購入していた。ランドル商人にとって不利になる商人同盟ギルド承認への特権付与。食料を押さえられては認めざるを得なかった。

とはいえ、ランドル伯嫡女がブルグント公に嫁し、ブルグントから小麦が供給されるようになると、ランドルでの特権は徐々に剥奪されていくのだが。

「ランドル伯に行ったことを、時間をずらして連合王国にも行ったのが商人同盟ギルドなのね。百年戦争後半の頃、連合王国の王家はコロニアの商人と強くつながっていたんだけど、コロニアは商人同盟ギルドの中核的な都市だったから、同じことされて連合王国は困ったんだよね」

今でこそコロニアは商人同盟ギルドを抜けているものの、東外海で駐屯騎士団国と商人同盟ギルドが手を組んで荒稼ぎしていた時代、コロニアもその一員として興隆していた。

「そこでも、特権を与えなければ小麦は売らないと脅したのかしら」

「そうそう。けど、連合王国の王は強かだから、自国内において自国の商人同様の権利をギルド承認に与えるのなら、連合王国の商人が商人同盟ギルドの諸都市で商売する際も同じ権利を与えるようにと『互恵関係』を認めることを条件にさせたんだよね」

連合王国の王は、小国だと自ら理解している分、狡猾さを隠さない。自分が毒を飲むのなら、お前も同じように毒を飲めと言い切る事が出来る。

「だからリンデの一等地に商館があるのね」

「そうそう。けど、あそこは元々コロニアの商館の隣接地を纏めて貰って拡大した場所だってさ。だから、何でも受け入れさせたってわけじゃないみたい。それに、今ではコロニアはすっかり抜けちゃったしね」

連合王国の王は、商人同盟ギルドの圧倒的有利な状態から徐々に巻き返し、特権を奪い追い出す算段を重ねてきているらしい。

「ほら、大原国と駐屯騎士団が戦って騎士団大敗北したじゃない?」

ノルドに潜んでいた貴種吸血鬼『ウリッツ・ユンゲル』が、騎士団総長として指揮・参戦し大敗した戦いのことである。

「それで、大原国も御神子教の国になるってなって、駐屯騎士団国の中の主要な都市は大原国の領地になってさ。で、商人同盟ギルドは小麦でぼろ儲けできなくなったんだよね」

大原国で仕入れた価格の二倍で連合王国に転売するだけの簡単な商売である。それが無くなったのであれば、大打撃となるのは当然だろう。

「そんでさ、羊毛を輸出するだけだった連合王国は、いつのまにやら新しい薄手の毛織物を作る技術を身につけて、商人同盟ギルドの都市じゃなくってネデルの商人相手に商売を広げるようになったんだよね」

連合王国の輸出する羊毛や毛織物市場の半分を占めていた商人同盟ギルドは、油断していたと言ってもいいだろう。ライバルはいないはずだった。実際は、ランドルや帝国から移ってきた商人がネデルで新しく商売をはじめ、連合王国の商人と取引を始めたのだ。

「今までの利益率の低い商品はそのまま商人同盟ギルドと取引して、新しく作った薄手の毛織物はネデルの商人に売る。儲かるのはネデルの商人

と連合王国の商人だね」

「ネデルの商人経由で、どうせ小麦も買うようになったのでしょう?」

「それはそうだね。大原国からすれば、独占的に敵対していた商人同盟ギルドの商人に売るんじゃなくって、割安でもその敵であるネデルの商人に売る方が気分がいいじゃない?」

駐屯騎士団と大原国は長年敵対していた。何度も戦っている。その実質支援者・本体であった商人同盟ギルドとは良い関係を持つ気にはなれないだろう。

「ま、いまなら連合王国の商人が直接買い付けに行っても問題ないしね」

「互恵関係ですものね」

「そうそう。自分たちの勢いのある時には自分たちに有利に働いたけど、下り坂の今なら……」

「致命傷ね」

「そんな感じ。もう、商人同盟ギルドに残っている都市なんて、経済的に単独で成り立つ帝国自由都市みたいなのだけよ」

時代が変われば、追い風もいつしか向かい風となる。姉の話を聞きつつ、彼女は王国の敵とは何なのか再び考えるのである。

【第六章 了】