軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第743話 彼女は海豹人の登場に驚く

第743話 彼女は海豹人の登場に驚く

「まじっすか」

「ええ。大マジよ」

クラン寮に事前に訪問するリリアル勢。自分たちの把握している現状を説明し、『賢者学院の防護壁内にはとどまらない』と説明する。何故なら、内部に裏切り者の水派がいる状態で一箇所に固まるのはよろしくないと判断したからである。

「その話はどこまで信じていいんだ」

「それは、学院内部のことを理解している寮監のあなたの方がわかるでしょう?」

クリノリは彼女の説明に言葉の上では反論したが、実際は疑う余地もないと考えている。表向き、賢者学院に獅子身中の虫がいるなどと見習たちの前で言いたくないのだろう。

「なら、俺達も領主館で一緒に立て籠もるか」

「それは悪手ね」

「……なんでだよ!!」

ハックの発言を伯姪が否定する。

「単純に、あなたたちが賢者の一員としての義務を放棄したと見なされかねないからよ」

「「「……」」」

水派の協力を得られないとしても、火派・土派・風派が協力して学院防護壁を使って防衛戦を行うというのは必要な事だ。四竦み状態を維持することが賢者学院を維持し、連合王国内のパワーバランスを維持する条件と

なるだろう。

「それに土の精霊魔術師、とくに樹木を盾にするのであれば、学院敷地内に植えられている木々以外に利用できるものがないではありませんか」

「そうですぅ。この寮だけじゃなく、防壁を突破してきた半魚人を討伐するのに一番有能なのは、最弱の木組じゃないですかぁ」

「ですわぁ」

『ラ・クロス』では最弱のクラン寮生だが、本来の賢者としてなら、森の木々を利用した防衛戦では最も活躍できる存在だ。

「防壁上の戦闘は、火と風に任せて、抜かれて敷地に侵入したところを……」

「俺達が仕留める」

「株と魔力が上がる」

「ついでに、予算も増える。飯が旨くなる」

「やるっきゃないっしょ!!」

「「「おお!!」」」

食いしん坊万歳である。

寮監クリノリには、賢者学院内の問題を公にしてもらい、その上で、策を擦り合わせる。

「どのみち、半魚人やクラーケンに水の精霊の魔術はあまり効果がないでしょう?」

「それは……そうだな」

防壁上の防衛戦では、海岸から上がってきた魔物に『火』と『風』による攻撃を行いダメージを与える。その上で、突破されたならば、敷地内の樹木を使い『土』の賢者が掃討する。

「時間が経てば、水派の中にも攻略を疑問に思い不安になるものが出てくるでしょう」

「そうだな」

日頃の付き合いで、心理的に弱い教員や学生を事前に洗い出しておく。その上で、防衛戦の経過を伝え乍ら『回復』の魔術を使うように誘導する。学院の身内同士が治療するされるというのは問題ないと説得する。

「あとで攻略が失敗した時に、治療した実績を持って庇ってやると言えば、保険のつもりで協力するんじゃないかしら」

「ええ。勝てば黙っていればいいし、負けたなら保身になるとでも言えば蝙蝠も生きやすいでしょう」

「「「蝙蝠……」」」

そもそも、外部の力を利用して自らの利を得ようとする行為自体が『蝙蝠』とも言える。獣でも鳥でもない存在になりたくなければ、協力しろと半ば強要することも必要だ。

「蝙蝠になりたくなければ協力しろ……ですぅ」

「ですわぁ」

そこで言葉を後押しするのが、敷地外の領主館に立て籠もるリリアル勢の存在である。

「領主館に留まるって、包囲されるだろ? 死にたいのか」

「死なないわ。クラーケンは討伐したことあるもの」

「……なん……だと……」

クラーケンは痺れ薬をぶちまけると、体表の粘膜から吸収していい感じに痺れてくれるのだ。全身が筋肉だが、その伝達機能を阻害してやれば身動きが取れなくなる。

「動きを止めてから、滅多切りね」

「魔力が尽きるまで切り刻んでやります」

「応援するは我にありぃ」

「ですぅ」

「戦いなさいよ!!」

魔装銃手である碧目金髪と赤毛のルミリはクラーケンに対しては無力かもしれないが、攻め寄せる半魚人を銃撃するのなら問題なく倒せるだろう。

彼女と伯姪、灰目藍髪と茶目栗毛は魔力壁を足場に魔力纏いを行う剣か長柄で触手を斬り飛ばし、再生できなくなるまで削り倒すつもりだ。

「領主館ではどうもならないだろう」

「周りを『土壁』と『硬化』で完全に塞いで屋上から迎撃するから問題ないわ」

「……そうかよ……」

領主館に入り込まれれば、内部を遡って追い詰めれられかねない。故に、最初から塞いでしまい『岩山』のようにしてしまおうということだ。防衛戦の最中の休息は魔装馬車でも可能であるし、水や食料も遠征用に十分持ってきているので問題ない。あるいは狼皮のテントもある。

「私たちが領主館の上で健闘する分、防護壁上の迎撃も楽になるでしょう。それと、士気も維持できるわ」

「援軍の無い籠城は負け戦だからな」

とはいえ、たった六人の防衛戦である。いや、人狼を加えれば七人か。

『リリーもがんばるー』

『そうかよ』

ピクシーに何ができるのかはわからないが、気持ちだけは取っておこう。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「さて、始めましょうか」

領主館の周りを『土壁』で補強し完全に塞ぐ。その土というか砂であるが、回りを『壕』のようにえぐっているので、直接建物の躯体にたどり着けるのは大型の魔物……巨大蛸くらいであろうか。

そのまま、流れるように『 堅(adaman) 牢(teus) 』を唱え固める。屋上部分には射撃銃座と胸壁を兼ねた壁を設置した。海岸からの高さは凡そ20mほどであろうか。監視塔の兵士がこちらを指さし、何か叫んでいるようだが。

「あの方達にクラーケン接近の情報は伝わっているのかしらね」

「さあね。少なくとも、漁村の人達は本島に逃げちゃったみたい。漁船がほとんどないわね」

彼女は『猫』に伝令役を依頼する。首に通信筒を付けて、中に賢者学院で伝えられえているであろう一般的な「魔物接近」の情報を記す。

「入口を塞いで、防御に徹すれば生き延びれるでしょう」

「下手な兵士意識は手放してもらえればよいのですが」

灰目藍髪と茶目栗毛が呟く。この辺りで兵士をしているのは、さほど意識が高いと思えない。彼女は追記で「守りを固めて様子を見る方が良い」と助言を加えることにする。

「お願いするわ」

『承知しました』

『猫』が立ち去るとさほど間を置かず、何かが海岸によじ登ってきた。

「あれは……」

「海豹でしょうか……え……」

海豹は次々と姿を現し、やがて背中から毛皮の防具を脱ぐようにすると、中から人が現れた。

『まじか。シルキーが海豹の皮被った海人というのは本当だったんだな』

北の海にしか済まない海豹人であるシルキーを直接見るのはリリアルの誰もが初めて。そこには『魔剣』も当然含まれる。

領主館を無視してそのままシルキーたちは賢者学院へと歩いていく。背後の海面を幾度か振り返りつつ気にしている。

「半魚人休息接近!!」

「ですわぁ」

休息ではなく「急速」である。水平線に黒い点がポツポツと見てとれる。それが徐々に形をとるようになり、海面いっぱいの半魚人の群れ。

「あれ、なんで水面から半身を出してるんでしょうか。目立ってますよね?」

「水の抵抗を減らしたいんじゃない? 船も喫水線が深い船は船足が遅くなるからね」

「なるほどぉ」

「ですわぁ」

恐らく関係ない。蛮族が気勢を上げるのと同じだろう。手には短槍、恐らくは銛のようなものを装備している。

『半魚人の鱗はそこそこ固いぞ』

「けれど、たしか……『海の 小鬼(ゴブリン) 』と呼ばれているのよね。私たち、小鬼討伐は得意なのよ」

『違げぇねぇな』

海を埋め尽くすかのような半魚人の群れ。その後方には小山のような蛸の頭が見え始めていた。

「来ました」

「来ましたわぁ」

「ですわぁ」

半魚人の先頭は既に海岸に上陸、隊列を作ることもなく目の前の漁師小屋、あるいは学院防護壁へと向かい、一部は舗装された道を内陸へと向かっている。大した広さの島ではないので、おそらくはもう一つの城門楼へと向かっているのであろう。

完全に開放部を塞いでしまった結果、半魚人は領主館を建物だと認識していない可能性がある。

「どうする?」

「少しは引き付けないといけないわね」

領主館から防壁に向かう半魚人の背後に向け、ルミリと灰目藍髪、碧目金髪による魔装銃の射撃が始まる。

「弾丸は普通の鉛弾で良いわ」

「はい」

「了解です!!」

「はいですわぁ」

魔力を込めた魔鉛弾を放つほどの魔物ではない。所詮は小鬼並。

「俺も弓を射るか」

「通るの?」

「わからん。だが、試してみよう」

半魚人の体表は鱗で覆われている。弾丸なら貫通する可能性が高いが、狩人の用いる返しの大きな鏃では刺さらない可能性がある。鎧通しのような錐状の鏃なら良いのだが。

「各自、射撃用意。放て!!」

POW!! POW!! POW!!

GYAAAA……

背中を撃たれた半魚人がばたりばたりと倒れる。背後の高所からの射撃。直線距離ならば100m程だろうか。予想通り、狩人の矢では距離が遠く直接狙ったのでは刺さる様子がない。とはいえ、海岸を埋め尽くすほどの半魚人の大群である。角度をつけた射撃で頭上から狙うと、多少のダメージが入るようになる。角度の問題だろうか。

半魚人は大半が上陸し、賢者学院の防護壁沿いをずらりと包囲している。そして、いよいよクラーケンが上陸してきた。

「私が斬り込んでみるわ」

「そうね。あなたのそれで削れなければ、私たちの剣では難しいものね」

一当たりすると同時に、「痺れ薬」をまき散らす予定である。彼女の象徴とも言えるサクス……ではなく、『バルディッシュ』。その極大の曲刃に魔力を込めて斬れねば、他のリリアルの魔装剣で削ることは難しい。

「その場合はどうなるんでしょうか」

「逃げるわ」

「逃げるのね」

所詮は余所事である。

魔力壁の階段を蹴り、海岸線へと降り立つ。バルディッシュを一閃、魔力を込めた刃が半魚人を数体纏めて斬り倒す。突然の出来事に大いに驚き、円形に彼女の回りに空白ができる。

『魔力に鈍いのかこいつら』

『気配隠蔽』を使ったとはいえ、彼女が移動してくることに気が付かないというのは群れているとはいえ鈍い。

「水中での環境に適応し過ぎているのかもしれないわね」

振動や音に敏感であっても、魔力には感応性が低いのかもしれない。銛や短槍を繰り出し、彼女に突きかかるが、魔装で弾かれ刺さる気配もない。

穂先はささくれており、あるいは錆びてボロボロのものもある。海中にあるので錆びるのも早いのか。あるいは、最初から捨てられたものを拾い再利用しているのか。水かきのある指で鍛冶ができるとも思えない。

『ゴブリン並たぁいえ』

「ゴブリンよりは少し強いわね」

蹴散らしつつ前進。纏わりつけば一閃し、前へ前へと進む。海岸線にクラーケンは到達しており、今は体のあちらこちらから海水を流しつつ砂浜へと乗り上げてきた。

魔力壁の足場を駆けのぼり、クラーケンの頭上へと到達。痺れ薬の入った薬液容器を反して中身を粘液まみれの巨体へと振りかける。

一本、二本、三本、四本……

『どうだ、効いてきたか』

「まだわからないわね。少し運動してもらいましょうか」

違和感を感じたクラーケンが鞭のように腕を振るい、空中の彼女めがけて振り下ろしたのは、正にその時であった。